1.下水道展で感じた、管路メンテナンス技術の進歩
今年の下水道展を訪れて、以前と比べて管路の調査・更生に関する展示が増えたと感じました。特に印象に残ったのは、管内を走行・飛行する調査機器と、道路を大きく掘り返さずに既設管を再生する技術です。
下水道管の老朽化が社会問題になるなか、民間企業もさまざまな技術を開発し、対策を進めています。老朽化が進んでいるからといって、何も手を打っていないわけではありません。私はまず、この点をきちんと評価したいと思います。
2.掘り返さずに調査・再生できる時代になった
現在の管路維持管理技術を、簡潔に整理します。
- 管内カメラ・自走式調査ロボット:管内を移動しながら、クラック、腐食、継手のずれなどを確認します。小口径管にも対応する技術があります。
- ドローンによる管内調査:人が入りにくい大口径管などを対象に、効率的な点検を目指す技術です。
- 管路更生工法:既設管の内部に新たな管状の構造を形成するなど、非開削で管路機能を回復させる技術です。
個々の工法の詳細には立ち入りません。ここで押さえておきたいのは、下水道管を維持管理するための技術的な選択肢が、着実に増えているということです。
3.しかし、全国の下水道管をすべて調査・更生できるのか
ここから、今回の記事の中心に入ります。
日本の下水道管路は、全国に約50万kmあります。これをすべて調査し、劣化した管を順番に更生していくことが理想かもしれません。しかし、現実には予算も人手も限られています。
- 管内調査には、機器だけでなく、作業員や交通規制などが必要になります。
- 更生工事には、設計、施工、品質管理などの費用が発生します。
- 老朽化した管路は、今後も増え続けます。
- 自治体職員だけでなく、調査・施工を担う技術者や事業者にも限りがあります。
調査を行うだけでも、現場では多くの調整と作業が必要になります。そこから更生工事へ進めば、さらに費用と時間がかかります。
私が伝えたいのは、単純な予算不足の話だけではありません。予算が確保できたとしても、すべての管路を短期間で調査・更新するだけの人手が確保できるとは限らないのです。人手は、お金を用意すればすぐに増やせるものではありません。
調査の結果、更生が必要と判断される管路が増えたとしても、それを施工できる体制が追いつかなければ、計画どおりには進みません。理想と現実のあいだには、どうしても差が生まれます。
そのため、自治体は限られた資源をどの管路に優先的に投入するか、判断しなければなりません。
4.優先されるのは、事故が起きたときの影響が大きい管路
例えば、都市部の大口径幹線で破損が発生すれば、広範囲の下水道機能に影響する可能性があります。道路陥没などが発生した場合は、社会的影響も非常に大きくなります。
そのため、一般的には次のような管路が優先的な管理対象になりやすいと考えられます。
- 大口径の主要幹線
- 緊急輸送道路や鉄道の下を通る管路
- 腐食リスクが高い箇所
- 過去の調査で異常が確認された箇所
これらの管路は、破損したときの影響が大きい、劣化が進みやすい、すでに問題の兆候がある、という点で共通しています。優先順位が高くなるのは自然なことです。
これは合理的な考え方です。限られた資源をどこに投入するかを考えるとき、事故が起きた場合の影響の大きさを基準にすることは、社会全体の被害を抑えるという意味で理にかなっています。ただし、大口径だから必ず優先、小口径だから必ず後回しというわけではありません。管路の重要度、破損確率、周辺への影響を総合して判断する必要があります。
5.住宅地に広がる小口径下水道管はどうなるのか
ここで視点を変えます。下水道管は、大きな幹線だけで構成されているわけではありません。住宅地には、呼び径200~300mm程度の小口径管が網の目のように布設されています。
現在は耐食性の高い塩ビ管も広く使われていますが、古い管路にはヒューム管などのコンクリート系管材も残っています。これらについても、腐食、クラック、継手のずれなどが発生する可能性があります。
管の劣化は、管齢だけで決まるものではなく、管材によっても腐食のリスクは異なります。一本一本は目立たない存在ですが、住宅地に布設された小口径管を合計すれば、膨大な延長になります。
しかし、小口径管を含む膨大な管路をすべて同じ頻度で調査し、劣化箇所をすべて補修していくことは、現実的には難しいでしょう。とはいえ、全線の更生が非現実的であることと、全線を計画的に点検・調査することが不可能であることは、同義ではありません。調査と更生は、分けて考える必要があります。
小口径管にも対応できる調査・更生技術があることと、それを全国の小口径管に十分適用できることは、別の問題です。私は、この違いを今回の記事で最も強調したいと思います。
6.大きな事故にならないことと、健全であることは違う
大口径管の破損は、道路陥没や下水道機能の停止など、重大な事故につながることがあります。
一方、小口径管に小さなクラックが生じても、直ちに道路陥没や下水道機能の停止につながるとは限りません。下水は通常どおり流れ続け、地表にも目立った変化が現れない可能性があります。
しかし、それは必ずしも管路が健全であることを意味しません。目立った事故が起きていない管路でも、内部では劣化が進んでいるかもしれません。
大口径管の破損は、発生すればすぐに気付かれます。それに対して、小口径管の小さな破損は、気付かれないまま続く可能性があります。破損しても気付かれにくい場合がある、という点は押さえておく必要があります。
7.小口径管で小さな破損が起きたら、何が起こるのか
下水道管の老朽化対策は、調査技術や更生工法の発達によって、着実に進歩しています。しかし、限られた予算と人手を考えれば、すべての管路を同じように維持管理することは難しいでしょう。
そのなかで、これまであまり注目されてこなかった問題があるかもしれません。
もし、住宅地に布設された小口径の下水道管に小さな穴やクラックができ、汚水が少しずつ管の外へ漏れ始めたら、どうなるのでしょうか。
下水道の機能がすぐに失われるとは限りません。道路が陥没するとも限りません。では、漏れ出した汚水はどこへ行くのでしょうか。
下水道管の老朽化対策は着実に進んでいる。しかし、限られた予算と人手のなかで、目立たない小口径管の状態まで十分に把握できるのだろうか。
