「広域化」の死角を突く災害対策。浄水場のレジリエンスを高める「ハイブリッド処理」のご紹介

鍋屋上野浄水場
目次

1. 広域化が抱える「単一故障(シングルポイント故障)」のリスク

水道の広域化が、政策として推進されてからずいぶんとたちました。

複数の小規模水道を統合し、大規模な浄水場と広域配水管網を整備することで、経営効率を高め、水道事業の持続可能性を確保するという方向性です。財政的・人材的な制約が深刻化する中で、広域化に合理性がある地域があることは否定しません。

しかし、この方向性には見落とされがちな死角があります。「シングルポイント故障」のリスクです。

システムが大規模化・集中化するほど、その一点が機能停止したときに影響を受ける人口の規模が拡大します。かつては1,000人規模の断水で済んでいた施設トラブルが、広域化後には数万世帯に及ぶ広域断水に発展します。効率を追求した結果、脆弱性も集中するという逆説が、広域化の影に潜んでいます。

2024年の能登半島地震・能登豪雨は、この問題を鮮明に浮き彫りにしました。地震や豪雨により、浄水場が被災した結果、広範囲で水道供給停止となり、復旧に長期間を要しました。管路の損傷だけでなく、浄水場の機能停止が重なると、代替手段を持たないシステムは完全に止まります。巨大なシステムは、平時には効率的でも、有事には崩壊の規模も巨大になります。

「効率と脆弱性は、同じコインの裏表」という現実を、私たちは直視する必要があります。


2. 名古屋市「鍋屋上野浄水場」に学ぶ二系統の思想

この問題に対する一つの回答を、われわれ日本の水道の経験の中に見つけることができます。

名古屋市の鍋屋上野浄水場は、急速ろ過と緩速ろ過の両方の処理系統を保有・運用している国内でも希少な浄水場の一つです。急速ろ過が主力として大量の水を処理しながら、緩速ろ過系統が並存している。この構成は、単なる「古い設備が残っている」という歴史的経緯ではなく、二系統を並存させることの意義を示す実例として重要です。

処理方式が根本的に異なる二つのシステムを持つことの本質的な意味は何か。それは「一方が停止する原因が、もう一方には当てはまらない」という点にあります。

急速ろ過が水質的な問題——例えば電気系統のトラブルや薬品供給のトラブル——で稼働困難になったとき、緩速ろ過は電気や薬品に依存しない原理で動き続けられる可能性があります。緩速ろ過が生物膜の維持不全や急激な気温の変化などで処理効率を落としているとき、急速ろ過は化学的処理で補完できます。原理の異なる二系統は、互いの弱点を補い合うことができます。

これは「バックアップを持つ」という発想を超えています。同じ原理の設備を二重化しても、同じ原因で両方が同時に止まるリスクは排除できません。原理が異なるからこそ、一方の脆弱性がもう一方には当てはまらない——この「異種二系統」という思想が、鍋屋上野浄水場の設計哲学に込められています。


3. 提言:性質の異なる「A+B」のハイブリッド運用

この思想を現代の水道計画に応用するとすれば、どのような設計が考えられるでしょうか。

処理方法A:急速ろ過(可搬式・モジュール型)

平時においては主力処理系統として稼働し、大量の水を速く処理する急速ろ過の役割はそのまま維持します。ここに追加する発想が「可搬性」です。

急速ろ過の処理ユニットを複数モジュール化し、必要に応じてトレーラーや車両に搭載して移動できる形態にしておく。自所の浄水場が健在で、別の地域の浄水場が被災した場合、このユニットを現地に運搬して「移動式浄水場」として支援に回せます。平時の処理設備が、有事の支援設備として機能する。日本全国の水道事業体がこの考え方を採用すれば、相互支援のネットワークが自然と形成されます。

処理方法B:粗ろ過×緩速ろ過(恒設・不壊システム)

一方で、電気や複雑な機械に依存しない粗ろ過×緩速ろ過のシステムを、同じ浄水場敷地内または近接地に常設しておきます。処理能力は急速ろ過より小さくて構いません。地域住民の最低限の飲料水・生活用水を賄える規模があれば十分です。

このシステムの役割は「最後の砦」です。停電が続いても、薬品供給が途絶えても、機械装置が故障しても、緩速ろ過システムは重力と微生物という原理で動き続けます。大規模な処理はできなくても、少量でも確実に水を出し続けることが、このシステムの存在意義です。


4. 「粗ろ過×緩速ろ過」がレジリエンスの要となる理由

なぜ粗ろ過×緩速ろ過が「最後の砦」として機能するのか、改めて整理します。

駆動系ゼロがもたらすリスク回避

大規模災害時に水道システムが止まる原因は、複数あります。地震による停電、制御盤等電気系統の損傷、凝集剤や塩素などの薬品供給の途絶、ポンプや撹拌機などの機械駆動部の破損——急速ろ過方式はこれらのいずれか一つが起きても機能停止に至ります。

粗ろ過×緩速ろ過には、電動の駆動部がほとんどありません。電気や制御盤も不要です。薬品がなくても、重力で水を流し、砂と微生物が浄化する。停電しても、機械が壊れても、薬品が届かなくても、このシステムを止める原因が劇的に少ない。

「壊れる部品がない設備は、壊れない」——この単純な原理が、有事における圧倒的な信頼性の源です。

平時のコスト効率と有事の確実性の両立

常設するからには、平時のコストが問題になります。粗ろ過×緩速ろ過の維持管理費は急速ろ過と比較して格段に低く、平時に「安く存在し続ける」ことができます。薬品費はほぼゼロ、電力消費は最小限、機械駆動部の定期オーバーホールも不要。この低ランニングコストが、常設するための経済的な根拠になります。

平時は低コストで存在し、有事には確実に動く。「保険」としての水道設備がこうあるべき姿を、このシステムは体現しています。


5. 次世代の「強い浄水場」を設計する

広域化は進めながら、その脆弱性を補完する二系統目を組み込む。この「広域化と分散性の両立」こそが、次世代の水道インフラに求められる設計思想だと考えています。

具体的には、広域化計画の中に粗ろ過×緩速ろ過の常設ユニットを「防災・レジリエンス設備」として位置づけ、交付金や補助金の対象として国・県との協議を行う。可搬式急速ろ過ユニットを広域連合で共同保有し、相互支援の取り決めを事前に制度化する。これらは特別な技術革新を必要とせず、現時点で実現可能な取り組みです。

水未来研究所では、既存の広域化計画に「不壊の二系統目」をどう組み込むかについて、現地の水源特性・施設規模・予算制約を踏まえた実務的な再設計案を提案できます。

次の大規模災害が来る前に、設計を変える機会は今しかありません。ご相談はお気軽にどうぞ。

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