導入:いま、地方の水道が直面しつつある危機

能登震災以後、小規模水道、小規模分散型水道への注目が集まっています。
2026年に入ってから国交省は「水道事業における分散型システムの導入手引き」検討委員会を立ち上げ、小規模水道に本気で向き合う姿勢を見せています。この検討委員会では、2026年3月までに小規模分散型水道に関し、ガイドライン等、何らかの方向性を示す意向のようです。
ここ10数年、日本は水道の広域化を進め、合理的な水道運営を目指してきました。
広域化によって小規模な水道組織が統合するという傾向が続いてきました。
一方、この広域化が向いている地域もあれば、中山間地域のように、必ずしも広域化が向いておらず、また同地域で起こりうる災害を考えた時、小規模な水道が向いている地域もあります。
能登地震でそのことが改めて認識されました。また、その後の議論により、今後日本国内の水道は、さらなる広域化の促進に加え、小規模分散型水道を進めていく方向へと舵を切りつつあります。
本日は、この「小規模分散型水道」の在り方、理想のカタチについて、弊社なりに考えてみます。
日本は人口減少時代に突入し、さらに高齢化が進んでいます。
地方都市や中山間地域ではその傾向が顕著で、若者の流出も加わり、急速な人口減少が進んでいます。
このような地域における小規模水道は、今後どうあるべきなのでしょうか。
最新型の膜ろ過装置や高度浄水施設で水道を作ったほうが良いのでしょうか。
——実は、この問いこそが、これからの地域水道の命運を分ける分岐点になると私たちは考えています。
現在、日本は、地方の水道について熟考したうえで、将来に向け正しい道を選択すべき岐路に直面していると考えています。
- 人口減少による料金収入の減少
- 高齢化による担い手不足
- 一方で進行する施設の老朽化
この状況下で、
「最新設備を入れれば安心」
という発想が、10年後、20年後に地域を苦しめる状況が、すでに現場では見え始めています。
これからの小規模水道に本当に必要なのは、高度に機械された水道では必ずしもありません。
「住民でも維持できるシンプルさ。」「人口が減少しても成り立つ水道システム」
この2つの要素こそが、人口減少時代を生き抜く水道の最重要条件になるのでは?、と私たちは考えています。
現場のリアル:豪華な設備が「負の遺産」になる日
私たちはこれまで、各地の小規模水道の現場を見てきました。
その中で強く印象に残っているのが、とある地方水道での経験です。
膜処理設備や紫外線殺菌装置に、自動塩素注入装置。
補助金を活用して、導入した当時は、操作もシンプルでボタン一つできれいな水道を生み出すシステムは完璧に思えました。その後も、今日に至るまで安定的な運転を続けており、水質は安定し、運転も自動化され、住民も役所の方々もとても満足しています。
しかし――
おそらく10年、20年が経過すると、別の問題が顔を出すのではと思っています。
■ 設備更新という大きな壁
更新費用が想定以上に高額なのです。
修理や更新しようにも専門業者でなければ触れない
部品供給が限られ、20年後にまだ部品があるかどうかもわかりません
そもそも高度に機械化された施設の更新費を誰が捻出するのか、決まっていません。
人口が減り、料金収入が減少しているこの地域で、
この構造を今後も維持し続けることは、本当に現実的でしょうか。
ここに、私たちは強い危機感を持っています。
なぜ今「上向流粗ろ過 + 緩速ろ過」なのか?
そこで私たちがあえて提案したいのが、
「上向流粗ろ過 + 緩速ろ過」
という、シンプルな浄水方法です。
機械化された最新技術を否定するわけではありません。
しかし、小規模水道においては、
「誰が、30年後に面倒を見るのか」
という視点が決定的に重要だと考えます。
圧倒的な持続性①:低コスト
この「上向流粗ろ過 + 緩速ろ過」の最大の強みは、その構造のシンプルさです。
水槽と砂利と砂と配管材だけで作られた浄水方法のため、
- 高価な機械装置や部品の交換が不要
- 電力消費はほぼゼロ
- 薬品使用量などの消耗品が圧倒的に少なく、消毒用の塩素くらいです。
ランニングコストが圧倒的に安いため、人口減少下でも維持可能なコスト構造を実現できます。
圧倒的な持続性②:管理の民主化
もう一つの大きな利点は、
管理の主導権を地域に取り戻せることです。
例えば――
- 洗浄のためにバルブ操作をする
- ろ過の様子を見て、消毒用の塩素を追加する
こうした作業は、適切な設計と運用支援があれば、
地域住民でも十分に担うことが可能です。
専門業者じゃないとわからないという状態から抜け出し
「自分たちの水道」を自分たちで守る体制が生まれます。
圧倒的な持続性③:変化への強さ
人口が減る地域では、将来の不確実性が非常に大きい。
その点で、「上向流粗ろ過 + 緩速ろ過」は、
圧倒的なランニングコストの安さに加え、必要ならダウンサイズも可能なのです。
シンプルな装置のため、構造変更が比較的柔軟
という特長があります。
これは、人口動態が読みにくい時代において、
極めて重要な“保険”になりえます。
未来への提案:地域で育む「温かいインフラ」
これからの水道は、
「与えられるインフラ」から
「自分たちで守るインフラ」へ
発想を転換する時期に来ています。
私たち水未来研究所は、
複雑なことを、できるだけシンプルに
を基本思想として、最新技術も取り入れつつ小規模水道の設計支援を行っています。
例えば、
- 電気がない場所でも動作する、電池式排泥弁
- スマホによる水位や水質確認システム
- スマホで制御可能な遠隔動作弁
など、昨今のIOTデバイスを組み合わせることで、
現場の負担を増やさずに持続性を高める工夫を重ねています。
結び:30年後、50年後の「当たり前」を守るために
私たちの目標は、
儲かる水道施設を売ることではありません。
その地域に、50年後、100年後を見越した安価で動き続ける水道をつくること。
人口減少が続く日本において、
背伸びしたインフラは、いずれ地域を苦しめます。
だからこそ今、必要なのは——
身の丈に合った水道
です。
派手さはないかもしれません。
しかし、確実に地域を支え続ける。
それこそが、限界集落を含むこれからの地域社会を守る、
最も現実的で、最も誠実な水道のかたちだと、私たちは考えています。
