海外水プロジェクトの教訓。機材調達における「代理店網」という死活問題と、持続可能な施設設計

目次

1. スーダン機材調達案件の概要と目的

2008年から2013年にかけて、私はスーダンの水プロジェクトに専門家として携わっていました。

案件の目的は、スーダンの水質分析能力の強化です。その活動の中で日本から水道管理に必要な各種機材を調達してスーダンに納め、現地の技術者が自立的に水質管理を行える体制を整えるというミッションがありました。

私が担当したのは、水質分析にかかる機材の選定と調達です。pH計、濁度計、残留塩素計など、水質管理に不可欠な各種装置について、複数メーカーのスペックを丁寧に比較し、現地での使用環境、耐久性、コストのバランスを総合的に判断しながら選定を進めました。

慎重に検討を重ね、業者との交渉も終わり、機材調達は完了したはずでした。しかし後になって、私は自分が一つ重大なミスを犯していたことに気づきます。


2. 失敗の本質:サプライチェーンの欠落

そのミスとは、選定したpH計メーカーのスーダン国内における現地代理店が存在しないことを、確認していなかったことです。

pH計のプローブ(電極部分)は消耗品です。使用頻度や保管環境にもよりますが、数年で寿命を迎え、交換が必要になります。そのタイミングで代替品を現地で購入できなければ、装置は動かなくなる。水質分析能力の強化というミッションそのものが、部品一つの調達問題によって頓挫するリスクがありました。

スペックと価格の比較には相当な時間をかけていました。しかし「納品した後、その装置を誰がどうやって維持するか」という視点が、決定的に抜け落ちていたのです。

開発援助の文脈では、「ハードを入れて終わり」という案件が長年問題視されてきました。立派な施設が建設されても、維持管理の体制が整わないまま放置され、数年後には廃墟になっているという光景は、途上国支援の現場では決して珍しくありません。私が犯したミスは、まさにその構造的な問題の縮図でした。


3. リカバリー策:将来の「詰み」を回避するための奔走

問題に気づいた後、私はすぐに動きました。

まず、そのpH計メーカーに対して、スーダン国内で代理店業を営んでいる企業との間を取り持つよう働きかけました。同時にスーダン側の代理店にも依頼を開始しました。これは将来的にプローブの交換が必要になった際、スーダン国内から部品を調達できるルートを新規に開拓するためです。

メーカーと現地商社のマッチングは、日本国内でルートを形成するようには一朝一夕にはいきません。しかし粘り強く交渉を続け、最終的には将来的な供給ルートの確保に目処をつけることができました。

同時に、現地側の受け入れ機関に対して、この問題を書類と口頭の両方で丁寧に説明しました。「このpH計のプローブは消耗品であり、数年後に交換が必要になること」「調達ルートはこのように確保したこと」「万が一の場合の代替手段」。担当者が変わっても情報が引き継がれるよう、記録として残すことを意識しました。

リカバリーとしての態勢は整えましたが、そもそも最初の選定段階で、スーダン国内に代理店を持つメーカーを選んでいれば、この奔走は必要なかった。その事実は、苦い反省として私の中に刻まれました。


4. 教訓:「地域性」と「産業構造」を設計に組み込む

この経験以降、私の機材選定と施設設計のアプローチは根本から変わりました。

代理店の有無は、持続可能性を評価する上での「氷山の一角」に過ぎません。その下には、より広い評価軸が沈んでいます。

現地の人々の対応能力はどうか。装置に不具合が生じたとき、現地の技術者が自力でトラブルシューティングできるか。マニュアルを読み解き、部品を交換し、調整できる技術レベルが現地に存在するか。

物流の安定性はどうか。部品を海外から取り寄せる必要がある場合、通関の複雑さ、輸送コスト、到着までのリードタイムは現実的な範囲に収まるか。紛争や政情不安が物流を遮断するリスクはないか。

予備品の市場流通はどうか。消耗品や交換部品が現地の市場で普通に手に入るか。あるいは世界的に流通しているユニバーサルな規格の部品で代替できるか。

これらを総合的に評価しなければ、スペックがいかに優れていても、その機材は現場では「時限爆弾」になりかねません。納品した日が一番良い状態で、あとは劣化していくだけという機材を、支援という名のもとに置いてくることは、支援ではなく負債の押し付けです。


5. 私の設計思想の根底にあるもの

スーダンでのこの経験は、私の設計思想の原点の一つになっています。

どんなに高度な技術であっても、その土地で直せないものは選ばない。部品が手に入らなくなった瞬間に止まってしまうシステムは、いかに優秀でも持続可能なインフラとは呼べない。そう確信するようになったのは、あのpH計の一件があったからです。

私が粗ろ過×緩速ろ過というシステムに強い情熱を持ち続けているのも、この確信と深く繋がっています。砂と砂利で水をろ過し、生物膜の力で浄化する。この仕組みに必要な「部品」は、砂と砂利です。世界中どこでも手に入り、専門的な工具も不要で、地域の人が自分たちで管理できる。

高度な技術は、それを支えるサプライチェーンと人材が整って初めて機能します。しかし粗ろ過×緩速ろ過は、そのサプライチェーンが存在しない環境でこそ、最も輝く技術です。「身近なもので維持できるインフラこそが最強である」という確信は、スーダンの現場で身をもって学んだことの、自然な帰結でした。

どこに施設を作るにしても、その土地の産業構造と人々の能力と物流の現実を設計の中に組み込むこと。水未来研究所が提案するインフラは、その原則の上に成り立っています。

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