1. 「アフリカの奇跡」ルワンダとの出会い
ルワンダを初めて訪れたとき、アフリカに対して自分が持っていたイメージが静かに崩れていきました。
「千の丘の国」と呼ばれるとおり、なだらかな丘が幾重にも重なる美しい風景が広がっていました。そして何より印象的だったのは、街の清潔さです。
道路にゴミが落ちていない。排水溝に廃棄物が詰まっていない。
アフリカ大陸において、ここまで街が清潔に保たれている国はほとんどないと言っていいかもしれません。
近年は「アフリカのシンガポール」とも称されるほどIT産業が発展し、ドローンによる医薬品配送など先進的な取り組みでも世界の注目を集めています。1994年の凄惨なジェノサイドから30年足らずで、ルワンダは驚くべき再生を遂げました。
私がこの国で携わったのは、「第二次地方給水計画」というJICA(国際協力機構)のODAプロジェクトです。農村部の11村落、5.5万人に安全な水を届けることを目標とした事業で、基本設計から詳細設計、そして施工完了・引き渡しまでを担当しました。
2. 険しい地形と格闘した「尾根沿い」の設計
ルワンダの農村部には、「イミドゥグドゥ」と呼ばれる政府主導の移住政策があります。散在していた集落をまとめ、住民を山の尾根沿いに集住させる取り組みで、行政サービスや医療・教育へのアクセスを効率化することを目的としています。
この政策が、水道設計に独特の難しさをもたらしました。
プロジェクトの基本構想は、いろんな場所に点在する湧水を集めて集落に配水するというものでした。
しかし水源となる湧水は、多くの場合、谷底に存在します。しかし人が住む集落は尾根沿いにある。つまり、谷で集めた水を、大きな標高差を越えて山の上に届けなければならない。場所によっては200m以上の高低差があり、「どうやってポンプアップするか」という問いが、設計の根幹となりました。
日本であれば安価な電力が前提になりますが、ルワンダの農村部では公共電力がないため、発電機に頼らざるを得ない現場が多い。発電機の燃料費はランニングコストに直結します。コストを抑えながら水を確実に届けるために、高圧管(30Kの耐圧管)を採用して一段のポンプアップで送水する設計を採ったケースもありました。管材のコストは上がっても、中継ポンプと中間タンクの設置費用とランニングコストを合わせれば、長期的には有利になる計算です。
「水を届ける」という目標に向けて、コストと技術と現地の運用体制を同時に最適化することが、この設計の核心でした。

3. あえて「新設」を捨て、「補修」を選んだ理由
プロジェクトが始まって現地を歩いたとき、過去に彼ら自身が整備した水道施設が各所に残っていました。

その中で特に目を引いたのが、石積みの貯水槽でした。ルワンダには伝統的な石積みの文化があります。丁寧に積まれた石の壁は、職人技の積み重ねを感じさせる美しさがありました。しかし現実は厳しく、その石積みタンクのほとんどは漏水して機能していませんでした。水が抜けてしまうのです。
通常の判断は単純です。漏水する既存タンクを撤去して、防水性の高いコンクリートで新しい水槽を作る。一般的に既設設備を補修しながら作るよりも、新設で作ったほうが何倍も簡単だと言います。
しかし私は、そこで立ち止まりました。
日本の技術者がやってきて、彼らが作ったものを壊し、完璧なコンクリートの施設を残して帰る。その水道は機能する。5.5万人に水が届く。プロジェクトとしては成功だ。しかし、ルワンダの人々の心に何が残るか。
「日本人には作れるだろうが、自分たちには無理だ」——そう思わせてしまうことへの抵抗感が、私の中に強くありました。
私が願っていたのは、彼らが「自分たちが作ったものは、あと一歩だったんだ」と感じることでした。「もう少し頑張れば、俺たちにも本物の水道施設が作れる」という実感を持ってほしかった。援助を受ける立場から、一日でも早く自立して、先進国の仲間入りをしてほしいという、その願いが私の中にありました。
壊して新設することは簡単です。しかし、それは彼らの過去の努力を「失敗」として葬ることでもある。私はどうしてもそれをしたくなかった。彼らには発展途上国からの卒業に向け、希望を失ってほしくなかった。
4. 世界最高峰の技術を、彼らの手の届く形へ
「補修する」と決めた後、問題は「どうやって漏水を止めるか」でした。石積み構造に適した防水補修の方法を探す中で、私が頼ったのがXypex(ザイペックス)という企業でした。
コンクリートの防水・補修技術における世界的権威として知られるXypexは、日本にも支社を持っています。石積みタンクの漏水を止める方法を日本支社の技術者に相談し、具体的な材料と施工方法についてアドバイスをいただきました。
しかし、施工を誰がするかという問題が残ります。そこでアフリカ大陸内のXypex支社のあるケニアから技術者を招致する形を取りました。
同じアフリカ大陸の技術者が、現地の石積みタンクを補修し、機能させる。その成功体験の意味は、日本人技術者が完璧な施工をするのとは根本的に異なります。「アフリカの国が持つ技術でできた」という事実が、ルワンダの技術者に「自分たちにもできる」という確信の種を植えるという効果も期待しました。
結晶増殖型防水材の塗布によって、漏水していた石積みタンクは蘇りました。彼らが積み上げてきた技術の延長線上に、成功体験が生まれた瞬間でした。

5. 11村落、5.5万人の未来へ
プロジェクトは、11村落に安全な水道を整備し、5.5万人に清潔な水を届けることで完了しました。
この経験が、私の設計哲学の根幹にある考えを言語化するきっかけになりました。技術者の仕事は「最高の施設を作ること」だけではない。その土地に住む人々が、自分たちの力で維持し、改善し、誇りを持って次の世代に繋げていける仕組みを残すこと——それもまた、技術者の責任の一部です。
日本国内の小規模水道でも、同じことが言えます。住民が「自分たちの水道」と誇りを持てる設計。地元の技術者が理解し、管理できる仕組み。外部に依存しすぎず、その土地で自立できるインフラ。
ルワンダでの経験は、国内の現場に戻ってからも、設計の判断の場面で繰り返し蘇ってきます。「壊して新設しない」という選択が、あのとき正しかったという確信は今も変わっていません。
水未来研究所は、国内外を問わず、その土地の人の誇りを守る設計を続けていきたいと思っています。

