【下水老朽化問題】地下水水質から下水管の異常を見つけられないか-既存の地下水質監視に、新たな視点を加える提案-【最終回(第4回)】

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1.地下で起きていることを、どうやって知るのか

前回は、老朽化した小口径下水管から少量の汚水が漏出した場合、地表に異常が現れないまま周辺地盤や地下水へ影響する可能性について考えました。では、そのような現象が起きているかどうか、どうやって確かめればよいのでしょうか。

すべての下水道管を掘り返すわけにはいきません。管内カメラによる調査も、全国の膨大な管路を対象とすれば、相当な費用と人手が必要になります。

そこで、視点を少し変えます。下水道管の内側から調べるだけでなく、周辺の地下水の変化から異常を見つけられないだろうか、という発想です。

2.実は、日本ではすでに全国的な地下水質調査が行われている

日本では、水質汚濁防止法に基づき、都道府県などが地下水質の常時監視を行っています。調査には、地域全体の状況を把握する「概況調査」、汚染が確認された場合の「汚染井戸周辺地区調査」、その後の「継続監視調査」があります。既存の井戸などを利用しながら、地下水環境を継続的に確認する、大切な仕組みです。

日本にはすでに、地下水の変化を見守るための仕組みがあります。それを新たな目的にも活用できないか、というのが今回の提案です。

3.現在の地下水質検査では、何を測っているのか

地下水環境基準では、重金属類、揮発性有機化合物、硝酸性窒素・亜硝酸性窒素など、有害物質を中心とした項目が定められています。これらは、工場・事業場由来の汚染などを把握するうえで重要な項目です。

しかし、生活排水を含む下水道管からの漏出を発見するという目的で考えると、少し違った項目が欲しくなります。例えば、下水中に含まれる有機物やアンモニア性窒素、微生物などです。現在の地下水環境基準項目だけでは、これらの変化を直接把握しにくい面があります。

ここでお伝えしたいのは、現在の制度が不十分だということではありません。制度が想定している目的と、今回新たに考えている目的が異なるのです。

4.下水由来の変化を捉えるため、5項目を追加してはどうか

ここが今回の記事の核心です。現在の地下水環境基準は28項目で構成され、主にVOC、重金属等、硝酸性窒素・亜硝酸性窒素を対象としています。2024年度の全国概況調査は2,721地点で行われました。

これに対して、下水由来の影響を調べるため、次の項目を提案します。

追加候補測定する目的
EC(電気伝導率)地下水中のイオン量の変化を簡便に把握する
TOC(全有機炭素)有機物の増減を把握する
NH4-N(アンモニア性窒素)還元的な地下環境における生活排水由来の窒素の手掛かり
一般細菌微生物学的な水質変化を把握する
大腸菌糞便汚染の可能性を調べる

ただし、これらは下水道管からの漏出を直接証明する指標ではありません。例えばTOCは自然由来の有機物でも増加し、NH4-Nは農業や地質などの影響も受けます。一般細菌も下水に固有ではありません。したがって、単独の数値ではなく、複数項目の組み合わせと経年変化を評価することが大切です。なお、一般細菌と大腸菌は、厳密には別の指標です。また、測定結果の解釈を深めるため、DO、ORP、塩化物イオンなどを詳細調査の追加候補として加えてもよいでしょう。

現在の制度は、環境基準28項目以外の測定を禁止しているわけではありません。環境省の指針でも、地下水の特性把握に必要な項目は適宜調査するとされています。そのため私は、法律を改正して新たな5項目を義務化すべきだと主張したいのではありません。既存の制度を活用し、老朽下水道管が多い地域で、5項目の追加測定を始めてはどうか、という提案です。

5.全国の井戸を、新たな監視ネットワークとして活用する

ここでは、既存井戸の活用を提案します。全国には現在使用されている井戸のほか、休止・廃止された井戸もあります。それらのうち、井戸の構造や衛生状態が確認でき、適切な採水が可能なものを、監視地点として活用できないでしょうか。

例えば、老朽化したコンクリート系下水管が多い市街地で、浅い地下水を対象に半年に1回、あるいは四半期に1回程度の調査を行います。同じ井戸を継続して測定すれば、水質の変化を把握できます。環境省の既存指針でも、地下水質の季節変動が大きい場合には年2~4回の調査が望ましいとされています。

新たな観測井を大量に設置するのではなく、既存の社会資産をできるだけ活用するという考え方です。ただし、休止井戸は管内の滞留水や井戸自体の汚染が結果に影響する可能性があるため、使える井戸を選別する必要があります。また、全国の既存井戸を使えば、すべての小口径下水管の漏出を検出できるわけではありません。特に深井戸では、浅い下水管周辺の変化が現れないこともあります。まずは浅層地下水と下水管の位置関係を把握したモデル地域で、検証するのがよいでしょう。

6.水質の異常が見つかったら、どうするのか

水質の変化を発見することが目的ではありません。重要なのは、その情報を適切な調査と対策につなげることです。

  1. 水質変化の検出:EC、TOC、NH4-N、細菌等の変化を確認する
  2. 再検査・原因の絞り込み:採水条件や井戸自体の問題を確認し、農業、浄化槽、地質など他の要因も調べる
  3. 地下水流向と下水管路の照合:地下水の流れ、下水管の位置、管齢、管材、過去の点検記録を確認する
  4. 必要に応じた管内調査:カメラ調査、継手・破損状況の確認、必要なら漏出確認試験を実施する
  5. 原因が確認された場合の対策:補修・更生・布設替えなどを検討し、地下水質も継続確認する

このような段階的な調査なら、すべての管路を一律に詳細調査するよりも、対象を絞り込める可能性があります。一方、地下水の異常が検出されなくても、下水管が健全である証明にはなりません。地下水の流れや井戸の位置によっては、漏出を捉えられないためです。

7.将来の管路更新では、耐食性も重視したい

最後の技術的な提言として、管材の選択を取り上げます。小口径のコンクリート系下水管については、更新時に塩ビ管など耐食性の高い管材への置き換えを積極的に検討してもよいのではないでしょうか。

ただし、塩ビ管も劣化や破損がないわけではありません。継手の水密性、埋設条件、外力、施工品質なども重要です。単に管材を変えるだけでなく、漏出しにくく、長期的に維持管理しやすい管路を選ぶことが重要だと考えます。

8.おわりに――地下水を見守ることが、下水道を守ることにもつながる

下水道管の老朽化対策は、道路陥没を防ぐためだけのものではありません。地下水という、もう一つの大切な水資源を守ることにもつながる可能性があります。

日本にはすでに地下水質を監視する仕組みがあります。その仕組みに少し新しい視点を加えることで、これまで気付きにくかった下水道管の異常を早期に発見できるかもしれません。

大切なのは、「地下水が汚染されているから調べよう」ではなく、「地下水への影響があるかどうかを、既存の仕組みを使って確かめよう」という姿勢です。まずは一部の地域で試してみる。その結果を確かめながら、よりよい監視方法を考えていくことを提案したいと思います。

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