株式会社水未来研究所

日本の水道を真剣に考える|持続可能な水インフラの実践論説 #30

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<目次>
【1. 今週の実務ノウハウ】
【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】
【3. Q&A 現場の悩み相談】
【4. 編集後記】
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【1. 今週の実務ノウハウ】

小規模水道の制約条件を考える――鍵は保守の階層化?

1. 人口が減った地域にも、水道は必要

人口減少が進む地域では、水道の維持がますます難しくなっています。数十人しか住んでいない集落まで長い水道管を延ばし、それを何十年にもわたって維持する。漏水すれば修理し、老朽化すれば更新する。利用者が減っても、管路の延長が同じように短くなってくれるわけではありません。

そこで選択肢の一つとして考えられるのが、地域ごとに小さな水源と小さな浄水施設を持つ「小規模水道」という形です。大きな水道施設から長い管路で水を引くのではなく、その地域にある水源を使って、その地域で水を作って使う。

しかし、施設を小さくすればそれだけで安くなるわけではありません。むしろ小規模だからこそ、運営方法を間違えると一人あたりの負担は非常に大きくなります。設備費だけでなく、維持管理費・水質検査費・将来の更新費用まで、少ない利用者で分担することになるからです。

では、小規模水道が持続的に成立するためには、何が必要なのでしょうか。今回は、その条件を整理しながら、「保守の階層化」という考え方を提案したいと思います。

2. まず考えたい「5つの成立条件」

小規模水道が持続的に成立するためには、技術的な条件だけでなく、社会的・経済的な条件がそろっている必要があります。私は以下の5つを成立条件として考えています。

(1) 持続的に利用できる水源

表流水・湧水・地下水など、種類は問いません。重要なのは、必要な水量が確保できること、処理可能な水質であること、季節変動や渇水時にもある程度安定して使えること、そして豪雨時などの急激な水質変動にも対応できることです。

特に小規模水道では、水源の水質が悪いほど浄水処理が複雑になり、それに伴って設備が高度化し、維持管理も難しくなります。「どんな浄水設備を選ぶか」を考える前に、「できるだけ良い水源を選ぶ」ことが、小規模水道の成立において非常に重要な出発点です。

(2) 地域自身で日常管理できること

日常的な見回りや簡単なメンテナンスのたびに専門業者を呼んでいたら、移動費や人件費だけで相当な金額になります。したがって、日常的な作業は地域で行うことが原則になります。施設の見回り、清掃、水位確認、簡単な水質確認、薬品補充、バルブ操作、異常の有無の確認--こうした作業を地域で担えることが、小規模水道の経済性を支える柱の一つです。

ただしこれは、「住民に難しい水道管理を押し付ける」という意味ではありません。むしろ逆で、住民が管理できる程度まで設備そのものをシンプルにすることが前提条件になります。できるだけ薬品・電力・複雑な機械設備に依存しない水処理技術--粗ろ過や緩速ろ過などの方式が、この文脈で改めて評価される理由がここにあります。

(3) 必要な水道料金を地域で負担する

水道には当然、費用がかかります。電気代・薬品費・水質検査費・消耗品・修繕費・将来の更新費用など。基本的には、その水道を維持するために必要な原価を利用者が負担するという考え方が必要です。「行政サービスだから全部役所がやってくれる」という前提では、小規模水道を全国各地に持続的に展開することは難しい。

ただし、施設の更新など一時的に大きな費用が発生するものについては、行政が負担する仕組みも考えられます。どこまでを利用者負担とし、どこから行政負担とするのかは、地域ごとに設計すればよいことです。

(4) 行政によるバックアップ

日常管理は地域で行えるとしても、「すべてを地域だけで」というのも現実的ではありません。大規模な故障、水質事故、災害、水源の異常、専門的な技術判断--こうした事態は、地域の人だけでは対応できません。

行政が果たすべき役割は、すべての作業を直接担うことではありません。困ったときに支えること、そして研修・技術情報の提供・水質管理・専門業者との調整など、複数の小規模水道を横断して支える「技術支援センター」のような機能を持つことが考えられます。平常時は地域主体、困ったときには行政が支える--この役割分担が重要です。

(5) 小規模水道を孤立させない

最後の条件です。小規模水道が一つだけ孤立して存在すると、維持管理の効率が非常に悪くなります。しかし、同じ市町村や県内に同様の小規模水道が複数あれば状況は変わります。この「孤立させない」という考え方が、後半で述べるネットワーク化の出発点になります。

3. 小規模水道の最大の問題は「規模の経済」が働かないこと

小規模水道を現実的に設計しようとすると、必ずぶつかる経済性の問題があります。

例えば10世帯の水道施設のためだけに、専門業者が車で1時間かけて訪問するとします。作業そのものは30分でも、往復2時間の移動時間が発生します。その人件費・移動費はすべて、10世帯で負担することになります。同じことが、水質検査・計測器の点検・ポンプの定期点検・電気設備の確認・薬品設備の点検などでも起きます。

これを全部専門業者に依頼すれば、「小さな設備なのになぜか維持管理費が高い水道」が完成してしまいます。大規模な水道施設では規模の経済が働き、一つひとつの作業コストが薄まります。しかし小規模水道ではその効果が得られない。ここに、小規模水道の経済的な根本課題があります。

この問題を解くカギが、「保守の階層化」ではないかと考えています。

4. すべての仕事を専門家に頼まない――「保守の階層化」

保守の階層化とは、水道の維持管理業務を難易度・専門性によって分け、それぞれに適した担い手を割り当てるという考え方です。

第1層:地域住民

日常的な見回り、清掃、水位の目視確認、簡単なバルブ操作、異常の有無の確認など。現場から数分~数十分のところに住んでいる人だからこそできる仕事です。専門知識よりも「近くにいること」が価値を持ちます。

第2層:IoTによる常時監視

水位・流量・濁度・残留塩素・電気伝導度・ポンプの運転状況・各種異常信号などを自動的に取得し、異常があればアラートを発する。人が現地にいなくても、施設の状態を継続的に把握できます。

第3層:行政による遠隔支援

行政担当者も同じデータをリアルタイムで確認できます。地域からの連絡を待って初めて状況を知るのではなく、地域住民と行政が同じデータを共有する形にすることで、遠方からでも適切な判断と指示が可能になります。

第4層:専門業者

専門知識や特殊な測定機器が必要な作業だけを担います。機器の故障対応、専門的な定期点検、精密な水質検査、大規模な修繕など。この層の作業は専門業者でなければできませんが、だからこそ、専門業者の時間を本当に必要な場面だけに集中させることができます。

すべての仕事を最も高コストな専門業者に頼む必要はありません。しかし、すべてを住民に任せる必要もありません。それぞれの仕事に適した担い手がいて、その組み合わせを設計することが重要です。

5. IoTは「無人化」のためではなく、人と人をつなぐために使う

IoTというと、「AIや機械が全部管理してくれる無人化」というイメージで語られることが多い。しかし小規模水道では、別の使い方ができます。

大雨の翌日を想像してみてください。ある施設で濁度上昇のアラートが発生する。地域住民のスマートフォンにも、行政担当者の画面にも同じアラートが届く。行政担当者は過去数時間のデータを見る。原水の濁度が急上昇しているのが分かる。

行政担当者は地域の管理者に連絡します。「原水側を確認してもらえますか」。地域の人が施設へ行って確認し、現場の様子を写真に撮って送る。行政担当者はデータと現場の情報を組み合わせて判断します。簡単な操作で対応できる状況なら、住民に手順を伝えて対処してもらう。専門的な故障であれば、そこで初めて業者を手配する。

このとき、IoTは「無人化の道具」として機能していません。「現場にいる人」と「離れた場所にいる専門知識を持つ人」をつなぐ情報の橋として機能しています。遠方の専門家と地域住民が同じ情報を共有し、それぞれの強みを発揮できるようにする--これが、小規模水道におけるIoTの最も重要な役割の一つではないかと思います。

6. 20か所あれば「20個の水道」ではなく「一つの水道群」と考える

保守の階層化と並んで、もう一つ重要な発想があります。複数の小規模水道をネットワーク化するという考え方です。

仮に一つの自治体に20か所の小規模水道があるとします。それぞれが個別に業者を呼ぶのではなく、20施設まとめて発注する。専門業者が地域を一巡して20施設を順番に定期点検する。水質検査もまとめて採水する。計測機器の校正もまとめる。消耗品を共同購入できるかもしれません。

さらに設備を標準化すれば、ポンプ・センサー・バルブ・制御機器などの予備品を共同で保有することも可能になります。一つの施設専用の予備品を持つ必要はなく、20施設共通の予備品プールを維持すればよい。

一つひとつは小さくても、まとめれば一定の規模になる。これは「大きな水道施設を作る」とは全く異なる道ですが、小規模水道を持続可能にするための現実的なアプローチです。

7. 料金についても「水道群」で考えられないか

ネットワーク化は設備や保守業務だけでなく、料金の面にも応用できる可能性があります。

小規模水道では、水源の条件や地形によって原価が大きく変わります。良質な湧水があり運営コストが低いA地区と、地下水を汲み上げて処理する必要があるB地区、そして世帯数が極端に少ないため一世帯あたりの負担が高くなるC地区--これらをすべて完全な独立採算にすると、居住する地区によって水道料金に大きな差が生じます。

そこで市町村単位あるいは県単位などで、小規模水道群の原価をある程度まとめて考えるという選択肢があります。施設は地区ごとに分散していても、料金制度まで完全に分断する必要はない。どの範囲まで共同負担するかは地域の判断に委ねられますが、「施設単位」と「料金単位」は必ずしも一致しなくてよいという問題提起です。

8. 「施設は分散、保守はネットワーク化」

ここで今回の記事の考え方を一度集約してみます。

従来の水道整備の発想では、施設を集約し、人も集約し、管路で地域をつないでいく方向に向かいがちです。それが規模の経済を生かす合理的な選択だったからです。

しかし人口減少が進む地域では、別の形も考えられます。施設は地域ごとに分散させる。その代わり、情報はIoTでつなぐ。技術は行政がつなぐ。専門業務は複数施設でまとめて発注する。料金も必要に応じて広域化する。

物理的な水道施設を無理に一つにつなげなくても、運営の仕組みをつなぐことはできます。「分散しているが、孤立していない水道」--これが、今回の記事で提案したいキーワードです。

9. 小規模水道とは「小さな浄水場」ではない

小規模水道を考えると、どうしても「どんな浄水装置を使うか」という設備の話が先に来がちです。しかし、本当に設計しなければならないものはもっと広い。

水源がある。地域の人がいる。管理できる設備がある。料金制度がある。IoTがある。行政のバックアップがある。専門業者がいる。さらに周辺の小規模水道とのネットワークがある--これらを全部まとめて一つの「小規模水道システム」として考える必要があります。

「どんなろ過装置を選ぶか」はその設計の一部に過ぎません。装置を選ぶ前に、「この水道をこれから誰がどのように維持するのか」というシステム全体の設計が必要です。

10. 最後に――「誰がやるか」まで設計する

水道施設を設計するとき、どのポンプを使うか、どんなろ過方式にするか、配管径はいくつにするか--これらは当然考えます。しかし人口減少社会では、もう一つ重要な設計項目があります。

「この作業を、これから30年間、誰がやるのか」という問いです。

簡単な仕事は地域の人が担う。常時監視はIoTが担う。判断に迷ったときは行政が支援する。専門的な仕事だけ専門業者が担う。複数施設で共同化できる仕事はまとめる。

こうして保守を階層化すれば、専門家の限られた時間を本当に専門性が必要なところへ集中させることができます。その結果として、水道の原価を抑えながら、監視や保守の質を高められる可能性があります。

小規模水道の未来を考えることは、小さな浄水施設を考えることではありません。水源・設備・人・IoT・行政・専門家・そして地域同士のつながりまで含めて、「どうすればこの水道を地域で支え続けられるのか」を設計することなのだと思います。


【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】

水道公論 2024年2月号(第60巻第2号)pp.79-91, 信州大学名誉教授 中本信忠
「生物屋の緩速ろ過池研究 その29:『解説冊子を自費出版し素晴らしい仕組みを伝える』」

名前の誤解を超え、緩速ろ過がもたらした省エネ策

(1) 名前だけが独り歩きした「緩速ろ過」
戦後、上田市は自然流下によって浄水処理を行う体制へと転換しました。しかし当時、砂の表面に繁殖する藻を「悪いもの」と誤解し、急速ろ過で使う凝集剤による濁り対策を、緩速ろ過にもそのまま導入してしまったといいます。緩速ろ過は本来、砂の表層で働く生物膜が水を浄化する生物処理です。それにもかかわらず「緩速砂ろ過」という名前だけが先に伝わり、その仕組みが正しく理解されないまま扱われてきました。海抜の高い石舟浄水場では、藻が大量に浮き上がるという現象も起き、誤解に拍車をかけました。

(2) 気候が分けた、世界の水処理の選択
北米では厳しい冬の寒さのため生物浄化がうまく機能せず、代わりに薬剤を使う急速ろ過が発展しました。一方、英国はメキシコ湾流と偏西風の影響で冬でも比較的温暖なため、緩速ろ過が定着しています。日本にも消毒のみ、あるいは緩速ろ過による給水を行う地域が数多く存在するにもかかわらず、行政の指針は急速ろ過を前提としたものが中心です。自然界が水を浄化し、湧水を生み出す仕組みをそのまま応用した緩速ろ過だからこそ、薬剤に頼らず「生でおいしい水道水」が実現できるのです。

(3) 解説書を携え、世界へ
日本には長らく緩速ろ過を体系的に解説した技術書がありませんでした。そこで手作りの下書きから始め、増補改訂を重ねながら英語併記の解説冊子へと発展させていきました。カラー写真を豊富に使うことで、生物群集の働きという「緩速ろ過」という言葉だけでは伝わりにくい価値を、より多くの人に届けようとしたのです。1997年からは宮古島の浄水場調査に着手し、その報告書は市販本として出版されました。フィジーでは4年をかけて全村の1割に導入を実現し、太平洋水会議での発表や国際セミナーでの講演を通じて、サモアや沖縄、東京から集まった協力者とともに現地での普及を進めました。取り組みは雑誌『ビッグイシュー』でも取り上げられ、英語版の冊子はNPO法人地域水道支援センターのホームページで誰でも無料でダウンロードできるようにしています。この功績により水大賞・国際貢献賞、JICA理事長賞を受賞しています。

(4) 上田市が示した、省エネの答え
長野県は湧水利用の水道が多い山国です。なかでも上田市は緩速ろ過による浄化能力に余裕があったため、2010年には急速ろ過に頼っていた坂城町へ、緩速ろ過でつくられた水を供給する仕組みが広報を通じて知らされました。凝集剤や大規模な設備、電力を要する急速ろ過に対し、緩速ろ過は生物の働きを活かすことでエネルギー消費を抑えられます。長野県企業局は上田市の余力を「救い主」と捉え、緩速ろ過を軸にした研修会をオンラインで開催しました。名前の誤解から始まった緩速ろ過の物語は、気候や地域の実情に応じて水処理のあり方を見直す、省エネという具体的な答えへとつながっています。


【3. Q&A 現場の悩み相談】

粗ろ過や緩速ろ過で水の着色は落とせますか?

水に色がついている原因にはいくつかありますが、その内容によって可能な場合と簡単には対応できない場合があります。フミン質、腐食物質という山の落ち葉が分解される際に水に溶解する色度成分は粗ろ過や緩速ろ過ではまず落ちません。鉄やマンガン由来の色度は逆に粗ろ過x緩速ろ過で落とすことができますが、メンテナンスが大変になるため、現時点では安易に導入はお勧めできません。どちらも現在、対応策を検討しています。


【4. 編集後記】

準備に時間をかけてきた横浜花博の企画書を本日提出します。みっちり2週間はかかったと思います。大変でしたが、無事に採択され、この機会に多くの人に粗ろ過x緩速ろ過のポテンシャルに気付いていただける機会が来れば、こんなにうれしいことはありません。

さて、弊社は先月末(9月末)で2期目を終え、3期目に入りました。日本の水道がより良いものであるために、世界の水道を向上させるために、これからも頑張っていきます。