膜ろ過システムの薬液洗浄にかかるコストを劇的に下げる「薬液浸漬洗浄」の極意。


1. 膜ろ過(MF/UF中空糸膜)における維持管理の現状

浄水処理における膜ろ過の導入が、じわじわと広がっています。その理由は明快で、「管理が比較的シンプルで、処理水質が安定している」という二点に尽きます。

水道分野で主流となっているのは、MF膜(精密ろ過膜)またはUF膜(限外ろ過膜)と呼ばれる中空糸膜です。ろ過方式はどちらもクロスフロー方式が主流で、30分に1回程度の逆流洗浄(逆洗)が必要になりますが、この操作はほぼ全自動で制御できます。浄水槽や配水池の水位が規定量を下回れば自動で運転を開始し、逆洗も自動でこなす。凝集剤が不要なタイプを選べば、日常管理はさらにシンプルになります。人手をほとんどかけずに安定した水質を確保できる点が、膜ろ過が選ばれる最大の理由です。

ただし、どれだけ自動化が進んでも、避けて通れない作業があります。それが薬液洗浄です。

日常の逆洗(物理洗浄)で取り除けるのは、膜の表面に付着した汚れが中心です。運転を続けるうちに、逆洗では回復しない「不可逆的な目詰まり(Fouling)」が蓄積していきます。有機物や無機スケールが膜細孔の奥深くに入り込んだ状態で、ここまでくると薬液による化学的な洗浄が必要になります。この薬液洗浄の「やり方」と「コスト」に、実は大きな改善の余地があります。


2. 従来の薬品洗浄(CIP)が抱える課題

薬液洗浄の方法は、現場によってさまざまです。ボタン一つで薬液洗浄まで完結する全自動洗浄ユニットを導入しているケース、膜モジュールを取り出して専用の洗浄装置に組み込むケース。いずれも確かに洗浄はできますが、共通する課題があります。

一つはコストです。自動洗浄ユニットには専用ポンプ・タンク・配管が必要であり、導入時のイニシャルコストはもちろん、その後のメンテナンスや薬液消費量といったランニングコストも積み上がります。洗浄のたびに薬液を循環させる方式では、どうしても必要量以上の薬液を消費しがちです。

もう一つは洗浄ムラの問題です。メーカーマニュアルに記載されている標準的なCIPは、短時間の循環洗浄を前提としていることが多い。しかし、短時間の通液では薬液が膜細孔の奥まで十分に浸透しきれず、洗浄効果にムラが生じる可能性があります。

では、専用装置なしで、コストを抑えながら、むしろ高い洗浄効果を得る方法はないのか。あります。それが薬液浸漬洗浄です。


3. 【実践】専用装置を使わない「浸漬洗浄」のステップ

浸漬洗浄の核心は、「薬液を流し続ける」のではなく、「薬液をじっくり漬け込む」という発想の転換にあります。低濃度の薬液であっても、十分な時間をかけて浸漬することで、膜細孔の奥深くまで薬品を浸透させることができます。具体的なステップは以下の通りです。

【準備】膜モジュールの2セット(A系・B系)ローテーション運用

浸漬洗浄には1〜2週間の時間がかかります。その間も浄水処理を止めるわけにはいきません。そこで膜モジュールをA系・B系の2セット用意し、片方が洗浄中はもう片方でろ過運転を継続するローテーション運用が基本となります。膜Aの洗浄が終わればAで運転しながらBを洗浄する、というサイクルを繰り返します。

【工程1】アルカリ浸漬――有機物の分解

まず通常の逆洗を実施した後、膜モジュール内の水を十分に抜き切ります。次に、低濃度のアルカリ薬液を充填し、そのまま約1週間浸漬します。アルカリは有機物(バイオフィルムや腐植物質など)を分解・剥離するのに効果的です。短時間の循環洗浄では薬液が行き届かなかった細孔の奥まで、時間をかけてじっくり浸透させることがポイントです。

【工程2】酸浸漬――無機スケールの除去

1週間後、アルカリ薬液を廃棄し、内部を水でよくすすぎます。次に酸性薬液を充填して、再び約1週間浸漬します。酸は無機スケール(鉄・マンガン・炭酸カルシウムなど)を溶解・除去するのに適しています。アルカリで有機物を落とし、酸で無機物を落とす。この2段階が、膜の汚れを両面から攻略する浸漬洗浄の核心です。

【仕上げ】すすぎと保管

酸浸漬が終わったら、内部を十分にすすぎます。その後は各膜のマニュアルに記載された保管方法(保管液への浸漬など)で適切に保存します。次の運転投入まで時間があく場合は、保管状態の管理を怠らないことが膜の品質維持につながります。


4. 浸漬洗浄の圧倒的なメリット:コストと洗浄効果の最大化

浸漬洗浄の優位性は、コストと洗浄効果の両面に現れます。

コスト面では、専用の循環ポンプ・タンク・複雑な配管系が一切不要です。必要なのは薬液と、漬け込む時間だけ。薬液も低濃度で使用することと膜に流し込むだけの量でよいので、消費量を最低限に抑えられます。自動洗浄ユニットの導入・維持にかかるコストと比較すれば、その差は小規模水道ほど大きく効いてきます。

洗浄効果面では、短時間洗浄では届かない膜細孔の奥深くまで薬液が浸透するため、不可逆的なFoulingを根本から解消できます。さらに、無理な圧力や高濃度の薬液を使用しないため、膜素材へのダメージを最小限に抑えながら「リフレッシュ」できる点も見逃せません。膜の寿命を延ばすことは、長期的な更新コストの削減にも直結します。


5. 現場に合わせたカスタマイズ:1サイクルか2サイクルか

基本は「アルカリ→酸」の1サイクルです。過去の現場では、このサイクルだけで十分な洗浄効果が得られています。

ただし、原水の水質特性によっては2サイクルが有効な場合があります。たとえば無機スケールが蓄積しやすいような水の場合は、酸浸漬の効果をより引き出すために「アルカリ→酸→アルカリ→酸」と2回繰り返すことで、より徹底した洗浄が可能になります。

この辺は汚れの蓄積具合・原水の水質・膜の種類を見ながら、また1サイクルで運転にかけた後の回復具合を見ながらサイクル数を判断してください。


6. 結び:人手不足時代にこそ「シンプルで低負荷」な技術を

「新しい問題には、新しい装置で対応する」。その発想は一見合理的に見えますが、装置が増えるほど維持管理の負荷は増え、故障リスクも積み上がります。人手が不足し、技術の継承も難しくなっていくこれからの時代に、本当に必要なのは複雑さを増すことではありません。

浸漬洗浄は、専用装置も複雑な制御システムも必要としません。必要なのは、正しい知識と、時間を味方につける発想だけです。コストを下げながら、洗浄効果を高め、膜の寿命を延ばす。この考え方は、小規模水道が限られたリソースで生き残るためのアセットマネジメントそのものです。

構造をシンプルに保ち、知恵でコストを下げる。水道維持管理の現場で、その積み重ねが確実な差になっていきます。

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