前回の記事では、井戸を作る前段階として、過去の井戸情報の調査や現地踏査、電気探査などを行い、どの場所に井戸を掘るのが適しているかを検討する流れについて解説しました。
しかし、実際に井戸を作るためには、掘削位置を決めた後にも多くの工程があります。
「井戸はどのように掘るのか」
「掘った後はどのように井戸として仕上げるのか」
「水が出た後、どのくらいの水を使えるのかはどう判断するのか」
今回は、探査後に行われる井戸掘削工事について、詳しく解説します。

昔ながらの井戸掘りと現在の井戸掘削の違い
テレビなどで、竹や木材などを使った「上総掘り」や、人が地下へ降りながら掘る「手掘り井戸」の様子を見たことがある方もいるかもしれません。
これらは日本の伝統的な井戸掘削技術であり、歴史的にも重要な技術です。
しかし、現在、水道用や施設用として利用する井戸を作る場合、一般的にはこのような方法ではなく、”リグ”と呼ばれる井戸掘削専用の車両や設備を使用します。
リグにはトラックに掘削用の大型機械が搭載されており、地下深くまで正確に掘り進めることができます。
住宅用の井戸であっても、施設用の大規模な井戸であっても、現在の井戸掘削は高度な機械設備を使った専門工事です。
日本で最も一般的な掘削方法「泥水掘り」
井戸掘削にはいくつかの方法があります。
代表的なものとして、
- 泥水掘り(ロータリー式)
- DTH方式(ダウン・ザ・ホール・ハンマー)
- パーカッション方式
などがあります。
地盤条件によって適した方法を選んで掘削するのですが、日本で最も広く利用されている方法の一つが泥水掘りです。
今回の記事では、この泥水掘りを中心に井戸掘削の流れを説明します。
泥水掘りでは、泥水を掘削孔と地上部とを循環させながら掘削を進めていきます。
この泥水には、
- 掘削した土砂を地上へ運び出す
- 掘削した穴の壁を安定させる
- 地層からの圧力を調整する
といった役割があります。
地下深くまで穴を掘る井戸工事では、単純に土を取り除くだけではなく、掘削中の孔を安定させる技術が重要になります。

井戸掘削の流れ
井戸掘削は、一般的に以下のような流れで進みます。
1. 掘削機械や資材の搬入・準備
まず、掘削に必要な設備を現場へ搬入します。
主な設備には、
- リグ(井戸掘削機)
- 泥水を管理する設備
- コンプレッサ
- 掘削用工具
- ケーシングやスクリーンなどの井戸資材
があります。
井戸掘削では大型機械を使用するため、事前に作業スペースの確保や仮設設備の準備も必要になります。

2. 掘削工事
準備が整ったら、リグを使用して掘削を開始します。

掘削中は、単純に穴を掘るだけではありません。
掘削しながら、
- どの深度でどのような地層が出ているか
- 水を含む可能性がある層はどこか
- 掘削速度はどう変化しているか
などを確認します。
特に重要なのが、掘削速度(Penetration Rate)です。
地盤が変化すると、掘削機械の進み方も変化し、その変化は地下の地質状況を判断する重要な情報になります。
また、掘削した地層のサンプルも採取し、地下構造の把握に利用します。

3. 電気検層による地下状況の確認
掘削後、孔内の状態を詳しく調べるために電気検層を行います。
電気検層では、地下の地層ごとの電気的な性質を測定し、
- 地層の境界
- 水を含む可能性がある層
- 地質状況
などを確認します。
ここで重要なのは、「水が出た場所をすべて井戸として利用するわけではない」ということです。
地下には複数の帯水層(水を含む地層)が存在する場合があります。
しかし、すべての帯水層から水を取ればよいとは限りません。
例えば、
- 水質が良くない層
- 将来的な管理が難しい層
- 他の目的に適さない層
などは利用しない判断をする場合があります。


電気検層を実施中です。地上に1つ電極を設置し、掘削した穴に一定の速度でプローブを下ろしながら、地表とプローブの間の電気の通りやすさを調べて、帯水層のあるなしを判断する指標にします。
4. ケーシングプログラムの決定
井戸掘削では、「どこから水を取り入れる井戸にするか」を決める必要があります。
その設計がケーシングプログラムです。
井戸内部には、
- プレーンケーシング(取水しない部分)
- スクリーン(地下水を取り込む部分)
を配置します。
どこにスクリーンを設置するかは、
- 掘削時の地層サンプル
- 掘削速度(Penetration Rate)
- 電気検層結果
- 地質状況
などを総合的に判断して決定します。
地下に複数の帯水層がある場合でも、必ずすべての層から取水するわけではありません。
必要な水量や水質、井戸の長期的な安定性を考慮し、一部の帯水層だけを利用する場合もあります。

上の図において、ケーシングプログラムは一番左の図です。簡単に説明すればどの深度にスクリーンをいれるかを示しています。
その右側の赤いジグザグの線は、貫入速度の図です。掘削深度が早かった部分は砂や砂利の層の場合が多いので1つの参考情報になります。その右側は掘削中に上がってきた掘削サンプルの観察結果です。どんな土・泥・砂などで構成されているかを記録しています。何列か空白を開けて青と赤の線で表現しているのは、ガンマ線の測定結果です(今回はここまで踏み込んでいませんので、割愛します)。その右側、最後の赤と青の線が電気の通りやすさを示しています。赤や青の線が右側にピンと跳ねているところに、帯水層があると考えます。
上記のすべての情報を総合的に判断して最終的にケーシングプログラムを作成します。
5. ケーシング・スクリーンの設置
ケーシングプログラムに基づき、井戸内部へ配管を設置します。
地下水を取り込む部分にはスクリーンを設置し、それ以外の部分にはプレーンケーシングを使用します。
スクリーンは、地下水を取り込みながら、砂などが井戸内部へ流入することを防ぐ役割があります。

6. 砂利・ベントナイト・セメントミルクによる仕上げ
ケーシングを設置した後、井戸の周囲を適切に仕上げます。
スクリーン周辺には砂利(フィルターグラベル)を充填します。
これは、
- 地下水を取り込みやすくする
- 細かな砂の流入を防ぐ
ためです。
また、井戸の外側にはベントナイト(粘土)やセメントミルクを使用します。
これには、
- 地層間で水が移動することを防ぐ
- 望ましくない地下水の混入を防ぐ
という役割があります。
さらに、地表部分は特に重要です。
井戸の上部は厳重にシールを行い、雨水や地表の汚染された水が井戸内部へ入り込まないようにします。
これは、単に井戸水の品質を守るだけではありません。
地表から汚染物質が地下へ入り、地下水そのものを汚染することを防ぐという意味でも重要な工程です。

7. 井戸洗浄
掘削直後の井戸内部には、泥水掘りの泥も含めて、泥や細かな砂などが残っています。
帯水層の砂や砂利の間にも泥がたまってしまっています。
そのため、コンプレッサによって圧縮空気をどんどんを圧入することで、井戸内部を空気でぶくぶくさせながら、井戸内部を洗浄します。空気が泥や砂のかすを巻き上げながら、水中を上ってきながら、これらを井戸の外に吐き出します。
この工程によって、
- 掘削時の泥を除去する
- スクリーン周辺の目詰まりを改善する
- 井戸本来の能力を引き出す
ことができます。

8. 揚水試験で井戸の能力を確認する
井戸が完成しても、「水が出た」というだけでは利用できません。
重要なのは、目的に合致する必要な量の水を継続的に取れるかどうかであり、その確認を行うのが揚水試験です。
揚水試験には予備揚水試験、段階試験、最大揚水試験、回復試験という試験があります。
段階揚水試験
揚水量を段階的に変化させながら、
- 地下水位の低下
- 揚水量との関係
を確認します。
これにより、その井戸がどの程度の揚水に耐えられるかを判断します。
最大揚水試験
実際の利用条件を想定して、一定時間連続して揚水します。
これにより、
- 最大どの程度の水量を汲めるのか
を確認します。
回復試験
揚水を停止した後、水位が順調に回復するかを確認します。
この結果から、井戸の能力や適切な利用水量を決定します。
9. 水質試験
水量の確認と合わせて、水質試験を行います。
地下水は地表からの影響を受けにくい特徴がありますが、地下の地質によって成分が含まれる場合があります。
代表的なものとして、
- 鉄
- マンガン
- ヒ素
- 塩分
- 硬度成分
などがあります。
水質によっては、除鉄・除マンガン設備などの水処理設備が必要になる場合があります。
10. 上部工
最後に地上部分の設備を整えます。
例えば、
- 水中ポンプ
- 配管
- 制御盤
- 井戸設備周辺の保護設備
などを設置します。
ここまで完了して、初めて実際に利用できる井戸になります。
掘削しても期待した水が得られなかった場合
井戸掘削では、事前に調査や探査を念入りに、丁寧に行ったとしても、100%必ず成功するとは限りません。
例えば、
- 水が出ない
- 目的のために必要な水量が得られない
- 水質が利用目的に合わない
という場合があります。
その場合の対応は、目的や状況によって変わります。
追加掘削を行う場合もあれば、利用目的を変更して観測井として利用する場合、または埋め戻しを行う場合もあります。掘削後の対応によって必要な費用も変わるため、井戸掘削では事前にリスクも理解しておくことが重要です。
また掘削段階で水が出なければ、そこで作業を終了する場合、その井戸についてはそこまでとし(費用もそこまでの分だけがかかる)、次の代替の場所の井戸掘削を行うこともあります。
まとめ
井戸掘削は、単純に地下へ穴を掘る工事ではありません。
掘削前の綿密な調査結果をもとに、地質状況を確認しながら掘削を行い、電気検層や各種データから井戸構造を設計し、水量・水質を確認して初めて利用できる井戸になります。
特に水道用や施設用の井戸では、安定して安全な水を供給できることが重要です。
井戸づくりでは、掘削技術だけではなく、地下の状況を正しく判断し、適切な井戸構造を設計する技術が欠かせません。
