東京都水道局の震災に向けた取り組みについて、前回の記事でご紹介しました。
ほぼ完ぺきではないかと思う取り組み内容ですが、それでも首都直下地震のような大地震が起きたとき、さまざまな想定外が起こりえます。
今回はそんな想定外となりうる状況について、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。
最大の支援者は、被災者でもあるということ
首都直下地震が発生。
その瞬間、首都圏3,000万人が一斉に被災者となります。
それは、自宅や職場などが破損する一次被災者はもちろんのこと、電気やガス、水道が止まり普段の生活が送れなくなるという二次被災者も含めると、首都圏に居住する人々はほぼ被災者であると言っても過言ではないと言えます。
とはいえ、二次被災者の中には、それほど生活に影響のない人もいるかもしれません。
一方、幼児やお年寄りのいる家族では家族を支えるためにいつも通り出社できない人々がいるのは当然で、そのような人に「支援者としての立場」を求められても、どうしても応えられないケースが発生することは仕方がないと言えるでしょう。
通常なら1日で終わる復旧作業も、人手が通常通り集まらない状況下では、2日、3日とかかってしまうことは仕方がないでしょう。
首都直下地震において、被災者を支援するのために活動する最も多い支援者は、自宅に戻ると悲惨な現実が待っている被災者であることを理解する必要があります。
道路は「通れない」「渋滞する」「燃料がない」
災害によって、道路が損壊したり、橋が破損し通行止めになる箇所が発生すると同時に、「緊急車両レーン」に設定される道は一般車両は通ることができなくなり、迂回せざるを得ない状況が発生します。
また、被災直後から、首都圏には各地からの災害支援、支援物資運搬などの車両が集中することが想定されます。
能登地震では、短期的に能登半島に多くの支援者、物資輸送者が集まったことで大渋滞となりました。能登半島の先端に位置する珠洲市まで通常なら3時間程度で到達可能な場所に、支援のために最初に乗り込んだ時、8時間ほどかかりました。
首都直下地震の場合はにおいては、この傾向がさらに顕著になり大渋滞がおこると予想されます。
また、都内の数少ないガソリンスタンドも被災します。
通常よりもさらに少なくなったガソリンスタンドに、支援者を含めた多くの車が殺到するため、燃料の確保はより困難になることが予想されます。スタンドへの給油のためのタンクローリーがそもそも渋滞でなかなかガソリンスタンドに到達できないということもあるでしょう。
このような道路の渋滞が原因で、災害復旧活動がさらに遅延することも想定しておくことが必要です。
想定通り進まない災害復旧
通常時でも、突発的に故障した設備の復旧には、「材料調達」や「各方面の手配」などの段取りを含めて、修理完了までに数週間から2,3カ月かかります。
これが、首都直下地震後の災害復旧となると、この修理のスピードが通常よりも早くなることはほとんどなく、むしろ、上述の人手不足、連絡がつかない、大渋滞による物資輸送の遅れなどの要因により、通常の2,3倍の時間が復旧までにかかる可能性があることは当然想定しておくべきことでしょう。
下水道被害による水道が使えない問題
東京都水道局の努力によって、水道機能は可能な限り震災に耐えたとしても、別要因により結果的に水道が使えないことも考えられます。
埼玉県八潮市での下水道管の破損に伴う道路陥没事故の報道では、周辺住民に水道の使用を控えるよう促されているというニュースを目にした方もいらっしゃると思いますが、過去にも、下水道が原因で水道が使えなくなる事例は度々発生しています。
例えば、2019年の東日本を襲った大雨の影響では、長野市では下水処理場の「クリーンピア千曲」が、地下の制御盤を含めた電気設備が浸水によって機能不全状態となり、数カ月にわたり長野市民は水道の使用を控えなければならない状況となりました。
また同じ大雨の影響で、東京では武蔵小杉のタワマンで、マンション地下の浸水被害により水道やエレベーターが使えくなった事例は、新たな都市型災害として、人々に驚きのニュースとして伝えられました。
首都圏直下地震では、地震により下水処理場の機能が失われたり、地盤の液状化現象によるマンホールの隆起が原因で下水道の機能が失われ、その結果、水道が使えなくなる可能性があるのです。
災害時給水ステーションの存在
東京都で災害によって水道が使えなくなった時、都民のために東京都水道局では、「災害時給水ステーション」を都内各地に配備しています。その名の通り、災害時に水に困った都民に水を配る場所となっています。
この「災害時給水ステーション」は、Webの「東京都防災マップ」やスマホの「東京都水道局」のアプリから、身近な「災害時給水ステーション」を探すことができるようになっています。
さて、この「災害時給水ステーション」は、
- 23区内に104か所(669,280m3)
- 23区外に108か所(388,380m3)*一部東京都水道局による整備ではないものも含む
が配備されており、合計1,057,660m3もの水が確保されています。
これらの災害時給水ステーションには、浄水場などの専用施設(1日あたり1万m3以上の供給能力)を除くと、いわゆる防災用の給水に特化した災害時給水ステーションとしては、1か所あたり、1500m3もしくは100m3の水槽が設置されています。
例えば、筆者の居住する豊島区では、以下のようになります。
項目 | 数値 |
---|---|
区民人口(2024) | 289,000 人 |
必要水量(20 L/人/日として) | 5,800 m3 /日 |
ステーション貯水 | 2か所で、1,600 m3(1500m3+100m3) |
不足 | 4,200 m3 |
なんと、豊島区内の災害時給水ステーションは1日ともたずに枯れてしまうという計算になります。
一方、お隣の板橋区は、浄水場や専用の給水所も整備されていることもあり、板橋区としての確保水量は57,100m3もあります。
都内も特に都心部は、自家用車を持たない世帯がほとんどのため、どうしても自宅近くの給水ステーションに徒歩で給水に行かざるをえず、そこが万が一空になるとどうしようもないということになってしまいます。
空になったステーションには給水車が水の補給をするけれど
給水車は、水がなくなった災害用給水ステーションに給水すると災害計画で記されています。
一般的な4t 給水車は、1回に約4.0m3の水を運べますが、仮に豊島区の1,600m3の水槽への補給には、延べ400台もの給水車が必要となります。
しかし、全国にある給水車の数は1300台程度。
首都直下地震後に、大部分の給水車が都内に集まったとして、400台程度でしょう。となると、その給水車で豊島区の2か所の災害時給水ステーションをいっぱいにするのが精いっぱい、という状態です。
また、前述の通り、道路は大渋滞に、ガソリン不足、さらには400台もの給水車を走らせる人が確保できるかどうかなどを考えると、一度空になった災害時給水ステーションで再び給水サービスを受けることができるかは未知数です。
(1か所の給水ステーションに400台の給水車が列をなして、水を補給するなんてあり得るでしょうか?)
給水車支援の優先順位(東京都水道局の震災等応急対策計画による)
給水車が優先的に水を配水する順番は、以下のように定められています(事業概要(2024年度)第3章 第2震災対策等p.79 )
優先度 | 行き先 | 目的 |
---|---|---|
1 | 基幹病院、政府中枢 | 生命維持、政府機能維持 |
2 | 給水ステーション | 一般市民への給水維持 |
3 | 避難所(水の困窮度による) | 一般市民への給水維持 |
その他 | 主要駅・重要施設 | 必要に応じて判断 |
なお、東京都水道局の資料では言及されていませんが、皇居などご皇族の方々への給水は、優先度1となるのではと個人的に思います。また、水道局の給水車で不足する場合、自衛隊や民間企業による給水サービス提供も考えられます。この場合、自衛隊は東京都水道局と連携しつつ上記の優先順位に沿った給水活動を行い、民間企業は避難所や大型公園を中心としたサービス展開になると予想されます。
結論:ステーションで給水サービスを受けなければ、他に道はない
万が一、自宅の水道が止まった場合には、基本的に近隣の給水ステーションに給水を受けに行くしかありません。
飲み水や調理用の水のペットボトルは、災害発生後は近隣の避難所から受け取ることができるようになると思われますが、生活用水は給水ステーションで確保する、ということが前提になると思われます。
次回は、そんな給水ステーションで水を受ける場合の注意点や受け取り方について、記載いたします。