都市を焼き尽くす火災リスク ~あなたの街で火災が起きたら~

大都市に暮らす私たちにとって、地震の次に最も警戒すべき災害の一つが「大規模火災」、特に「市街地延焼火災」です。阪神・淡路大震災や能登半島地震で目の当たりにしたように、一度火の手が上がれば、あっという間に広がり、都市全体を焼き尽くしかねません。しかし、このリスクに対して、私たちは十分な備えができているでしょうか?

もし、あなたの街で火災が起きたら、5分以内に火が迫ってくるかもしれません。私たちはこの事実から目を背けることなく、来るべき時に備える必要があります。

序章:火は”掛け算”で都市を焼き尽くす

地震による揺れそのものの被害に加えて、大都市では「地震・停電・断水が揃う」ことで、小さな火災がたちまち”大きな火災”へと変貌します。まるで災害の被害を掛け算するように、火災の猛威は増大するのです。

例えば、阪神・淡路大震災では、同時多発的に285件もの火災が発生しました。これは、通常の火災とは異なり、消防の対応能力をはるかに超える規模です。東京都在宅避難シミュレーションの調査では、最大時で6,100件の火災が発生する想定もあり、消防防護カバー率はわずか16%に留まります。これは、出動できる消防車1,000台に対し、約6,100件の火災が発生するという由々しき事態を示唆しています。

ただし、この火災は私たちの震災時の注意と準備次第で大きく減らすことが可能です。その内容を記しますので、火災予防について一緒に考えてみませんか?

1. フェーズ1:0-60分 ~生活火災が火元~

災害発生直後の0~60分は、まさに「初期消火」が命運を分ける時間帯です。このフェーズでは、日常生活に潜む火元が、地震によって災害火災に転じる危険性が最も高まります。

主な火元は、調理中の火や石油ストーブなどによる「調理火災・石油ストーブ火災」です。地震の揺れでコンロの火が燃え移ったり、ストーブが転倒したりすることで、火災が発生します。この「繰り延べ火災・建物倒壊」は、特に高齢化が進む地域において、その後の延焼拡大リスクを飛躍的に高める要因となります。

この段階での初期消火が、大規模火災を防ぐ上で最も重要です。あなたのご自宅で火災が起きたら、まずは冷静になり、消火器やお風呂の残り湯などを活用した初期消火を試みてください。 また、お使いのリチウムイオン電池が地震後に家具の倒壊で破壊や変形などの影響をうけていないか念のために確認してください。しばらくたって発火する危険があります。

地震直後は、まずは身の回りで火がついていないか、焦らずに冷静に点検するようにしましょう。

2. フェーズ2:1-12時間 ~余震火災&“火の消し忘れ”~

災害発生から1~12時間の間は、一度は火を消したものの、避難所へ移動した後に再び火災が発生する「再燃火災」や、地震の混乱の中で火の元を確認しきれなかったことによる「消し忘れ火災」が主なリスクとなります。

1995年の阪神・淡路大震災では、火災全体の約24%が再燃火災だったというデータもあります。また、避難行動が優先される中で、余震による建物の倒壊や、家具の転倒などによって新たな出火源が生まれる可能性も無視できません。

このフェーズでは、個人だけでなく、行政による広報や地域での声かけを通じた「火気再点検・余震留意」が重要となります。 自宅や職場を離れて避難する際は、暖房などの消し忘れがないか必ず確認し、原則として電気ブレーカーを落としてからの避難を徹底しましょう。

3. フェーズ3:復旧期 ~通電・ガス再開火災~

災害発生から72時間以降、そして数ヶ月にわたる復旧期には、「通電火災」や「ガス再開火災」といった、一見意外に思える火災リスクが高まります。

  • 通電火災:地震による停電が復旧した際に、破損した電気コードや倒れた家電製品に電気が流れ、ショートして出火する火災です。東日本大震災では、286件もの通電火災が発生しました
  • ガス再開火災:地震でガス管が破損したままガスが再開されることで、ガス漏れが起こり、引火して火災が発生するものです。熊本地震では、復旧後のガス再開時に51件の火災が発生しています

これらの火災を防ぐためには、避難前の電気ブレーカーの遮断を徹底することがまず大事です。電気やガスが復旧する際には、業者から避難所や一般の災害放送を通じてアナウンスがありますので、その機会に慎重に、業者と歩調を合わせて再開対応をしましょう。

4. その他の火元

上記3つのフェーズ以外にも、大都市の災害時には様々な火元が考えられます。

  • 太陽光パネルの異常発熱:破損した太陽光パネルが異常発熱し、火災の原因となることがあります。パネルを設置されている方はご留意ください。
  • 発電機排気熱・放火:災害時の電力不足から自家発電機を使用するケースが増えますが、その排気熱による引火や、混乱に乗じた放火なども警戒が必要です。

これらの火元にも注意を払い、適切な対策を講じる必要があります。

5. 過去3大ケーススタディ:大都市の教訓

過去の大都市で発生した大規模災害では、火災が甚大な被害をもたらしました。

画像

これらの事例から、焼失戸数、消防力不足、風速など、複合的な要因が火災被害を拡大させることを学ぶことができます。特に、木造密集地と強風が重なることで、火災は制御不能な状態に陥りやすいことを示しています。

6. 私たちにできる7ステップ(初期消火&生存戦略)

都市の火災リスクから身を守るために、私たちに何ができるでしょうか。個人でできる7つのステップを提案します。

  1. 「備える:感震ブレーカー」:地震の揺れを感知すると自動的に電気を遮断し、通電火災を防ぎます。(費用:約2,000円 / 所要時間:設置10分)
  2. 「持つ:消火器」:初期消火の強い味方です。いざという時のために、手が届く場所に設置しましょう。(費用:〜3,000円)
  3. 「用意する:消火用バケツ」:断水時でもお風呂の残り湯や貯水槽の水で初期消火ができるよう、バケツを準備しましょう。(費用:〜1,000円)
  4. 「訓練する:避難シミュレーション(定期的な階段利用)」:万が一の避難経路を事前に確認する意味で、たまには運動不足解消もかねて階段を使うのもいいかもしれません。(所要時間:10分)
  5. 「確認する:身近な水源」:普段の散歩や通勤通学の途中で、身近な防火水槽や消火栓の位置を確認しておくとよいでしょう。見あたらないようなら自治体の防災マップなどに掲載されていますので、そちらを確認してみるとよいと思います。(費用:無料 / 所要時間:20分)
  6. 「話す:災害時の備え」:近所に身近に話せる人がいれば、災害時の火災の備えについてたまに話しておくとよいでしょう。

7. “準備していと後悔する”ツール3選

初期消火や避難を助ける、個人で準備しておきたいツールを3つご紹介します。

  1. 消火器(必須):家庭で使える小型の消火器。初期消火に絶大な効果を発揮します。【Amazon】
  2. 15Lバケツ:断水時の消火用水や生活用水の確保に役立ちます。おふろの残り湯を次のお風呂まで残しておくという対策も合わせて行うと効果的です。【Amazon】
  3. 消火スプレー:手軽に使える簡易消火器。特に天ぷら油火災などに有効です。余裕があれば備えておきましょう。【Amazon】

まとめ

都市を焼き尽くす火災リスクは、地震と複合することで極めて悲惨な状況を生み出します。しかし、発生から60分での初期消火が最も重要で、その後の復旧期に通電・ガス再開による火災を防ぐことができれば、都市火災の拡大は防げます。

よかったらシェアください!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次