ライフサイクルコストの「盲点」を埋める――行政コストと不確実性から導く、真に持続可能な水道設計

目次

1. LCC(ライフサイクルコスト)の再定義

「500万円で50年動く施設」  と  「1,000万円で100年動き続ける施設」。

どちらの施設を選ぶべきと思いますか??

単純に計算すると、どちらも「1年あたり10万円」です。であればとりあえず安いほうでいい、という判断も成り立ちそうです。

でも、少し立ち止まって考えてみてください。この計算に、何か抜けているものはないでしょうか。

ライフサイクルコスト(LCC)とは、一定期間に含まれる施設の建設から解体までにかかる費用の総計です。一般的には、建設費・運営費(電気・薬品など)・保守点検費・更新費・解体費を足し合わせたものに、更新時のコンサル費用なども加えるものとして理解されています。水道事業の長期計画や方式比較においても、このLCCが判断の軸になることが多いでしょう。

ただ、この計算式には、ある重要な要素が抜け落ちていることがあります。それが、更新工事のたびに発生する「行政側の事務コスト」です。

更新工事の際には、コンサルタントへの設計・調査・監理委託費が発生します。これは外部への直接支出ですから、ほとんどの場合、LCCに計上されるようになっています。

しかし見えにくいのが、行政職員の人件費です。予算要求の資料作成、起案・決裁、入札公告・審査・契約事務、地元説明、完了検査――。更新工事1件をこなすために、担当者がどれだけの時間を費やすか、現場の方なら肌感覚でおわかりでしょう。これらは「給与費」として別管理されているために計算から抜けやすいのですが、れっきとした行政コストです。

行政の人員不足がより深刻に叫ばれている今、この認識から、LCCの議論を始める必要があります。


2. 「更新」というプロセスの解像度を上げる

では、更新工事1回に伴う行政の事務負担とは、具体的にどのようなものでしょうか。

まず、予算編成・議会対応があります。数億円規模の予算を通すための説明資料を作り、質疑に備え、議決を得る。次に、入札・契約事務。仕様書の作成から公告・質問対応・審査・契約締結まで、煩雑な手続きが続きます。そして、地元説明・調整。工事車両の往来、騒音・振動への対応、近隣住民や関係者との合意形成。

これらを100年の間に「1回だけ実施する」のか、「30年ごとに3回繰り返す」のか。この差が、人手不足の時代における自治体経営を大きく左右します。

仮に更新工事に伴う業者調達プロセスで、職員1人が30日間拘束されるとします。30年ごとに更新が必要な施設なら、100年間で3回の更新。100年で1回の更新で済む施設なら、当然1回のみ。延べ人数にすると、前者は90人・日、後者は30人・日。同じ「100年間の水道インフラ」でも、行政が投じる人的エネルギーには3倍の差が生まれます。

「それくらい、なんとかなるのでは」と思われるかもしれません。
でも、これから先の自治体を取り巻く環境を考えると、その「なんとかなる」が通用しなくなっていきます。

人口は減少し、行政職員の数も減っていきます。

経験豊富な技術職員が退職し、引き継ぎも難しくなる。業務の複雑さはより増す一方なのに、一つの更新事業に割ける余力は確実に小さくなっていきます。それどころかインフラの老朽化対策は今後複数の分野でますます増えていきます。

そうした中で「更新回数がより少ないインフラ」を選ぶことは、将来の担当者に対しての最大の配慮となりえます。

なぜならこれはもはや、コストの問題というより、組織の持続可能性の問題だからです。


3. 「不確実性」という見えないコストへの対策

更新回数が多いことには、もう一つ見落とされがちなリスクがあります。それが「不確実性」です。

30年後、60年後の世界で、今と同じ条件で工事ができる保証はどこにもありません。資材費は上がっているかもしれない。必要な部品が手に入らないかもしれない。近年でも、資材の供給が一時的に?不安定になる局面を私たちは目の当たりにしています。物価変動リスクは、あくまで「仮定の話」ではなく、すでに現実として起きていることです。

また、技術継承のリスクもあります。頻繁に更新が必要な設備は、その都度、新しい技術・仕様に対応できる職員や業者を確保しなければなりません。担当者が変わり、設計思想の記録が途切れ、「前回どうやったか」が分からなくなる。こうした経験の断絶もまた、更新回数に比例して積み上がるリスクです。

更新工事は「同じことの繰り返し」ではありません。その都度、新たな環境・新たな条件の中で、一から合意を形成し、発注し、管理する。回数が増えるほど、予測不能な出来事に翻弄される機会も増えていきます。

逆に言えば、仮に通常「30年持つ設備」に対して、「100年持つ」ということは、将来発生するであろう2回分の「不確実性リスク」を、あらかじめキャンセルできるということです。リスクは回避できないものではなく、設計の段階で減らすことができるものです。


4. 100年持つ「資産型インフラ」への転換

ここで、緩速ろ過という水処理方式を例に考えてみましょう。

緩速ろ過は、薬品や電力をほとんど使わず、砂層と微生物の力で水を浄化するシンプルな仕組みです。30年~40年ごとの更新が必要な急速ろ過と比べて機械・電気設備が少ないため、耐用年数が長く、100年単位で使い続けられる土木構造物を主体としています。更新が必要になる頻度は、急速ろ過の1/3以下です。

構造がシンプルであるということは、壊れにくく、修繕もしやすく、技術継承もしやすいということです。「機械が少ない=更新のたびに呼ぶコンサルタントが少ない=入札書類を作る回数が少ない」。この連鎖は、長期間にわたって静かに、しかし確実に効いてきます。

「100年持つインフラ」を選ぶことのメリットは、単に「更新費用を1回分節約できる」という話ではありません。その間に発生するはずだった2回分の「設計委託費」「事務コスト」「不確実性リスク」を、まとめて消し去ることができる。これが、資産型インフラの本当の価値です。

建設費だけを見れば高く見える選択が、100年間の行政工数まで視野に入れると「最も安い選択」になる。そのような逆転の発想が、これからの施設選定には求められています。


5. 未来の公務員を「更新事務」から解放する

人口減少社会において、最も希少になるのは「人」です。

お金は借りることができます。技術は外から調達することもできます。でも、限られた職員の「時間とエネルギー」だけは、増やすことも外注することも、基本的にはできません。

その意味で、これからのインフラ選定における最大のコスト削減とは、「何もしなくていい期間を延ばすこと」かもしれません。更新事務が発生しない年月は、担当者が別の課題に集中できる年月でもあります。人口問題、老朽管路の対応、広域連携の調整、別のインフラの老朽化対策――。水道行政が向き合うべき課題は山積しています。100年後の担当者に「また30年後に更新事務をこなしてください」と言い残すのか、それとも「この施設のことはしばらくの間は心配しなくていいです」と言い残せるのか。

水未来研究所は、目先の建設費だけでなく、更新時のコンサル費用、行政の事務工数、そして将来の不確実性リスクまで含めた「100年間の真のコスト」を見据えた水道設計を提案しています。

「高機能な施設を作る」ことと「持続可能である」ことは、必ずしも同じではありません。その違いを設計の起点に置くことが、これからの水道インフラに求められる思想だと、私たちは考えています。

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