はじめに――最近、井戸水の相談が続いている
最近、個人の方からたまたま井戸水についての相談を受ける機会が続いています。共通しているのは、地下水を利用していることと、鉄とマンガンが多いということです。
片方の相談は、メーカーの除鉄用ろ過器を設置すればよいのだろうか、というものでした。もう一つは、緩速ろ過が良いと聞いたのですが、というものでした。どちらも、たしかに鉄もマンガンも除去することはできます。しかし、そこで私は少し考えてしまいます。「本当に、それが一番いい解決方法なのだろうか」と。
ここから本題に入りたいと思います。
鉄・マンガンは「除去できるか」だけなら、さほど難しい問題ではない
まず申し上げておきたいのは、「鉄・マンガン=処理不能」ではないし、そんなに難しい処理でもないということです。マンガン砂などを利用した除鉄・除マンガン、酸化とろ過の組み合わせ、適切な前処理、粗ろ過と緩速ろ過の組み合わせなど、さまざまな方法があります。つまり、技術的には除去できます。
そのうえで申し上げたいのは、水処理は「除去できるか」だけで評価してはいけない、ということです。
問題は「その装置を家庭単位で20年間維持できますか」
ここが、今回の記事の中心になります。家庭用装置を設置すると、ろ材の交換、逆洗、排泥作業、鉄を含んだ汚泥の処理、ポンプ、電気、消耗品、故障への対応、水質検査など、さまざまな維持管理が発生します。
そして、鉄・マンガンを取り除けば、取り除いた鉄・マンガンはどこかに溜まります。つまり、浄水器は「汚れを消している」のではなく、「水から汚れを分離している」だけなのです。これは、非常に重要な視点だと私は考えています。「浄水器を付ければ終わり」ではなく、「分離したものを誰が、どう処理するのか」という問題が残るのです。
一軒で処理するから、大変になる
ここで、少し発想を変えてみたいと思います。例えば5軒の家があったとして、5軒それぞれが井戸、ポンプ、除鉄装置、ろ過装置、消毒装置、配管を持つとします。これは一見すると、各家庭が自立しているように見えます。しかし実際には、同じ問題を5回解決しているにすぎません。
一方で、共同井戸から共同浄水設備を経て5軒へ配水する、という形はどうでしょうか。
「小さな浄水場」という発想
ここで、今回の記事のタイトルにつながる考え方をご紹介したいと思います。数軒で一つの水処理施設を持つ、という発想です。これは、大規模な水道事業をそのまま小さくするというより、「最低限必要な水処理を共同化する」という考え方に近いものです。
例えば、共同井戸から除鉄・除マンガン、ろ過、消毒を経て各家庭へ配水するとします。そうすると、水質検査をまとめられる、装置を大型化できる、維持管理を集約できる、排泥や逆洗を一か所で行える、消耗品を共同購入できる、故障対応を集約し、分担制にできる、というメリットが出てきます。これは、いわば「水処理のスケールメリット」と呼べるものだと思います。
さらに考えたい――そもそも、その水源を使い続ける必要があるのか
ここで、もう一段階、視点を上げてみたいと思います。鉄・マンガンが多い井戸であれば、「どうやって鉄・マンガンを取るか」だけでなく、「鉄・マンガンの少ない水源はないのか」と考えてみることもできます。
近隣の別の井戸、より深い帯水層、別の帯水層、共同井戸、あるいは近くの河川などの地表水など、選択肢は一つではありません。ここでお伝えしたいのは、「水処理する前に、水源を選ぶ」という考え方です。
井戸を掘り直すという選択肢
これは、なかなか興味深いテーマだと思います。例えば、現在の井戸は鉄・マンガンが多いが、近くの別の井戸ではほとんど出ていない、というケースがあります。ならば、同じような水質の帯水層を狙えないだろうか、という発想が生まれます。
ただし、地下水は目に見えません。隣の土地だからといって同じ水質とは限りませんし、深さが違えば水質が変わることもあります。帯水層の広がりや地下水の流動も関係してきます。したがって、「井戸を掘れば解決する」というほど単純な話でもありません。ここは、地質調査や地下水調査の重要性につながっていく部分です。
「地下水だから良い」という思い込みも捨ててみる
ここから、少し発想を広げてみたいと思います。地下水だから安全、地表水だから危険、と決めつけていないでしょうか。そうではなく、「その地域で、どの水源が一番安全かつ維持管理しやすいか」と考えてみることが大切だと私は思います。ここで、近くにせせらぎがあるようなケースを考えてみたいと思います。
せせらぎを「汚い水」と決めつけない
地表水には、微生物、濁度、有機物、大雨による水質変動など、当然リスクがあります。しかし、それらは浄水処理によって管理する対象にほかなりません。
例えば、取水から粗ろ過、緩速ろ過、消毒を経て配水する、というシステムを考えることができます。ここで、私たちがこれまで取り組んできた粗ろ過と緩速ろ過の組み合わせが、主役として登場することになります。「地表水だからダメ」ではなく、「地表水をどう処理するか」という発想です。
家庭用浄水器ではなく、「小さな水道」をつくる
ここで、今回の記事の核心をまとめてみたいと思います。選択肢を並べてみます。
一つ目は、各家庭で処理する方法です。井戸から家庭用の除鉄・除マンガン、家庭用ろ過、消毒という流れになります。二つ目は、共同で地下水を処理する方法です。共同井戸から除鉄・除マンガン、ろ過、消毒を経て各家庭へ配水します。三つ目は、水質のよい帯水層を共同で利用する方法です。良質な地下水を必要最小限の処理と消毒を経て各家庭へ届けます。四つ目は、地表水を共同処理する方法です。せせらぎから粗ろ過、緩速ろ過、消毒を経て各家庭へ配水します。
どれが一番優れているかは、地域の水源、水質、地形、人口、維持管理能力によって変わってきます。
「家庭の水問題」ではなく「地域の水問題」として考える
ここが、結論への橋渡しになります。一軒だけを見ると、「家庭用浄水装置を設置すればいい」という発想になりがちです。しかし、5軒、10軒、20軒という単位で見てみると、「共同で水処理したほうが合理的ではないか」という発想が生まれてきます。さらに、「そもそも水源を変えたほうがいいのではないか」という発想も生まれてきます。
つまり、家庭から集落へ、集落から地域へと視野を広げることで、解決策そのものが変わってくるのです。
最後に――「浄水装置を選ぶ」のではなく「水システムを選ぶ」
私たちは、水の問題が起きると、すぐに「どんな浄水器を買えばいいか」と考えてしまいがちです。しかし、本当に考えるべきなのは、浄水器のスペックだけではありません。どこから水を取るのか。何を除去するのか。誰が管理するのか。汚泥や排水をどうするのか。10年後、20年後も維持できるのか。そこまで含めて、初めて「水処理」と呼べるのだと私は思います。
家庭に一台の浄水器を置く。それが最善とは限りません。ときには、数軒で一つの小さな浄水場を持つ。あるいは、水源そのものを変える。そんな選択肢もあっていいのではないでしょうか。
