これからの水道は「作る・貯める・回す・逃がさない」――水不足の時代に、水道をどう設計するか

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1. ここまで、いろいろな「水の作り方」を見てきた

このシリーズでは、気候変動によって世界の水がどう変わるのかという問いから始まり、様々な視点を重ねてきました。

気候変動が水循環を変え、水が「不安定」になること。水を時間的に保存するダムや地下水・自然の貯水機能の重要性。世界では人口増加と都市化・工業化によって水需要が増えていくこと。一度使った水を捨てずに循環させる発想。海水から水を作るROという技術と、そのエネルギーコスト。空気から水を取り出すAWGという可能性と廃熱活用の方向。そして、そこに淡水があるならできるだけ少ないエネルギーで浄水する粗ろ過+緩速ろ過という考え方。

ここで一度、シンプルな質問をしてみたいと思います。「結局、何が一番いいのでしょうか?」

2. 答えは「一番いい技術」はない

この質問への答えは、少し意外に聞こえるかもしれません。「一番いい水道技術」は存在しません。

海しかない場所ではROが必要です。液体の水源が乏しく湿度が高い場所ではAWGが可能性を持ちます。使った水をどこかへ流せない状況では循環が重要になります。比較的良好な河川水があるなら低エネルギーの浄水が合理的です。雨が多く降る地域では貯水が基本になります。

水源・気候・人口規模・土地の条件・エネルギー事情・人材の状況——これらが異なれば、最も合理的な答えも変わります。水道技術の王様を探すのではなく、「その土地に合った最適な水道を設計する」こと——これがシリーズを通じて積み重ねてきた結論です。

3. これからの水道を「4つの動詞」で考える

ここで、水道を「施設」ではなく、「水に対して人間が行う行為」として整理し直してみましょう。

作る・貯める・回す・逃がさない——この4つの動詞が、これからの水道を考えるための軸になります。それぞれに技術があり、それぞれに限界があります。そして4つは独立しているのではなく、一つの水循環の中でつながっています。

4. ①「作る」——水源を利用可能な水に変える

「作る」とは、文字通り無から水を生み出すことではありません。使えない状態にある水を、使える状態に変えることです。

河川・湖沼など比較的良好な淡水は、適切な浄水処理によって飲料水になります。海水はROによって淡水になります。大気中の水蒸気はAWGによって液体の水になります。使用済みの排水は再生処理によって再利用可能な水になります。

「水を作る」とは、水源の量を増やすことではなく、「水資源として扱える候補を増やすこと」です。どこにある水を、どのような状態の水に変えるかが、技術選択の核心です。

5. 「作る」には必ず何かを使う

ここでシリーズ全体を貫く重要な原則を再確認しておきます。水を作るには必ず別の何かを投入します。

ROなら大量の電力。AWGなら電力または熱。高度な水処理なら薬品・電力・複雑な設備。循環型処理なら設備・エネルギー・継続的な管理——どの方法も、ある資源を使って水という資源を得るという構造を持っています。

だから「どれだけ水を作れるか」だけでなく、「何を投入して水を作ったのか」を見る必要があります。電力が安価な地域とそうでない地域では、同じ技術でも経済性がまったく変わります。熱が余っている環境ではAWGの意味が変わります。資源の条件が、技術の合理性を決めるのです。

6. ②「貯める」——水を時間移動させる

このシリーズの第2回・第3回で詳しく見た、水の時間軸という概念です。

雨が降ったとき、その水を全部すぐに使う必要はありません。ダム・ため池・地下水・森林と土壌・湿地・雨水貯留施設——様々な場所で水を保存しておき、必要なときに取り出すことができます。

「貯める」とは、水を空間的に閉じ込めることではありません。水が降った時間から、水が必要な時間へと、水を移動させることです。第3回で述べた「ダムとは水を時間移動させる装置である」という定義が、ここで再び重要になります。

7. 「巨大なダム」から「巨大な流域」へ

従来の発想は「大きなダムを作って大量に貯める」というものでした。これからの発想は「流域全体で少しずつ貯める」という方向へ向かいます。

山の森林と土壌が雨を吸収し、谷のダムが水を蓄え、平地の水田や遊水地が一時的に水を受け止め、都市の地下貯留施設が大雨を取り込み、地下の帯水層が長期的に水を保持する——この多層的な構造が、流域全体を一つの巨大な貯水システムにします。

一カ所に依存しないことで、災害にも気候変動にも強い水の確保ができます。

8. ③「回す」——一度使った水をもう一度使う

水を使ったとき、それをどこかへ流して終わりにするのではなく、処理して再び利用するという発想です。

水→使用→処理→再利用→使用、という循環を作ることで、新たに取水する量を減らすことができます。第6回のシリーズで詳しく取り上げましたが、ここで重要なのは「100%循環が必ずしも最適ではない」という点です。循環には設備・エネルギー・保守・水質管理という継続的なコストが伴います。「どこまで循環させることが合理的か」は、その地域の水の希少性とコストのバランスで決まります。

水が非常に貴重で、捨てることが許されない環境では循環率を高めることが合理的です。水源が比較的豊富な地域では、過度な循環は非効率になる場合もあります。

9. ④「逃がさない」——雨を全部捨てない

「逃がさない」は「貯める」と混同されやすいですが、少し異なる概念として理解しておきたいと思います。

洪水対策では、増えすぎた水を安全に下流へ逃がすことも必要です。しかし、可能な水はその場で保持する——この発想が「逃がさない」です。森林が雨を吸収して地下へ浸透させる、湿地が水を保持する、水田が一時的に雨水を受け止める、都市の雨水浸透施設が降水を地下へ導く——これらは水を長期間蓄えるのではなく、海まで一気に流れ去る水の割合を減らすことを目指しています。

「逃がさない」とは「何があっても水を閉じ込める」ことではなく、「本来ならそのまま海へ流れていたはずの水の一部を、地域の水循環に戻す」ことです。治水と利水の両方に同時に貢献する行為として理解できます。

10. 「貯める」と「逃がさない」の違い

整理しておくと、「貯める」は長期間にわたって利用するための蓄水を指します。ダム・地下水・大規模な貯水施設がその代表です。「逃がさない」は洪水を抑えながら流出を遅らせることで、水を流域に長く留めておくことを指します。森林・土壌・湿地・遊水地・浸透施設がその手段です。どちらも水の時間を調整するという点では共通していますが、時間スケールと目的が異なります。数日から数週間の保持が「逃がさない」の時間軸であり、数ヶ月から数年が「貯める」の時間軸です。

11. 4つは独立していない

ここで重要な視点を加えます。作る・貯める・回す・逃がさない——この4つは別々の技術ではなく、一つの水循環の中で連続してつながっています。

豪雨が降ります。土壌や湿地が水を吸収して逃がさない。地下へ浸透した水は地下水として貯まります。その地下水を取水して浄水処理によって作ります。家庭で使用された水は処理されて再利用に回します。このシステム全体が一つの水循環です。

4つを個別に最適化するのではなく、流域全体のシステムとして設計することが、これからの水道インフラに求められる考え方です。

12. 「水道」という言葉の意味が変わる

従来の「水道」という言葉は、浄水場と配水管をイメージさせました。しかしこれからは、その意味が変わっていきます。

水源・貯水・浄水・配水・再利用・地下水・雨水・自然の保水機能まで含めた、「地域の水システム」全体を設計することが「水道」になっていきます。特定の施設を作ることではなく、地域の水循環をどう設計するかという問いが、これからの水道の本質になります。

13. 都市と地方では答えが違う

日本の状況を具体的に考えると、大都市と地方では求められる水道のあり方が大きく異なります。

大都市では、土地が高価で人口が多く、水需要が大きい。大規模集中型の施設・地下貯留・再生水の活用・高度な自動制御という方向が合理的です。一方、地方では土地が比較的確保しやすく、人口が少なく、技術者が不足しています。水源は地域に残っている場合も多い。小規模・分散型で、低エネルギーで、省人化された水道が合理的な選択肢になります。

「全国一律の水道」という発想から「地域に適した水道」という発想へ——この転換が、これからの水道政策に求められています。

14. 「土地」と「エネルギー」を交換する発想

このシリーズを通じて繰り返し登場した重要な考え方があります。「何を節約するか」という問いです。

浄水場を小さくするために、より多くの機械・電力・薬品を投入する。あるいは、土地を多少使って、機械・電力・薬品・人員を減らす。この二つの方向は、「何を希少資源と見るか」によって逆転します。土地が希少で高価な大都市では前者が合理的です。土地が比較的安価で、人材・電力・薬品コストが重い地方では後者が合理的になる場合があります。

技術の比較は、「この技術が優れているか」ではなく、「この場所の条件で、どのリソースを節約することが最も重要か」という問いから始めるべきです。

15. これからは「LCC」がますます重要になる

水道施設は数十年にわたって使い続けます。だから建設費が安いだけでは意味がありません。

重要なのは、建設費・電力費・薬品費・人件費・汚泥処理費・保守費・更新費・廃棄費まで含めたライフサイクルコスト(LCC)です。「1m³の水を30年間供給するとき、総合的にいくらかかるのか」という視点が、技術の本当の比較を可能にします。

建設費が安くてもランニングコストが高いシステム、初期費用が多少高くても長期的なコストが低いシステム——LCCで見ると逆転することがあります。特に人口減少によって水道収益が下がる地方では、長期的な運営コストの低さが死活問題になります。

16. 「人」が最大の制約になる地域が増える

日本では人口が減少し、水道の技術者も不足しています。一方、世界の人口増加地域では、水道施設を整備したくても専門技術者が育っていないという問題があります。

方向は正反対でも、両方が直面しているのは「少ない人員で水道を維持・運営する」という課題です。省人化の重要性は、人口が減る国と増える国の両方で高まっています。複雑な設備を常時操作できる技術者が確保できない環境では、技術者依存度の低いシステムを選ぶことが、長期的な水の安定供給につながります。

17. 気候変動時代には「複雑化」だけが答えではない

気候変動によって原水が不安定になるとき、「もっと高度な処理技術を追加する」という方向が一つの答えです。しかし、それだけが答えではありません。

そもそも原水を安定させる工夫をする、水源を分散させておく、上流で貯水する、地下水を確保する、必要な水だけを処理する——こうした「処理の前段階」への投資が、処理技術の高度化と同じか、それ以上の効果を生む場合があります。

「処理技術だけで問題を解決しようとしない」という発想も、これからの水道設計には必要です。

18. AI・センサーは「頭脳」になる

デジタル技術と水インフラの融合も、これからの水道の重要な方向です。気象予測・水位・河川流量・地下水位・原水水質・ダム水位・水需要——これらをリアルタイムで把握し、「いつ、どこに、どれだけ水を貯めるか」「今日どの水源を優先するか」を予測に基づいて判断する。水インフラにデータと制御の層が加わることで、限られた水をより賢く使えるようになります。

19. ただし「デジタル化=解決」でもない

しかし、デジタル化にも注意が必要です。センサーが増えればセンサーも壊れます。通信設備が必要になり、電力が必要になり、ソフトウェアの保守が必要になります。デジタル化によって、別の種類の複雑性と依存関係が生まれます。

「必要なところだけ高度化する」という原則は、デジタル技術に対しても同じです。全部をデジタル化するのではなく、デジタルが効果を発揮する場所・部分に絞って導入することが、持続可能な水道につながります。

20. 世界の水インフラを「水源×エネルギー」で考える

ここで、このシリーズを通じて積み上げてきた視点をマトリクスとして整理します。

水源の条件利用可能なエネルギー考えられる技術
比較的良好な淡水少なくて良い粗ろ過+緩速ろ過等
海水・塩水電力RO
湿った大気熱(廃熱・太陽熱等)吸着式AWG
使用済みの水処理設備・エネルギー循環・再生水
雨水重力・貯水空間雨水貯留・地下水涵養

「何の水があるか」だけでなく、「何のエネルギーがあるか」も技術選択を決めます。この二つの軸を組み合わせることで、その土地に最も合った水道技術が見えてきます。

21. 「余っているもの」を使う

このシリーズを通じて見えてきた、一つの美しい考え方があります。「その土地にすでにあるもの、余っているものを使う」という発想です。

余っている土地があるなら、それを使って緩速ろ過のろ過池を広げる。余っている雨が豊富に降るなら、それを貯水・地下水涵養に使う。余っている排熱があるなら、それを使ってAWGを動かす。余っている処理能力があるなら、再生水として活用する。

新しいエネルギーを外から持ってくるのではなく、その場所にすでにあるリソースを最大限に活かす——これが、持続可能な水道設計の根底にある思想だと思います。

22. 「水道は地域ごとに違っていい」

東京と、人口数千人の山間集落を、同じ思想・同じ設備で水道化する必要はありません。海沿いと山間部も条件が違います。雪国と沖縄も違います。人口密集地と過疎地も違います。

「全国一律の水道」から「地域に適した水道」へという転換は、水道を弱体化させることではありません。その地域の条件に合った設計をすることで、その地域の水道は長期的に強くなります。水質・安全性の基準は守りながら、それをどう実現するかの方法は地域ごとに違っていい——この柔軟さが、これからの水道政策に求められています。

23. このシリーズを通じて感じた可能性

このシリーズ全体を通じて考えてきた結果、私が改めて可能性を感じているのが、粗ろ過と緩速ろ過の組み合わせです。

低エネルギー・少ない機械設備・省人化・薬品依存を抑えられる可能性・粗ろ過による高濁度対応・地方での土地確保との親和性——これらの特徴が、人口減少・人手不足・エネルギー制約・気候変動による原水変動という21世紀の条件と、意外なほどよく合っています。

19世紀の原理に現代の設計技術を組み合わせて再設計する。古い技術を守るのではなく、古い原理を現代の問いに当てはめ直す。この姿勢が、これからの水道技術を考えるうえで大切だと感じています。

24. ただし「緩速ろ過ですべて解決」ではない

念のため明確にしておきます。粗ろ過+緩速ろ過も「水道技術の一選択肢」であり、万能ではありません。

海水ならROが必要です。特定の化学物質や難分解性物質が含まれる水源なら追加処理が必要です。液体の水源がなければAWGを検討します。水を捨てられない環境なら循環が必要です。粗ろ過+緩速ろ過が合理的なのは、比較的良好な淡水源があって、少ない資源で長期間安定した浄水を実現したい条件が揃う場合です。

25. 「守るために変える」

最後に、日本の水道に対して一つの視点を提案したいと思います。

人口減少地域では、昔と同じ水道をそのまま維持しようとすることが、かえって水道を失うことにつながる可能性があります。水道収益が下がり、技術者が確保できず、維持費だけが重くのしかかる——このまま変えなければ、やがて水道そのものが立ち行かなくなる。

だから「守るために変える」という発想が必要です。水道を守るために、水道のあり方を変える。過去の水道の姿を維持することではなく、次の世代にとって持続可能な水道を設計し直すことが、本当の意味での水道を守ることになる。

世界では「水需要が増えるから水道を作る」。日本では「人口が減るから水道を作り直す」。方向は逆でも、目指しているところは同じです。「次の世代に、安全で、持続可能で、その土地に合った水道を渡す」——ここに行き着きます。

26. 未来の水道はどんな姿なのか

未来の水道は、必ずしも巨大な浄水場から大量の水を送り続ける姿ではないかもしれません。

ある場所ではダムが水を貯め、ある場所では地下水が蓄えられ、ある場所では雨水を活用し、ある場所では使った水を何度も循環させ、ある場所では海水をROで淡水化し、ある場所では空気から水を取り出す——その土地にある水とエネルギーを使い、必要なところで必要な水を作る。それぞれの技術が、それぞれの場所で最もよく機能する形で組み合わさっている。

そのような姿が、これからの水道のあるべき姿の一つではないでしょうか。

27. 最後に

これからの水道に必要なのは、「もっと水を作ること」だけではありません。

水を作る。水を貯める。水を回す。そして、水を必要以上に海へ逃がさない——この四つを、その土地の条件に合わせて組み合わせること。

気候変動によって水の不安定さが増し、世界では水需要が増えていく。だからこそこれからの水道は、ただ巨大化するのではなく、賢く分散し、自然を利用し、必要なところだけ高度化し、できるだけ少ないエネルギーと人手で水を届ける仕組みへと変わっていくのではないでしょうか。

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