上田・長野地域「500億円」の水道広域化。将来にツケを残さないための「浄水プロセスの再定義」と「分散型バックアップ」の提言

目次

1. 上田・長野地域が直面する「水道の分岐点」

長野県の上田・長野地域が、水道インフラの大きな転換点を迎えています。

急速に進む人口減少による料金収入の減少、高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化と耐震化の遅れ、そして長年にわたって現場を支えてきた団塊世代の熟練職員の大量退職。これらの課題が重なり合う中、複数の自治体が連携し、総事業費およそ500億円規模の水道広域化計画が動き出しています。現在10か所以上に分散する浄水場を4か所程度に集約し、基幹管路を最適化するという、この地域の水道史上最大規模の再編です。

人口減少と財政縮小が避けられない中で、今のうちに規模の適正化を図り、将来のコスト増を抑制しようという意志は、正しい方向を向いています。

しかし、500億円という巨額の投資だからこそ、その「中身」を問わずにはいられません。

30年後・50年後の住民が、この投資を「あの時の決断があったから今がある」と感謝できるものにするために、今、問い直すべきことがあります。


2.「業者のための更新」から「住民のための最適化」へ

大きな予算が動くとき、往々にして起きることがあります。

「前もこの方式だったから、今回も同じで」という判断です。急速ろ過で動いていた浄水場を更新するとき、新しい施設もまた急速ろ過で設計される。技術的な再検討がなされないまま、慣習が踏襲される。それは悪意ではなく、むしろ「実績のある方式を選ぶ」という善意の判断からくることが多いのです。

しかし、考えてほしいのです。

急速ろ過システムは、薬品費・電気代・汚泥処理費という高いランニングコストを毎年払い続け、30年ごとに数十億円規模の全面更新を繰り返すインフラです。今の人口規模を前提に設計された施設が、20年後・30年後に人口が3割・4割減少した状況でも同じコストを要求し続けるとき、その負担を誰が払うのか。

水道料金の大幅値上げか、自治体の赤字補填か。その二択を、将来の住民に押し付けることになりかねません。

500億円の投資が「業者にとって都合の良い更新」で終わるのか、「住民にとって持続可能な最適化」になるのか。その分岐点が、今だと考えます。


3.【提言1】浄水プロセスのアップデート――粗ろ過×緩速ろ過への転換

新設・更新予定の浄水場において、浄水プロセスそのものを見直すことを、強く提言します。

具体的には、「上向流粗ろ過+緩速ろ過」の組み合わせへの転換です。

この方式の最大の特長は、ランニングコストの低さです。凝集剤などの薬品が原則不要で、急速ろ過と比較して動力費も大幅に抑えられます。汚泥の発生量も格段に少なく、産業廃棄物処理コストもほぼかかりません。維持管理は、定期的なバルブ操作が中心で、日々のジャーテストのような高度な技術管理も不要です。

設備の更新サイクルも、急速ろ過とは比較になりません。機械設備が少ない分、劣化する部品が少なく、適切に管理すれば50年・100年単位で稼働し続ける実績があります。30年ごとの全面更新という「コストの波」を、根本から平準化できます。

かつて緩速ろ過の弱点とされていた高濁度への対応も、上向流粗ろ過を前段に置くことで大きく改善されています。粗ろ過が濁質の70〜90%を除去した上で緩速ろ過に送ることで、どんな原水でも安定した処理が可能になります。長野県は山岳地帯を水源とする河川が多く、降雨時の濁度上昇が課題となる地域もありますが、この組み合わせはそうした条件にも対応できます。

一方、廃止しない既存の急速ろ過施設については、前処理として「上向流粗ろ過」をアドオンすることを提言します。浄水場全体を作り替えなくても、前段に粗ろ過を加えるだけで、凝集剤の使用量を大幅に削減し、ろ過池の目詰まり頻度を下げることができます。設備の延命化と維持管理コストの削減を、比較的小さな初期投資で実現できる現実的なアプローチです。


4.【提言2】「廃止施設」を眠らせるな――災害用バックアップ拠点への転換

広域化の文脈で「廃止」と決まった浄水場を、完全に解体・撤去することには、慎重であるべきです。

能登半島地震が、改めて証明しました。集中管理された水道システムが広域にわたって同時に機能を失ったとき、その復旧には想像を超える時間がかかります。幹線管路が一か所で被災すれば、その下流の住民全員が水を失う。これが、広域化・集約化が持つ構造的なリスクです。

管路を繋いで平時の効率を高めることと、有事の際に代替機能を持つことは、両立できます。

廃止予定の浄水場の施設を最低限維持し、「災害時専用の造水拠点」として温存することを提言します。平時は稼働しない。しかし、幹線が被災したとき、あるいはメイン浄水場が機能を失ったとき、その地域の住民が最低限の生活用水を得られる場所として、静かに待機させる。

この「眠れる拠点」の維持コストは、建設当初と比較すれば格段に安くなります。緊急時に稼働できる状態を保つための最低限の管理費は、「水道システム全体の保険料」として考えれば、十分に合理的な支出です。

真のレジリエンスとは、平時の効率と有事の代替機能を両立させることです。廃止予定施設の「解体ありき」という発想を、今一度問い直してほしいのです。


5. 期待できる効果と、未来への責任

提言1・提言2を組み合わせることで、期待できる効果は複数あります。

まず、浄水場の更新コストの大幅な削減と平準化です。急速ろ過から粗ろ過×緩速ろ過への転換により、30年ごとの更新費用は大きく抑制されます。その分でこの地域の水道料金の上昇を抑えられます。

次に、人件費・動力費の継続的な削減です。管理が簡素化されることで、人手不足の中でも持続可能な運営体制が整います。薬品費・電気代・汚泥処理費の削減は、毎年の収支改善として積み重なっていきます。

そして、災害時の給水継続能力の確保です。分散したバックアップ拠点を持つことで、大規模災害時にも地域住民への最低限の給水を維持できます。

500億円という投資は、この地域の未来に本当に必要な金額なのであれば、惜しむべきではありません。水道インフラへの投資は、地域の未来の生活への投資です。しかし、その中身が「30年後、50年後の住民にとっても持続可能なものであるか」という問いを、設計の最初の段階から持ち続けることが、私たちには求められています。

上田・長野地域の水道広域化が、日本の水道再編の「良いモデル」になることを、心から願っています。そのために、この提言が少しでも議論の材料になれば幸いです。

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