宮城県知事が参政党党首に抗議――「命の水を外資に売るな」の真意と事実

昨日の参議院議員選挙の直前、新興政党である「参政党」神谷党首の“水道民営化批判”発言をめぐり、宮城県の村井嘉浩知事が抗議文を出すという異例の事態が起きました。村井知事は「選挙中だから何を言ってもいいのか」と憤り、「宮城の命の水を外国企業に売り渡すわけがない」と明言。報道は「知事 vs. 参政党党首」の対立構図を強調していますが、そもそも何が問題なのか、事実はどうなのか──深堀りしてみましょう。


目次

参政党 神谷党首の発言と宮城県 村井知事の反応

参政党 神谷党首の発言(要旨)

「国がやらないから宮城県みたいに民営化しちゃうわけです。おかしい宮城県は。水道なんてめちゃめちゃ大事なわけですよ。何でそれを外資に売るんですか。外資に任せるんですか」

この発言に対し、村井知事は6月15日、次のようにコメントし、抗議文を県政記者クラブに提出しました。

「非常に憤っている。選挙中だから何を言ってもいいと。よく堂々と人前で言えたものだと思う。失礼だ」
「宮城県の大切な命の水を、海外の企業に売り渡すなんてことがあるわけがない」

村井知事の発言は、神谷党首が「誤った情報」を拡散しているとして事実関係の訂正と謝罪を求めるもの。選挙期間中の発言であることを念頭に、「誤解を招く表現だ」と強い言い方をしたのです。


宮城県水道コンセッションについて、事実の確認

まずは事実はどうなのか、本件の内容について確認してみます。

今から遡ること7年前、コンセッション*を含む改正PFI法は2018年6月13日に参議院本会議で可決・成立しました。

宮城県はこの改正PFI法の下、2021年に上水・工業用水道事業の運営権を民間に委ねる「コンセッション※契約」を、日本の水道で初めて以下の2社と締結しました。コンセッション契約では、浄水場などの所有権は県が従来通り保持したうえで、事業の「運営権」、「維持管理権」をそれぞれ民間に委ねるものです。

  • 契約期間:20年間(更新オプションあり)
  • 事業主体(運営):株式会社みずむすびマネジメントみやぎ
    • メタウォーター(株) 51%保有+ヴェオリア・ジェネッツ社ほか9社(全10社)
  • 事業主体(維持管理):株式会社みずむすびサービスみやぎ
    • ヴェオリア・ジェネッツ社51%保有+メタウォーターサービス(株)ほか9社(全10社)

※コンセッション:公共インフラ(今回なら水道)の運営権を民間に一定期間譲渡し、運営・維持管理と一部投資を任せる方式

「運営権を渡す」とはいえ、資産の所有権は県に残るため、「売り渡す」の表現は厳密には誤りです。ですが、事業の表舞台に民間と特に海外資本が絡むことで、宮城県民の間には「本当に安全なのか」「20年後取り返せるのか」といった不安が根強くありました。また、施設の維持管理を担う事業運営会社の株式の51%を、外資系企業のヴェオリア・ジェネッツ社が握ることとなり、宮城県民に不安はさらに高まっています。


宮城県民が抱える不安と事実のギャップ

宮城県ではコンセッション導入前から、以下のような声がくすぶっていました。

  1. 情報の透明性不足
    • 契約原票や KGI/KPI の詳細が県ウェブサイト上に公開されず、住民が検証しにくい
  2. 長期契約後の再公営化難航
    • 20年後に「再び県に戻す」には実質的な難易度が高い
  3. 利益追求 vs. 公共サービス
    • 民間企業は収益目標が優先、値上げ圧力や投資抑制が起きる懸念

これに対し県当局は、「料金上限」「品質指標(トリハロメタン等の水質基準厳守)」「再公営化条項」を契約に盛り込み、「県の承認なく大幅値上げ不可」「契約違反時は解除可能」といったガバナンス条項によって抑制を図ったと説明していますが、説明が不十分だと宮城県民の不安は十分には払しょくされないままとなっています。


まとめ:抗議するより、丁寧な説明を

参政党 神谷党首の「外資に売る」という表現は必ずしも正確とは言えない表現ですが、選挙演説中に端的な言葉で聴衆に問題の本質を鋭く突きつける必要性がある中の発言としては、許容範囲な表現であろうと思います。

また、その根底には宮城県の県民の水道に対する漠然とした不安――「透明性」「将来の再公営化」「料金維持」を心配する声――に寄り添い、住民の思いを「NO」という形で宮城県に突きつける主張だったと言えます。

一方、宮城県 村井知事の「事実誤認の訂正」を求める抗議は、事実に沿ってきちんと何が問題かを説明できる時間的ゆとりがある場においても十分な説明がなく上記のように、「失礼だ」とか、「事実誤認だ」と一方的に憤る姿は、まさにこれまでの宮城県が住民に対してコンセッションに対する十分な説明ができてこなかった姿勢を重ねて見ることができたように思います。

説明責任のある立場として、宮城県民の不安を払しょくするような丁寧で十分な説明をこの際、宮城県民に対してしっかりと実施いただけたらと願います。


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