日本の浄水処理は、急速ろ過が主流
日本の浄水処理には、急速ろ過、緩速ろ過、膜ろ過、消毒のみなど、いくつかの方式があります。このうち、処理能力ベースで見ると、急速ろ過が約8割を占めています。緩速ろ過は数%程度で、急速ろ過と比べると、非常に小さな割合です。
急速ろ過は、大量の水を効率よく処理できる方式であり、日本のこれまでの大量給水を支えてきた中心的な技術です。この点は、正当に評価されるべきと私は考えています。
一方で、この数字を見た方は、「緩速ろ過は、今の日本ではあまり使われていない技術なのだろう」という印象を持つかもしれません。しかし、この数字はあくまで、処理する水の量で比較したものです。では、浄水場の「数」で比較すると、どうなるのでしょうか。
施設数で比較すると、違った景色が見えてくる
水道技術研究センターが紹介している、2021年度の公的統計を見てみます。上水道事業と水道用水供給事業を対象とした、浄水処理方式別の施設数は、次のとおりです。

【図1:浄水処理方式別の施設数(棒グラフ)】
| 浄水処理方式 | 施設数 |
|---|---|
| 急速ろ過 | 2,208施設 |
| 緩速ろ過 | 1,299施設 |
| 膜ろ過 | 566施設 |
※2021年度の公的統計に基づく比較です。対象は上水道事業・水道用水供給事業で、簡易水道は含みません。
※出典:水道技術研究センター「全国の浄水場数及び計画浄水量(その1)」
緩速ろ過は1,299施設あり、施設数では急速ろ過の約6割に相当します。処理能力の比率だけを見ていると気づきにくいのですが、緩速ろ過の施設は、決して少なくありません。
ここで、「緩速ろ過が膜ろ過より多い」と言いたいわけではありません。同じ条件で比較できる公的統計を使い、緩速ろ過の施設が一定の数、確かに存在していることを確認しておきたいのです。
独自調査では、全国約2,400施設の緩速ろ過を確認
水未来研究所では、全国の緩速ろ過施設について、独自の調査を進めてきました。「全国緩速ろ過データベース」として整理した結果、現時点で、緩速ろ過施設として掲載・確認できた施設は2,396施設にのぼります。このうち44施設は、すでに廃止または他の方式へ転換されていました。確認できた施設の所在地は、581の市区町村に及びます(2026年10月23日時点)。
【図2:水未来研究所の全国調査結果】
- 全国緩速ろ過DB(第2段):2,396施設
- 廃止・転換済み:44施設
- 確認済み施設の所在市区町村:581市区町村
公的統計の1,299施設と、独自調査の2,396施設には、数の違いがあります。これは、調査の対象が異なるためです。独自の調査では、簡易水道や小規模な水供給施設も視野に入れています。ですから、この二つの数字を単純に比べて、「実際には約2倍あった」と言うことはできません。
また、独自のデータベースには、まだ確認が済んでいない事項も残っています。全国の稼働施設を、完全に網羅した数字ではないことは、あらかじめお伝えしておきます。それでも、小規模な水道まで視野を広げると、緩速ろ過の存在はさらに大きく見えてきます。なお、今回は全国の集計のみをご紹介し、個別の施設名や所在地は掲載しません。
なぜ、処理水量と施設数で印象が大きく変わるのか
理由は、施設の規模に大きな違いがあるためです。
例えば、1日10万m³を処理する大型の浄水場が1施設あるとします。一方に、1日100m³を処理する小規模な浄水場が1,000施設あるとします。この二つは、計算上、処理する水の量が同じです。ところが、施設数で見れば、1対1,000になります。これは説明のための仮定であり、実際の全国平均を表すものではありません。
急速ろ過は、大量の水を処理する場面に適しています。一方、小規模な緩速ろ過の施設は、全国各地に分散して存在しています。処理水量で見るか、施設数で見るかによって、同じ緩速ろ過でも、まったく違う姿に見えるのです。
そして、施設が全国各地に数多く存在するということは、それらを管理する人々もまた、全国各地にいるということです。
施設数が多いということは、関わる人も多いということ
急速ろ過の効率性は、あらためて評価されるべきです。大量の水を、限られた人員で処理・管理できることは、水道事業の効率化に大きく貢献してきました。設備の自動化や集中監視といった技術も、その効率性を支えています。
一方で、緩速ろ過の施設が全国に約2,400あるということは、多くの現場で、日々の点検、清掃、砂かき、水質確認といった業務が行われているということです。
ここで、区別しておきたいことがあります。施設数が多いことは、管理の対象が多いことを意味します。ただし、施設数と管理する人数は比例しません。一人が複数の施設を兼務することもあるからです。それでも、緩速ろ過に関わる職員、委託事業者、技術者が、全国に一定の規模で存在していると考えるのは、自然だと思います。
ここでは、関係者の正確な人数を推定することはしません。お伝えしたいのは、処理水量に占める割合が小さいからといって、関係する人々の存在まで小さいとは限らない、ということです。
緩速ろ過に関する技術情報は、十分に提供されているのか
そのうえで、一つの疑問が浮かびます。緩速ろ過に関わる人々に、必要な技術情報は、十分に届いているのでしょうか。
水道施設の設計や維持管理に関する指針では、急速ろ過や膜ろ過についての記述が充実している一方で、緩速ろ過の扱いが相対的に小さいのではないでしょうか。私には、そのような問題意識があります。ただし、これは今後、旧版と現行版を比較して確認したうえで、あらためてお伝えしたいと考えています。
現場で本当に役立つのは、たとえば次のような情報ではないでしょうか。
- 砂かきの頻度を減らすための工夫
- 藻類や落ち葉による目詰まりへの対策
- 大雨時の濁水流入への対応
- 設備の老朽化と更新の方法
- 遠隔監視や省力化設備の導入
- 熟練者の退職に伴う技術継承
さらに、ある施設では解決できた課題でも、その経験が、他の施設に共有されていない可能性があります。「指針が不十分だから、現場が困っている」と断定するつもりはありません。ただ、「必要としている人に、必要な情報が届いているだろうか」という問いは、持っておきたいと思います。
緩速ろ過に関する情報を、必要としている人へ
全国にこれほど多くの緩速ろ過施設が存在する一方で、日々の維持管理に役立つ技術情報や、他の施設での取り組み事例が、必要としている人たちに十分届いていない可能性があります。
株式会社水未来研究所では、今回整備した独自の全国緩速ろ過施設データベースを活用し、各地で緩速ろ過に携わる方々に、必要な技術情報や維持管理のノウハウを届けるための情報提供プラットフォームの構築を考え始めています。まだ構想段階ではありますが、全国の現場がそれぞれ抱えている課題や工夫を共有し、少ない人数でも安心して施設を維持管理できる環境づくりにつなげていきたいと考えています。
また、今回の調査成果を一般の方々にも知っていただくため、「全国緩速ろ過DB白書」の作成を進めています。完成後は、弊社公式ホームページで公開する予定です。白書では、全国の緩速ろ過施設の分布や集計結果などをご紹介し、日本の緩速ろ過の現状を知っていただくための資料にしたいと考えています。
※【2026年11月02日 追記】全国緩速ろ過DB白書を公開しました
報告書名: 全国緩速ろ過施設調査報告書 2026
発行: 株式会社水未来研究所(WATERVISION LTD.)
調査基準日: 2026年10月23日
形式: PDF・全10ページ
