私たちは「水道屋」になっていないか?――30年後、50年後の水道に責任を持つ「技術者」であるために

目次

1.「政治屋」と「水道屋」の共通点

「政治屋」という言葉があります。

政治家本来の使命――国民の暮らしを守り、社会をより良くすること――を忘れ、自らの地位の維持や、党内の力学、次の選挙での得票だけを考えて動く人間を指す言葉です。志がないわけではなかったかもしれない。しかし、いつの間にか「手段」が「目的」に変わってしまった。

水道の世界にも、似た構図があります。

本来の使命は、「その地域に最適な水を、持続可能な形で届けること」のはずです。しかし、いつからか「自社の売上を守ること」「業界の慣習を踏み外さないこと」「前例通りに進めること」が最優先になってはいないでしょうか。

そういう状態の人々は、「水道屋」と呼べるのかなと思います。

技術者ではなく、水道屋。その違いを、私たちは常に自問し続けなければならないと思っています。


2. なぜ「おかしい」と思いながら、Bを選んでしまうのか

現場の技術者と話すと、驚くほど多くの人が「本当はこの方式の方が良いとわかっている」と言います。それでも、別の選択をしている。

なぜでしょうか。

一つは、同調圧力の構造です。会社の方針、業界のスタンダード、前任者が選んだ前例。「波風を立てないこと」が、組織の中では暗黙の最優先事項になっています。「なぜ今さら変えるのか」「他社はみんなこれでやっている」――そういう言葉が、誠実な判断を静かに封じていきます。

もう一つは、将来への不安というジレンマです。本当に良い方式(A)を選ぶと、初期工事費が下がったり、ランニングコストが低くなったりして、自社の売上や将来のメンテナンス収益が減るかもしれない。その不安が、「B(今まで通り)」を選ぶ合理化に使われます。

しかし、冷静に考えてください。

その「B」は、30年後の地域の住民に、どんな負担を残しますか。薬品費、動力費、更新費用――その積み重ねを、人口が減り続ける地域が背負い続けることができるでしょうか。「自社の利益」を主語に置いた設計が、やがて地域のインフラを蝕んでいく。それは、技術者としての誠実さと、真っ向から矛盾しています。


3. 小さな一歩から始める「技術者の誠実さ」

「そうは言っても、組織の中でいきなり声を上げるのは難しい」

その通りだと思います。組織の論理は強く、一人の技術者が正論を叫んだところで、明日から変わるわけではありません。

だから、いきなりの変革を求めているのではありません。

まずは、「B」の限界を調べ直すことから始めてみてはどうでしょう。今選ばれている方式のランニングコストを、30年・50年のスパンで試算してみる。他の方式との比較を、自分なりに整理してみる。それだけで、見えてくるものが変わります。

次に、「AとBの比較表」を資料の隅に入れてみることです。声高に主張しなくていい。ただ、「こういう選択肢もある」という情報を、静かに置いておく。それが、誠実な技術者にできる「知的な抵抗」です。

そして、仲間を探してみてください。「実はおかしいと思っていた」という人は、案外、あなたの隣の席にいるかもしれません。一人では動けなくても、二人になれば会話が生まれ、三人になれば資料が作れます。変化はいつも、そういう小さな場所から始まります。


4. 目の前の「地域」を主語にする

思考実験をしてみてください。

今、あなたが設計しているその水道施設の主役を、「自社の売上」でも「業界の常識」でもなく、「この集落の30年後」に置き換えてみてください。

その集落は、30年後に何人の住民が残っているでしょうか。水道料金を払い続けることができるでしょうか。施設を維持する技術者を確保できているでしょうか。

その問いに正直に向き合ったとき、「本当に必要な設計」の姿が、おのずと見えてくるはずです。

水道技術者の本分とは、100年後の住民が「この水道があってよかった」と思えるインフラを残すことだと、私は信じています。重い維持管理費に苦しむのでも、老朽化した設備を前に途方に暮れるのでもなく、安心して水を使いながら暮らしている姿を想像して、設計の鉛筆を動かすこと。

それが、「水道屋」ではなく「水道技術者」であることの意味です。


5. 私たちは「未来」を設計している

水未来研究所は、緩速ろ過方式を1つの専門とする組織です。しかし、私たちが本当に目指しているのは、「緩速ろ過の普及」ではありません。

「日本の水道を、30年後も50年後も、持続可能なものにすること」です。

だから、緩速ろ過が最適でない地域には、そう言います。膜ろ過が合理的な選択であれば、そう提案します。是々非々で、その地域にとって最善の答えを探し続ける――それが、私たちの技術者としてのスタンスです。

この記事を読んでいるあなたが、もし「本当はおかしいと思っているのに、言えずにいる」状況にあるなら、ぜひ一度、話しかけてきてください。

日本の水道を少しでも良くしたいと願う、すべての水道技術者の味方でありたいと思っています。

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