お金を確保できても、人は足りるのか?――これからのインフラ選択に必要な視点

  • URLをコピーしました!

インフラを考えるとき、私たちは何を見ているのか

道路、橋、水道、下水道。私たちの暮らしは、さまざまなインフラに支えられています。これらを整備するとき、必ず検討するのが費用です。建設にいくらかかるのか。維持管理費はいくらになるのか。将来の更新まで含めると、どのくらいの負担になるのか。これらはいずれも、インフラを選ぶうえで欠かせない問いです。

しかし、これからのインフラを考えるうえで、もう一つ、正面から向き合う必要がある問いがあります。それは、「そのインフラを維持するために、将来どれだけの人の労働が必要になるのか」「その労働を担える人が、そのとき本当にいるのか」という問いです。


お金が足りない問題と、人が足りない問題は、同じではない

公共インフラで資金が不足した場合、財政上の制約はあるものの、予算の組み替え・起債・国からの支援など、資金を確保するためにいくつかの方法を検討できます。

しかし、人の時間そのものは、その場で増やすことができません。予算がついたからといって、明日から熟練の技術者が増えるわけではありません。工事を発注できても、それを施工できる人が確保できるとは限りません。

もちろん、待遇を改善する、人を育てる、他地域から来てもらう、外国人材にも担ってもらうといった対策はあります。ただし、育成には時間がかかりますし、他地域から確保しようとしても、その地域で労働力が余っているとは限りません。

資金を確保できることと、必要な労働力を確保できることは、別の問題です。この違いを、インフラの計画段階から意識する必要があります。


一つひとつは成立しても、地域全体では足りないかもしれない

もう少し具体的なイメージで考えてみましょう。

ある地域で、将来インフラの維持に充てられる労働量が年間100人分だとします(ここでの「人分」は、人数そのものではなく、一定の年間労働時間に換算した仮の数字です)。一方で、その地域の道路・橋・水道・下水道・電力などを維持するために、年間150人分の労働が必要になるとしたら、50人分の不足が生じます。

道路の担当者は道路を維持するために必要な仕事を考えます。水道の担当者は水道を維持するために必要な仕事を考えます。それぞれの計画には、必要性も理由もあるでしょう。しかしそれらを地域全体で足し合わせたとき、担い手を本当に確保できるでしょうか。

同じ人や同じ業者が、複数のインフラを支えていることもあります。各事業が「外部に委託すればよい」と考えていても、委託先の労働力には限りがあります。個別の事業として妥当な計画でも、合計すると地域の労働力を超えてしまう——これは、費用だけを見ていては捉えにくい問題です。


インフラを選ぶことは、将来の仕事を選ぶこと

インフラは、作ったところで仕事が終わるわけではありません。点検する、清掃する、運転する、消耗品を交換する、故障を直す、設備を更新する——施設が存在する限り、こうした仕事は続きます。

つまり今日ある設備を採用することは、将来、その設備に必要な仕事を誰かに担ってもらうことでもあります。

水処理設備を例に考えてみましょう。同じような水質・処理量を目指す場合でも、採用する方式によって、日々の操作・薬品の補充・洗浄・汚泥の処理・機器の点検や交換といった仕事の内容と量は変わります。原水の条件や設置場所によって選べる方式には制約がありますが、比較する際に「建設費はいくらか」「電気代や薬品代はいくらか」という問いに加えて、「運用を続けるために、どれだけの労働が必要か」という問いを置くことはできるはずです。

今は担い手を確保できる設備でも、20年後・30年後にも同じ体制を維持できるでしょうか。長く使うインフラほど、その問いを建設前に考える意味があります。


人件費だけでは、見えないものがある

維持管理費の中に人件費を含めているのだから、すでに労働力の問題は評価しているのではないか——そう思われる方もいるかもしれません。

確かに人件費は重要です。ただし人件費は、労働時間に賃金などの単価を掛け合わせた「金額」です。同じ作業時間でも、単価が変われば費用は変わります。逆に費用が同じでも、必要な労働時間が同じとは限りません。委託費や工事費として一括で計上されている場合、その内側でどれだけの労働が必要なのかは見えにくくなります。

そして費用の中に人件費が計上されていることと、その仕事を担う人を将来確保できることは、やはり別の問題です。だからこそ、お金とは別に、人の労働をどれだけ必要とするのかを直接見る視点が必要だと考えています。


必要になる前に、分かっていた方がいい

人手不足が明らかになってから対策を講じることも、もちろんできます。作業を省力化する、自動化する、業務をまとめる、外部から人材を確保する、施設のあり方を見直すといった対応が考えられます。

しかし設備を作ってからでは、変更できる範囲が限られることがあります。大幅な改造や追加の投資が必要になる場合もあります。

計画段階であれば、方式・配置・設備構成そのものを比較することができます。毎日の現地作業を少なくする設計、交換や清掃をしやすくする構造、特定の熟練者だけに頼らなくても維持できる仕組み——こうした工夫を、最初から選択肢に入れることができます。

なお、自動化すれば労働がゼロになるわけではありません。設備の運転だけでなく、保守・点検・更新まで含めて、全体として労働が本当に減るかを見ることが大切です。将来必要になる労働量は、必要になってから知るよりも、選ぶ前に分かっていた方がいいのです。


将来必要になる労働を、数字で捉える

では、インフラが将来必要とする労働をどのように判断すればよいのでしょうか。

まずは、建設・維持管理・修繕・更新・撤去など、それぞれの段階で必要になる仕事を整理し、その作業時間を積み上げてみることです。費用を比較するように、必要な労働量も比較する。その視点があれば、「建設費は抑えられるが維持に多くの労働を必要とする案」と「初期費用は高くても長期的には少ない労働で維持できる案」の違いを、判断の材料に加えることができます。

ただし、生涯の労働量だけで、人材不足のすべてが分かるわけではありません。いつ仕事が集中するのか、どの専門技能が必要なのか、どの地域で必要なのか——同じ労働量でも、担い手を確保する難しさは条件によって異なります。

必要な労働量を見えるようにし、そのうえで時期・技能・地域の担い手の状況と照らし合わせる。そうすることで、「この設備を導入できるか」から一歩進んで、「この地域で、将来も維持していけるか」を検討できるようになります。


これから作るインフラに、労働力の視点を

インフラを選ぶとき、性能・安全性・費用・環境への影響を考えることは欠かせません。そこにもう一つ、「将来の人たちが、無理なく維持できるか」という視点を加えていきませんか。

私たちが今日選ぶインフラは、将来の暮らしを支えると同時に、将来の誰かが担う仕事を決めていきます。建設するお金を確保できた——その先で、維持する人も確保できるのか。

これから作るインフラ、これから更新するインフラについて、必要な労働力まで含めて考え、選択していく。そのような視点が、これからのインフラ計画に求められていると考えています。

よかったらシェアください!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次