人口減少時代、膜ろ過浄水場をどうするか
1.膜ろ過は優れた浄水技術
まずは、膜ろ過のメリットを紹介します。
- 導入直後から、安定した清澄な処理水が得られる。
- クリプトスポリジウムなどの病原性原虫対策に有効である。
- 自動運転が可能で、常駐管理者を置きにくい小規模水道にも適している。
- コンパクトな施設構成が可能である。
- フミン質も場合によっては膜で十分に除去できる場合があります。
膜ろ過が普及してきたことには、十分な理由があります。
2.しかし、維持管理費が高い
膜ろ過には、運転を続ける限り発生する費用があります。
- 電気代
- 薬品洗浄費
- メーカー・専門業者による点検費
- 膜の定期交換費
- 制御・計装設備の維持管理費
特に小規模な浄水場では、これらの費用が水道経営の大きな負担になる場合があります。そして、問題をさらに深刻にしているのが人口減少です。
3.人口が減っても、維持管理費は比例して減らない
給水人口が減れば、水道使用量も減少する傾向にあります。しかし、膜ろ過設備の維持管理費は、処理水量が半分になったからといって、半分になるわけではありません。
例えば、年間維持管理費が1,000万円の施設で、処理水量が半分になっても維持管理費が800万円残るとすれば、水量当たりの維持管理費は1.6倍になります。人口減少が進む地域ほど、こうした固定費の負担は大きくなります。
施設は正常に稼働しているのに、水道経営上の負担は大きくなっていく。これが、人口減少時代の膜ろ過浄水場が抱える構造的な課題です。
4.解決策は、膜ろ過設備を更新することだけではない
ここから、解決策に目を向けます。水道事業体では、給水区域の再編によって、浄水場の役割を見直すことも検討されています。例えば、次のような方法があります。
- 周辺浄水場の給水区域を拡大して、既存施設を有効活用する。
- 維持管理費の高い膜ろ過施設を廃止し、周辺浄水場に統合する。
- 膜ろ過施設の給水区域を縮小し、小規模な浄水施設として存続させる。
ここで大切なのは、単純に浄水場を減らすことが正解とは限らないことです。山間部などでは、送水管の延伸やポンプ設備の新設に多額の費用が必要になる場合もあります。地域ごとの条件を踏まえて、現実的な選択肢を比較することが欠かせません。
5.給水区域を縮小し、膜ろ過から緩速ろ過へ転換する
ここが、今回の記事の中心です。実際に、周辺浄水場の給水区域を拡大する一方で、維持管理費の高い膜ろ過浄水場の給水区域を縮小し、緩速ろ過への転換を検討している事例があります。現在は、緩速ろ過の実証実験も進められています。
緩速ろ過は、クリプトスポリジウム対策として制度上認められている浄水方式の一つです。また、適切な施設設計と自動監視を組み合わせることで、常駐管理者を必要としない運転体制も検討できます。
さらに、膜ろ過のような定期的な膜交換や薬品洗浄を必要としないため、維持管理費を大きく削減できる可能性があります。膜ろ過の維持管理費が重い地域にとって、これは見逃せない利点です。
ただし、原水条件や必要な敷地面積、ろ過砂の管理などは、事前に確認する必要があります。なお、この事例は現在検討中の段階です。そのため、ここでは特定の自治体を挙げず、一般化した形でご紹介しています。
6.人口減少時代には、浄水方式も選び直す
これまでの浄水場整備では、将来の水需要を予測し、それに対応できる施設を整備してきました。しかし、人口減少が続く地域では、かつての施設規模や浄水方式が、現在も最適とは限りません。
膜ろ過が適している場所もあれば、緩速ろ過が適している場所もあります。重要なのは、今ある設備を前提に更新方法を考えるのではなく、将来の給水人口、原水水質、維持管理体制、ライフサイクルコストを踏まえて、改めて浄水方式を選ぶことです。
浄水場は、一度建設したら同じ方式を使い続けなければならないわけではありません。人口が減り、水道を支える人も減っていく時代だからこそ、施設の規模だけでなく、浄水方式そのものを見直すことが必要なのではないでしょうか。
【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】
水道公論 2024年3月号(第60巻第3号)pp.78-90, 信州大学名誉教授 中本信忠
「生物屋の緩速ろ過池研究 その30:『生物群集の活躍を理解するには自分で考える』」
生物の力を活かせば、水はおいしく省エネになる
(1) 寒さと濁りが映し出す、ろ過池の違い
厳寒期、上田市の緩速ろ過池は水面が凍結します。中本先生は、ろ過抵抗が水温と深く関係していることに注目しました。一方、群馬県高崎市の浄水場ではろ過池の水面が凍らず、一年を通してろ過閉塞も起きていませんでした。同じ緩速ろ過でも、条件の違いによって生物群集の働きぶりは大きく変わります。高崎市の若田浄水場は、キリンビールの醸造工場ができることを機に建設されました。当初は凝集剤を添加していましたが、ビール工場で水道水を使ってもらうために、その添加を止めたといいます。
(2) 凝集剤が生物の力を封じていた
上田市でも戦後、降雨で河川が濁り原水濁度が10度を超えるようになると、濁り水対策として凝集剤を使い始めました。しかし凝集剤を加えると、ろ過池の生物群集は十分に活躍できません。本来、原水は沈殿池を経由してろ過池へ送られますが、上田市ではようやく着水をポンプで揚水し、バイパスで直接ろ過池に入れる実験が行われました。生物群集が活躍できれば、水はおいしくなる。これが先生の一貫した主張です。
(3) 世界の現場が示す粗ろ過の可能性
原水を直接ろ過池へ入れる考え方は、海外でも実践されています。ブラジルのベルナルド氏は上向流粗ろ過の実験を続け、スリランカでも上向き粗ろ過が実践されました。バングラデシュでは、難分解性の農薬の除去まで視野に入れた検討が行われています。薬品に頼らず、生物と自然の力で水をきれいにする技術は、途上国から日本まで共通の可能性を持っています。
(4) 省エネの浄水場を、なぜ手放すのか
上田市の染屋浄水場は浄化能力が大きく、自然流下で給水できる省エネの施設です。管理も基本的にすべて手動で行われています。とりわけ100年前に建設されたろ過池は斜めの構造をしており、生物群集の発達が最も良好でした。かつては県営水道の給水地区へ市営水道の水を送る案も2009年に検討されましたが、水道ビジョンではその案が無視されていたといいます。さらに施設の最適化配置計画では、調子の良いろ過池を壊し、構造の悪いろ過池に置き換える方針が示されました。先生は、誰がどのような意図で計画を主導したのかと問いかけています。
(5) 水道の課題は急速ろ過の課題
先生は、水道が抱える課題はすべて急速ろ過の問題だと指摘します。急速ろ過は高度処理を必要とし、逆洗もあって問題の多い方式です。転勤のある職員では管理しきれず、業者頼みにならざるを得ません。長野県企業局も緩速ろ過を勧めたい立場にあるといいます。急速ろ過と緩速ろ過のろ過水濁度の違いに注目してほしい。生物群集の働きを理解するには、他人任せにせず自分で考えることが欠かせない、というのが先生からのメッセージです。
【3. Q&A 現場の悩み相談】
集落の水源は鉄・マンガンが多いのですが、どのように処理が可能でしょうか。
一般的にはマンガン砂というろ材を使用し、曝気や塩素剤で水中の鉄やマンガンを析出させた後のろ過による除鉄・除マンガン対応が一般的です。粗ろ過x緩速ろ過でも高効率で除去は可能ですが、メンテナンスが大変という側面があり、安易にお勧めできない状況です。現在、新技術を開発中です。その他の処理方法としてはイオン交換もありますが、メンテナンスの煩雑さはどれも同じです。
【4. 編集後記】
最近、全国の緩速ろ過浄水場がどこにどの程度あるのかをAiに調べさせています。思っていて以上に多くて、全国でですが現在1000件に達しようとしています。しかし、AIって本当に便利になってきましたね。時々、結果を見ては次にどうしてください、と依頼するだけでやり方を考えながら調べて、結果をわかりやすくまとめてくれています。
2,3週前からご案内してきましたが、大分の鉄・マンガンサイトの粗ろ過x緩速ろ過での見学会(10月24日13時~)の募集締め切りが10月10日までとしています。1日延長して11日までにしますので、希望者は下の問い合わせフォームからご連絡ください。申し込んだんですけど、私から連絡ないという方がいらっしゃいましたら、03-5050-4950までお電話ください。
鉄・マンガンを粗ろ過x緩速ろ過で除去する事例はそれほど多くないと思います。大変貴重な機会です。