大規模災害時、私たちのライフラインである「水」が止まったらどうなるでしょうか。東京都では、そうした事態に備え、都内各所に「災害時給水ステーション」を整備しています。しかし、この給水ステーションが、本当に私たちの「命の水」を供給し続けられるのか、その実力と限界について、深掘りしていきます。

東京都の災害時給水ステーションとは?
東京都の災害時給水ステーションは、大規模な地震などで水道施設が被災し、断水が発生した場合に、都民の皆様へ応急給水を行うための拠点です。主要な浄水場や配水場に設置されており、強靭な耐震構造を持つ給水拠点として整備されています。
場所や貯水量などの情報は、東京都水道局のWEBページや、専用の水道局アプリで確認することが可能です。これらの給水ステーションに貯水されている水は、常に新しい水と入れ替えられているため、常に新鮮な水が確保されています。
驚くべき試算:あなたの街の給水ステーション、何日分?
では、この災害時給水ステーションに貯えられている水は、実際にどれくらいの日数分に相当するのでしょうか。
普段の生活で私たちが一人あたり1日に使用する水の量は約250Lです。しかし、災害時には、厚生労働省の資料によると、一人が最低限の生活を送るために必要な水の量は1日あたり25Lとされています。これは、命と健康を維持するための最低限の水量です。
今回、この「1人1日25L」という基準を元に、東京都水道局が公表している災害時給水ステーションの貯水量と、各区・各市の最新の2025年人口データを当てはめて、独自に試算を行いました。
その結果は、「やばかった」の一言に尽きます。
区によって貯水量の多い・少ないはありますが、多くの区において、給水ステーションの水量では1日、2日も持たないという衝撃的な事実が明らかになりました。そして、ほとんどの区で、1週間さえも持ちこたえられないという結果が示されたのです。

上記の試算表は公開していますので、気になる方は自分の住んでいる区のステーションは何日分か、確認してみてください。
現実の壁:誰もが25Lを汲めるとは限らない
もちろん、この試算はあくまで「理論上」のものです。
- アクセスと運搬の困難さ:災害時給水ステーションから自宅まで遠い世帯、給水容器(タンクなど)を持たない世帯、家族が多い世帯、高齢者や障がいのある方などの弱者にとって、毎日1人25Lもの水を汲みに行き、運ぶことは極めて困難です。そのため、実際には1人25Lを汲めない人が大半となる可能性が高いでしょう。
- 「持ち帰り」の限界:私自身、給水用のタンクを所有し、自宅から最寄りの給水ステーションまで約1km弱と比較的近い場所に住んでいますが、それでも毎日25Lもの水を、徒歩で汲みに行き続けることは、現実的に難しいと感じます。
一方で、近隣でかつ容器を持っている人や、車でアクセスできる人*は、1人25L以上を汲んで帰るケースも出てくるかもしれません。
結局のところ、災害が実際に起きてみないと、災害時給水ステーションがどこまで機能し、供給を持続できるかは不透明です。しかし、その供給能力が「限定的であることは確か」と言わざるを得ません。
*大地震直後は、環状7号線より内側の車両の通行は制限がかかり、段階的に解除されます。
能登での現実:水がない生活の過酷さと真の困りごと
私は、2024年元旦に発生した能登半島地震で、発災直後から現地に乗り込み、半年間、被災地での支援活動に携わりました。その間、金沢市まで戻って疲労を癒すこともありましたが、支援者という立場上、半年間ほぼ「水を使わない」過酷な生活を強いられました。
元旦の地震ということで、しばらくは冬で気温が低かったため、汗をかくことも少なく、2、3日入浴できなくても体はそれほど不快ではありませんでした。しかし、髪の毛はべたつき、気持ち悪さを感じました。そして、東京に戻る直前の6月後半になると、汗をかく季節となり、水が使えない不便さがより一層身に染みました。1人1日25Lという水量は、人間が健康的な生活を送る上で、本当に「最低限」なのだと痛感しました。
現地では、飲み水はペットボトルという形で豊富に供給されていました。避難所には大量のペットボトルが届き、飲み水に困る人はほとんどいませんでした。
しかし、あるおばあさんがこぼした言葉が忘れられません。 「いくらでも持って帰って使っていいというけれど、おばあさんにはペットボトルを持って帰るのも一苦労で、毎日はやってられないよ…」
また、私が担当していた入浴支援の現場では、ある避難所で入浴を控えている方が多くいたため、理由を尋ねると、こんな答えが返ってきました。 「洗濯ができないので、入浴を控えています。」 これは、3月も後半になり、暖かい日も続くようになってきた頃の話です。飲み水はあるのに、衛生環境を保てないことへの深刻な悩みがそこにはありました。
能登での経験から、災害時に人々が最も困っていたのは、飲料水以上に「入浴と洗濯」だったと強く感じています。
あなたの水の備えは十分か?
現在、私は起業し、日本の水道が抱える課題、そして災害時の水の課題にたいし、日々考え、行動しています。
東京都水道局の大地震への備えは1つ1つ対策を打っていて、見事だと言わざるを得ません。それでも、災害時給水ステーションに頼り切るだけでは、特に長期的な断水には対応しきれない現実があります。能登の経験が示すように、飲み水は確保できても、生活用水がなければ生活の質は著しく低下し、健康被害にも繋がりかねません。
今こそ、私たちは「災害時は自分自身で生活用水を確保する」という意識を持つ必要があります。