雨が降らないとき、水道はどうするのか――ダムだけに頼らない水源を考える

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1. 前の記事では「水が多すぎる」ことを考えた

前回の記事では、線状降水帯などによる豪雨に対して、都市の中に雨水を一時的に貯めるという考え方を書きました。学校・公園・駐車場・商業施設などの地下に貯留施設を分散配置し、普段は雨水利用に、大雨のときには洪水調整に使う。街全体を巨大な雨水調整池として設計するという提案でした。

しかし水について考えていると、まったく逆の問題にも気づきます。雨が降らなければ、水はありません。

大雨と渇水——一見すると正反対の問題です。しかしどちらも、突き詰めれば「水を安定して確保するにはどうすればいいのか」という同じ問いに行き着きます。今回は、雨が降らないときの水の問題を考えてみます。


2. この冬、日本各地で実際に渇水が起きた

2025年冬から2026年春にかけて、日本各地で渇水対策が行われました。国土交通省によれば、全国5地方整備局で渇水対策本部が設置されるという、広域にわたる渇水でした。

その中でも印象的な事例が、高知県を流れる仁淀川の大渡ダムです。年明けから貯水率が低下し続け、1月29日には貯水率がついに0%に達しました。ダムの水が実質的に底をつくという、極めて深刻な状況でした。緊急の対応として別の地点からの取水が行われ、3月3日にはようやく節水措置の全面解除に至りましたが、住民の生活への影響は長期にわたりました。

さらに中部・近畿・四国・九州など複数の地域でも渇水対策が講じられており、今回の渇水が一地域だけの問題ではなかったことがわかります。「ダムの水が減った」という抽象的な話ではなく、貯水率が0%になったダムが実際に存在した。この事実から、今回の記事は出発します。


3. 「雨が降らない」だけなのに、なぜ水道が困るのか

日本の水道の多くは、雨→河川・ダム→浄水場→水道という流れで成り立っています。この中でダムが果たす役割は非常に重要です。ダムは単なる貯水池ではなく、雨が降ったときの水をためておき、雨が降らない時期にも安定して水を供給するための巨大なバッファです。

だからダムがあれば、少しくらい雨が降らなくても水道に影響が出ないのです。しかし逆に言えば、雨が長期間降らなければ、そのバッファも底をつきます。今回の大渡ダムがまさにそういう状況でした。

「ダムをもっと大きくすればいいのでは」という発想が浮かぶかもしれません。確かに、ダムを大きくすればより多くの水をためておくことができます。しかしここで一度立ち止まって考えてみたいのです。


4. ダムを大きくするだけで、本当にいいのだろうか?

ダムには貯水・洪水調節・発電・農業用水・水道用水など多くの役割があり、その存在を否定するつもりはありません。大規模なダムが地域の水の安定に大きく貢献してきたことも事実です。

しかしダムを巨大化するには、膨大な費用が必要です。建設できる場所は地形上限られており、環境への影響・用地取得・建設期間といった問題も伴います。そして何より、どれだけ大きなダムを造っても、雨が降らなければ水は増えません。これが根本的な問題です。

一つの水源を巨大化することだけを考えるのではなく、水源そのものを複数持てないか——そういう発想が生まれてきます。


5. 「水源を多重化する」という考え方

水源の多重化とは、一つの水源に依存するのではなく、複数の水源を組み合わせて使うという考え方です。例えば、河川・ダムを第一水源とし、地下水を第二水源、雨水を第三水源、再生水を第四水源として持つような構成です。

もちろん、すべての水源を飲料水として使う必要はありません。用途に応じて、飲料水・生活用水・工業用水・散水・消防用水などに使い分ければよいのです。一つの水源がいずれかの理由で使えなくなっても、別の水源から補える状態にしておく。これが水源多重化の基本的な考え方です。

国土交通省も、水資源の安定供給について、地下水の適正利用・雨水・再生水の利用などを組み合わせる考え方を示しています。


6. その中でも、地下水は「見えない水源」である

地表には、河川・湖・ダムという誰でも見えるかたちの水があります。しかし地下には、地下水という別の巨大な水のストックがあります。

「ダムが干上がっているとき、地下水はどうなっているのだろう?」という問いは、実はとても重要な問いです。地表水と地下水は同じ降水から供給されていますが、そのタイムラグや安定性は大きく異なります。地下水は雨が降らないときにも、比較的安定して利用できる可能性があります。

ただし、最初から一点だけ強調しておく必要があります。地下水は無限に使えるわけではありません。この前提を忘れると、地下水利用は別の問題を引き起こします。


7. 地下水を使うなら、「汲めばいい」ではない

地下水の過剰利用には、明確なリスクがあります。地下水位の低下・地盤沈下・海岸近くでの塩水化・地下水循環への影響——これらは実際に国内外で発生してきた問題です。

だから「地下水をダムの代わりにする」という発想は危険です。正確には「地下水を管理された第二・第三の水源として使う」という考え方が必要です。使う量・使い方・使う場所を、地下水の状態に応じて管理する。これが持続可能な地下水利用の基本です。

国土交通省は2026年の検討会で、気候変動による地下水涵養への影響や水需要の変化を踏まえた地下水の適正な保全と利用の仕組みを検討し、8月にはその提言をまとめています。国レベルでも、地下水の重要性を改めて見直す動きが出てきています。


8. 「普段は使わない地下水」を持っておくという考え方

地下水を毎日大量に使う主力水源として位置づける必要はありません。むしろ面白い発想として考えてみたいのが、「非常用水源・渇水時の補助水源」としての地下水です。

通常時は河川・ダムから浄水場へ水を送り、水道として供給する。しかし渇水になったとき、地下水からも水を引いて浄水場に合流させ、必要な水量を確保する——こういった使い方です。

通常時に地下水の利用量を抑えることで、地下水位の低下を防ぎながら、渇水時の選択肢を手元に残しておく。「使わないこと」そのものが、渇水への備えになります。


9. しかし地下水には「鉄・マンガン」という問題がある

ここで初めて水質の話を入れます。地下水は一見透明できれいに見えます。しかし透明であることと、そのまま水道水にできることは別問題です。

地域によって、鉄・マンガン・硬度・その他の溶存成分が高い場合があります。特に鉄とマンガンは、多くの地下水に含まれており、そのままでは水道水質基準を超えてしまうことがあります。水が茶色や黒っぽくなり、洗濯物が変色するといった生活上の問題も生じます。

しかしここで「鉄・マンガンが含まれているから地下水は使えない」という結論にはなりません。「では、それを取り除けば水源として利用できるのではないか」という方向で考えることが重要です。


10. 鉄・マンガンは「ろ過だけ」の問題ではない

地下水中の鉄・マンガンを除去するには、まず酸化によって水に溶けた状態から固体の粒子状態に変える必要があります。酸化した鉄・マンガンは粒子として析出するため、その後ろ過で取り除けます。

酸化の方法としては、空気を吹き込む曝気・塩素等による化学的酸化・生物学的酸化などがあります。地下水の水質や処理規模によって適切な方法が異なり、一概に「この方法が最善」とは言えません。

緩速ろ過を含む生物ろ過技術が、地下水の処理に応用されている事例もあります。ただし「緩速ろ過なら地下水の問題を何でも解決できる」とは言いません。地下水の性状に応じて必要な処理を組み合わせる、という考え方が正確です。


11. 安価な浄水の可能性を考える

地下水を水道水として使うために、高価で複雑な処理設備が必ず必要というわけではありません。地下水の水質次第では、曝気による酸化・ろ過・消毒というシンプルな組み合わせで処理できる場合があります。

イメージとしては、地下水→曝気・酸化→ろ過→消毒という非常に単純化した流れです。もちろん実際の水道施設では、原水水質・水量・法令・消毒副生成物等を含めた詳細な設計が必要であり、この流れがそのまま答えになるわけではありません。

しかし「地下水は複雑な処理が必要だから渇水対策には使えない」という結論を急ぐのではなく、地下水の水質に応じて必要な処理だけを組み合わせることで、比較的シンプルな浄水システムで第二水源を確保できる可能性があることを知っておくことは重要です。


12. 地下水だけではなく、「水源の組み合わせ」が重要

地下水に頼りすぎることも、また別のリスクを生みます。重要なのは、一つの水源に依存するのではなく、状況に応じて水源の組み合わせを変えるという発想です。

雨が普通に降っているときは河川・ダム、渇水になれば河川・ダムと地下水の組み合わせ、災害時には地下水と雨水貯留、水需要が増えた場面では再生水の活用——このように、状況ごとに使う水源の組み合わせを変えていくことができます。

国土交通省も現在、気候変動による渇水リスクや災害時の代替水源確保を背景として、地下水の重要性を改めて検討しています。水源の多重化は、政策上でも重要な方向性になってきています。


13. 実は「水源を増やす」だけでなく「水の使い方を分ける」方法もある

この点は短く触れておきます。すべての用途に、高度に浄水した飲料水を使う必要があるのか、という問いがあります。飲料・調理には水道水を使いながら、トイレや散水には雨水や再生水を使う——こうした用途分離によって、飲料水として必要な水量そのものを減らすという方法も存在します。

国土交通省も雨水や下水再生水を水資源として活用する取り組みを進めており、「使う量を賢く減らす」という方向も渇水対策の一つです。この点は別の機会に詳しく取り上げたいと思います。


14. それでも地下水には「管理」という問題が残る

地下水を利用する場合、その利用量に上限があることを知っておく必要があります。どれだけ汲んでもいいのかを把握するためには、地下水位の観測・揚水量の把握・地下水涵養量の把握・地盤沈下の監視・水質監視・周辺井戸との関係の確認が必要です。

地下水を「巨大な地下のダム」として考えるなら、そのダムの貯水量と水の出入りを管理することが不可欠です。国土交通省の2026年の検討会でも、全国的な地下水採取の実態把握と適正利用が重要な課題として挙げられています。地下水の利用は、管理とセットで考えることが前提です。


15. 「非常時地下水」という考え方

ここで興味深い方向性を紹介します。地下水を普段から大量に使い続ける水源としてではなく、渇水や災害時に使えるように維持しておく水源として位置づけるという考え方です。

実際に国土交通省の資料には、災害時地下水利用ガイドラインや、2025年に策定された「非常時地下水利用指針(案)」があります。地下水を「いざというときのための水源」として管理しておくという発想は、すでに政策レベルで検討されているものです。

地下水を使うことより、地下水を使える状態にしておくことが重要——使わないから無駄なのではなく、使える状態を維持すること自体がインフラである、という考え方です。


16. 前の記事との接続——「都市に水を貯める」と「地下水を持つ」

ここでシリーズ全体のつながりを整理しておきます。

前々回の記事では、雨が多すぎるときに都市の中に雨水を貯めるという話を書きました。前回は、雨が降って川が濁ったときに前処理で対応するという話でした。そして今回は、雨が降らないときに地下水などの別水源を使うという話です。

雨が多すぎる→都市に貯める。川が濁る→前処理して対応する。雨が降らない→別の水源を使う。この三つが組み合わさることで、「水が多すぎる問題」と「水が足りない問題」の両方に対応できる水道システムの姿が見えてきます。


17. 「水源の冗長性」という考え方

電力システムでは、発電所が一か所しかない状態は危険だと誰もが知っています。通信でも、通信経路が一本しかないシステムは脆弱です。同じ考え方が水道にも当てはまります。

水道水源が河川・ダムの一系統だけという状態は、渇水や水質事故に対して脆弱です。河川・ダムに地下水・雨水・再生水を組み合わせることで、水源の冗長性を確保する——この発想は、IT分野の「冗長化」と同じ考え方です。一つが使えなくなっても、別のルートで水を確保できる状態にしておくことが、水道システムの強さになります。


18. 「地下水を使う」ことより、「地下水を使える状態にしておく」ことが重要なのではないか

地下水を普段から大量に使い続ける必要はありません。しかし、必要なときに使えるように準備しておくことは重要です。そのためには、井戸の維持・水位の定期観測・水質の把握・揚水量の確認・必要な浄水処理設備の準備といった取り組みが必要です。

使わないから無駄、という発想ではなく、使える状態を維持すること自体がインフラです。普段あまり使わない非常用発電機でも、定期的に動作確認をして燃料を補充しておく——それと同じ考え方が、地下水にも当てはまります。


19. まとめ——「水道を枯れないシステムにする」

渇水への対応を「ダムを大きくする」だけに求めるのは、一つの答えではありますが、それだけでは十分ではないかもしれません。水源を増やし、その水源を利用できる浄水技術を用意しておくことが、これからの水道システムに必要です。

河川・ダムを通常の水源とし、地下水を渇水時のバックアップとし、雨水を都市内貯留・生活用水に活用し、再生水を非飲用用途に使う——こうした役割分担によって、どれか一つが使えなくなっても別の水源でカバーできる体制を作っていく。

水道の強さとは、一つの巨大な水源を持つことではなく、いざというときに別の水源へ切り替えられることなのではないでしょうか。

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