「上向流粗ろ過」という水処理技術について

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目次

1. 上向流粗ろ過(URF)の歴史とメカニズム

上向流粗ろ過(Upflow Roughing Filter、以下URF)という技術をご存知でしょうか。名前を聞いたことがない方も、その仕組みを知れば「これほどシンプルで合理的な前処理があるのか」と驚かれるはずです。

URFの研究は、1980年代のブラジル・サンパウロ大学における緩速ろ過の前処理技術開発を源流としています。40年以上にわたる研究と実装の歴史を持ち、特に途上国や農村部の小規模水道において、薬品も電力も最小限に抑えた浄水処理として広く普及してきました。日本国内ではまだ認知度が高くありませんが、海外では緩速ろ過の前処理として確立された実績を持つ技術です。

砂利の層を通過させることで、濁度を除去できます

除去の原理:物理的ろ過を超えた多面的な作用

URF(Upflow Roughing Filter)の名称を分解すると、その原理が見えてきます。「上向流(Upflow)」は水が下から上へ流れること、「粗ろ過(Roughing Filter)」は粗い砂利層でのろ過を意味します。

原水が砂利層を下から上へと通過する過程で、主に三つのメカニズムが働きます。まず、砂利の表面への懸濁物質の付着・捕捉という物理的ろ過。次に、砂利間の空隙で流速が低下することによる懸濁物質の自然沈降、いわば「普通沈殿効果」。そして、砂利が傾斜板のように機能することで沈降効率を高める「傾斜板沈殿」に類似した作用です。

この三つが組み合わさることで、薬品も電力もほとんど使わずに、高い濁質除去効果を実現します。シンプルな構造の中に、複数の除去原理が内包されている点がURFの本質的な強みです。またろ過を継続すると自然に微生物が活動するようになるため濁質の除去効果を高め、さらにTOCや栄養塩類など溶解物質の除去にも一部貢献します。

2. システムの構造と運転管理

砂利の多段配置による処理効率の最大化

URFの基本構造は、異なる粒径の砂利を充填した複数の槽を直列に並べたものです。原水は最初に粒径の大きい砂利層(粗い層)を通過し、段階的に細かい砂利層へと進んでいきます。粗い層で大きな懸濁物質を捕捉し、細かい層でより微細な粒子を除去するという役割分担により、単一の槽では得られない処理効率が実現されます。

一般的な設計では、3〜4段の砂利層を組み合わせることが多く、各段の砂利粒径は入口側から出口側に向かって小さくなるよう配置します。この多段構成が、後述する高い濁度除去率の基盤となっています。

維持管理の核心:排泥弁の開放周期

URFの維持管理において最も重要な操作が、排泥弁の開放による蓄積汚泥の排出です。砂利層に捕捉された懸濁物質は時間とともに蓄積し、処理効率の低下や閉塞を引き起こします。これを防ぐために、定期的に排泥弁を開放して砂利層を逆流洗浄します。逆に言えば、この排泥弁の開放により除去した蓄積汚泥を排出できるということであり、これが上向流粗ろ過の主要なメンテナンスとなります。

図1 上向流粗ろ過の模式図

排泥弁の開放周期は、原水の濁度や水質によって大きく異なります。原水が比較的きれいな場合は数ヶ月に1回で済むこともありますが、濁度が高い時期には数日に1回の排泥が必要になることもあります。現場の水質特性を把握した上で、適切な排泥サイクルを設定することが、URFを安定的に運用する上での鍵となります。

排泥弁の自動化でメンテナンスはさらに省力化が可能

主要なメンテナンスである排泥弁の開放を定期的に開放するよう自動化することで、普段のメンテナンスは完結します。あとは定期的に異常発生がないかを見回ること、周辺の清掃を行う程度となります。

無電化地域での自動化:Valconの活用

電力供給が不安定な地域や無電化地域での排泥弁の自動運用を可能にするソリューションとして、12V電池式コントローラー「Valcon」があります。Valconは乾電池を動力とすることで、商用電力に依存せずに排泥弁の自動開放制御を実現します。タイマー設定により排泥周期を自動管理できるため、常駐スタッフがいない森の中の小規模施設でも安定した維持管理が可能になります。電気もなく、人もいない場所で水を届けるという課題に対して、URFとValconの組み合わせは一つの現実的な答えを示しています。

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3.水処理効果の定量的評価

濁度除去:1段で最大80%、多段化で原水濁度10を1以下へ

URFの最も顕著な効果が濁度除去です。1段のURFで40〜80%の濁度除去が期待できます。多段構成では除去率がさらに高まり、たとえば原水濁度10(NTU)の水を、薬品も電気も使わずに濁度1以下まで低減することが可能です。

この数値が意味することを、後段の処理と組み合わせて考えると、その価値がより明確になります。緩速ろ過や膜ろ過、急速ろ過の前処理としてURFを導入することで、後段への負荷を大幅に軽減し、全体の処理効率と維持管理コストを劇的に改善できます。

生物学的処理効果:微生物膜によるTOCと窒素の低減

URFの処理効果は濁度除去にとどまりません。砂利表面に形成される微生物膜(バイオフィルム)が、生物学的な有機物分解を担います。TOC(全有機炭素)や窒素成分の低減効果が報告されており、単純な物理的ろ過装置としてではなく、生物処理機能も兼ね備えた複合的な前処理装置として機能します。

この生物学的処理能力は、立ち上げから数日〜数週間の馴養期間を経て発揮されます。施設の新設時や長期停止後の再稼働時には、この立ち上がり期間を考慮した運転計画が必要です。

4.メリット・デメリットと経済性

URFの導入を検討する際、メリットとデメリットを正確に把握した上で判断することが重要です。

メリット:ランニングコストの抜本的削減

最大のメリットは、急速ろ過と比較したとき、薬品コストと汚泥処理コスト、電気代の大幅削減です。URFは凝集剤などの薬品を使用しないため、薬品購入費がゼロになります。また、薬品を使わないことで産業廃棄物として処理が必要な汚泥の発生量も最小化されます。汚泥処理費は自治体水道の維持管理費の中で大きな割合を占めることがありますが、URFの導入によりこのコストを大幅に削減できます。

ライフサイクルコスト(LCC)の観点でも優位性は明確です。構造がシンプルで可動部がほとんどないため、機械的な故障リスクが低く、長期にわたって安定した稼働が期待できます。更新頻度の低さは、更新時の行政コスト(人件費含む)や不確実性リスクの削減にも直結します。

デメリット:立ち上がり期間と極微細濁質への限界

一方でデメリットも正直に示しておきます。一つ目は立ち上がり期間の必要性です。特に生物処理機能が安定するまでの数日〜数週間は、期待通りの処理水質が得られない場合があります。新設時の運転開始タイミングは、この期間を見込んで計画する必要があります。

二つ目は沈殿しにくい性質の濁質への対応限界です。普通沈殿池で沈降しないようなコロイド性の微細粒子は、砂利層でのろ過や自然沈降では十分に捕捉できない場合があります。このような原水特性の場合は、凝集剤の併用や後段への膜ろ過の設置などを検討する必要があります。

5.主要浄水法との組み合わせによる相乗効果

URFの真価は、単独での運用よりも、既存の浄水処理と組み合わせたときに最大化されます。

急速ろ過との組み合わせ:凝集剤削減と汚泥処理費のカット

急速ろ過の前段にURFを設置すると、後段への流入濁度が大幅に低下するため、急速ろ過に必要な凝集剤の注入量を削減できます。凝集剤の削減は薬品費の直接削減であると同時に、凝集によって生成される汚泥量の減少にもつながります。汚泥処理費の削減効果は施設規模が大きくなるほど顕著であり、大規模浄水場においても導入を検討する価値があります。また急速ろ過における濁度が最小化するため、日常的なジャーテストなどの運転管理が不要になる可能性があるなど、運転管理にかかる人員の削減も見込めます。

緩速ろ過との組み合わせ:砂かき頻度の劇的低減

緩速ろ過の前処理としてのURFは、最も相性の良い組み合わせの一つです。緩速ろ過の維持管理で最も手間がかかる作業が、ろ過砂の表面をかき取る「砂かき」です。流入濁度が高いほど砂かきの頻度が増し、人的負荷が上がります。URFで前段の濁度を低減することで、砂かきの頻度を劇的に減らすことができます。人手不足に悩む小規模水道において、この維持管理負荷の軽減は非常に大きな意味を持ちます。

膜ろ過との組み合わせ:膜寿命の延長と洗浄頻度の削減

膜ろ過(MF/UF膜)の前段にURFを置くことで、膜への負荷を大幅に低減できます。膜の目詰まり(Fouling)の主要因の一つが懸濁物質の蓄積であり、URFで前処理することでFoulingの進行を遅らせ、薬液洗浄の頻度を削減できます。膜の薬液洗浄は手間とコストのかかる作業ですが、その頻度が下がることは維持管理の省力化と膜寿命の延長に直結します。長期的なLCCの観点からも、URF+膜ろ過の組み合わせは非常に合理的な選択です。

表1 主要浄水法と上向流粗ろ過の組み合わせによる主要な変化

主要な変化コストインパクト
上向流粗ろ過+急速ろ過急速ろ過で使用する凝集剤添加量が大幅減
急速ろ過のジャーテスト頻度が減少

凝集剤の薬品代
沈殿汚泥の産廃処理代
薬品・汚泥関連機器の更新費
日常運転管理人件費
上向流粗ろ過+緩速ろ過砂かき作業の大幅な減少
目詰まり防止

砂かき作業人件費
目詰まり対応人件費
上向流粗ろ過+膜ろ過膜逆洗、薬品洗浄回数の減少
膜洗浄回数減による造水量増大
薬品洗浄回数の減少
膜寿命の長期化

6.日本国内の導入事例

URFは海外での実績が先行していますが、日本国内でも先駆的な事例が生まれています。

岡山県津山市では、緩速ろ過の前処理としてURFを導入し、維持管理の効率化と水質安定化の両立を実現しています。大分県では山間部の小規模水道への応用事例があり、薬品を使わない処理系統の構築に貢献しています。また、2024年の能登半島地震で被災した石川県珠洲市では、災害時の応急給水という文脈でURFのシンプルさと頑健性が改めて注目されました。千葉県富津市においても導入が進んでおり、今後の国内普及の参考事例として注目されています。

これらの事例に共通するのは、「薬品に頼らず、電力を最小限に抑え、維持管理の負荷を下げる」というニーズへの応答です。人口減少と職員不足が進む中で、日本の地方水道が直面している課題と、URFが提供できる価値は、これ以上なく合致しています。

導入組織導入場所、個所数浄水方法給水規模
地域水道支援センター岡山県津山市、数か所上向流粗ろ過+緩速ろ過40人~80人
おおいたの水と生活を守る会大分県全域、数十カ所上向流粗ろ過+緩速ろ過~100人
前社(筆者担当)①石川県珠洲市
②千葉県富津市
①上向流粗ろ過+緩速ろ過
②上向流粗ろ過+緩速ろ過+MF膜ろ過
①15人
②30人

あとがき

今回は、上向流粗ろ過という水処理法について紹介いたしました。

薬品も電気も使用せず、水槽に砂利を充填しただけのシンプルな構造で濁質除去が可能なうえ、設置費もその後の維持管理費も従来の濁質除去を目的とする浄水法と比べて圧倒的に安価なとても優れた浄水法です。

まだまだ日本では知られていない浄水法ですが、正のインパクトある非常に興味深い浄水法です。皆様のお住いの浄水場での実証実験など対応可能です。管理費や管理負荷を下げたいと切に願っている事業者様、業者の皆様、そして住民の皆様、興味をお持ちいただけたら、ぜひ以下の問い合わせフォームから気軽にご連絡ください。

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