はじめに:浄水場のIoT化は難しくない
「IoT」「クラウド」「AI」——こうした言葉を耳にするたびに、「うちのような小規模な施設には縁のない話」と感じている水道担当者の方は少なくないはずです。しかし実際には、浄水場のIoT化は、大がかりな設備刷新を必要とするものではありません。
IOT化の第一歩は、今まさに現場で動いている設備が出している信号を「取り出す」ことです。水位計、流量計、ポンプの運転状態——これらはすでに電気信号として存在しています。その信号をデータとして受け取り、インターネットを通じてクラウドへ送る。この仕組みさえ整えれば、スマートフォンやPCの画面で現場の状況をリアルタイムに確認できるようになります。
人手不足が深刻化する中、「現場に行かなくても状況が分かる」という遠隔監視の価値はかつてなく高まっています。本記事では、MGシステムの産業用データロガー「Webロガー2 DL30-G」を例に、浄水場IoT化の具体的な構成と費用感をできるだけ平易に解説します。
第1章:現場設備からどんなデータを取れるのか?(信号の基礎知識)
IoT化を考えるとき、まず理解しておきたいのが「現場にはどんな信号が存在しているか」という点です。浄水場の設備が出す信号は、大きく3種類に分けて考えると整理しやすくなります。
アナログ信号(4-20mA):連続的な数値データを取得する
設備計測で最もよく使われるのが「4-20mA」と呼ばれるアナログ信号です。測定値を電流値に変換して伝送する方式で、たとえば水位計であれば「4mA=水位0%、20mA=水位100%」として扱います。現在の電流値が12mAなら水位は50%、と換算できます。
この信号を使って取得できる代表的なデータは以下の通りです。
| 設備・計器 | 取得できるデータ |
|---|---|
| 水位計 | 水槽・配水池の水位 |
| 流量計 | 送水量・処理量(瞬時値) |
| 圧力計 | 配管圧力 |
| pH計 | 水質(pH値) |
| 濁度計 | 濁度 |
| 残留塩素計 | 残留塩素濃度 |
| 温度計 | 水温・機器温度 |
現場でいま使っている計測機器の多くが、すでにこの4-20mA信号を出力しています。つまり、新しいセンサーを買い揃えなくても、今ある設備がそのままIoT化の対象になるということです。
デジタル信号(無電圧接点):ON/OFFの状態データを取得する
数値ではなく「動いているか、止まっているか」という状態を取得したい場合に使うのが、無電圧接点信号です。ポンプの運転・停止・故障、バルブの開閉状態、警報の発生などが、ON/OFFの2値として取り出せます。「ポンプ室に行かなければ分からなかった運転状態」が、画面上で確認できるようになります。
PLC連携:デジタル化済みのデータをまとめて取得する
浄水場など既存の設備では、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)がすでに各センサーのデータを受け取り、数値変換・積算計算・警報判断などを行っているケースが多くあります。この場合、WebロガーはPLC内部のデータをModbus TCPなどの通信プロトコルを使って取得します。取得するのは4-20mAの生信号ではなく、PLCがすでに処理した「水位3.5m」「積算流量5000m³」といったデジタルデータです。既設PLCを活用することで、一度に多くのデータをまとめて取得できます。
第2章:IoT化でスマホやPCから「何が見えるようになる」のか?
信号を取り出してクラウドへ送ることで、現場巡回から「遠隔での常時監視」への転換が可能になります。具体的に何が変わるかをイメージしてみましょう。
取水・配水設備の場合、これまで現場へ出向いて目視確認していたポンプの運転状態や水槽の水位が、スマートフォンの画面上でリアルタイムに把握できます。「ポンプ1号機:運転中、2号機:停止」「配水池水位:72%」といった情報が、どこにいても確認できる状態になります。
浄水工程の水質管理では、pH・濁度・残留塩素などの連続データが蓄積されます。「今の値を見る」だけでなく、「昨日と比べて濁度が上昇している」「残留塩素がじわじわ低下している」といった変化の傾向をグラフで分析できるようになります。これは、1日1回の現場巡回では気づきにくい異常の予兆を早期に察知できるという、大きなメリットをもたらします。
配水池の水位・流入量・流出量を常時監視することで、巡回による確認から継続的な監視へ移行できます。緊急時には警報通知を受け取ることで、担当者が物理的にその場にいなくても、異常に対して迅速に対応できる体制を整えることができます。
第3章:システム構築の全体像——Webロガー2・AWS・Grafanaの組み合わせ
IoT監視システムを構成する役割は「集める」「保存する」「見やすく表示する」の3つに分かれます。それぞれの役割を担当するのが、Webロガー2・AWS・Grafanaです。
現場設備(センサー・接点信号・PLC)
↓
Webロガー2 DL30-G(信号を集めてクラウドへ送る)
↓
インターネット
↓
AWS(データを安全に蓄積する)
↓
Grafana(データをグラフ・画面として表示する)
↓
スマートフォン・PCの監視画面
Webロガー2(DL30-G)は、現場の各種信号を受け取り、クラウドへ安全に送るIoTゲートウェイです。4-20mAアナログ入力・無電圧接点入力・PLC通信に対応しており、現場の多様な信号をこの1台でまとめて取り込むことができます。
AWS(Amazon Web Services)、送られてきたデータを安全に蓄積するクラウドサーバーの役割を担います。従来のように物理的なサーバーを購入・設置・保守する必要がなく、データ保存・データベース・セキュリティ機能をインターネット上で利用できます。蓄積されたデータは
2026年8月6日 10:00
設備A
水位:72%、流量:250m³/h、ポンプ1号機:運転中
という形で時系列に積み上がっていきます。
Grafana(グラファナ)は、蓄積されたデータをグラフやメーター、監視盤風の画面として視覚化するツールです。数字の羅列では読み取りにくいデータが、トレンドグラフや状態表示として一目で把握できる画面に変わります。役割を整理すると以下の通りです。
| 役割 | 担当 |
|---|---|
| 測定する | センサー・計測機器 |
| 信号を集めてクラウドへ送る | Webロガー2 DL30-G |
| データを保存する | AWS |
| 見やすく表示する | Grafana |
| 判断・対応する | 人間 |
第4章:システム構築の費用感と「意外と簡単な」導入・横展開アプローチ
「IoT化にはどのくらいの費用がかかるのか」という点は、多くの担当者が気になるところです。1設備をIoT化する場合の目安を整理します。
ハードウェア費用の目安は以下の通りです。
| 項目 | 概算費用 |
|---|---|
| Webロガー2(DL30-G)セット | 約30万円 |
| センサー類(水位計・流量計等) | 約50万円 |
| 通信機器 | 約5万円 |
| ハードウェア合計 | 約85万円 |
システム構築費としては、AWS環境構築・データ保存設計・通信設定・Grafana画面作成などの作業が必要になります。規模や要件によって異なりますが、50〜150万円程度が目安です。独自のWeb画面まで作り込む場合は200万円以上になるケースもあります。
1設備あたりの初期導入費は150〜300万円程度が一つの目安となります。
ただし、ここで重要な考え方があります。IoTシステムは「1設備目で共通基盤を作り、その後横展開する」というアプローチが費用効率を大きく左右します。1設備目では、AWS環境の構築・データ構造の設計・Grafanaの画面作成といった初期開発コストが発生します。しかし一度この共通基盤ができあがれば、2設備目以降はWebロガーとセンサーの追加・接続設定が中心になり、構築コストは大幅に下がります。複数の小規模施設をまとめてIoT化する計画がある場合は、最初の1施設への投資を「共通基盤の開発費」として位置づけることが、全体最適な判断につながります。
また現在では、生成AIを活用することで、AWS環境構築の手順・Grafanaの設定方法・プログラムのコード作成などについて、専門知識がなくても段階的にサポートを受けながら進めることができます。基本的なIT知識を持つ担当者であれば、まず1設備の実証システムを自分で試作し、動作確認後に専門家にレビューを依頼するという現実的な進め方も十分に可能な時代になっています。
第5章:まとめ——現場の既存情報を活かした第一歩
IoTによる遠隔監視は、「新しい特別な技術を買い揃えること」から始まるのではありません。「現場にすでに存在している情報を理解し、クラウドへつなぐこと」から始まります。
今回整理したポイントをおさらいすると、4-20mAアナログ信号で連続的な数値データを取得し、無電圧接点信号でポンプ運転など設備の状態を把握し、PLC通信でシステムが処理済みのデータをまとめて取り込む。この3種類の取得方法を理解するだけで、浄水場に存在するほぼすべての設備情報をIoT化の対象として捉えることができます。
Webロガー2 DL30-GとAWS・Grafanaを組み合わせたシステムは、現場で使われている既存の計装信号をそのまま活用できるため、現場設備の入れ替えを必要としません。巡回点検に費やしていた時間と人手を削減し、データに基づいた効率的な設備管理へと移行していくための、現実的な第一歩として機能します。
「難しそう」と思っていたIoTが、実は現場にあるものを整理するところから始まる——そのことが少しでも伝わっていれば幸いです。
