はじめに
昨今の全国的な水道管の破裂事故などのニュースや、「水道管の老朽化」というキーワードから水道配管に対する世間的な関心も高まっていますが、浄水場で様々な処理によってきれいになった水を、各家庭にきちんと届けることもまた重要です。
一般的な水道なら老朽化の問題はあるとはいえ、きちんと設計され、施工されていますが、小規模水道だとそうもいかない事例も時々目にします。
本日は、そのような「配水管」にまつわるいくつかの問題点を事例を挙げながら解説してみたいと思います。
M市の事例
ある日、問い合わせを受けてM市に水道の調査に伺いました。
この地区では100名ほどの方が暮らしておられる地域で、歴史は古く、戦後すぐに整備され、その後この地区の住民によって、維持されてきた水道です。
とても良い水源をお持ちで、水量は豊富。
水質も晴れの日はほとんど濁りもせず、雨が降ると若干濁る程度。害獣の増加に伴い、大腸菌や一般細菌は検出されることもあるが、塩素注入によって、健康被害のない水道を提供しているとのことでした。
一方、問題なのは、時間帯によって水道が届きにくいことがあること。
それも1割未満とかではなく、4割程度の住民が朝夕の水道ピーク時に水道が届きにくいとのことでした。
話を伺い、このエリアを回りながら確認したところ、いくつか関係しそうな問題点が見つかりました。
- 配水池がない
- 配水管は主に65AのTSVP
- 空気抜き弁は数か所にあるが、泥吐弁はない
その他、滅菌設備はあるものの浄水設備がなかったり、と問題はありましたが、今回は排水システムの問題に絞って、技術的な解説をしたいと思います。
一般的な配水システム
配水システムとは、通常、一般的には浄水場で作った水を、給水エリアの各家庭に必要な時に十分に水が届くようにと考えられて作られたシステムのことです。
例えば、一般的な家庭を考えると、朝と夕方が水の使用のピークで、だれもが寝静まる夜中は水の使用量は圧倒的に落ちるものです。
逆に言えば、この朝と夕方のピークの時間帯に必要な水が届けられるように、通常の水道では設計されています。
まず給水に重要なのは、配管径と圧力。一定の圧力の下で、ピーク時の水需要に応える十分な水が通る配管のサイズになっています。
逆に浄水場はというと、朝・夕のピーク時の水需要に合わせた造水能力を備えているのではなく、ピークの時もそうでない時も合わせた1日分の水の量を24時間で均等に水を作るような設計になっています。
これはそれが効率的で経済的であるからなのです。
もう少し話を進めると、浄水場の後に通常設置される配水池では、中に貯水されている水量はピーク時間帯の直後は水量が減り、その後のピークが落ち着いた時間帯で徐々に水量を回復するような設計となっています。このように、配水池がバッファとなるとともに、ピーク時の水需要に十分な水を送り出す能力がある根拠となっています。
まとめると、水源から浄水場、配水池までは、1日の浄水量を平均的に処理し、配水池から各家庭まではピーク時の水需要に応える配水能力を有しています。東京都水道局のHPの水道システム概念図がわかりやすかったので、参考までに掲載いたします。

M市の問題点解説
一般的な水道における配水システムを紹介したところで、M市の配水システムがなぜ問題なのかを解説していきます。
配水池がない
M市には配水池がありません。水源で取水した水をそのまま配管で各家庭に配水しています。そのため、朝・夕の水道のピークの時、水源で最大需要に耐えられる水を取水できない場合、水が足りません。
配水池は配水側の需要のピークに合わせた配水を可能とするため、安定した配水には不可欠な設備です。
配水池の容量は一日分の給水量をベースに、そのエリアの人口を加味して一般的に決められます。人口100人のM市のこのエリア場合、一日分の水量を蓄えることが必要となります。
空気弁、排泥弁がない
空気弁は配管内にたまった空気を排気し、排泥弁は配管内にたまったなどの沈殿物を圧力水とともに吐き出させる装置です。M市には、空気弁は一部確認できましたがすべての必要な場所に設置されていたか不明であり、排泥弁も同様です。

それぞれ仮に適切な配置がされていなければ、それぞれの場所で空気や泥だまりができ、本来に流れるべき水が流れにくくなります。
- 空気弁:配管ラインの頂部にたまりやすい空気を抜いてあげることで、スムースな水の流れを促します。必要な場所に設置されないと最悪、大きな空気だまりが発生し水が流れなくなることもあります。
- 排泥弁:配管ラインの底部にたまりやすい砂や泥などの堆積物を定期的に抜いてあげることで、スムースな水の流れを促します。必要な場所に設置されないと最悪、配管が堆積物で閉塞してしまい水が流れなくなることもあります。
配管ラインを確認し、原則的に頂部には空気弁、底部には泥吐弁を設置しますが、その周辺の他設備の設置状況や流速なども加味しつつ、最終的な設置個所を決定します。
減圧槽/減圧弁がない
M市の水源と最も低い給水地点の標高差は110mあります。一般的な設計では標高差は70mにとどめます。
そのために、それより標高差が大きい場合は、適切な位置に圧力を待機開放するために、減圧槽(または減圧弁)というものを設置しますが、M市にはその減圧槽が設置されていませんでした。
配管材の耐圧は100mまでは耐えることができ、多少の超過では持ちこたえたのかもしれません。
また、標高差の圧力が水が流れているときはそのままかかることはなく、摩擦エネルギーを差し引いた「動水圧」として作用するため水が流れている間は110mよりは少ない水圧となっていました。ただ、それで破損せず持っていたのかはわかりません。
一方、配水管網では水撃という現象のことも加味する必要があり、詳しくは今回は説明しませんが、この現象の際は水圧がプラス(+)の方向に作用するので、110mを超えていた可能性もあります。
- 減圧槽:高所から低所への配管ラインの途中で、配管内の圧力を開放し大気圧に戻すための小さな水槽です。
- 減圧弁:高所から低所への配管ラインの途中で、配管内の圧力を一定レベルまで下げる装置です。
水頭70m以下となるように減圧装置を設置することが原則ですが、減圧することでその先に水が届かない場所がでるようなケースがあります。このような場合は、配管を分岐してそれぞれで減圧装置の設置場所を変更したり、片方は耐圧間を使用するなどの検討が求められます。
副配水池がない
副配水池は、小規模水道において必ずしも必要な施設ではありません。
必要な場所に設置することで、そのエリアの給水能力を強化することができます。
設置の目的は、配水池とほぼ同じです。配水池から離れたエリアで、一定量の給水量が必要な区域があればそこへのピーク時の給水量を確保するために、その近くに副配水池を設けることで、ピーク時の給水量を安定させることができます。配水池同様、副配水池への貯水は昼間や夜中に可能です。
このエリアで副配水池が必要かどうかは、配水池からの距離や途中の配管口径、そのエリアの給水量などをきちんと調査したうえで検討する必要があります。
水理計算書がない
M市のもっとも大きな問題点は水理計算書がないことです。

水理計算とは、水を流し始めた時からの配管の口径、距離、標高や分岐地点での水量の分割割合をつぶさに計算書に落とした、各地点の動水圧や静水圧、水撃を考慮した際の圧力などを確認する書類です。
これにより水が届きにくい状態が特定の場所で発生していないか。逆に、水圧がかかりすぎて破損しそうなエリアがないかを確認しつつ、問題となりそうな場所がなくなるまで配管口径のサイズの調整や、減圧槽、副配水池の設置検討を行う書類です。
水理計算をきちんと実施していれば、水が届かない地点は限りなく減らせますし、逆に漏水が発生しやすいエリアもつぶせます。
逆に言えば、水理計算書を作成せずに、こんなもんだろうという感覚で配管布設を行っていると、無駄に大きな配管を埋める工事を行うというような経済的損失が発生するリスクが増えます。
水理計算書がないということは、いわば『設計図のない増改築』を繰り返しているようなものです。どこに負担がかかっているか分からないため、一箇所を直すと別の場所で破裂が起きる……といった『モグラ叩き』のような状態に陥るリスクがあります。
M市の場合の解決策
「不足しているものを設置しなければなりません」と言葉でいうのは簡単ですが、実施には莫大な費用も時間もかかります。
問題点は多くありますが、それがこのエリアの水道供給でどのくらいクリティカルな問題なのか、また解決によるインパクトがどの程度なのかをきちんと評価したうえで、優先順位をつけて対応する必要があります。
そのためには、その判断基準となる水理計算を実施する必要があります。
M市では水理計算もその根拠となる配管図もない状態でしたので、その調査を実施し、既存の状態での水理計算を行い、その上で優先順位をつけて各種対策を実施することを提案しました。
しかし、水理計算を実施したと仮定して、この地域の水が届きにくい問題を解決するには、以下の対策の優先度が最も高かったのではと思っています。
- 配水池の設置と副配水池の効果的な設置
- 減圧槽/減圧弁の設置
これにより、朝夕のピーク時間の水需要に少しでも答えつつ、圧力過多で漏水につながりやすい場所を軽減することができます。
既存の水道システムに問題がある場合、その原因を一緒に探り解決策を提案します
現地調査から調査結果の評価、対策案の検討まで実施可能です。
その過程では以下のような地元住民にご協力いただける活動項目も以外にたくさんあり、予算が限定的な地域でもそれらにご協力いただけることにより調査費を下げることが可能です。
- 既存の配管布設場所、分岐場所の確認と図面化(まずは手書きで大丈夫です)
- 上記の既存配管の口径の図面への落とし込み(まずはあやふやでも大丈夫です)
- 上記既存配管のうち、数か所での試掘実施による、配管有無の確認、配管口径、配管種類の確認
- GISでのデータ整理(最初は戸惑いますが、慣れてくれば意外に進められるものです)
また業者による調査だけでは、その土地のことを正確に調べるにはかなりの時間と労力がかかってしまいます。地元の皆さんにしか分からない『配管の歴史』を教えていただく。それが、結果として無駄な調査費を削り、大切な予算を本当に必要な工事に回すことにつながります。
もし、現在、何らかの水道の問題に困っていのでしたら、やみくもに対策を実施するのではなく、まずはきちんと情報を収集し、水理計算などの分析を行うことで、今わかっている問題点の原因をまずは明確にしませんか。またこの過程で隠れている別の問題点に気づけることもあります。
それらを総合的に確認しながら、各種対策を優先順位をつけて対応することが結果的に、トータルコストを抑えながら水道の状況の速やかな改善につながると確信しています。
