人口減少時代の最適解「運搬送水」:自動運転技術が変える小規模水道の未来設計

目次

1. 小規模水道の「第3の選択肢」とは何か

人口減少と高齢化が加速する中、地方の小規模水道が岐路に立っている。老朽化した施設の更新費用は膨らむ一方で、料金収入の原資となる人口は減り続ける。「今の仕組みを維持し続けることが、本当に地域のためになるのか」という問いが、現場で静かに広がっている。

こうした状況を踏まえ、国土交通省の「水道事業における分散型システムの導入手引き」検討委員会では、小規模分散型水道のあり方として以下の3類型を整理している。

小規模な水道施設:集落ごと等に地域の水源から取水し、小型の浄水処理装置を設置して配水する小規模な施設。
運搬送水:管路維持が困難な集落等に給水するため、浄水場等から集落内の配水池に、車両や船舶、タンク等により浄水を運搬する手法。
各戸型浄水装置(小規模水循環型システム等):雨水や再生・循環させる生活排水を活用する小規模水循環型システムや、建物の入口に設置して処理を行い宅内に浄水を給水する装置等。

本稿が注目するのは、このうち②の「運搬送水」だ。配水池と配水管網だけの、浄水場を持たないこの方式は、一見すると後退策のように映るかもしれない。しかし条件次第では、最も合理的な選択肢になりうる。

「浄水場を持たない」という合理性

浄水場を建設・維持するには、水源の確保に加え、初期投資だけでなく、継続的な維持管理費・人件費・薬品費が伴う。安定した水源に乏しい、あるいは人口が少なく需要量が限定的な集落では、施設を動かし続けるコストが、運搬で必要水量を調達するコストを上回る逆転現象が起きる。

弊社の試算では、1日の給水量が概ね8トン未満の需要地において、この逆転が生じやすい。大型給水車1台で8トン、通常車で4トンの水を運搬でき、給水元の浄水場との距離にもよるが1日2往復程度が現実的な運用ラインとなる。つまり、1日8トン以下の需要であれば、自前の浄水設備を維持するより、既存の浄水場から定期的に運搬する方が総コストを抑えられるケースが十分に存在する。

「施設を持つ」ことが水道の標準であるという思い込みを、一度手放して考えてみる必要がある。


2. 自動運転が解決する「コスト」と「安定供給」の壁

運搬送水の最大の弱点は、人件費だ。運転手の確保・労働時間の制約・高齢化による担い手不足——これらは現在の運搬送水を「暫定的な措置」にとどめてきた主因でもある。しかしその壁を、昨今進化し続ける自動運転技術が崩しつつある。

貨物自動運転とのシナジー

自動運転の研究は現在、乗用車の自動化の裏で、実は貨物車の自動運転実用化に向けた検討が進行している。定期ルートを繰り返し走行する貨物輸送は、自動運転の適性が高いとされており、まさに運搬送水の運用形態と重なる

決まった給水元から、決まった配水池へ、決まった時刻に水を届ける。このルーティン性の高さこそが、自動運転との親和性を生む。人件費がゼロに近づいた時、運搬送水のコスト構造は根本から変わる。

スマート給水車という構想

さらに一歩踏み込んで考えると、単に「水を運ぶ車」にとどまらない設計が見えてくる。

給水車が配水池に接続した時点で、塩素残量を自動計測し、必要な塩素量を補充しつつ、給水も完了する——そうした「スマート給水車」の構想は、技術的には現時点で実現していない。しかし要素技術はすでに存在しており、自動運転の実用化が見通せる段階になれば、本格的な設計検討に入れる素地はある。

水未来研究所では、この構想をすでに検討の俎上に載せ、定期的に検討を続けている。誰かが設計の議論をリードしなければ、技術だけが先行して現場に使えない形になりかねない。未来の水道の「水の専門家」として、この企画設計の一端を担いたいと考えている。

規格化という「今すぐ始めるべき議論」

スマート給水車が実現するためには、ハードウェアの開発より先に「規格の統一」が必要になる。給水車の送水口と配水池の受水口が各地域でバラバラであれば、どれだけ優れた車両を開発しても互換性がない。

具体的に今から検討を始めるべき設計上のポイントは以下のとおりだ。

給水側・配水池側の送受水口の規格統一、給水車のGPSと配水池の残水センサーを連動させた総合監視システムの設計、そして給水スケジュールの自動最適化——これらは個別の技術課題ではなく、システムとして設計されなければ機能しない。標準化の議論を、今のうちに始めておく必要がある。


3. 災害に強い「レジリエンス」としての運搬送水

運搬送水には、コスト合理性だけでなく、もう一つの重要な価値がある。災害への強さだ。

相互補完ネットワークの構築

現在の水道システムは、浄水場が止まれば即座に給水が途絶えるという脆弱性を抱えている。これに対し、エリア内に複数のメイン浄水場とサブ浄水場、受水専用の給水系エリアを設定しておくことで、普段から運搬送水で連携している地域では、どれかの浄水場が被災しても別の浄水場が補完できるネットワークが自然と形成される。

「支え合う」ことが最初から制度設計に組み込まれた水道インフラは、孤立した施設の集合体とは根本的に異なる強靭さを持ち、またこれこそが今後の地方の水道の在り方として問われると考えている。

有事に真価を発揮する「平時の訓練」

通常時は各浄水場がそれぞれの管内に配水しているとしても、給水車・給受水口・監視システムが整備されていれば、災害時に浄水場が機能停止した瞬間、稼働中の浄水場から被災エリアの配水池残水量に応じた自動運搬送水を即座に開始できる。

普段から運搬送水を取り入れている地域こそ、有事の復旧が早い。これは運用訓練の話ではなく、インフラ設計そのものの話だ。「緊急時のみ使う」仕組みは、緊急時に動かない。日常に組み込まれた仕組みだけが、本番で機能する。


4. 水未来研究所の役割

運搬送水の可能性は、技術・制度・運用の三つが揃って初めて開花する。現場の実務経験と技術的知見を持つ専門家が、設計の初期段階から関与することが、将来の無駄を防ぐ最短経路だ。

水未来研究所は、次世代型水道システムの規格設計・実証実験への参画、および自治体・コンサルへのアドバイザリーとして、この分野の議論をリードしていきたいと考えている。

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