水循環型装置を導入する前に知っておくべき5つの事実

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目次

1. 水循環型装置がもたらす「期待」と「盲点」

注目を集める背景

「配管不要」「環境にやさしい水の暮らし」「水がないところでも生活できる」——近年、家庭単位で排水を浄化し、再び生活用水として利用する「水循環型装置」がいくつかの企業によって開発され注目を集めています。そのうちの1つについては国交省が小規模分散型水道の実証事業として採択され、開発・製品化を進めてるこの製品は、一部ではすでに導入事例が生まれています。

その訴求力は巧みです。オフグリッド生活への憧れ、環境負荷を減らしたいという意識、既存の水道インフラへの依存から脱却したいという思想——これらに共鳴する層には、強い訴求力を持つコンセプトです。SNSで見栄えのするライフスタイル提案と組み合わされると、技術的な詳細より先に「かっこいい」という印象が広まります。

事実、この製品を利用することでいくつかのメリットがあります。

昨今の話題の老朽化配管に代表される、配管を必要としないこと。どんな過疎地でも雨さえ降れば利用可能なこと。水が貴重な山の上でも利用可能なこと。——そのメリットを挙げればキリがありません。

一方、こうした装置を検討する際に忘れてはならない視点があります。

今回は、特に「水循環型装置」の導入を検討している方に、製品の持つメリットだけに注目してその導入を決めるのではなく、別の側面から見た事実も実際はある、という情報提供の目的で記事を書いてみます。こちらも合わせて確認した上で、最終的な意思決定をするのがよいのかもしれません。

決断のタイムスパン

「水循環型装置」の導入の判断にかかる時間は、短ければ数日、長くても数ヶ月です。しかしその装置とともに生活する時間は、現実的に数十年単位になります。住宅の一般的な設備機器とは異なり、「導入したら簡単には変えられない」という現実があります。また、集落で決める場合はなおさらです。

キャンペーン動画やPR資料の中の爽やかな暮らし、環境への貢献という大義、コンセプトの先進性——これらの魅力を感じる気持ちは理解できますが、一方、これからの10年後・20年後の日常として、果たして本当にその暮らしをあなただけでなく、家族で、ご近所さんも含めて続けられるかを問い直すことも重要かもしれません。

本稿では、水道の専門家の視点から、水循環型装置が持つ構造的なリスクを5つに整理します。これは装置そのものを否定するものではありません。どんな装置もよい面とそうではない面があるもので、正確な情報のもとで、本当に必要な人が、十分に理解した上で導入判断を下せるよう、率直に論じたいと思います。


2. 5つの事実

事実①:衛生と心理の境界線

水循環型装置の基本的な仕組みを確認しておきましょう。

水循環型装置で準備された水をご自宅で使うことになります。飲み水など直接口に入る水はペットボトルの水や雨水を浄化した水を使うことになります。トイレでは汚物を流すのはそれ専用の水です。この時のトイレの排水は浄化された後、再びトイレの流し水として再生されることになります(ウォシュレットは別)。それ以外のシャワーや手洗い、洗濯用の水は、その用途で使い、排出された水を浄化し再生して、生活用水として使われることになります。

この技術的な浄化性能の話は一旦置いて、「日常の感覚」として考えてみてください。

一般の水道で暮らしている家庭でも、「お父さんの下着と一緒に洗濯しないで」というよくあるトラブルが発生することがあります。「同じ空気を吸いたくない」と家族で思ってしまう場面が年に何回かあるかもしれません。それほど人間は、たとえ家族観であってもその関係性は不安定なものです。

そんな関係性はこの製品の場合、水に反映されることになります。同じ家族間での浴室排水・洗濯排水・食器洗い排水を再生した水で、家族全員がまた入浴し、その水で洗濯します。また再生した水で手洗いをし、洗顔をし、その再生水で洗濯した衣類を着るのです。何度も再生を繰り返しながら、毎日の暮らしを送ります。

こう書いても、気にしない人はけっこう多いです。最新型の装置で何段階もの浄化プロセスを通過しているのを知れば安心感も高まります。

しかし、それでも家族の中に一人でもこのような水の来歴を繊細に感じる人がいれば、その人は毎日、我慢し続けることになります。また、今は良くても、このような感覚は子供の成長とともに変わることもあります。今は生まれていない子供でも将来的に、誕生し思春期まで成長した子供が「この水は嫌だ」と言い始めたとき、簡単にやめられない設備に縛られていたら??、家族の中に火種やストレスの種が生まれます。

これは水質うんぬんの問題ではなく、「心理的な許容」の問題です。技術がどれだけ進化しても、人間の感情はスペックで解決できません。家族全員が、また年末年始などの来訪者が長期にわたって心理的に受け入れられるかどうか——これが最初の、そして最も本質的な事実です。

事実②:維持管理の経済的限界

水循環型装置が抱える二番目の問題は、保守体制の経済的な構造です。

一般の浄水場は、数百人から数万人の利用者によって支えられています。その規模があるからこそ、高度な技術者を常駐/派遣させ、定期点検を実施し、計画的に故障する前に部品を交換するというプロの保守体制を維持できます。これらの保守コストを多数の利用者で分担できるため、一人あたり、一軒当たりの負担額は小さくなります。

一方、水循環型装置は、その家庭の3〜4人のためだけに動いています。同レベルの保守体制を実現しようとすれば、その費用はすべてその家庭が負担することになります(役所が負担し、税金という形で回収される場合もあります)。

白物家電のメーカーがどれだけ「充実したアフターサービス」を謳っていても、冷蔵庫や洗濯機に対する「部品が劣化し故障する前の部品の予防交換サービス」が成立したことがないように、家庭用機器の価格構造の中でそれを実現していくことはなかなか現実的ではありません。

センサーの限界についても考えてみます。メーカーは「センサーが主要な部品の異常を検知するから安全」と説明するかもしれません。しかし、装置を構成するすべての部品や機構にセンサーを取り付けることはできません。予算も、センサーの設置スペースにも、限りがあります。思いがけない部品が劣化し、急に水が出なくなる、水質が徐々に悪化して汚れた水が出る、気づいたら最近なんだか水が臭い気がする。。というシナリオは、完全には排除できません。

このようないつもの水に対するちょっとした違和感が、実は長期間にわたる水質の緩やかな悪化のサインだったとしたら?——突然水が出なくなる故障より、気づきにくいこの種の劣化の方が、実は健康リスクという観点で深刻です。

加えて、製品の中に組み込まれる膨大な部品を多用していることも、長期的なリスク要因です。製品が廃番になる、メーカーが事業撤退する、部品の供給が途絶え、それにより製品の修理ができない、交換品がない——10年・20年というスパンで考えたとき、これらは決して非現実的なシナリオではありません。

事実③:物理的な制約が強いる「窮屈な生活スタイル」

水循環型装置は、「循環型装置」であるがゆえに、装置が管理している水量の範囲内で生活することを前提としています。装置の中を循環する水の総量には上限があり、消費と再生のバランスが崩れると、途端に使える水が不足します。

具体的には、

  • 入浴と洗濯を同時にはできない。
  • 浴槽の水を、いったん抜いて、再びためることが難しかったりする。
  • 家族全員が朝に集中してシャワーを浴びることが難しくなる
  • 来客が多い日には通常の暮らし方では水が足りなくなる。

——日常のごく当たり前の行動が、装置の水収支に縛られるのです。

水の使い方をこれまであまり意識したことのない家族が、装置を導入して初めてその窮屈さに気づく。そして「こんなはずではなかった」という後悔が生まれる可能性があります。

導入前のカタログや動画では、この制約は触れられていないかもしれません。

今後、数十年続く生活様式の変容として、家族全員が、また同じ集落の人々が本当に受け入れられるかどうかを、冷静に想像する必要があります。

事実④:「捨てられない水」の不便

通常の水道では、使った水は洗濯機や浴室を経由し下水や排水溝に流れていくか、庭に散水としてまき地中に浸透していったり、駐車場で車を洗ったり意識することなく暮らせます。

一方、水循環型装置では、排水を「回収して再生する」ことが前提のため、回収されない使い方がかなり制限されます。

庭への散水、洗車、泥だらけになって帰ってきた子供の服や靴を外で予洗いする——こういった「回収されない水の使い方」が実質的にできなくなります。地域によっては当たり前のように行われている農作業や漁業の道具を屋外で洗うことも、装置の水収支に影響します。ペットを外で洗うことも、庭先でバーベキューの道具を洗い流すことも、回収できない水の使い方はすべて制約の対象になります。

都市部の集合住宅でミニマルな生活を送る人であれば、これらの制約は小さいかもしれません。しかし、水循環型装置の導入が進みそうな地方や過疎地でこそ、子育て世代、農業や農的な暮らしを営む人にとって、この制約は日常生活の豊かさを根本から損なう可能性があります。

事実⑤:「再生」の繰り返しがもたらす溶存物質の累積リスク

最後に、再生を繰り返すことそのものへの懸念を述べます。

浄化処理は、理論的には排水中の不純物を除去します。しかし、一般的な浄水処理では除去しきれない微量成分(リンや塩類、ミネラル等)が循環システム系内に累積していく可能性は、長期的には否定できません。薬品・洗剤・化粧品・食品成分・シリコーン油——現代の生活排水には多様な化学物質が含まれています。従来の浄水・下水のシステムでは、これらが自然の水循環によって希釈・分解されますが、閉鎖系の循環システムでは、系内への様々な物質の蓄積とその蓄積によっておこる何らかのトラブルが懸念されます。

長期の安全性について、十分な実績データが蓄積されていない現段階では、この点について断言することは避けますが、数十年単位での安全確認が未知数であるという事実は、判断材料として認識しておく必要がありと思います。


3. 日本という土地における「天然水」の価値

水資源の豊かさを捨てる矛盾

ここで、根本的な問いを1つ。

日本は世界的に見ても水資源が豊かな国です。

山間部には清冽な湧水が湧き、多くの地域で地下水が豊富に存在します。

地域の名水として愛されてきた湧き水、代々の暮らしを支えてきた井戸——そうした豊かな水源が身近にある地域で、あえて自宅内の排水を再生し続けて暮らすことに、多くの人は違和感を覚えるのではないでしょうか。

「身近にある水を、水道として使いたい」というのは、普通の感覚かなと思いますがいかがでしょうか。


4. 結論と提言

水循環型装置が輝く「唯一の場所」

ここまで述べてきたリスクを踏まえた上で、水循環型装置が本当に有効な選択肢になる場面もあるはずです。

それは、物理的に代替の水源が存在しない過酷な環境です。近辺に地下水も表流水も存在しない地域、海外の水資源が極めて乏しい地域、気候的に降雨が期待できない乾燥地帯、雨水だけに頼るしかない山の登山小屋——こうした条件下では、排水再生という選択が実質的に唯一の自給手段になる場合があります。その意味では、水循環型装置は確かに世界的な水問題に対する一つの回答となりえます。

しかし、日本の多くの地域では、その条件に当てはまらないのではないかと、私は考えています。

導入前に家族全員で確認すべき「覚悟」のチェックリスト

水循環型装置の導入を真剣に検討している方に向け、最終判断の前に家族全員で確認することを推奨する項目を整理します。

  • まず、排水再生水で暮らすことについての心理的な受け入れを、家族全員が確認できているかどうか。
  • 子供の成長とともに感覚が変わる可能性も含めて、話し合えているかどうか。
  • 水の同時使用制限による生活スタイルの変更を、長期にわたって受け入れられるかどうか。
  • 庭への散水・洗車・屋外での道具洗いができなくなることへの影響を具体的に想定できているかどうか。
  • 近隣に代替の水源が存在しないかを、本当に調査し尽くしたかどうか。
  • 次に、10年後・20年後に部品供給が途絶えるリスクに対して、どう対応するかを考えているかどうか。
  • そして装置が故障した際の代替手段が確保されているかどうか。

これらの問いについて話し合い納得したうえで、家族全員が「それでも選ぶ」と答えられるなら、導入を否定する理由はありません。

地域に水源があるなら

最後に、水未来研究所からのメッセージを添えます。

「自宅には水道インフラがなく、自前で水を確保したい」という課題があるとすれば、まずは様々な解決手段があります。

近くに湧水がある、地下水が見込める、河川伏流水が得られる——そういった地域では、小規模分散型水道設置という選択肢が存在します。

水循環型装置のような複雑な機械系統ではなく、自然の力を借りた浄化プロセスで、豊富な天然水を安価に、安定的に届ける。その可能性を確かめることなく、高価で複雑な装置に頼る必要はありません。

地域に水源があるなら、もっと豊かで安価な方法があります。まずはご相談ください。

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