1. 【ニュースの衝撃】「生活用水」を自分たちで作る時代へ
2026年3月初旬、一つのニュースが私の目に飛び込んできました。
ヤマハ発動機が、静岡県磐田市において、小型浄水装置を活用した災害時給水の実証実験を開始したという報道です。その装置のベースとなっている処理方式が、「粗ろ過×緩速ろ過」でした。

このニュースを読んだとき、率直に言って、驚きと確信が同時に来ました。
驚きは、大手メーカーがこの方式を災害対応の文脈で実用化しようとしているという事実に対して。確信は、「やはりこの方向は正しかった」という想いに対して。その理由は、後ほど詳しく話します。
このニュースが示唆していることは、単に「新しい製品が開発された」ということではありません。もっと大きなパラダイムシフトを示しています。それは、「大型インフラに依存しきらない、自律型の水の備え」という発想が、社会的に現実のものとして受け入れられ始めたということです。
これまで日本の災害時給水といえば、自治体の給水車が来るのを待つ、あるいは備蓄ペットボトルを使い切るまで耐える、というイメージが支配的でした。インフラが復旧するまでの間を、ひたすら「待つ」という発想です。
しかし今、別の選択肢が現実になりつつあります。身近にある川や池、雨水を使って、その場で生活用水を作る。大型施設でない、もっとコンパクトな装置で、現場で、自分たちで。この「自律型」の発想が、大手メーカーの実証実験という形で動き出しました。
2. 水未来研究所が東京都に提案した「同じコンセプト」
ここで、少し個人的な話をさせてください。
実は弊社も昨年、東京都が実施する「コンセプト検証支援(第3期)」において、全く同じ設計思想に基づく災害対策の提案を行っていました。粗ろ過×緩速ろ過をベースにした、自律分散型の応急給水システムです。都市部において大規模水道インフラが被災した際、公園や学校、地域の水源を活用して生活用水を確保するという構想でした。
残念ながら、採択には至りませんでした。
しかし、今年ヤマハ発動機が同方式での実証実験を開始したというニュースは、昨年の弊社の提案が的外れではなかったことを示してくれています。むしろ、「極めて現実的で、社会的な必要性がある解決策」であったことの、外部からの裏付けだと受け取っています。
採択されなかったことは今でも悔しいですが、それよりもこの流れの中で何ができるかを考える。それが今の私たちのスタンスだと思います。大手企業が実証実験を進め、データと実績が積み上がることは、この分野全体の信頼性を高め、行政や社会への普及を後押しします。弊社の役割も、その流れの中でより明確になっていくと感じています。
3. なぜ今「粗ろ過×緩速ろ過」なのか?
災害時の給水に、この方式が適している理由を整理しておきます。
最大の理由は、シンプルさです。粗ろ過×緩速ろ過に必要な主要材料は、砂利と砂です。精密な機械設備も、大量の薬品も、安定した電力供給も必要としません。構造がシンプルであるほど、壊れにくく、被災環境でも機能し続けられる可能性が高い。
災害時に真っ先に失われるものを考えてみてください。電力、燃料、流通ネットワーク、専門技術者。これらへの依存度が低いシステムほど、被災後も稼働し続けられます。粗ろ過×緩速ろ過は、まさにその条件を満たしています。
次に、コストの圧倒的な安さです。一度設置までしてしまえば、この装置に必要なコストは装置に水を供給し続けるポンプの電気代と、見回りの管理人の人件費程度です。薬品や汚泥の処分費用などは必要ありません。月々数千円の電気代で平時も緊急時も淡々と動き続けます。
そして、維持管理の容易さです。平常時のメンテナンスが複雑であれば、緊急時に扱える人間も限られます。砂利と砂を定期的に管理するだけで維持できるシステムは、専門技術者がいない環境でも運用できます。
4. 首都直下地震・南海トラフを「現実」として見据える
首都直下地震が発生した場合、東京都内の水道施設への被害は広域かつ長期にわたることが想定されています。南海トラフ巨大地震においても、太平洋沿岸を中心とした広大なエリアで水道インフラが被災するシナリオが示されています。
こうした大規模災害では、行政の給水車や自衛隊による給水支援には物理的な限界があります。被災人口が膨大すぎて、全員のところに届くまでに日数がかかる。その空白の期間を、どう埋めるか。
この問いに対する一つの現実的な答えが、「分散型・自律型」の給水設備です。大型施設が一つ被災しても、地域ごとに小規模な生活用水の供給設備があれば、被害の影響を局所化できます。平常時は補助的な存在であっても、有事には命綱になる。バックアップとしての分散型インフラの価値は、まさに使わなければ現れない種類のものです。
磐田市でのヤマハ発動機の実証実験は、この方向性に対して「実際に動くか」を確かめる重要な取り組みです。その結果を注視しながら、弊社もこの「分散型・自律型」の給水網構築を、具体的な提案として推進し続けます。
5. 結び:3部作の幕開けとして
ヤマハ発動機の実証実験のニュースは、私たちにとって単なるニュース以上の意味を持ちます。大手企業が同じ方式で動き出したという事実は、私たちが進んできた方向が間違っていなかったことを、静かに教えてくれています。
今回の記事では、このニュースが持つ意味と、「粗ろ過×緩速ろ過」が災害時給水において有効である理由を整理しました。
第2回では、弊社が東京都に提案した内容の詳細を解説します。どのような設計思想で、どのような給水システムを構想したのか。採択には至らなかった提案の中身を、改めてオープンにしながら、この分野の議論を深めていきたいと思います。