次の世代に、どんな水道を引き渡しますか?

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社会が大きく変わるとき

社会の構造が大きく変化するきっかけには、大きく分けて二つのパターンがあると思います。

一つは技術革新です。産業革命、パソコンの登場、インターネットの普及、そして現在進行中のAIの広がり。新しい技術が現れるたびに、働き方や産業構造、人々の日常が変わってきました。

もう一つは、社会が置かれた状況の変化です。戦争と戦後復興、経済危機、大規模な自然災害など。従来の仕組みでは対応できなくなり、社会そのものが変化を迫られる局面があります。

水道業界にも、そうした転換点が何度もありました。

では、水道業界は、これまでどのような出来事をきっかけに変わってきたのでしょうか。


第1章:水道業界を変えた出来事

水道の歴史を振り返ると、大きな出来事をきっかけに技術や制度が変わった場面がいくつも見えてきます。

一つ目は、大地震と管路の耐震化です。1995年の阪神・淡路大震災や2007年の新潟県中越沖地震などの経験は、水道管路の耐震性への向き合い方を大きく変えました。地震による断水がいかに市民生活に影響するかが改めて認識され、耐震継手を備えたダクタイル鋳鉄管などの普及が加速しました。

二つ目は、クリプトスポリジウムによる集団感染です。1996年に埼玉県越生町で起きた水道水を介した集団感染は、それまでの浄水処理への信頼を揺さぶりました。ろ過水の濁度管理の強化や病原性微生物対策が求められるようになり、膜ろ過技術の普及を後押しする要因の一つにもなりました。

三つ目は、水道水の異臭味問題と高度浄水処理の広がりです。東京や大阪などで問題となった水道水のカビ臭などへの対応を背景に、オゾン処理や粒状活性炭処理を組み合わせた高度浄水処理が普及していきました。

これらは、技術開発が先行した例もあれば、事故や社会的な要請が普及を加速させた例もあります。共通しているのは、それまでの仕組みを見直す必要性が生まれ、水道のあり方が変化したという点です。

そして今、水道業界は、これまでとは少し性質の異なる変化に直面しています。


第2章:今、何が変わろうとしているのか

現在の変化は、突発的な事故や自然災害がきっかけではありません。人口減少という、じわじわと進む長期的な社会構造の変化です。

人口が減れば水需要も減ります。節水型機器の普及も加わり、料金収入は伸びにくくなっています。一方で、高度成長期に整備された施設や管路は老朽化が進み、更新の需要は増え続けています。収入が増えない中でコストが膨らむ——この構造が各地の水道事業体を圧迫し、料金改定の検討・実施が相次いでいます。

しかし水道料金の値上げは、住民の生活に直結します。議会での議論も必要であり、容易に決断できるものではありません。

そして、もう一つの問題があります。水道事業を支える労働力の減少です。職員だけでなく、施設の運転管理・保守点検・管路工事などを担う民間事業者も含め、人材の確保が難しくなっていきます。

お金の問題と、人の問題。この二つは、同じように解決できるのでしょうか。


第3章:お金の不足と、人の不足は違う

仮に水道事業の問題が資金の不足だけであれば、対策にはいくつかの方向性が考えられます。料金を値上げする方法もあります。あるいは、独立採算を基本とする現在の仕組みを見直し、一般会計からの繰入れを拡大するという方法もあります。

もちろん、税金を使えば住民の負担がなくなるわけではありません。負担する方法が変わるだけです。それでも、資金不足については、制度や財源配分を工夫する余地がある、と言えます。

では、労働力はどうでしょうか。

予算を増やせば、技術者や施工業者が突然増えるわけではありません。日本の別の地域から呼び寄せようとしても、全国的に人材が不足しているなら、地域同士が人を取り合うことになります。外国人材の活用も選択肢の一つですが、専門技術の習得、言語の問題、緊急時の対応体制、責任の所在など、受入れの仕組みを整えるには時間がかかります。社会的な合意形成も、議論が必要なテーマです。

ここで強調したいのは、「お金があれば何とかなる」という発想が、必ずしも通用しなくなる可能性があるということです。

資金の不足と労働力の不足は、性質が異なる問題です。この区別を持っておくことが、これからの水道を考えるうえで重要だと思います。では、人が足りないという問題に、私たちはどう向き合うべきなのでしょうか。


第4章:これまでの対策で乗り越えられるのか

水道業界では、これまでにもさまざまな取り組みが進められてきました。広域化・施設の統廃合・官民連携・運転管理の共同化——いずれも、経営の効率化や人材の有効活用を目指したものです。こうした取り組みには、確かに意味がありました。

しかし広域化による効率化にも限界があります。地域によってはまだ改善の余地がある一方、すでに人員削減や業務集約が進み、これ以上削減が難しいところもあるでしょう。また、現場に施設が存在する以上、点検・補修・緊急時の対応といった作業を完全になくすことはできません。

では、施設そのものを見直す必要があるのでしょうか。

維持管理に必要な人員を減らすこと、設備を簡素化すること、作業を自動化すること、地域で業務を分担すること——様々な方向性があります。ただしここでは、特定の技術や方式を推奨したいのではありません。問いを残したいのです。

「これまでと同じ水道施設、同じ運営方法を前提にしていてよいのだろうか」と。


第5章:問題が起きるのは、次の世代かもしれない

ここまでの話は、現在の水道事業が直面している問題のように聞こえるかもしれません。しかし本当に重要なのは、将来の水道の姿です。

今の浄水場は、現在の人員で何とか運転できています。現在の料金収入でも、経営を続けられているかもしれません。だからといって、30年後も同じ状態とは限りません。

水道施設は、一度整備すれば数十年にわたって使われます。2026年に建設する浄水場は、2050年にも2060年にも稼働している可能性があります。その頃の給水人口はどうなっているでしょうか。施設を維持する人は何人いるでしょうか。

今の条件で最適な施設が、30年後の条件でも最適だとは限りません。人口が減り、水需要が変わり、使える人材が限られる時代に、同じ施設・同じ運営方法が合理的であり続けるかどうか。

さらに、将来になってから施設を変えようとしても、そのときには現在以上に人もお金も不足しているかもしれません。問題が深刻化してからでは、選べる対策が限られてしまう可能性があります。


第6章:私たちは、次の世代に何を引き渡すのか

私たちの親や祖父母の世代は、日本全国に水道を整備し、蛇口をひねれば安全な水が出る社会を築いてきました。その恩恵を、今の私たちは当たり前のように享受しています。

では、今の私たちは、子供たちの世代に何を残すのでしょうか。

施設をきちんと更新して引き渡せば、それで十分なのでしょうか。仮に新品の施設であっても、その施設を運転する人材が確保できなければ、次の世代にとっては大きな負担になるかもしれません。一方、将来の負担を減らそうとすれば、現在の世代が費用や労力を引き受けなければならない場面もあります。

将来を完全に予測することはできません。それでも、人口減少や労働力不足の傾向を見据え、今できる準備をしておくことはできるはずです。どのような選択をするにしても、「将来のことを考えたうえで決めた」と言えるプロセスが、次の世代への誠実な引き渡しなのではないかと思います。


さて、何が最適なのでしょうか

これまでの水道は、安全な水を安定して供給するために、さまざまな技術や仕組みを取り入れながら発展してきました。

しかし、人口が減り、労働力が減っていく社会では、これまでと同じ考え方が必ずしも通用するとは限りません。

今ある施設をできるだけ長く使い続けるのか。将来の負担を減らすために、今から施設や運営の方法を変えていくのか。あるいは、私たちがまだ気づいていない、別の選択肢があるのかもしれません。

私たちの世代が、次の世代に水道を引き渡すとき、「将来のことを考えて、できる限りの準備はしておいたよ」と言えるようにしたいものです。

さて、これからの水道は、どうあるべきなのでしょうか。何が最適なのでしょうか。

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