現在、国土交通省が「第6次社会資本整備重点計画」へのパブリックコメントを2025年11月21日正午まで受け付けています。
国土交通省が向こう2023年度までを対象に実施する政策への意見を国民から広く募集するもので、
「埼玉県八潮市の下水道管の崩落事故を受けた老朽化インフラ設備対策」のように、重要かつスピード感をもって進めてほしいと思うものもあれば、
「EV車向けの充電スタンドの拡充」「高速道路などへのソーラー発電設備の導入」など、ちょっと大丈夫かな?と思うような施策もあります。
このパブリックコメントに対して、弊社(水未来研究所)でも、水道分野、災害分野(水道)について5つの意見書を提出しましたので、どのような内容で提出したのかを記したいと思います。
提出した5つの意見とポイントまとめ
① インフラ老朽化・技術者不足に対し「粗ろ過」の全国展開を提案
💡水道の運転管理に人手がかからない仕組みへ
国の方向性
技術者不足、施設の老朽化、維持管理体制の弱体化に対応するため、①広域化、②官民連携(ウォーターPPP)、DXの推進が示されている。
弊社の主張(要点)
現在の老朽化・人手不足の本質的な解決には、広域化やウォーターPPPのような制度面の対策前に、“維持管理に人手がかからない浄水方式”への転換の検討を進めるべき。
その点では、上向流粗ろ過(Upflow Roughing Filter)の導入が非常に有効で、そのポイントは以下の通り:
- 急速ろ過・膜ろ過など既存施設の前処理として広く適用可能
- 導入により、薬品・電力使用量を抑えることができ、産業廃棄物として汚泥の発生が少なくなる。さらに日々の運転管理の負担が減り、人員削減につながる。
- 上向流粗ろか設備には、機械設備がなく、従来設備に流入する濁度が大幅に抑えられるために、負荷低減を図ることができ、従来設備の補修や更新工事にかかる発注側・工事側の人的リソースの削減につながる
- 大規模・小規模問わず導入しやすい
→ 国として全国的に技術検討を進めるべき と提案しました。
② 災害に備え「池水浄化型の給水設備」の有効性を説明
💡大都市の断水対策として、池を飲料水化する技術の活用を提案
国の方向性
大規模災害のリスクに備え、平時からの備えを含む給水体制の強化、防災公園の
給水施設整備率50%達成等が掲げられている。
弊社の主張(要点)
都市の大規模公園には大きめの池があることが多く、これを
上向流粗ろ過+緩速ろ過(生物砂ろ過)で浄水し、災害時に生活用水化(飲料水レベルまで浄化)するシステム
を提案。
弊社の定置型池水浄化装置の特徴:
- 平時:池水の水質を改善
- 災害時:飲料水レベルの生活用水として浄水可能
- 薬品・消耗品(膜など)が不要
- ランニングコストは月5,000円程度
- 月1~2回の簡易点検で維持可能
- 洗濯用水としての利用用途を想定
→ 災害下の住民の生活レベルの確保に“直結”するため、国の施策に明確に位置づけるべき。
③ 粗ろ過+緩速ろ過(生物砂ろ過)は「カーボンニュートラル」に最も適した浄水方式
💡エネルギー・薬品・汚泥が極めて少ない低環境負荷型インフラ
国の方向性
カーボンニュートラルの施策として、グリーンインフラの活用、流域治水、脱炭素型インフラの整備、資源循環システ
ムの確立を推進する。
弊社の主張(要点)
従来の急速濾過+高度処理(オゾン処理+活性炭ろ過)と比較し、緩速ろ過に上向流粗ろ過を組み合わせた浄水方式は、脱炭素目標に最適です。
理由:
- 電力使用量が極めて少ない
- 薬品添加ほぼ不要
- 汚泥がほとんど発生しない
- 自然由来の微生物浄化で、環境負荷が低い
→ グリーン社会の代表的インフラとして評価すべき と提案しました。
④ 住民参画型インフラとして“小規模分散型水道”として粗ろ過+緩速ろ過(生物砂ろ過)の活用を提案
💡過疎地域の維持に、住民×行政の二層型モデルが現実的
国の方向性
住民参加型インフラ、地域の管理能力維持、過疎地域の公共サービス維持が掲げられている。
弊社の主張(要点)
上向流粗ろ過+緩速ろ過は、“住民が管理できる水道”として最適。
実例:
能登半島・高屋町では、30代女性が単独で日常管理を行っている。
さらに、過疎地域では今後
住民(日常管理)×県(広域・遠隔監視) の二層型モデルが現実的。
- IoT活用で県レベルで全施設のデータに基づき集中管理
- 住民は日常的な維持管理のみ担当
- 異常時は県職員が住民に連絡、厳しい場合は県から職員派遣対応
- 料金は県統一価格へ
→ 国が掲げる「住民参加型インフラ」に高い整合性を持つ。
⑤ 粗ろ過+緩速ろ過は、国際展開にも有望な“温故知新型技術”
💡AIやDXとは別軸の「壊れない・人手いらず・住民が管理できる技術」
国の方向性
PPP、インフラ輸出、AI・DX 等の先端技術導入を推進し、スタートアップ活用を図る。
弊社の主張(要点)
最新技術の導入も重要だが、仮に古い技術でも
壊れにくく、低電力、災害に強く、住民が管理できる技術というようなものがあれば
これも同時に評価されるべき。
粗ろ過+緩速ろ過はまさにこの「温故知新型」技術。
- 壊れにくい
- 低ランニングコスト
- 災害に強い
- 人手がいらない
- 国際協力で実績多数(フィジー、サモア、パキスタンなど)
→ PPPやインフラ輸出に組み込む価値が高い。
まとめ:日本の水インフラを持続可能にするために
今回のパブリックコメントでは、
「技術者不足」「災害」「カーボンニュートラル」「国際展開」
といった国の重点課題に対し、
水処理技術の視点から具体的な提案を行いました。
特に、
上向流粗ろ過+緩速ろ過 という“シンプルで壊れず、人手がいらない浄水方式”は、
実はこれらすべての課題に高い親和性があります。
今後も、水インフラの持続可能性に向けた議論に、専門家として積極的に関わっていきたいと思います。