水道施設のコスト縮減、処理方式から見直してみませんか?――粗ろ過・緩速ろ過という選択肢

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第1章 日本水道協会のコスト縮減事例集を読んでみた

日本水道協会が公開している「水道施設におけるコスト縮減対策実施事例集」をご存知でしょうか。

この資料には、全国の水道事業体が実際に取り組んできたコスト縮減対策の事例が数多く掲載されています。薬品注入設備の改善、ポンプの効率化、管路更新計画の見直し、維持管理体制の工夫など、現場に即した多様な取り組みが紹介されており、水道の維持管理に関わる方にとって参考になる資料です。

(日本水道協会「水道施設におけるコスト縮減対策実施事例集」:https://www.jwwa.or.jp/)

この事例集を読みながら、一つのことに気づきました。個々の設備の改善や運転方法の工夫に関する事例は豊富に掲載されている一方で、粗ろ過や緩速ろ過を活用したコスト縮減については、ほとんど取り上げられていません。

もちろん、個々の設備改善は重要な取り組みです。しかし処理方式そのものを見直すことで、設備構成を大きく変えられる可能性があります。そうなれば、個別の設備改善とは異なる次元のコスト縮減につながることもあるのではないかと考えました。

今回の記事では、その可能性について考えてみたいと思います。

ただし、最初に申し上げておきたいことがあります。ここで紹介する内容が、すべての浄水場に当てはまるわけではありません。原水の水質や施設の規模・構成、維持管理体制などによって、適した方法も得られる効果も大きく異なります。この記事は、これまであまり検討されてこなかったコスト縮減の視点について、考えていただくきっかけになることを目的としています。


第2章 上向流粗ろ過とは、どのような技術なのか

粗ろ過とは、砂利などのろ材を充填した槽に原水を通し、原水中の濁質を除去する方法です。

通常のろ過では原水を上から下へと通しますが、上向流粗ろ過では原水をろ材層の下から上へと通します。この方向の違いにより、ろ材層全体で均等に濁質を捕捉しやすくなり、目詰まりが起きにくいという特徴があります。

上向流粗ろ過の大きな特徴の一つは、凝集剤を使わずに、あるいは使用量を抑えながら原水の濁質を低減できることです。機械設備への依存も比較的少なく、シンプルな構造で長く使えるという側面もあります。

利用の形態としては、急速ろ過や膜ろ過の前処理として用いる場合と、緩速ろ過と組み合わせて一体的なシステムとして構成する場合があります。

なお、粗ろ過設備の建設にも費用がかかりますし、導入後の維持管理も必要です。どの程度のコスト縮減効果が得られるかは、施設の条件によって異なります。

技術的な詳細については、別の解説記事をあわせてご参照ください。


第3章 急速ろ過の前処理に導入した場合

既存の凝集沈殿・急速ろ過方式に粗ろ過を組み合わせることで、どのような費用に影響が出る可能性があるか、具体的に考えてみます。

3-1. 薬品使用量の削減

粗ろ過によって原水の濁質を事前に低減できると、後段の急速ろ過で使用する凝集剤(PACなど)の注入量を減らせる可能性があります。

また、原水水質の変動が大きい水源では、凝集剤の注入量をその都度調整する必要がありますが、粗ろ過によってある程度の変動が吸収されることで、注入量の管理が安定しやすくなることも期待できます。

薬品費の削減は購入費だけの問題ではありません。薬品の貯蔵タンクや注入設備は、定期的な点検・補修が必要です。薬品使用量が減ることで、これらの設備の維持管理費にも波及する可能性があります。

3-2. 汚泥処理に関する費用の削減

凝集剤の使用量が減ると、それに伴って発生する汚泥の量も減少する可能性があります。

汚泥処理にかかる費用は、脱水工程で使用する凝集剤の費用、脱水機の運転にかかる電力費、脱水後の汚泥を搬出・処分するための費用、脱水機やポンプなどの機器の点検・補修・更新費用など、複数の項目に及びます。

汚泥の発生量が減れば、これらすべての費用に影響する可能性があります。施設を新設・更新する場合には、汚泥処理設備の規模を小さくするという選択肢も出てきます。

3-3. 機械設備の維持管理費の削減

汚泥処理に関わる設備は、沈殿池の汚泥掻寄機、汚泥脱水機、汚泥移送ポンプなど多岐にわたります。急速ろ過池では、ろ材の逆洗に使うブロワやポンプも維持管理が必要です。

これらの機械設備は、定期的な点検・補修・更新が必要であり、それぞれにコストが発生します。汚泥発生量が減ることで機器の稼働頻度が下がれば、消耗部品の交換サイクルが延びたり、修繕頻度が下がったりする可能性があります。

3-4. 人件費の削減

薬品の補充・管理、汚泥の引き抜き・脱水・搬出、設備の点検・清掃・補修。これらの作業に従事する人員の工数が減れば、人件費や外部委託費の削減にもつながる可能性があります。

ただし、既存設備を残したまま粗ろ過を追加する場合は、設備の固定費が残ります。縮減効果の大きさは施設の状況によって異なります。


第4章 膜ろ過の前処理に導入した場合

膜ろ過を採用している浄水場でも、粗ろ過を前処理として組み合わせることで、いくつかのコスト縮減が期待できます。

4-1. 膜の洗浄負担の軽減

膜ろ過では、原水中の濁質が膜に蓄積すること(ファウリング)を防ぐため、逆洗や薬品洗浄が定期的に必要です。粗ろ過によって原水の濁質負荷を下げることができれば、逆洗の頻度や薬品洗浄の頻度を低減できる可能性があります。

それに伴い、逆洗用水の使用量、洗浄薬品の使用量、洗浄排水の処理にかかる負荷なども減らせる可能性があります。

4-2. 膜の維持管理・更新費用の削減

ファウリングの進行が抑えられれば、膜差圧の上昇が緩やかになり、膜の交換周期が延びる可能性があります。膜モジュールの交換は費用がかかる作業であり、その間隔を延ばすことができれば、長期的なコストに大きく影響します。

また、膜への負荷が下がることで、加圧ポンプの稼働負荷が減り、電力費の削減にもつながることが考えられます。

4-3. 維持管理に必要な人手の削減

膜洗浄作業、薬品管理、膜交換などの保守作業の頻度が減れば、それに従事する人員の工数も減る可能性があります。

なお、膜のファウリングの原因は濁質だけではなく、有機物や微生物によるものもあります。粗ろ過によってすべてのファウリング要因が解消されるわけではなく、ファウリングの主な原因が何かによって、粗ろ過の効果は変わります。この点には注意が必要です。


第5章 粗ろ過+緩速ろ過なら、さらに大きな可能性

急速ろ過や膜ろ過の前処理に粗ろ過を追加する場合は、基本的に既存の処理フローに一段階を加えるという形になります。しかし粗ろ過と緩速ろ過を組み合わせて処理方式そのものを変更する場合は、設備構成を根本から見直せる可能性があります。

5-1. そもそも必要なくなる設備がある

粗ろ過+緩速ろ過では、凝集剤を使わない処理が基本となります。そのため、条件が合えば凝集剤注入設備や凝集混和設備、フロック形成設備が不要になります。

機械式の沈殿設備も省略できる可能性があります。汚泥発生量が大幅に減るため、脱水設備が不要になるか、大幅に小型化できる場合があります。急速ろ過では必要だった逆洗設備、膜ろ過では膜設備や膜洗浄設備も、処理方式の変更によってそもそも必要なくなります。

機械設備が減ることは、建設時の費用が下がるだけではありません。設備の点検・補修・更新にかかる費用が、長期にわたって発生しなくなるという意味でもあります。

5-2. 運転費用を減らせる

凝集剤や洗浄薬品の使用量が減れば、薬品費が削減されます。撹拌機、汚泥掻寄機、脱水機、加圧ポンプなどの機械設備が減れば、それらを動かすための電力費が下がります。汚泥処理・処分の費用や、機械設備の点検・補修費用も削減できる可能性があります。

水源の地形を活かして自然流下を利用できる施設であれば、ポンプの動力費をさらに抑えられる場合があります。

5-3. 設備更新費用にも大きな違いが生まれる

短期的なランニングコストだけでなく、設備更新費用という視点も重要です。

機械・電気設備は、一定の年数が経てば補修や更新が必要になります。膜ろ過では膜モジュールの交換費用が定期的に発生します。こうした更新費用が、20年、30年と積み重なると、トータルでの費用に大きな差が生まれます。

粗ろ過+緩速ろ過は、土木構造物を中心とした設備構成にできる点が特徴です。土木構造物は適切に管理すれば長期間使用でき、機械設備のような定期的な大規模更新が比較的少なくて済みます。建設時の費用だけを比較するのではなく、将来の更新費用まで含めて考えることが、処理方式を選択する際には重要です。

5-4. 人手不足への対策にもなる

機械設備が少なくなれば、その点検や故障対応の頻度も減らせます。薬品管理や汚泥処理に関する日常的な作業量も削減できる可能性があります。

一方で、緩速ろ過には砂面管理や清掃などの作業が必要であることも事実です。ただし、前段に粗ろ過を設けることで緩速ろ過への濁質負荷を抑え、砂かきの頻度を低減できる可能性があります。

これは単に人件費を下げるという話ではありません。水道技術者が少なくなる中で、限られた人員で施設を維持し続けるための体制をどう作るか、という課題への一つの対応にもなり得ます。


第6章 すべての施設に当てはまるわけではない。それでも考えてみませんか

導入できる条件は施設ごとに異なる

今回紹介してきたコスト縮減の可能性が、すべての施設に当てはまるわけではありません。

原水の水質とその季節変動、必要な処理水量、用地の広さや地形、既存設備の構成と残存年数、維持管理を担える人材の状況——これらによって、適した処理方式も、期待できるコスト縮減効果も大きく変わります。

粗ろ過や緩速ろ過にも、設備の建設費と維持管理費が必要です。用地の確保が難しい施設、原水の水質変動が大きい施設、処理水量が非常に多い施設などでは、導入が難しかったり、効果が限定的だったりすることもあります。あらゆる条件で有利になるわけではありません。

今回の記事は、正解を示すためのものではない

この記事の目的は、粗ろ過や緩速ろ過を勧めることそのものではありません。

日本水道協会の事例集に掲載されているような個別設備の改善や運転の工夫は、今すぐ取り組める現実的なコスト縮減対策として引き続き重要です。

今回お伝えしたかったのは、それらとは別の視点として、処理方式そのものを見直すことでも大きなコスト縮減の可能性があるということです。「こんな方法もあるのか」「自分たちの施設でも一度検討してみようか」と思っていただけたなら、この記事の目的は果たせています。

これまで当たり前だと思っていた処理方式を、一度違った角度から見直してみませんか。そのきっかけの一つに、この記事がなれれば幸いです。

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