小規模分散型水道の浄水方式を考える――50人・15 m³/日の水道なら何を選ぶか

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前回の記事からの続き

前回の記事では、国土交通省が2026年3月に公表した「水道事業における分散型システムの導入検討手引き(案)」を読んだときに感じた違和感から出発しました。数十人規模の小規模な給水区域を対象とした事例に、急速ろ過が登場していたことへの疑問です。

急速ろ過そのものが悪いと言いたかったわけではありません。大規模な浄水場においては、専門職員・連続監視設備・PAC注入設備・汚泥処理設備が揃っており、急速ろ過は非常に合理的な選択です。しかし問題にしたのは、「大規模浄水場で合理的な方式を、そのまま小規模化しても合理的なのか」という一点でした。

その観点から、PAC注入の管理、常駐管理者を置けない現実、凝集汚泥の発生、汚泥の処分コスト、河川への排出という問題を順に検討しました。

今回は逆方向から考えてみます。50人・15 m³/日という小規模水道を、最初から白紙の状態で計画するとしたら、どのような浄水方式を選ぶでしょうか。

「浄水場」から考えるのをやめて、「水源」から考えてみる

多くの人は、「河川から取水して、浄水場できれいにする」を起点として考えます。しかし小規模水道では、もっと発想の視点を高くして考えてみることが重要ではないかと考えています。

つまり、最初に「どんな浄水設備を使うか」を決めるのではなく、「どこに良い水があるか」から考え始める、という発想です。できるだけ水質の良い水源を探すことで、必要な浄水処理の規模そのものを小さくできる可能性があります。

候補として考えるのは、地下水・湧水・沢・小河川・河川といった選択肢です。この中から、その地域の条件に合った水源を探していきます。

まず、良質な地下水がないかを調べる

最初に検討したいのは地下水です。

50人・15 m³/日という需要は、水道の世界では決して大きな水量ではありません。計画上の取水量を仮に24 m³/日として逆算すると、1時間あたり1 m³、分あたり約16.7 L、つまり1分間にバケツ1杯程度の水が安定して確保できれば足りるという計算になります。

もちろん実際の水源開発では、渇水期の水位変動・揚水可能量・地下水脈の安定性など、慎重に検討すべき事項が多くあります。しかし、必要水量が比較的小さいからこそ、地下水の可能性を丁寧に調査する価値があります。

地下水を探すことは「無処理の水を探す」ことではありません。水質検査によって鉄・マンガン・硝酸態窒素・ヒ素などの項目を確認したうえで、必要な処理を判断します。目的は「必要な浄水処理をできるだけ減らせる水源を探す」ことです。良質な地下水が得られれば、消毒だけで配水できる可能性があり、浄水場の規模と複雑さを根本から小さくすることができます。

地下水が難しければ、周囲の表流水を探す

地下水の確保が難しい場合には、周囲の表流水に目を向けます。沢・小河川・河川、湖などが候補です。

ここで重要なのは、「水があるか」という量の問題だけではありません。同時に確認すべきは水質です。平常時の濁度・色度・有機物・微生物、そして渇水時・雨天時・台風時の水量と水質の変動——これらを年間を通じて把握することが、適切な浄水設計の前提になります。

「一番大きな川を一本」ではなく、複数の水源を調べる

ここで今回の記事において特に強調したい発想があります。一つの水源に決め打ちするのではなく、複数の表流水を並行して調査する、という考え方です。

例えば、こんな状況を想定してみましょう。A沢は水質が非常に良いが、流量が少ない。B沢は水量は豊富だが、濁度がやや高い。C小河川は水量が安定しているが、雨天時に濁りやすい。このような複数の水源候補がある場合、「どれか一つを選ぶ」という発想ではなく、「それぞれの長所を組み合わせられないか」と考えてみることが大切です。

複数水源は、非常用の予備ではない

ここで一点、強調したいことがあります。複数の水源を持つ目的は、「メインが枯れたときの予備」だけではありません。

水量と水質の異なる複数の水源を組み合わせることで、浄水場に入る前の原水そのものを安定させることが目的です。例えば、水質の良いA沢をできるだけ主力として使い、流量が不足する場合にB沢で補う、という運用です。

そして、このとき非常に重要な考え方があります。水源の組み合わせそのものが、最初の浄水工程になる、ということです。

浄水場に入れる前に、水を良くしておく

通常の発想は、「悪い原水を高性能な浄水設備で処理して良い水にする」というものです。しかし今回考えている発想は逆です。「良い水源を探し、水源を組み合わせることで、できるだけ安定した原水を作る。そのうえで、シンプルな浄水設備で処理する」という順番です。

つまり、水源選定そのものが、最初の浄水工程になります。この一点が、今回の設計思想の核心です。

ただし、複数の水源を混ぜれば何でもうまくいくわけではありません。水質の違い——pH・水温・濁度・鉄やマンガン・微生物学的水質・季節変動——を年間を通じて調査したうえで、どの水源をいつ・どの程度使うかを設計に組み込む必要があります。「混ぜれば濁度が単純に平均される」というほど単純ではありません。

では、表流水をどんな方法で浄水するか

良い水源を選び、原水を安定させたうえで、それでも表流水の浄水処理が必要な場合、どの方式を選ぶでしょうか。

主な候補は、急速ろ過・膜ろ過・緩速ろ過です。急速ろ過については前回の記事で、小規模水道における管理・薬品・汚泥の問題を検討しました。膜ろ過についても、その前の記事でランニングコストの課題を考えました。

では、緩速ろ過はどうでしょうか。

緩速ろ過という、昔ながらの浄水方式

緩速ろ過は「古い技術」というイメージを持たれることがあります。しかし「古い」ことと「劣っている」ことは別です。

緩速ろ過は、砂層に形成された生物膜と微生物の働きを利用して水を浄化する方式です。機械的な高度処理で水を強制的にきれいにするのではなく、自然の浄化作用をゆっくりと再現する仕組みです。薬品添加が基本的に不要で、機械設備が少なく、構造がシンプルであることが特徴です。

最大の弱点は「広い土地が必要」なこと

緩速ろ過の最大の課題は、ろ過速度が遅いため広い面積のろ過池が必要になることです。大規模な都市の浄水場では、この「広い土地が必要」という問題が決定的な不利になります。

しかし50人規模の地方の水道では、話が変わります。必要な処理水量が小さいため、緩速ろ過に必要なろ過面積も自ずと小さくなります。地方では土地の価格も都市とは大きく異なり、利用可能な土地があれば、土地の問題よりも設備をシンプルにできるメリットのほうが大きくなる可能性があります。

もう一つの弱点、高濁度原水

緩速ろ過には、もう一つ課題があります。台風や大雨によって河川の濁度が急激に上昇する場合、そのままの原水を緩速ろ過に送ることが難しくなるという点です。

「だから表流水には緩速ろ過は向かない」という結論になるかというと、そうではありません。ここに「上向流粗ろ過」という前処理の発想が入ってきます。

「上向流粗ろ過」という前処理

上向流粗ろ過は、砂利を充填した槽の下部から原水を入れ、上向きに通過させることで濁質を前段で捕捉する方式です。複数の水源から原水を取り込み、この粗ろ過を通してから緩速ろ過に送ることで、緩速ろ過への濁質負荷を大幅に軽減できます。

流れを整理すると次のようになります。

複数水源から原水調整を行い、上向流粗ろ過で大きな濁質を取り除き、緩速ろ過でさらに微細な粒子と有機物を処理し、消毒を経て配水する——という構成です。

台風の日まで、無理に水を作る必要があるのか?

ここで、今回の設計思想において重要なのは、台風などで異常な高濁度になった場合、「どんな原水でも処理できる高性能な浄水場を作る」とういうことではなく、一定期間取水せずにやり過ごせる浄水場を検討することです。

50人規模の水道であれば、高濁度時には取水を停止し、配水池の貯留水で数日間をしのぎ、台風通過後に取水を再開する、という運用も現実的な選択肢として検討できます。もちろんこの場合には、配水池容量・必要貯留時間・非常時の給水体制・水源の回復状況をセットで設計に組み込む必要があります。しかし、「どんな状況でも水を作り続ける」という方向だけを追求するのではなく、「異常時には無理をしない」という思想が、小規模水道には合っている場合があります。

薬品も、複雑な機械も、基本的にはいらない

上向流粗ろ過の最大の魅力は、構造の単純さです。水槽・砂利・配管・バルブ——これが基本的な構成要素です。

濁質は砂利層の下部に蓄積していきます。これを排出するには、排泥バルブを開けて洗浄水を流すだけです。この操作は、電動弁を使って自動化することも可能で、タイマーや水質センサーと組み合わせれば定期的な排泥を遠隔で行うことも検討できます。

毎日の管理を「バルブ操作」にまで減らせないか

常駐管理者を置けない小規模水道において、維持管理の負担をいかに小さくするかは根本的な課題です。上向流粗ろ過+緩速ろ過の組み合わせは、この点で優れた特性を持っています。

ただし「完全無人」とは言いません。定期的な巡回によって、漏水の有無・弁の状態・水位・濁度・電気設備・配水池の状況を確認する必要があります。しかし、それは常駐ではなく巡回管理を前提にできるという評価であり、これは小規模水道の運用として現実的です。

緩速ろ過にも、人の手は必要

緩速ろ過は、砂層の生物膜の上に徐々に濁質が積み重なりろ材が目詰まりすることで処理能力が下がってきます。従来の緩速ろ過では、砂面の濁質を定期的に薄く削り取る作業が必要でした。

上向流粗ろ過を前段に置くことで、緩速ろ過池に流れ込む濁質の量を大幅に減らすことができるようになり、基本的に砂層面上に濁質の蓄積はなくなりますが、かわりに微生物による粘性のある分泌液が砂層面を固着させ、硬くなることで水が流れにくくなります。

よって、上向流粗ろ過を設置後も定期的に緩速ろ過の砂層面の上の部分を”ほぐす”必要がありますが、砂かきとはこちなり、砂を槽外に出して洗浄し戻すという過程が不要なため、作業は軽いものとなります。

15 m³/日という処理規模では、必要なろ過面積も限られたものになります。仮に設計ろ過速度5m/日から計算した場合、3m²程度のろ過面積になることも考えられます。例えば1×3 m程度、あるいは予備系を含めて2×3 m程度というサイズ感です。そのような規模であれば、砂面の整備作業は年に数回、1〜2人で半日程度で行える「小さな仕事」として位置づけることができます。

小規模水道では、「安い設備」より「費用が増えにくい設備」が重要

ランニングコストの話をするとき、「この設備は安い」という評価よりも重要なことがあります。それは、「水量が少なくなっても費用が増えにくい構造かどうか」という視点です。

急速ろ過では、PAC・PAC注入設備・凝集設備・汚泥処理・電力・維持管理という複数のコスト要素が発生します。膜ろ過では電力・逆洗・薬品洗浄・膜交換・専門業者によるメンテナンスが必要です。これらは水量の増減とある程度連動して費用が変化しますが、固定的にかかる費用も少なくありません。

一方、上向流粗ろ過+緩速ろ過では、薬品使用量や機械設備を極力減らすことができます。そのため、水量が少ないことによる「1 m³あたり固定費の増大」という問題を抑えやすい構造を持っています。

ただし「緩速ろ過なら必ず安い」とは言いません。土地取得費・建設費・原水の条件・配水池・消毒設備・人件費によって結果は変わります。「安い」ではなく、「小規模水道の条件では、ランニングコストを抑えやすい構造を持つ」という評価が正確です。

もちろん、緩速ろ過も万能ではない

公平に整理しておきます。緩速ろ過にも明確な弱点があります。

広い土地が必要なこと。原水水質への適性が求められること。生物膜の形成には立ち上げ期間が必要で「今日作って明日から配水」という設備ではないこと。砂面管理という継続的な維持管理が必要なこと。極端な高濁度には対応が難しいこと。消毒は引き続き必要なこと。そして、水源の保護が非常に重要になること。

この最後の点は重要です。緩速ろ過はシンプルな設備だからこそ、水源そのものの水質が処理結果に直接影響します。水源を軽視して浄水方式だけ選んでも、このシステムは機能しません。

水源と浄水方式はセットで考える

ここで、今回の議論をもう一度つなぎ直します。

良い水源がある。原水が比較的安定する。だからこそ、緩速ろ過を使いやすくなる。逆に、水源が極端に不安定であれば、緩速ろ過を採用すること自体を再検討する必要があります。

つまり、浄水方式だけを単独で選ぶのではなく、「水源+浄水方式」を一体として選ぶ——これが今回の議論の重要な結論の一つです。

最終結論――小規模水道は「水源から設計する」

今回の50人・15 m³/日というモデルで、私が考える設計の順番を整理します。

まず地下水を調べます。良質な地下水が確保できるなら、必要最小限の処理で済ませます。地下水が難しければ、周囲の表流水を複数調査します。そして水量と水質の異なる複数の水源を組み合わせ、良質な水源を優先しながら不足分を別水源で補います。そのうえで、できるだけ安定した原水を作ります。

表流水の浄水が必要であれば、上向流粗ろ過+緩速ろ過を有力な候補として検討します。異常時には無理に処理せず、必要なら取水を止める運用を設計に組み込みます。

50人の水道に必要なのは、どんな水でも処理できる高性能な浄水場ではないのかもしれません。良い水源を探し、複数の水源を組み合わせ、できるだけ良い原水をつくる。そして、その水を必要最小限の設備で浄化する。異常な原水が来たときには、無理をせず取水を止める。

大規模水道とは違う、小規模水道だからこそ可能な設計思想があるのではないでしょうか。

次回は、「では、上向流粗ろ過+緩速ろ過を15 m³/日の施設として具体的に設計すると、どんな設備になるのか」という問いへと進んでいきたいと思います。

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