【現地見学レポート】新見市で見た粗ろ過×緩速ろ過の実力

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今回は、2026年10月29日に岡山県新見市で開催された「第17回 粗ろ過・緩速ろ過セミナー」で見学した、松谷浄水場と新砥第1浄水場の2施設をご紹介します。

いずれも既存の緩速ろ過施設に上向流粗ろ過を追加した施設であり、砂かき作業の負担軽減に大きな成果を上げています。

そして今回、もうひとつ印象に残ったのは、粗ろ過の効果を実感した市の職員が、自ら考え、工夫しながら、市内のほかの浄水場にも技術を広げていたことでした。

目次

1.33の浄水場を管理する新見市

新見市は岡山県北西部に位置し、山間部を中心に広い市域を有しています。

2005年(平成17年)に1市4町が合併して誕生した市であり、現在も各地域に小規模な水道施設が点在しています。

新見市が管理する浄水場は33施設。そのうち26施設で緩速ろ過が採用されています。

緩速ろ過は、薬品や大型の機械設備に頼ることが少なく、運転費用を低く抑えられる水処理方式です。原水の水質が比較的安定している施設では、今でも十分に実用的な方式として利用されています。

しかし、大雨などによって原水の濁度が上昇すると、緩速ろ過池の砂層が目詰まりしやすくなり、砂かき作業が必要になります。

新見市でも、河川表流水を利用する浄水場では、この砂かき作業が大きな負担になっていました。

しかも、市町村合併によって管理体制は集約された一方、地形的な制約から浄水場を簡単に統合することはできません。

管理する施設は数多く残り、職員の数は8人と限られている。

砂かき作業の際には、ほかの部署から応援をお願いすることもあったそうです。

こうした状況を改善するために採用されたのが、既存の緩速ろ過池の前段に上向流粗ろ過を設置する方法でした。

2.松谷浄水場――砂かき回数が従来の1/12に

最初に紹介するのは、松谷浄水場です。

この浄水場では、河川の表流水を利用しており、改修前は大雨になると大量の濁質が流入して、緩速ろ過池が頻繁に目詰まりするという問題を抱えていました。

そこで、2014年度(平成26年度)に前処理設備を整備しました。
導入したのは、普通沈殿池と上向流粗ろ過池です。

河川から取水した水を、まず普通沈殿池で沈殿処理し、その後、上向流粗ろ過で濁質を取り除いてから、既存の緩速ろ過池に流すという構成です。

上向流粗ろ過では、砂利などを充填したろ層に水を下から上へ通すことで、原水中の濁質を捕捉します。

つまり、緩速ろ過池に入る前に、できるだけ濁りを取り除こうという考え方です。

この改良が、驚くほどの成果を上げました。

緩速ろ過池の砂かき回数が、従来の約1/12にまで減少したのです。

新見市の発表によれば、2015年度(平成27年度)以降、緩速ろ過池の維持清掃がほとんど不要になるほど改善したとのことでした。

現在は状況確認を兼ねて年1回程度の緩速ろ過池の清掃・砂かきを行っているそうです。

これは大変大きな成果です。たとえば、それまで毎月必要だった砂かき作業が、年に1回程度で済むようになると考えれば、その効果の大きさがお分かりいただけると思います。

砂かき作業には、水抜き、砂の削り取り、砂の搬出、ろ過池の復旧など、多くの人手と時間が必要です。

こうした作業が大幅に減れば、職員の負担軽減はもちろん、ほかの業務に時間を使うこともできます。

松谷浄水場の改良は、新見市にとって、粗ろ過の有効性を強く実感する成功事例となったのでしょう。

3.新砥第1浄水場――こちらも砂かき回数が半分以下に

松谷浄水場での大きな成果を受けて、次に改良が行われたのが新砥第1浄水場です。

こちらは浅井戸水と河川表流水を利用する浄水場です。

2017~2018年度(平成29~30年度)に上向流粗ろ過設備を整備し、あわせて色度対策として活性炭ろ過設備も導入しました。

この改良でも、大きな改善が得られ、緩速ろ過池の砂かき回数については、従来の約1/2~1/3にまで減少しました。

松谷浄水場の1/12という結果と比較すると、改善の程度は小さくなっていますが、それまで必要だった砂かき作業が、半分から3分の1に減ったのです。

通常の浄水場の維持管理改善として考えれば、これだけでも十分に大きな成果ではないでしょうか。

新見市では現在も運転条件を工夫しながら、さらに効果を高めるための検討が進められています。

こうした現場での継続的な取り組みも、非常に重要だと思います。

4.2つの浄水場の導入効果を比較

今回紹介した施設について、主な特徴を整理すると次のようになります。

項目松谷浄水場新砥第1浄水場
水源河川表流水浅井戸+河川表流水
粗ろ過導入年度2014年度2017~2018年度
主な追加設備普通沈殿池、上向流粗ろ過池上向流粗ろ過池、活性炭ろ過設備
砂かき頻度の低減従来の約1/12従来の約1/2~1/3
緩速ろ過池の砂かき状況確認目的で年1回程度年2~3回以上

※砂かき頻度の低減割合は、施設設計に携わった技術者によるセミナー紹介資料に基づきます。また、最下段は新見市の発表資料で紹介された緩速ろ過池の清掃状況を示しています。

2施設の結果を比較すると、改良効果に差があることが分かります。

ただし、どちらも改良によって緩速ろ過池の維持管理負担が軽減されていることは共通しています。

粗ろ過は、設置するだけですべてが解決する万能な設備ではありません。原水の性状や既存施設の構造、運転条件などに合わせて、その能力を引き出していくことが大切です。

その意味でも、今回の2施設はどちらも参考になる事例です。

5.市の職員が自ら粗ろ過設備を広げている

今回の新見市での見学で、私が特に印象に残ったことがあります。

それは、松谷浄水場と新砥第1浄水場で粗ろ過の効果を経験した後、市の職員が、自らほかの浄水場への導入を進めていることです。

しかも、単に設計会社や施工会社に改良を発注しているという話ではありません。

セミナー中のお話で伺ったところでは、担当職員ご自身が改良方法を企画・構想し、図面を描き、必要な製作物を地元の鉄工所に依頼するなどして、既存施設への粗ろ過機能の追加を進めているそうです。

これは、なかなかできることではないと思います。

通常、水道施設の改良となれば、設計業務を委託し、工事を発注するという流れを想像する方が多いでしょう。

もちろん、それが一般的な進め方ですし、安全性や品質を確保するために必要な手続きもあります。

しかし、新見市では、既存の施設をよく知る職員が、自ら知恵を絞って改良に取り組んでいます。

たとえば、高瀬第3浄水場では、既存の普通沈殿池の一部に上向流粗ろ過の機能を追加する改良が行われています。

大きな設備を新設するのではなく、今ある施設に必要な機能を少しだけ加える。

この考え方は、小規模水道の設備改良にとって、とても重要です。

私は、こうした取り組みが生まれた背景には、担当職員の高い技術力や熱意に加えて、粗ろ過という技術そのものの魅力もあるのではないかと感じました。

粗ろ過は、原理が比較的わかりやすく、設備構成もシンプルです。

そのため、現場の条件に応じて、さまざまな工夫を加える余地があります。

そして、実際に導入して大きな効果が得られれば、「ほかの浄水場でも使えるのではないか」「既存の設備を少し改造すれば改善できるのではないか」と考えるようになるのも自然なことだと思います。

新見市では、まさにそのような形で、粗ろ過の活用が広がっているように感じました。

今回のセミナーでは、浄水処理技術としての成果だけでなく、現場の職員が主体となって施設を改善していく姿を見られたことも、大きな収穫でした。

6.人口減少時代の水道を維持するために

新見市が抱えている課題は、決して新見市だけのものではありません。

人口が減り、水道料金収入が減少する一方で、山間部などでは、浄水場や配水施設を簡単に統合することができません。

さらに、水道施設の維持管理を担う職員も減少し、経験豊富な技術者の確保や技術継承も難しくなっています。

これからの地域水道では、施設を新しくするだけでなく、今ある施設を、いかに少ない人手と費用で維持していくかという視点が、ますます重要になるでしょう。

今回の松谷浄水場と新砥第1浄水場の事例は、そのひとつの答えを示していると思います。

既存の緩速ろ過池をそのまま活用し、前段に比較的シンプルな粗ろ過設備を追加することで、砂かき作業の負担を大幅に減らすことができました。

そして、技術に魅力を感じた現場の職員が、自ら改良方法を考え、ほかの浄水場にも応用しています。

もちろん、すべての浄水場で松谷浄水場と同じ結果が得られるわけではありません。原水水質や施設条件に応じた検討は欠かせません。

それでも、緩速ろ過を長く使い続けるための有力な選択肢として、上向流粗ろ過には大きな可能性があります。

株式会社水未来研究所では、今後もこうした実際の浄水場の事例を紹介しながら、粗ろ過と緩速ろ過の可能性をお伝えしていきたいと思います。

今回、新見市で見学した施設は、粗ろ過が単なる前処理技術ではなく、地域の水道を少ない人員でも維持し続けるための技術であることを、改めて実感させてくれるものでした。

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