1. 「省人化」の第一歩は、現場に行かずに状態を知ることから
水道施設の維持管理において、「巡回点検」はこれまで欠かせない業務でした。しかし人材不足が深刻化する中で、この巡回が現場担当者の大きな負担になっています。特に小規模水道では、専任の管理者を置くことが難しく、他の日常業務を抱えながら定期的に現場へ足を運ぶという体制が続いています。
この状況を打破するための手段として、IoTとクラウドを活用した遠隔監視が注目され始めています。
省人化の取り組みにおいて、多くの人々が思い浮かべるのは「遠隔でバルブを操作する」「ポンプを自動制御する」といったアクチュエターの制御です。しかしその前に、まず「施設の状態を正確に把握する」という段階を確実に踏むことが、成功への近道です。
制御は、正確な状態把握があって初めて意味を持ちます。何がどういう状態にあるのか、知りたい情報をどう網羅して把握するのかということが、現場でのトラブルを事前に抑えるために必要なのです。まずは「見える化」という最初のステップが、今後の持続可能な省人化の確実な基盤となります。
2. 浄水場・配水池におけるIoT実装の「7大具体例」
今回は、そのため水道システムのうち、浄水場および配水池に絞ってどんなセンサーでどんな情報を得ることができるのか、ざっくりと見ていきます。なんとなくIoTが重要と思っていた方にとっては、なるほどこんな情報を把握できるのか、と小さな驚きがあるかもしれません。でもまずはそのことを押さえることからがIoT活用のスタートです。
① 水量の把握(配水池・原水槽)
配水池や原水槽に現在どれだけの水が蓄えられているかをリアルタイムで把握することは、水道管理の最も基本的な情報です。
圧力センサーや超音波式・パルス式の水位計を設置することで、水深から容量を換算し、継続的なモニタリングが可能になります。一方、リアルタイムの数値変化を細かく追う必要がない設備(塩素タンクなど小容量タンク)では、水位スイッチ(例えば、上限・下限の2点検知)を活用することで、大幅なコスト削減が可能です。「満水になったら知らせる」「空に近づいたらアラートを出す」という用途であれば、シンプルなスイッチで十分に対応できます。用途に応じた機器選定が、導入コストを適正化します。
② 水質の常時監視
水道法が求める日常管理の法定5項目のうちの3項目——色度、濁度、残留塩素——を自動測定する装置の設置が、IoTによる水質監視の出発点です。これにより、異常発生時の早期検知と記録の自動化が実現します。
さらに、pHとEC(電気伝導度)の組み合わせは、水質の異常を間接的に検知するための有効な指標です。原水の性状変化や、処理工程の異常を早期に察知するために活用できます。加えて施設の特性や水源の状況に応じて、DO(溶存酸素)、アンモニア、ORP(酸化還元電位)、UV254(有機物指標)といった項目を拡張することで、より精度の高い水質管理が可能になります。
③ 圧力センサーと圧力スイッチの使い分け
配管系統の管理において、圧力の把握は不可欠です。ここでも「数値で知りたいのか」「閾値を超えたら知らせれば十分か」によって、適切な機器が異なります。
圧力センサーは、配管内圧やろ過器の差圧(目詰まりの進行度)を連続的な数値として可視化します。差圧の変化トレンドを追うことで、洗浄や交換のタイミングを予測的に管理できます。圧力スイッチは、設定値に達した時点でアラートを発報したり、自動逆洗をスタートさせたりするトリガーとして機能します。コストを抑えながら自動化の恩恵を受けるための実用的な選択肢です。
④ 流量センサー(瞬時値と積算値)
流量センサーが取得するデータには、「瞬時流量」と「積算流量」の2種類があり、それぞれ異なる用途で活用されます。
瞬時流量は、今この瞬間にその場所でどれだけの水が流れているかを示します。需要の変動パターンを把握し、ポンプ運転の最適化などに活用できます。積算流量は、一定期間に供給した水の総量を示します。単純にどのくらい配水したかというような情報に使用したり、あるいは漏水の疑いがある場合の検知や、将来的な料金管理のベースデータとして不可欠な情報となります。例えば、原水取水量と配水量の積算値を比較することで、浄水系統内での水のロスを定量的に把握できます。
⑤ 装置の稼働状況・健康状態の把握
ポンプやブロワといった主要設備が正常に動いているかどうかを遠隔で把握することは、突発的な故障への対応を大きく改善します。
運転・停止の状態信号を受信することで、設備が計画通りに稼働しているかを確認できます。これに電流値の監視を加えることで、過負荷状態や異常な電流変動をいち早く検知し、設備の損傷を未然に防ぐことができます。
また、バタフライ弁の開度データを取得することで、制御状態の可視化と、開閉動作の確認が可能になります。これらを組み合わせることで、「設備が動いているかどうか」だけでなく「正常な状態で動いているかどうか」まで、遠隔から判断できるようになります。
⑥ 水流の有無(フロースイッチ)
フロースイッチは、配管内に水が流れているかどうかをON/OFFのシンプルな信号で検知する装置です。数値としての流量計測は不要で、「流れているか・いないか」だけを知りたい用途に適しています。
例えば、ポンプが運転中にもかかわらず流水が検知されない場合は、空転や配管の閉塞を示すサインです。この信号をトリガーとしてアラートを発報することで、設備の損傷を防ぐことができます。コストを抑えながら機器保護と異常検知の両方に活用できる、実用性の高い選択肢です。
⑦ 施設全体の電力量監視
個々の機器の監視に加えて、施設全体で消費している電力量を追うことも、長期的な施設管理において重要です。
電流・電圧のデータを継続的に記録することで、エネルギーの使用パターンを把握できます。通常時と比べて消費電力が増加している場合は、設備の劣化や効率低下のサインである可能性があります。また、省エネ対策の効果測定や、施設のランニングコスト最適化のための基礎データとしても活用できます。施設全体の「健康診断」を電力という視点から行う取り組みと言えます。
3. 取得データのファーストステップ:スマホ・PCへの「見える化」
7つのセンサーから集まったデータは、クラウドプラットフォームを介してスマートフォンやパソコンのダッシュボード画面に表示されます。
この「見える化」が実現すると、担当者の日常業務に具体的な変化が生まれます。朝、スマートフォンを開いて配水池の水位、残留塩素、設備の稼働状況を確認する。数値に異常がなければ、今日は現場に行く必要がないと判断できる。この「行かなくていい日を作る」という変化が、巡回コストの削減に直結します。
また、クラウド上のデータを機械的に判別して、異常かどうかを判断し、アラートをSMSで飛ばすことも可能です。アラートSMSが届いたら、担当者はまずスマホで施設の状態を確認し、いますぐ行く必要があるのか、今やってた仕事の後に行けばよいのか、などの判断が可能となります。
重要なのは、このような処理状態をスマホやPCで「知る・見える」段階を経ることがまず重要だという点です。バルブの遠隔開閉やポンプの自動制御は、見える化の次のステップです。まず「状態を正確に知ること」を確立してから制御に進む。この順序を守ることが、トラブルのない省人化への近道です。
従来、こうした監視システムは制御盤に組み込む形で構築されており、設計・施工のコストが高く、改修も容易ではありませんでした。しかし現在は、IoTデバイスとクラウドサービスを組み合わせることで、既存施設への後付け(レトロフィット)が格段に容易かつ低コストで実現できる時代になりつつあります。
4. 持続可能な小規模水道のインフラ基盤へ
7つのIoT実装例は、今後徐々に既存施設に導入できるようになる現実的な技術です。大規模な改修工事は不要であり、必要なセンサーとクラウド接続の仕組みを加えるだけで、遠隔監視の基盤を構築できるようになります。
リアルタイムに状態を可視化するIoT。この技術が、人手不足時代の小規模水道における「管理負荷の最小化」を実現する、現実的かつ持続可能な道筋の1つとなります。
