1. いま注目されている「水道管の老朽化」
水道管の老朽化が、ニュースで取り上げられる機会が増えています。
水道では法定耐用年数40年を超えた管路が増加しており、更新が追いついていないことが問題視されています。国土交通省や厚生労働省の資料でも、全国の水道管路のうち老朽化した管の割合は年々高まっており、更新費用の増大と人口減少による収入の縮小が重なる中で、多くの事業体が苦しい状況に置かれています。
一方、下水道についても老朽化への関心は高まっています。ただし水道とは少し異なるタイミングで語られることが多く、「今後10年ほどで、布設から50年を超える下水道管が急増する」という説明をよく目にします。
数字で見ると、下水道は水道よりも整備が後からであり、高度成長期以降に集中して布設された管路が順次50年を迎えていくという構造があります。これが「10年後に下水道の老朽化問題が本格化する」という表現につながっています。
しかしここで一つ、疑問が浮かびます。「40年」「50年」という数字は、本当に管の劣化状態を正確に表しているのでしょうか。
2. 「布設した年+耐用年数」で老朽化を考えてよいのか
現在使われている老朽化率は、基本的に「いつ布設されたか」を起点にした経過年数を基準にしています。水道は40年、下水道は50年という法定耐用年数を超えたかどうかで「老朽化管」と呼ばれます。
しかし管路は、地中に置かれているだけの静物ではありません。内部には毎日水が流れ、外側は土壌に接し、地震や地盤変動の影響を受け続けています。そして何より、水道管と下水道管では、流れているものも、管材も、内部環境もまったく異なります。
材質が違います。内部を流れる液体の性質が違います。流れ方も違います。管内の温度・湿度・化学的な環境も違います。
それなのに「水道=40年、下水道=50年」という経過年数だけを並べて、どちらが先に老朽化し、どちらが後から問題になるかのように語ることには、素直に納得しにくいものを感じます。経過年数はあくまで「管の年齢」であり、「管の劣化度」そのものではないからです。
3. 水道管は、どのような環境に置かれているのか
現在の水道管の代表的な材質として、DIP(ダクタイル鋳鉄管)とPE管(ポリエチレン管)があります。
内部を流れるのは浄水処理された水です。消毒のために塩素が含まれていますが、通常の水道水がDIPを急速かつ一様に腐食させ続けるような環境ではありません。PE管であれば、金属腐食そのものが起こりません。
もちろんDIPには外面腐食のリスクがあります。土壌の腐食性、迷走電流による電食、施工条件などによって、局所的に腐食が進む可能性があります。そのため腐食性の高い土壌ではポリエチレンスリーブなどの防食対策が施されています。地震や地盤変動による破損リスクもあり、こちらには耐震継手など技術開発も進んできました。
つまり水道管の劣化は、「年齢を重ねれば一様に進む」というよりも、「置かれた環境や経験した外力によって状態が大きく変わる」と考えた方が実態に近そうです。同じ年齢の管でも、健全なものとそうでないものが混在するのが現実です。
4. 下水道管は、まったく違う環境に置かれている
一方、下水道管、とくにコンクリート系の管路は事情がかなり異なります。
内部を流れるのは生活排水などを含む下水です。有機物が豊富に含まれており、管内が嫌気状態になると硫化水素(H₂S)が発生することがあります。
この硫化水素が気相へ放出され、管内の湿ったコンクリート表面に付着した硫黄酸化細菌の作用を受けると、硫酸が生成されます。硫酸がコンクリートに触れると、腐食反応が起きてコンクリートそのものが溶け出すように劣化が進みます。これを「硫化水素による腐食」あるいは「硫酸腐食」と呼びます。
つまり下水道管には、「内部に下水が流れていること自体が、条件によっては管材を劣化させる要因になる」という特徴があります。水道管の内部環境とは、根本的に性質が異なります。
さらに下水道の自然流下管では、水位が時間帯や降雨によって変動します。満管状態で常に加圧されている水道管とは、内部の流況も環境も大きく異なります。
ざっくりと整理すると、次のような対比になります。
水道管の内部は、浄水が満管・加圧状態で流れ、比較的安定した環境が続きます。
下水道管の内部は、有機物を含む下水が流れ、嫌気化すると硫化水素が発生し、気相で硫酸が生成されてコンクリートを腐食させるという一連のプロセスが起こり得ます。
5. もし「実際の劣化曲線」を描いたらどうなるのか
現在一般的に使われる考え方では、水道が先に40年を超えて老朽化し、10年ほど遅れて下水道が50年を超えて追いかける、という説明になります。これはあくまで「管の年齢」を基準にした見方です。
しかし、実際の劣化速度まで考えたらどうなるでしょうか。
水道管が比較的緩やかに状態を変えている一方で、腐食環境に置かれた下水道管が、場合によってはより速い速度で劣化が進んでいるとしたら——「実際の劣化度」という観点では、下水道管の方が水道管を上回っている区間がすでに存在するかもしれません。
もちろん、すべての下水道管がそうだという意味ではありません。管材・流況・硫化水素濃度・水温・勾配・施工条件などによって劣化速度は大きく変わります。コンクリート管であっても、条件が整っていれば長期間健全な状態を保つこともあります。
しかしだからこそ、経過年数という一つの数字だけでは、実際の管路の劣化度を表すことができないというのが、この記事でお伝えしたいことです。「40年で水道が先、50年で下水道が後から追いかける」という年齢ベースの整理は、計画上の区切りとしては意味がありますが、それが実際の劣化の進行順序を意味するわけではありません。
6. 「下水道の老朽化は10年後」という言葉を、少し違った角度から見てみる
冒頭に戻ります。「今後10年で50年を超える下水道管が急増する」——この表現は間違いではありません。実際に布設年数の分布を見れば、そのような事実があります。
ただし正確に言えば、「10年後に劣化が始まる」のではなく、「10年後に布設から50年という年齢を超える管路が急増する」という話です。実際の管路では、その前からさまざまな劣化が進んでいる可能性があります。逆に50年を超えても十分に健全な管路もあるでしょう。
管齢と劣化度は、必ずしも一致しません。
同じ「老朽化管」と呼ばれていても、実際にはほとんど劣化していない管もあれば、年齢の割に劣化が進んでいる管もあります。この違いは経過年数だけを見ていては分かりません。実際の状態を知るためには、現地での調査が必要になります。
7. では、実際の下水道管はどうなっているのか
幸い、この問題に対して何も対策が行われていないわけではありません。
今年訪れた下水道展でも、管内カメラ・ドローンを使った管路調査技術や、非開削による管路更生技術の展示が以前よりも明らかに増えていました。下水道業界でも老朽化への危機感は高まっており、新しい調査・補修・更生の技術が次々に登場しています。
しかしそこで、次の疑問が出てきます。
全国に張り巡らされた膨大な量の下水道管を、すべて同じように調査し、補修していくことはできるのでしょうか。特に気になるのが、住宅地などに大量に存在する小口径の下水道管です。
次回は、「大口径管は守れても、小口径管まで守れるのか」というテーマで考えてみたいと思います。
