水道インフラの「人材不足」を技術で解決する:更新不要な浄水システムが老朽化対策の切り札になる理由

目次

1. 水道業界を襲う「ダブルの人手不足」の正体

水道インフラの老朽化問題は、今や多くの自治体で共通の課題として認識されています。しかし現場で起きている問題の本質は、「お金がない」という財政論だけでは語り切れません。より根深く、より解決が難しい問題が同時進行しています。「人がいない」という現実です。

施工側の限界:入札不調が示すもの

老朽化した水道管の更新工事を発注しても、入札不調になるケースが各地で増えています。その原因として単価の問題が取り上げられることが多いですが、実態はそれだけではありません。管を掘って、繋いで、埋め戻す。その一連の工程を担える職人が、地域から減り続けています。

建設業の高齢化と若手離れは、水道工事の専門職においても深刻です。発注単価が多少改善されても、その工事を実施できる施工業者が地域に存在しなければ、工事は前に進みません。入札不調は、価格の問題ではなく担い手の問題として捉え直す必要があります。

発注側の疲弊:企画する人すらいない現実

施工側だけでなく、発注する側にも同じ問題が起きています。設計・積算・工事監督を担う自治体職員の数は、行政改革のなかで長年にわたって削減されてきました。水道部局に限っても、経験のある技術職員が退職し、その知見が引き継がれないまま組織が動いている実態が各地にあります。

老朽管の更新計画を立て、優先順位をつけ、発注仕様を作る——この一連の業務を「企画できる人」がいない自治体が珍しくなくなっています。問題の所在は分かっていても、それに対処するための人材が内部にいない。この状況が、インフラ老朽化対策の前進を静かに阻んでいます。


2. 急速ろ過方式が強いる「終わりのないメンテナンス」の重圧

人材不足という外部環境の問題に加え、現在の浄水技術の標準的な選択が、状況をさらに悪化させている側面があります。

5年、15年、30年の呪縛

日本の多くの浄水場で採用されている急速ろ過方式は、凝集剤を使った化学処理と、ポンプ・撹拌機・汚泥掻寄機などの機械駆動設備を組み合わせたシステムです。高い処理能力と処理速度を持つ一方で、機械駆動部が多いという構造的な特性を持っています。

機械駆動部は、使えば必ず劣化します。ポンプの分解点検・部品交換が数年ごとに必要になり、撹拌機や汚泥掻寄機は10〜15年単位でのオーバーホールを要し、施設全体では30年程度での大規模更新が繰り返されます。この「定期的な更新の連鎖」が、技術職員の工数と自治体予算を際限なく消費し続けます。

資源の競合:負のスパイラル

問題は、浄水場の維持管理に人材と予算を投入するほど、本来もっとも喫緊の課題である老朽管の更新に回せるリソースが減っていくことです。

浄水場の設備更新の設計・発注に追われる職員は、管路の更新計画を立てる時間を持てない。管路の老朽化が進んでも、それを診断・評価・計画化できる人材が社内にいない。外部に委託しようにも、委託仕様を作る余裕もない——こうした負のスパイラルが、多くの水道事業体で実際に起きています。

浄水場の維持と管路の更新は、どちらも不可欠です。しかし限られた人材の中でその両方を同時に前進させることは、現状の技術的前提のもとでは構造的に難しくなっています。


3. 解決策としての「メンテナンス・フリー」への転換

この構造的な問題を解くためには、「壊れたら直す」、「古くなってきたら更新する」という管理サイクルそのものを見直す必要があります。そのための技術的な選択肢が、上向流粗ろ過と緩速ろ過を組み合わせたシステムへの転換です。

上向流粗ろ過×緩速ろ過の再評価

緩速ろ過は、砂の層を水がゆっくりと通過する過程で、生物膜の働きを活用して浄水する方式です。薬品による凝集処理が不要で、大型の機械駆動設備を必要とせず、電力消費も最小限に抑えられます。かつては処理速度の遅さと高濁度への対応力の低さが弱点とされてきましたが、前処理として上向流粗ろ過を組み合わせることで、原水濁度300度から処理水濁度0.1度未満という水準の浄水が実現しています。

場内に必要な駆動系は送水用のポンプのみ。これすらももし地形を活かし、自然流下で水を送れるようになれば、ポンプすら必要なくなります。薬品、電力、機械駆動——これら三つの依存を徹底的に排除した構成が、このシステムの核心です。

「駆動部がない」ことがもたらす真の価値

機械駆動部がなければ、定期的なオーバーホールは発生しません。撹拌機の点検も、汚泥掻寄機の部品交換も、ポンプの分解整備も不要です。管理者に求められる日常作業は、砂面の状態確認と、数年に一度の砂の補充・洗浄にとどまります。

これが意味することを、時間軸で考えてみてください。急速ろ過方式の浄水場では、15年後・30年後に必ず大規模更新工事が発生します。その設計・発注・監理を担う職員が、その工事を受け持つ工事業者が、15年後・30年後の自治体に存在しているかどうか。人口減少と行政スリム化、業者の減少の趨勢を踏まえれば、楽観的な見通しは持てません。

上向流粗ろ過×緩速ろ過のシステムは、その更新工事そのものを消滅させます。適切に管理されれば50年、100年にわたって使い続けられる。インフラの設計思想として、これは本質的な違いです。「いつか来る更新」を前提に設計するのか、「更新を必要としない」ことを前提に設計するのか——今、その問いに向き合う必要があります。


4. 経営的インパクト:お金の節約から「人材の節約」へ

浄水場の更新不要化がもたらす効果を、財務的な節約という観点だけで捉えるのは不十分です。より本質的なインパクトは、人材の再配置です。

リソースの解放と再投資

浄水場の維持管理・更新対応に拘束されていた技術職員の工数が解放されれば、その力を老朽管の更新計画策定に向けることができます。GISを活用した管路データの整備、優先更新区間の評価・選定、発注仕様の標準化——こうした業務は、本来であれば内部の技術力で担うべきものですが、現状では人材不足のために外部委託頼りになっているケースが大半です。

浄水場が「手のかからないシステム」に変われば、限られた人材をより戦略的に配置できるようになります。老朽管対策だけでなく、スマートメーターの導入やデータ活用によるDX化、広域連携の検討といった次世代的な課題にも、内部リソースを充てられるようになります。

今こそ、変革のタイミングを逃さない

現在の急速ろ過方式の浄水場が次の大規模更新を迎える前に、システムそのものの転換を検討する。そのウィンドウは、更新の直前にしか開きません。更新工事の設計が始まってからでは、方針転換のコストが大きくなります。

老朽化対策の課題を抱えながら、人材不足に直面している自治体にとって、「壊れない、手がかからない」浄水システムへの転換は、中長期的なインフラ経営の選択肢として真剣に検討に値します。技術は存在します。実証もされています。あとは、その選択肢を計画の俎上に載せる意思決定だけです。

小規模水道における浄水システムの転換や、老朽化対策の計画立案についてご関心のある自治体・コンサルタントの方は、お気軽にご相談ください。

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