ごみを燃やして、水を作る?――「捨てている熱」をAWGに使えないか
ごみを燃やすと、何が生まれるのか
ごみ焼却施設というと、何を思い浮かべるでしょうか。
ごみを燃やし、煙を処理し、灰を処分する。近代的な施設では発電も行われています。「ごみから電気を作っている」という話を聞いたことがある方も多いでしょう。
しかし、もう一歩踏み込んで考えてみると、ごみを燃やすということは、まず大量の熱が生まれるということです。その熱がどこへ行くのかを追いかけてみると、今回の話が見えてきます。
ごみは「資源」でもある
ごみ焼却施設では、いくつかのことが同時に起きています。
ごみを燃やすことで体積を大幅に減らし、衛生的に処理するという本来の目的があります。しかし同時に、燃焼によって大量の熱が生まれ、その熱で蒸気を作り、タービンを回して発電することもできます。発生した熱を施設周辺の建物の暖房や給湯に供給することもあります。
こうした「廃棄物からエネルギーを取り出す」考え方は、「Waste to Energy」として世界各地で取り組まれています。ごみは処理すべきものであると同時に、エネルギー源でもあるという見方です。
すべての熱を電気にはできない
ここで重要な物理的な事実があります。熱エネルギーを100%電気に変えることはできません。
焼却炉で生まれた高温の熱は、ボイラーで蒸気を作り、タービンを回して電気になります。しかし発電の効率には限界があり、発電に使われなかった熱が必ず残ります。比較的温度の低い、100℃前後や80℃、60℃といった熱です。
この「低品位熱」と呼ばれる熱は、タービンを回すには温度が不十分です。しかし、「温度が低いから価値がない」とは必ずしも言えません。給湯、暖房、乾燥、農業用温室、地域への熱供給など、温度の低い熱でも十分に活用できる用途があります。
そして、もう一つの用途として、空気から水を作る「AWG(大気水生成)」があります。
AWGをもう一度だけ思い出す
前回の記事でAWGについてお伝えしましたが、ここで簡単に振り返ります。
吸着式AWGは、空気中の水蒸気を吸着材に吸わせ、熱を与えて水蒸気を放出させ、それを冷やして水にする仕組みです。この過程で、吸着材を「再生」するための熱が必要になります。この再生に使う熱として、比較的温度が低い熱でも活用できる可能性があります。
つまり、ごみ焼却後の発電に使われなかった余熱が、AWGの吸着材再生に使える可能性があります。
Waste → Energy → Water
ここが今回の核心です。
ごみを燃やして熱が生まれ、その熱で発電し、発電後に残った余熱でAWGを動かして水を作る。「Waste → Energy → Water」という流れです。
ごみが燃やされる場所には、必ず熱があります。AWGは熱を使って水を作ります。この二つを組み合わせるという発想は、技術的な観点から見て一定の合理性を持っています。
廃熱を利用した吸着式AWG、発電機の廃熱を利用したAWG、燃料電池の排熱とAWGの組み合わせなど、廃熱をAWGに活用するという考え方はすでに研究されています。ただし、実際の都市ごみ焼却施設にAWGを組み込んだ商用システムはまだ一般的ではありません。技術の要素は存在するものの、焼却施設との最適な統合はまだ開拓の余地がある領域です。
なぜ「ごみ焼却」とAWGは相性がいいのか
この組み合わせを考える上で、三つの特性が挙げられます。
熱源が安定していること。太陽熱は昼間にしか得られず、天候によって変動します。しかしごみ焼却施設は基本的に連続して運転されており、熱源が安定しています。AWGを安定して動かすためには、熱の供給が安定していることが重要です。
低温の熱でも利用できる可能性があること。発電に使うには不十分な比較的低い温度の熱でも、吸着材の再生には活用できる可能性があります。発電の副産物として生まれる「捨てるしかない熱」を有効活用できるとすれば、それは資源の有効利用になります。
都市にはごみと水需要が同時に存在すること。人口が集中する都市には、大量のごみが生まれます。同時に、大量の水需要も生まれます。焼却施設から生まれる熱でAWGを動かし、その水を都市に供給するという循環は、概念として一定の整合性を持っています。
ただし、「熱がある=水が作れる」ではない
ここで冷静に考える必要があります。AWGで水を作るためには、熱だけでは足りません。空気中に十分な水蒸気が含まれていることも必要です。水生成量は、湿度に強く依存します。
乾燥した砂漠地帯では、どれだけ熱があっても、空気中の水蒸気が少なければAWGで作れる水の量は限られてしまいます。したがって、「ごみ焼却+AWG」という組み合わせが特に面白い可能性を持つのは、湿度の高い地域です。
例えば東南アジアの都市は、高温・高湿度・大量の都市ごみという条件が重なります。西アフリカや東アフリカの沿岸部の都市でも検討余地があります。一方、中東の乾燥地帯では、ごみも熱も豊富ですが、湿度が低いためAWGとしては難しい側面があります。ただし中東では水の価値が非常に高いため、別の経済的な意味が生まれる可能性もあります。
AWGが合理的かどうかは、熱の量だけでなく、湿度と水の価値の掛け算によって決まります。
「カスケード利用」という考え方
ここで、エネルギーの効率的な使い方として「カスケード利用」という考え方を紹介したいと思います。
高温の熱から順番に使い、温度が下がるたびに別の用途に回す考え方です。例えば、焼却炉の高温熱でまず発電を行い、発電後に残る中温の熱を給湯や施設の暖房に使い、さらに低温になった熱の残りをAWGに回す。温度の高いエネルギーから低いエネルギーへ、段階的に使い切っていく流れです。
AWGは、この流れの中で最後の低温熱を受け取る役割を担える可能性があります。これは資源の無駄なく使い切るという観点から、非常に合理的な発想です。
熱だけでなく、「冷却」も必要
ただし、吸着式AWGには熱だけでなく、もう一つ必要なものがあります。冷却です。
吸着材を熱で再生すると水蒸気が放出されますが、その水蒸気を冷やして液体の水に戻すための冷却が必要になります。熱源をどこから取るかと同時に、その熱をどこへ捨てるかも設計しなければなりません。
沿岸部であれば海水を冷却に使う可能性があります。夜間の外気温の低下を利用することも考えられます。「熱をどこから取るか」だけでなく、「冷却をどう確保するか」も、このシステムの設計における重要な問いです。
排ガスの中の水を回収するという発想
ここで、AWGとは別のルートも考えてみます。
ごみを燃やすと、燃焼によって水蒸気が生まれます。また、ごみに含まれていた水分も蒸発します。つまり、焼却炉から出る排ガスの中には、水蒸気が含まれています。
大気中の水蒸気はごく薄く拡散していますが、焼却排ガスの中では燃焼によって水蒸気が濃縮されています。わざわざ大気から薄い水蒸気を集めるより、排ガス中の水蒸気を回収した方が効率的ではないかという疑問は、技術的に面白い問いです。
排ガスを処理しながら熱を回収し、水蒸気を凝縮させて水として回収するという「排ガス水回収」という考え方もあります。ただし、焼却排ガスには有害物質が含まれる可能性があるため、回収した水をそのまま飲料水として使えるわけではなく、適切な水処理が必要になります。
「ごみ焼却から水を作る」には複数のルートがある
整理すると、ごみ焼却と水生成を組み合わせるアプローチには、複数のルートが存在します。
一つ目は、焼却の余熱をAWGに使い、空気中の水蒸気から水を作るルートです。二つ目は、焼却排ガス中の水蒸気を凝縮させて回収するルートです。三つ目は、焼却の余熱を別の淡水化システム(蒸留など)に使い、海水や汽水から水を作るルートです。
「ごみ焼却+水」という組み合わせを考えるとき、AWGだけが選択肢ではありません。それぞれのルートに特性と条件があり、地域の状況によってどのルートが合理的かは変わります。
余熱は「無料」ではない
ここで経済的な現実を確認する必要があります。余熱を使うからといって、AWGの水が無料で作れるわけではありません。
吸着材、ファン、ポンプ、熱交換器、凝縮器、センサー、制御装置、空気処理設備。AWGを動かすためにはこれらの設備が必要です。さらに定期的な保守、消耗品の交換、設備の更新、水質管理も必要になります。
焼却施設の余熱そのものは確かに利用価値があります。しかし、それをAWGへ送るための熱交換器や配管、AWGの設備自体にはコストがかかります。適切な評価は「余熱は無料だから水も安くなる」ではなく、「水1m$00B3を作るための総コストはいくらか」という視点です。
また、焼却施設の余熱には、給湯、地域暖房、産業利用など、AWG以外の用途もあります。余熱をAWGに使うことが、他の用途と比べて最も合理的かどうかも検討が必要です。
水の価値と熱の価値の掛け算
この組み合わせが合理的かどうかは、二つの要素の組み合わせで変わります。
水が安く、余熱にも別の用途がある場所では、AWGとの組み合わせは経済的に不利になりやすい。水が高く、余熱が本当に余っている場所では、この組み合わせは有利になります。
水の価値が高いほど、未利用の熱が多いほど、この組み合わせの合理性は高まります。逆に言えば、単に「技術として可能かどうか」だけでなく、「その場所でその選択をすることが合理的かどうか」という問いを常に持ち続けることが重要です。
都市インフラとしての可能性
少し未来を想像してみます。
人口が集中し、水の確保が課題になっている都市で、大量のごみから電気と熱を作り、その余熱でAWGを動かして水を生成する。さらに使用済みの水を再生利用し、海水淡水化とも組み合わせる。こうしたシステムが組み合わさったとき、ごみ処理施設は単に廃棄物を処理するだけでなく、電気・熱・水を同時に生産する都市インフラになります。
「Waste to Energy」という考え方は、「Waste to Energy and Water」へと広がる可能性があります。これはまだ現時点では一般的な標準技術ではありません。しかし、技術の要素はすでに存在しています。それらを組み合わせたら何ができるかという問いは、これからの都市の水インフラを考える上で価値のある思考実験です。
「捨てているもの」を見直す
このシリーズでは、水をめぐる様々な問いを考えてきました。川や湖から取る水、雨水の貯水、使い終わった水の循環、海水の淡水化、空気中の水蒸気、そして今回の廃熱。
私たちはこれまで、ごみと熱と排水と雨をそれぞれ別々の「廃棄物」として扱ってきました。しかし視点を変えると、ごみから熱が生まれ、熱から水を作り、水を再利用するという流れが見えてきます。「廃棄物」と「資源」の境界は、考え方次第で変わります。
ごみ焼却とAWGの組み合わせは、まだ都市インフラとして一般化されていません。しかし「捨てていた熱から水を作る」という発想は、これからの水不足を考える上で、一度立ち止まって検討してみる価値があるのではないでしょうか。
次回はシリーズの最終回として、これまで見てきたダム、循環、RO、AWG、廃熱、それぞれの技術を踏まえた上で、これからの水道はどのような姿になりうるのかを考えてみたいと思います。
「作る・貯める・回す・逃がさない」というキーワードとともに、水インフラの全体像を描いてみます。
【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】
水道公論 2023年12月号(第59巻第12号)pp.63-74, 信州大学名誉教授 中本信忠
「生物屋の緩速ろ過池研究 その27:『昔から緩速ろ過は名前で誤解されてきた』」
名前がまねいた誤解、緩速ろ過に眠る本当の力
(1) 「緩速ろ過」という名前がまねいた誤解
日本の教科書や行政の指針には、急速ろ過の解説ばかりが並び、緩速ろ過についてはほとんど触れられてきませんでした。その一方で、消毒だけに頼る水道水の割合は今も少なくありません。中本信忠先生は、この矛盾の根っこに「緩速ろ過は名前によって長く誤解されてきた」歴史があると指摘します。
(2) 藻を嫌った急速ろ過と、アメリカでの再評価
ダム湖の完成によって水道水に異臭味が生じるようになった時期、急速ろ過の現場では「藻」がとにかく嫌われました。しかし環境が違えば繁殖する藻の種類も異なり、これは生物処理そのものへの誤解から来ていたといいます。実際には、藻が十分に繁殖したろ過池の水はむしろスーパークリーンになることが分かってきました。戦後、世界的に緩速ろ過が見直され、アメリカ水道協会も研修会を開催するようになった一方で、WHOの指針は今なお藻の繁殖を嫌う立場を取っており、認識のずれが残っています。
(3) 生物が働くための、施設づくりの工夫
緩速ろ過池では、砂面近くに生物が繁殖しやすい環境をつくることが浄化の鍵になります。昔のろ過池に多かった斜め壁の構造は、垂直な壁よりも生物の繁殖に適しており、水深が浅い方が藻や生物にとって好都合でした。ろ過速度についても、1日あたり9.6メートルという比較的速い設定のほうが酸素不足を防ぎ、生物群集にとって望ましいことが確認されています。生物が活発に働いているろ過池では、ろ過の抵抗を示す標準化損失水頭も上がりにくく、汚れは砂面の上だけにとどまるため、表面をならすだけで簡単に取り除くことができます。
(4) 濁り対策の落とし穴
河川の表流水を取水するようになると、濁り対策として凝集剤が使われるようになりました。しかし中本先生は、この凝集剤の添加こそがかえって水質を悪化させる原因になってきたと指摘します。濁りへの対策は、本来であれば沈殿池だけで十分なケースも多く、薬品に頼る前に、生物が働ける環境を整えることの大切さが改めて浮かび上がります。
【3. Q&A 現場の悩み相談】
昔から私たちの地域では地下水も沢の水も用途に応じて使ってきました。集落の水道を新たにきちんと整備したいという話があるのですが、どちらが集落水道に向いているでしょうか
沢水も地下水も可能性としてあるということは良いことです。ただし、どちらが水道に向いているかはきちんと精査する必要があります。水質はもちろん、家屋の配置水源からの距離なども総合的に把握して計画いたします。
【4. 編集後記】
最近、来年の横浜で開催されるグリーンEXPOで、庭園・公園の池水浄化を粗ろ過x緩速ろ過でどうでしょう?という催しができたらと、応募書類を作成しています。書類審査だけらしいので通るかどうかがこの頑張りにかかっているわけですが、水道以外でも広く粗ろ過x緩速ろ過の利用価値が認められたら良いなと思います。それが今後の世界的な水不足対策につながるとそれなりに真剣に思っています。