第一回:水道100年の達成と“新たな水道サービスの始まり”【12連載】

「普及率98%。これまで見事に“ニーズに合わせて伸びてきた”日本の水道──ところが今、状況変化に伴いニーズそのものが激変している。」

日本の水道は、その長い歴史の中で、私たち国民のニーズに合わせて見事な発展を遂げてきました。しかし、時代とともに環境が変化し、かつての「ニーズ」そのものが激変している今、水道は新たな挑戦の時を迎えています。本連載では、この転換期にある日本の水道の未来を深掘りします。

1. 黄金期:状況に合わせて拡大し続けた100年

日本の近代水道が始まってから約100年。その歴史は、まさに「課題→整備→克服」という成功サイクルを繰り返しながら、拡大を続けてきた黄金期でした。日本の人口の増加に伴い、給水人口のグラフが示すように、1920年代から2020年まで、その給水人口は右肩上がりに拡大してきました。

特に高度経済成長期には、都市化と人口増加に対応するため、急速ろ過方式の導入、大口径管の敷設、そしてダム建設ラッシュが起こりました。これにより、給水人口普及率は98%に達し、世界的に見ても極めて低い約5%という漏水率、そして高品質な水質を達成しました。これは、世界に誇れる日本の水道の偉業です。

日本の水道普及率、給水量の推移グラフ(日本水道協会より)
水道普及率・給水量の推移(日本水道協会より)

2. パラダイムが変わった:数字が示す3つの急転

しかし、その成功モデルを支えてきた前提が、今、大きく変化しています。数字は、日本の人口増加率が伸び悩み減少に転じたころから、日本の水道が新たなパラダイムへと転換していることを明確に示しています。

  • 人口・給水量のピークアウト:日本の給水人口は2010年をピークに、給水量は1994年にピークアウトし、一人あたりの水使用量も過去30年で約30%減少しました。
  • 老朽管比率の増加:全国の水道管総延長約67万kmのうち、法定耐用年数(40年)を超過した老朽管の比率は令和2年度で約20%(約13万km)にまで上昇しています。
  • 気候変動による“多発災害時代”へ:近年、線状降水帯による豪雨や長期干ばつなど、気候変動の影響で水害リスクが激甚化・多発化しています。

これらの急転する数字は、かつての「人口増・給水量増」という前提が崩れ去り、水道事業のあり方そのものの見直しが不可欠であることを示しています。

「いま知りたい水道」厚生労働省パンフレットより抜粋

3. ミスマッチが生むトラブルが顕在化

かつての人口増に基づく「拡大」を前提とした水道システムと、現在の人口減少傾向時代の「縮小・変化」に対応できていない現状との間に、大きなミスマッチが生じています。その結果、様々なトラブルが顕在化しています。

  • 漏水・断水事故の増加:老朽化した管路や施設の劣化により、全国で年間10万件もの断水事故が発生し、断水発生率は20年間で30%も増加しています。例えば、福岡県北九州市では大規模な管路破裂事故が、静岡県熱海市では長期間の断水が発生しました。
  • 更新費用と料金収入のギャップ:老朽管の更新には年間約1兆円もの費用が必要とされていますが、給水量の減少に伴う料金収入の減少により、そのギャップは広がる一方です。

これは、「人口増・給水量増」を前提とした従来の水道整備方針が限界を迎え、現在の人口減少や水使用量の変化に合わせた水道整備方針への転換が喫緊の課題であることを位置づけています。

4. 希望:発想をアップデートすれば解ける

日本の水道が直面する課題は、決して乗り越えられない壁ではありません。私たちはただ、人口増から人口減少時代に移り変わったことを1つの原因とする、新たな時代が来ていることに「気づいていないだけ」かもしれません。気づきさえあれば、それに合わせて発想をアップデートし、水道の在り方を変えるということは難しいかもしれませんがシンプルな考え方です。

具体的なアイデアは多岐にわたります。

  • 都市部と郊外部の水道の切り分けの始まり:地域ごとの特性に応じた最適な水道システムの構築。
  • CAPEX/OPEXの低減のため、低コスト技術の積極的採用:砂利・砂ろ過等の簡素な浄水システムや分散型MF/UF(精密ろ過/限外ろ過)など、初期投資(CAPEX)や運営費用(OPEX)を抑える技術の導入。
  • OPEX低減化のための管理費抑制:住民による日常的な管理を行いつつ、デジタル遠隔監視の導入により安全性を担保するなど、維持管理コストを抑制する仕組みの検討。

これらのアイデアは、決して夢物語ではありません。発想を転換し、具体的な行動に移すことで、日本の水道は次の100年に向けた水道時代を築くことができるのです

5. まとめ & 次回予告

日本の水道は、これまで人口増に合わせて「増設」、「配管を伸ばす」ことで成長を遂げてきました。しかし、人口減少時代に突入し状況が変わった今、その時代は終了しました。これからは、水道の適正配置、適正規模化、そして低コスト化を真剣に考えることで、水道は次の100年を生き延び、新たなサービスとして進化できると確信しています。

この連載を通して、皆様と共に水道の未来を考え、その変化の最前線を「自分事」として捉えるきっかけとなれば幸いです。

▶︎ #2 老朽管ショックと給水エリアの適正化

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