既存の急速ろ過浄水場を「省エネ・低コスト」にアップデートする。上向流粗ろ過による前処理のススメ

目次

1. 既存の急速ろ過浄水場が抱える「現代の課題」

急速ろ過方式は、高い処理能力と速い処理速度を持ち、日本の水道インフラを長年にわたって支えてきた主力技術です。しかしその特性ゆえに、近年の環境変化の中で、運用コストと現場負担が静かに増大しています。

原水濁度への対応コスト

気候変動の影響による集中豪雨やゲリラ豪雨の頻度増加は、河川や貯水池の原水水質を突発的かつ急激に悪化させます。原水濁度が跳ね上がった際、急速ろ過では凝集剤の投入量を増やして対処するのが基本的な対応です。しかしこれは、薬品コストの増大に直結するだけでなく、適切な凝集剤注入量の判断と調整を担う運転員への負担増加をも意味します。

高濁度が継続すれば、凝集剤の注入量が増えるとともに、ろ過池の目詰まりも早まります。逆洗の頻度が増え、逆洗に使う電力と捨て水の量が増加する。限られた人員で浄水場を運転管理している現場では、こうした突発的な対応が通常業務を圧迫する事態になりがちです。

汚泥処理の重圧

凝集剤を多く使えば、その分だけ汚泥の発生量も増えます。凝集汚泥は脱水処理を経て産業廃棄物として搬出・処分する必要があり、その費用が水道事業の経営を継続的に圧迫しています。薬品コスト、脱水機の維持管理費、汚泥搬出費、最終処分費——これらはすべて、凝集剤の使用量と連動して増減します。原水が濁るほどコストが膨らむ構造は、気候変動が進むなかでリスクとして大きくなる一方です。

メンテナンスリソースの枯渇

以前の記事でも触れましたが、水道業界全体で技術職員の確保が難しくなっています。浄水場の運転管理を受託する民間事業者も同様の課題を抱えており、「同じ品質の管理を、より少ない人手で」という要請は現場に着実に届いています。

高濁度時の緊急対応、頻繁な逆洗作業、汚泥処理の管理——これらの作業頻度を構造的に減らすことができれば、限られたリソースを本当に必要な業務に集中させることができます。


2. 「上向流粗ろ過」を既存プロセスに組み込むメリット

この課題群に対して、既存の急速ろ過設備を全面更新することなく、前処理として上向流粗ろ過を組み込むアプローチが有効であり、自信をもって提案します。

どこに設置するか

上向流粗ろ過装置の設置位置としては、取水設備の直後、または着水井の後段が適しています。原水がまず粗ろ過を通過してから濁度を落とした原水が急速ろ過プロセスへと流れ込む構成にすることで、後段の設備への負荷を大幅に軽減できます。

既存の浄水場レイアウトへの後付けが可能であることも、このアプローチの重要な特長です。屋外の敷地を活用した設置ができるため、施設全体を止めて大規模工事を行う必要がありません。稼働中の浄水場に段階的に組み込んでいける点は、運用上の現実解として大きな意味を持ちます。

濁質除去の「強力な防波堤」

上向流粗ろ過は、砂利を充填したろ過槽に原水を下から上向きに通水することで、物理的な力だけで濁質粒子を捕捉する仕組みです。凝集剤を一切使わずに原水中の濁質の大部分を除去できるため、後段の急速ろ過プロセスに流入する濁質負荷を根本的に減らすことができます。

またこの上向流粗ろ過のメンテは、2,3週間に一度、排泥弁を開き、蓄積した汚泥を洗い流すだけです。

ゲリラ豪雨による突発的な高濁度時にこそ、この「防波堤」の効果は際立ちます。原水水質の変動を粗ろ過が緩衝することで、後段の急速ろ過への影響が平準化され、運転管理の安定性が高まります。

相乗効果:コストと手間が同時に下がる

上向流粗ろ過の導入がもたらす効果は、濁質除去にとどまりません。後段プロセス全体への連鎖的な改善が期待できます。

まず、凝集剤の使用量を大幅に削減できます。前処理で濁質の大部分が除去されていれば、急速ろ過での凝集処理に必要な薬品量が減ります。薬品コストの削減と、注入量調整の手間の軽減が同時に実現します。

次に、ろ過池の洗浄(逆洗)周期が延びます。流入する濁質量が減れば、ろ過池の目詰まりが遅くなり、逆洗の頻度が下がります。逆洗に使う電力と捨て水の量が減り、運転員の作業負担も軽減されます。

さらに、汚泥の発生量が減ります。凝集剤の使用量が下がることで生成される凝集汚泥が減少し、脱水処理の頻度・汚泥搬出量・最終処分費がいずれも圧縮されます。汚泥排出ポンプや汚泥掻き寄せ機への機械的な負荷も低減するため、これらの設備の維持管理コストと更新周期にも好影響が出ます。

コストと手間が、複数の箇所で同時に下がる。これが上向流粗ろ過前処理の最大の価値です。


3. 段階的な「浄水変革」のシナリオ

まずは前処理から

急速ろ過方式の浄水場は、多くの自治体にとって長年投資してきた既存資産です。まだまだ現役で稼働する浄水場を一度に廃して新方式に転換することは、コスト面でも意思決定の面でも容易ではありません。

上向流粗ろ過による前処理の導入は、その既存資産を活かしながら、現場の負担を今すぐ軽減できる現実的なアプローチです。大掛かりな設備更新を先送りしながら、運転コストと管理工数を段階的に下げる。その第一歩として、まず「楽になる」体験をしてもらうことが重要だと考えています。

その先の可能性

上向流粗ろ過を運用していくなかで、その安定した濁質除去能力を現場で体感していただくと、「砂利と砂だけで浄水が可能」という我々の言葉を身をもって体感いただけます。それによって、将来の浄水場更新時の選択肢が広がります。

急速ろ過方式での更新を繰り返すのか、それとも機械駆動部を持たず維持管理の手間が格段に少ない緩速ろ過方式へ転換するのか。前処理として粗ろ過を経験した浄水場であれば、緩速ろ過との組み合わせへの移行にも技術的な連続性があります。今すぐ全体を変えなくても、前処理の導入が将来の選択肢を広げる布石になります。


4. まずは「現場での実験」から始めませんか?

パイロット実験の提案

「本当に効果があるのか、自分たちの浄水場で確かめたい」——その姿勢は正しいと思います。水処理の効果は原水水質によって異なりますし、導入前に現場データを取ることは合理的な判断です。

浄水場の空きスペースを活用した小規模なパイロット実験装置の設置から始めることをお勧めしています。実際の原水を使って濁度除去性能を検証し、凝集剤使用量への影響を数値で確認する。そのデータが、本格導入の判断根拠になります。

弊社のサポート体制

水未来研究所では、パイロット装置の製作・提供にとどまらず、実験期間中のデータ解析、最適な流量設定の検討、本格導入に向けた設計提案まで一貫してサポートします。現場の運転管理担当者の視点を大切にしながら、実際に使える形での技術提案を心がけています。

現在の凝集剤コストや逆洗頻度、汚泥処理の負担にお悩みの方は、まずは現場調査と実験立案のご相談からお気軽にどうぞ。

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