自宅の井戸掘削で後悔しないために|個人住宅の井戸掘削で確認しておきたいこと

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1. はじめに――井戸の水質相談から見えてきたこと

最近、井戸水の鉄・マンガン対策について、何軒か相談を受ける機会がありました。

そのうちの一件で、ある4人家族宅で使用している井戸工事報告書を確認させていただく機会がありました。水質の問題だけを見るなら、「鉄・マンガンが多いので、それを除去する装置を検討しましょう」という話になります。

しかし施工報告書を読み込んでいくと、砂利充填・シーリング・井戸洗浄・揚水試験などについて、実際にどのような施工・試験を行ったのかを第三者が確認できる情報が、十分には残っていませんでした。

業者に確認したところ、少なくとも井戸洗浄については「実施した」との回答があったようです。ただ、「実施したのであれば、それを確認できる記録がなぜ残っていないのだろう」という疑問が残りました。

水質に問題がなければ、未記載でも問題はありません。

ただ、水質に問題がある場合はどうしてこのような水質なのだろう、掘削直後から時間経過するとともに変化する可能性があるか、などを考察する際に、それらの情報が必要となってくる場合があります。

そこで改めて考えたのは、井戸は工事が終わった後は詳細が見えなくなるのできちんと記録を残したいということです。今回の経験を整理しながら、これから井戸を掘ることを検討されている方に、事前に確認しておいてほしいことをお伝えしたいと思います。


2. そもそも井戸はどのように作られるのか

まず、一般の方にも分かるように、住宅用の井戸が完成するまでの主な工程を紹介します。

①周辺資料の確認

掘削に先立って、周辺の既存井戸について深さ・地質・地下水位・揚水量・水質などを調べ、「この地域で井戸が成立する可能性があるか」を検討します。

②地質調査・探査

現地で調査を行い、地層構造・地下水の存在・掘削地点などを検討します。

③井戸掘削

実際に掘削します。井戸は深く掘ればよいわけではなく、地質の状況に応じてどこまで掘る必要があるかを検討したうえで掘ることが必要です。

④電気検層

掘削した孔内に検査装置を下ろしながら電気の通り方を調べ、どの深度から地下水を取水するのが適切かを検討する判断材料にします。

⑤ケーシング・スクリーンの設計

地質状況・電気検層・掘削時掘削速度などの状況などをもとに、ケーシング(井戸の外壁となる管)をどこに入れるか、スクリーン(地下水が流入する穴あき管)をどこに設置するかなどを決めます。

⑥砂利充填・シーリング

スクリーン周辺に適切な砂利を充填しつつ、必要な場所にはベントナイトやセメント系材料などでシーリング(遮水措置)を行います。「どこから水を取るか」だけでなく、「どこで水を止める措置をするか」という観点がここでは重要です。

⑦井戸洗浄・井戸開発

掘削によって発生した泥や細粒分などを除去し、井戸と帯水層との水理的なつながりを整えます。この工程が不十分だと、本来の井戸の性能が発揮されない場合があります。

⑧揚水試験

実際に水を汲み上げ、どの程度の水量が得られるか、水を汲みだしたときに水位がどの程度低下するか、安定して使用できる水量はどの程度かを確認します。

⑨水質検査

十分な揚水を行ったうえで、水質検査を行い井戸の用途に照らして適切な水質かどうかを確認します。

⑩上部工・ポンプ設備

最後にポンプや配管などを設置し、住宅設備として完成します。

これらの工程を見るとわかるように、井戸の完成には多くの判断と施工が積み重なっています。そしてその多くが、地下に埋まってしまい、完成後には直接確認できないものです。


3. 気になったのは「施工していない」ことではなく「記録がない」こと

今回の報告書について、改めて整理しておきたいことがあります。

「これらの工程を実施していない」とは言えません。業者に確認したところ、少なくとも井戸洗浄については実施したとの回答でした。したがって、施工していないと断定する根拠はありません。

問題にしたいのは別のことです。「実施したのであれば、それを確認できる記録がなぜないのか」という点です。

「井戸洗浄を実施」という一文でも十分です。「コンプレッサーによる井戸洗浄を○時間実施」でもよい。写真が1枚残っているだけでも、施主の側からすれば大きく違います。

記録がないと、施主は「やったと言われれば信じるしかない」状態になります。これは施工業者への不信感の話ではなく、施主として施工内容を確認できる環境を整えることの問題です。


4. 見えなくなる施工だからこそ、記録が重要

住宅の蛇口や給湯器であれば、完成後でも見たり、交換したりすることができます。しかし井戸は、ケーシング・スクリーン・砂利充填・シーリングがすべて地下に入ってしまいます。

完成後に「砂利はどこまで入っていますか」「シーリングはどこまで施工されていますか」「スクリーンは何mから何mですか」と聞いても、簡単には確認できません。ケーシングやスクリーンの位置はカメラを井戸に入れてボアホールカメラで撮影するなどの方法はありますが、工事の後に確認するのはコストも手間もかかります。

だからこそ、工事中に記録を残してもらうことが大切です。見えなくなるからこそ、見える形にしておく必要があります。これは施工業者を疑うということではなく、施主と施工業者の間で施工内容を共有し、後から見返せる状態にするという話です。


5. 特に気になった「揚水試験」

今回の報告書には、「揚水試験の結果、適正揚水量10 L/min」という記載がありました。そして、写真としては、ホースから水が出ている写真が1枚。

しかしその記載だけでは、次のことがわかりません。

何分揚水したのか、何時間揚水したのか、どの流量で試験を行ったのか、段階的に流量を変えたのか、そのとき水位はどう変化したのか、揚水を止めた後に水位がどう回復したのか、そしてなぜ「10 L/minを適正」と判断したのか。

ここで明確にしておきたいのは、「10 L/minという数字が間違っている」と言いたいのではないということです。問題なのは、「10 L/minという数字がどのような試験から導かれたのかを、報告書から確認できない」ことです。

揚水試験には様々な方法があります。段階揚水試験や連続揚水試験、回復試験など、それぞれに目的と判断基準があります。試験の内容が記録として残っていれば、「適正揚水量10 L/min」という数字の意味と信頼性を施主が理解できます。しかし記録がなければ、その数字は確認しようのない値になってしまいます。


6. 井戸洗浄やシーリングが不十分だった場合、水質検査に影響する可能性

ここからは今回の経験から考えた仮説の話です。

掘削直後の井戸には、掘削泥や微細な土粒子など、掘削に伴う物質が残っている可能性があります。十分な井戸洗浄・井戸開発を行わないまま採水・水質検査を行った場合、「完成した井戸本来の地下水」と「掘削直後の井戸の水」が混在している可能性を排除できません。

また井戸を仕上げる段階でシーリングという、地表水が井戸内部に侵入することを阻止する対策が必要となりますが、それが不十分だと地表の汚染水が井戸水に含まれることになってしまいます。

もちろん、今回の資料だけで「掘削機器由来の鉄粉が検出された」や「地表水の流入の影響で一般細菌や大腸菌が出た」とまで断定はできません。しかし、このような可能性があることを念頭に置いておくことは大切だと思います。

水処理装置を設計する前に、「今の水質が、この井戸の定常的な水質を表しているのか」という観点も確認する価値があります。


7. これから井戸を掘る人へ――工事前に確認しておきたいこと

ここからは実用的な内容をお伝えします。井戸掘削を検討している方が、契約前・工事前に業者と確認しておくとよい項目を整理しました。これは業者への不信感からではなく、施主と施工業者の認識をあらかじめ合わせておくためのリストです。

掘削・地質関係
掘削深度の目安、地質柱状図の提出、掘削中の地質記録の方法、電気検層の実施有無、採水層の判断方法

井戸の構造
ケーシングの径・材質・深度、スクリーンの位置と長さ、砂利充填の範囲、シーリングの位置と材料

井戸洗浄・井戸開発
使用する洗浄方法、使用機器、洗浄時間の目安、洗浄終了の判断基準、排水の処理

揚水試験
予備試験の実施有無、段階揚水試験・連続揚水試験・回復試験のいずれを行うか、試験時の揚水量・水位測定の記録方法、適正揚水量の判断根拠

水質検査
採水前にどの程度揚水するか、採水時の流量と場所、採水のタイミング、検査項目

これらをすべて事前に書面で確認するのが理想的ですが、難しい場合でも、最低限「施工完了後にどのような報告書を受け取れるか」を確認しておくだけで大きく違います。


8. 「報告書に何を書いてもらうか」を最初に決めておく

工事が終わってから「報告書をください」と言うのでは、受け取れる情報に限界があります。大切なのは、契約時に報告内容を確認しておくことです。

例えば、「施工完了後に、掘削深度・ケーシングとスクリーンの設置位置・砂利充填とシーリングの施工内容・井戸洗浄の方法と時間・揚水試験の内容と結果・水質検査の採水条件と結果について記録をご提出ください」と事前に伝えておく。

これは決して難しい要求ではなく、施工の実態をそのまま記録として残してもらうことのお願いです。この確認を事前にしておくことで、業者にとっても「この施主はきちんと確認する」という認識が生まれ、施工の丁寧さにもつながる可能性があります。


なお、簡単なチェックリストを作成しました。今後井戸掘削を個人で考えていらっしゃる方は、以下のチェックリストで業者と打合せしたあとに、見積もり依頼されるとよいと思います

自宅用井戸_施工記録チェックシート(エクセル:約15kB)


9. まとめ――井戸は完成してから見えない

井戸は地下に作る設備です。完成後には、スクリーンを見ることができません。砂利充填の状態も、シーリングの状況も、掘削時の地質の様子も、直接確認することはできません。過去の揚水試験をそのままやり直すこともできません。

だからこそ、「何を施工したか」だけではなく、「何を記録として残すか」を工事前から考えておくことが大切です。

「適正揚水量10 L/min」と書いてあるなら、その10 L/minはどのような試験から導かれた数字なのか。「井戸洗浄を実施した」と言うなら、どのような方法でどの程度実施したのか。一つひとつの記載について、「その根拠は何ですか」と確認できる施主でいることが、後悔しない井戸掘削につながると思います。

今回の記事は特定の業者を批判するものではなく、施工記録という観点から「施主が事前に知っておくべきこと」をお伝えすることが目的です。これから井戸の掘削を検討されている方の参考になれば幸いです。

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