1. 活性炭からオゾンへ:ランニングコスト重視の選定経緯
腐植物質(フミン質)による色度問題への対処として、まず検討の俎上に載るのが活性炭処理です。活性炭は導入コストが比較的低く、既存の処理フローに組み込みやすいという利点があります。しかし実際に運用を想定すると、ランニングコストの問題が浮かび上がってきます。
フミン質のような高分子有機物は、活性炭の細孔への吸着が比較的早期に飽和します。今回の案件では、年間3〜4回の活性炭交換が必要になると試算されました。交換のたびに材料費と作業コストが発生し、廃活性炭の処分コストも加わります。小規模水道において、この継続的な支出は運営を圧迫します。
一方、オゾン処理のランニングコストの主体は電気代と定期的なメンテナンス代です。装置を適切に選定し、必要最小限のオゾン発生量に抑えることができれば、活性炭の交換コストを大幅に下回る可能性があります。長期的なコスト試算を比較した結果、今回はオゾン処理を選択することにしました。
オゾン発生の原料については、空気原料方式と酸素原料方式の2つがあります。空気原料方式は装置がシンプルですが、空気中の窒素がオゾン生成時にNOx(窒素酸化物)を副生するリスクがあります。処理水への水質影響を考慮し、今回は酸素原料方式を採用しました。酸素ガスを原料とすることでNOxの発生を抑制でき、より純度の高いオゾンを安定的に生成できます。
2. 技術解説:色度・TOC・オゾン必要量の相関設計
オゾン装置のスペック選定において、最も重要なのが「どれだけのオゾンが必要か」という必要オゾン発生量の算出です。この計算の起点となるのが、原水の色度とTOC(全有機炭素)の関係です。
フミン質をはじめとする腐植物質は、分子量10,000を超える高分子有機物です。その着色性と有機物量には一定の相関があり、色度とTOCの比率(色度/TOC比)を水質分析データから導き出すことで、色度の計測値からTOCを推定することができます。
今回の原水分析から得られた色度/TOC比は2.6でした。これは、色度1度あたりTOCが約0.38mg/L存在するという関係を意味します。
次に必要となるのが、単位TOCあたりのオゾン消費量(O₃/TOC比)です。これはオゾンがフミン質を酸化分解する際に消費されるオゾン量と、処理対象TOC量の比率を示すものです。今回のラボデータでは、O₃/TOC比は2.0という値が得られました。TOC1mg/Lを処理するために、オゾンが2mg/L必要という関係です。
この2つの比率が、設計計算の核心となります。
3. スペック計算の実際:最大負荷時の必要オゾン発生量
実際の計算フローを示します。
ステップ1:最大色度の設定
原水の色度は季節や降雨によって変動します。今回の案件では、過去のモニタリングデータと最悪ケースを想定した上で、最大想定色度を20度に設定しました。
ステップ2:最大色度からTOCを推定
色度/TOC比(2.6)を用いて、最大色度20度に対応するTOCを算出します。TOCmax=色度/TOC比色度max=2.620≈7.7 mg/L
最大負荷時の原水TOCは約7.7mg/Lと推定されます。
ステップ3:必要オゾン濃度の算出
O₃/TOC比(2.0)を用いて、必要なオゾン濃度を算出します。O3必要濃度=TOCmax×O3/TOC比=7.7×2.0≈15.4 mg/L
処理水1Lあたり、約15.4mgのオゾンが必要という計算になります。
ステップ4:溶解効率を考慮した安全率の設定
オゾンは発生させた全量が水に溶解するわけではありません。散気管方式などでは溶解効率が20%程度にとどまることも多く、未溶解のオゾンが排気として失われます。この溶解効率を考慮した上で、装置の必要オゾン発生量を設定する必要があります。
散気管方式を前提とした場合、溶解効率20%として安全率を見込むと、必要オゾン発生量は計算値の約5倍以上を確保することになります。しかしここで、次章で述べる気液混合ポンプの採用が計算を大きく変えることになりました。
4. 気液混合ポンプによる「高効率溶解」の衝撃
オゾンの溶解方式として、今回はNIKUNI製の気液混合ポンプを採用しました。
従来型の散気管方式は、オゾンガスを微細な気泡として水中に拡散させる方式です。気泡が水と接触する時間と面積に溶解量が依存するため、溶解効率には限界があります。
これに対して気液混合ポンプは、ポンプの内部でオゾンガスと水を強制的に混合・加圧し、オゾンを水中に溶け込ませる方式です。気液の接触が密度高く行われるため、溶解効率が大幅に向上します。
この溶解効率はメーカーの意見も参考に60%程度を見込みました。
この数字が設計に与えた影響は大きいものでした。溶解効率が上がるということは、同じ量のオゾンを発生させた場合に、水中に溶解するオゾン量が増えるということです。逆に言えば、必要なオゾン発生量をより少なく抑えることができます。
この結果、当初想定していたよりも小さい型番の装置で必要十分なオゾン量を確保できることが判明しました。「最小モデルでも余裕がある」という、設計当初には想定していなかった結論です。
この経験は、方式の選択が装置のスペックに直結するという、当たり前のようで見落とされがちな事実を改めて教えてくれました。カタログのオゾン発生量だけを比較するのではなく、溶解方式とその効率を込みで設計することの重要性を、実体験として確認できた案件でした。
5. 結論:データと現場感覚を融合させることの重要性
今回の設計プロセスを振り返ると、いくつかの重要な教訓が浮かび上がります。
一つ目は、メーカーのラインナップに引っ張られないことです。オゾン装置のメーカーは、自社のラインナップの中から安全を見た製品を勧めてきます。しかしその提案が現場の水質特性に最適かどうかは、別の問題です。色度/TOC比とO₃/TOC比を自ら算出し、必要オゾン量を独自に計算することで、「本当に必要な装置規模」を自分で判断できるようになります。
二つ目は、余裕を持ちすぎない設計の重要性です。安全率は必要ですが、過大な安全率は設備の過剰投資につながります。小規模水道において、オーバースペックな装置は維持管理コストと更新コストの両方を押し上げます。データに基づいた適切な安全率の設定こそが、持続可能な運営の基盤になります。
三つ目は、溶解方式の選択が設計全体を変えるという認識です。今回のNIKUNI製気液混合ポンプの高い溶解効率は、装置スペックのダウンサイジングを可能にしました。処理方式の選択を「後から決める枝葉の問題」として扱うのではなく、スペック計算と並行して検討することが、最適設計への近道です。
水質データと現場での溶解効率の実測値。この両者を組み合わせることで、カタログ選定では到達できない精度の設計が可能になります。水未来研究所は、こうしたデータドリブンな設計アプローチを、小規模水道の現場に届け続けていきます。
