1. 固定料金制とはどのような制度か
一般的な水道料金は、基本料金に加え、使用した水量に応じた従量料金を上乗せする体系が標準です。しかし全国の小規模水道、とりわけ集落営水道や簡易水道の一部では、使用水量にかかわらず毎月一定額を徴収する「固定料金制(定額制)」が採用されています。
その金額は地域によって幅がありますが、おおむね月額500円から2,000円程度が多く、管理の手軽さと住民への分かりやすさから、人手の限られた小規模組織では長年にわたって維持されてきた経緯があります。
しかし今、この固定料金制こそが、小規模水道の持続可能性を静かに、しかし確実に蝕んでいます。
2. 固定料金制が抱える「見えないリスク」
① 資源の無駄遣いとモラルハザード
料金が水量と連動していない以上、「たくさん使っても、少なく使っても、支払いは同じ」という状況が生まれます。農作業後の長時間の流しっぱなし、庭への散水、冬季の凍結防止のための出しっぱなし——これらは意識的な悪意ではなく、「どうせ定額だから」という心理が習慣として定着した結果です。
節水のインセンティブが制度的にゼロである以上、個人の意識に任せるだけでは水資源の保全も維持管理費の抑制も困難です。
② 漏水の早期発見が不可能な構造
従量制であれば、家庭の水道メーターが急増した際に「漏水かもしれない」という気づきが生まれます。固定料金制では、そのシグナルが存在しません。
浄水場から送り出した総水量と、実際に各家庭で消費された量の差、すなわち「無収水」がどれほど発生しているかを把握する手段がなければ、配管の亀裂も継手の劣化も「日常の風景」に埋没してしまいます。漏水は少量であれば発見に何年もかかることがあり、その間じわじわと水資源と運営費が失われ続けます。
③ データ欠如による「過大設計」の罠
最も見落とされがちなリスクがここにあります。施設の更新時期が訪れた際、過去の実績データとして使えるのは「浄水場からの総送水量」のみです。各家庭の実消費量が不明なため、設計者は安全率を高く見積もらざるを得ず、結果として「念のため大きめ」の浄水装置や配管口径が選択されます。
この過大設計は、建設費の膨張に直結します。本来であれば小型で済む設備に対して、数百万円から数千万円単位の過剰投資が行われる事例は珍しくありません。限られた地域の予算が、不必要なスペックの施設に費やされているとしたら、それは誰にとっても不利益です。
3. 従量料金制への切り替えを阻む「3つの壁」とその突破口
移行の必要性を理解していても、実際に踏み出せない組織には共通する障壁があります。
① コストの壁:メーター設置と検針の負担
各戸に水道メーターを設置するには初期費用がかかります。また、月次検針を専門業者に委託すると人件費が継続的に発生します。
ただし、この壁は乗り越えられない高さではありません。まず検針を住民自身で行う「自主検針」の仕組みを導入することで、人件費をほぼゼロにできます。スマートフォンで数字を撮影して送信するだけの運用も可能です。また、従量料金の単価を低く設定することで、平均的な使用量の世帯では従来の固定料金と大差ない水準に収めることができます。
② 検針・事務・会計の壁:集計と請求の複雑化
固定料金なら一律請求で済んでいたものが、従量制では各戸の使用量に基づく計算と請求が必要になります。小規模な組合事務局にとって、これは確かな負担増です。
現実的な解決策として、検針を毎月ではなく2〜3ヶ月に1度に設定することで事務頻度を下げられます。使用量の入力から請求額計算までを自動化する簡易エクセルの整備や、クラウド型の会計・請求ツールとの連携も、初期の手間はかかるものの、導入後の工数を大幅に削減できます。
③ 住民感情の壁:「なぜ今さら値上がりするのか」という反発
料金体系の変更で最も難しいのは、住民への説明です。特に固定料金で長年生活してきた世帯にとって、従量制への移行は「負担増」と映りがちです。
この反発を和らげるには、「平均的な家族構成・平均的な使用量の世帯では、基本料金+従量料金の合計が従来の固定料金とほぼ変わらない」という料金設計が有効です。節水した家庭は支出が減り、多く使った家庭は増える——公平性の原則を丁寧に説明することが重要です。
加えて、「個々の節水が積み重なれば、地域のインフラの寿命が延び、将来の大規模更新工事の費用が抑えられる」という、地域全体に関わる大義名分を共有することが、単なる料金制度の変更を「地域の未来への投資」として位置づける力になります。移行前に一定の周知・猶予期間を設け、節水意識が醸成された段階で料金徴収を開始する段階的なアプローチも効果的です。
4. 切り替えがもたらす「経営的・技術的メリット」
① 施設更新コストのダウンサイジング
従量制の導入により節水が進めば、地域全体の最大給水量は実質的に低下します。これは将来の施設更新において、浄水装置・ポンプ・配水管の口径など、すべての設計基準値を引き下げられることを意味します。
設備のサイズが一回り小さくなることで、建設費を数千万円単位で削減できたケースは実際に報告されています。人口減少局面にある地域では、過去の最大需要に基づく設計を見直すことそのものが、経営改善の大きな柱になります。
② 水理計算の適正化と維持管理の高度化
各戸の実消費データが蓄積されることで、配管網のどの区間にどれだけの流量が流れているかを実績ベースで検証できるようになります。水圧不足が生じやすいエリア、逆に過剰圧力がかかって管を傷めやすい箇所——そうした潜在的なリスクポイントを事前に特定し、計画的な更新・補修に反映することが可能になります。
感覚や経験則に頼らず、データに基づいた維持管理計画を立てられるかどうかが、今後の小規模水道の命運を分けると私たちは考えています。
5. 水未来研究所からのご提案
「従量制に移行すべきとは思っているが、具体的にどう進めればよいか分からない」——そうした声を多くの現場で耳にしてきました。
水未来研究所では、現在の水使用量・料金体系・施設規模をもとに、移行の是非を判断するための「現状分析・料金体系シミュレーション」を受託しています。移行後の住民負担シミュレーションや、施設更新費用の削減試算も含めた形で、データに基づく最適化診断を提供しています。
維持管理費の増加や老朽化対応への不安をお持ちの自治体・水道組合の皆様、まずはお気軽にご相談ください。
