株式会社水未来研究所

日本の水道を真剣に考える|持続可能な水インフラの実践論説 #23

タイトル変更に、戸惑った方もいらっしゃるかと思います。申し訳ございません。
ブログ名称の変更に伴いメルマガのタイトルも変更させていただきました。内容はこれまで通りで変更ありません。今後もよろしくお願いいたします。

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<目次>
【1. 今週の実務ノウハウ】
【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】
【3. Q&A 現場の悩み相談】
【4. 編集後記】
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【1. 今週の実務ノウハウ】

IoTで浄水場管理の仕事はどう変わるのか?

--巡回点検から「状態監視型管理」へ変わる現場の姿--
はじめに

前回の記事では、浄水場をIoT化する際に何を監視対象にするか、どの設備から始めるか、そして段階的に拡張していく考え方について整理しました。

では、実際にIoTによる遠隔監視を導入すると、現場の仕事はどのように変わるのでしょうか。「IoT」「クラウド」という言葉を聞くと、「人が不要になるのではないか」という印象を持たれる方もいます。しかし設備管理におけるIoTの本来の目的は、人をなくすことではありません。人が本来行うべき仕事--判断・対応・改善--に時間を振り向けることです。

今回は、浄水場管理の仕事がIoT導入によってどのように変化するのかを、現場目線で丁寧に整理します。

1. 従来の浄水場管理は「現場確認型」

1-1:巡回による確認

従来の設備管理では、担当者が事務所を出て現場へ移動し、水位計・流量計・圧力計・制御盤・ポンプ状態・水質計器などを目視で確認し、記録を取って戻るという流れが一般的でした。

この「現場確認型」の管理は、設備の状態を直接目で見て把握できるという確実性があります。計器の周辺の状況、設備から出る音や振動、わずかな油漏れや錆の兆候--こうした「数字には現れない情報」は、現場に行くからこそ気づける情報です。巡回点検には、データ取得だけにとどまらない重要な役割があります。

1-2:巡回点検の課題

一方で、従来の巡回型管理にはいくつかの構造的な課題があります。

まず、施設までの移動に時間がかかります。複数の施設を管理している場合、移動だけで業務時間の多くが消費されることもあります。無人施設や遠隔地の施設ほど、確認の負担が大きくなります。また、定期的な巡回はあくまでも「確認した時点での状態」しか把握できません。巡回と巡回の間に異常が発生した場合、それに気づくのが次の巡回タイミングになってしまいます。さらに夜間や休日に異常が発生した場合には、呼び出し対応が必要になります。

人口減少や技術者不足が進む中、「すべての設備を同じ頻度で確認し続ける」ことは、現実的にますます難しくなっています。この構造的な問題に対して、IoTによる遠隔監視は有効な解のひとつになります。

2. IoT導入後は「状態監視型管理」へ変化する

2-1:常時監視できる環境

IoT化が進むと、現場設備の情報がWebロガー2を通じてクラウドへ送られ、事務所やスマートフォンの画面上で確認できるようになります。配水池の水位、ポンプの運転状態、流量、水質といったデータが、現場へ行かなくてもリアルタイムに把握できる環境が整います。

2-2:現場確認の考え方が変わる

従来の管理は「定期的に現場へ行き、異常がないか確認する」という発想に基づいていました。IoT導入後は、この発想が「データを確認し、必要な場所へ行く」へと変化します。

言い換えると、「巡回型管理」から「状態監視型管理」への転換です。問題がないことが画面から確認できれば現場への移動は不要になり、異常や気になる変化が検知されたときに、的を絞って現場へ出向くという運用になります。これにより、移動にかかっていた時間と労力が、より付加価値の高い業務に振り向けられるようになります。

3. 具体的に変わる業務例

配水池管理の場合

従来は担当者が現場へ赴き、水位を目視確認して記録し、事務所へ戻るという流れでした。IoT導入後は、管理画面で水位72%を確認し、流入量・流出量の数値もあわせてチェックすることができます。状況に問題がなければ現場への移動は不要で、データ上で気になる変化があったときだけ現場確認に出向く、という運用になります。

ポンプ設備の場合

従来は「ポンプが動いているか確認するために現場へ行く」という作業が必要でした。IoT導入後は、画面上で「1号機:運転中、2号機:停止、3号機:故障警報」という状態が一目で把握できます。正常稼働中のポンプの確認に現場へ行く必要はなくなり、故障警報が出た3号機への対応に集中できます。異常が発生したその瞬間に通知を受け取ることができるため、対応のタイムラグも大幅に短縮されます。

水質管理の場合

従来は定期的に現場の計器を確認し、値を記録するという作業が中心でした。IoT導入後は、pH・濁度・残留塩素などのデータが時系列でトレンドグラフとして蓄積されていきます。「昨日と比べて濁度がじわじわ上昇している」「今週から残留塩素の低下が早い」といった変化の傾向を早期に発見し、必要な対応を事前に検討できるようになります。

4. IoTでなくなる仕事、増える仕事

ここは非常に重要な点です。IoT導入によって変わるのは「仕事の量」だけではありません。「仕事の種類」が変わります。

減る可能性がある仕事

単純な現場巡回による確認、計器の数値を読み取って手書きで記録する作業、定期的な現地確認のための移動--こうした「確認するための移動と記録」は、大幅に削減できる可能性があります。

増える仕事

一方で重要性が増すのが、取得したデータを確認・分析し、変化の傾向から異常の予兆を読み取る作業です。「この電流値の変化は何を意味するか」「なぜこの時間帯だけ流量が落ちるのか」といった原因の判断、そして設備改善に向けた検討--こうした「データをもとに判断する仕事」が中心になっていきます。

つまりIoT化は、「確認する仕事」から「判断する仕事」への転換を促します。技術者の役割が、足で情報を集めることから、情報をもとに考え行動することへとシフトしていくのです。

5. IoT監視画面で重要なのは「見る情報を絞ること」

データが多すぎる問題

IoT化によって大量のデータが取得できるようになると、逆に「情報が多すぎて見られない」という問題が生じることがあります。100個のグラフを毎日確認することは現実的ではありません。取得できるデータをすべて画面に並べても、管理者が判断に活かせる情報にはなりません。

良い監視画面とは

優れた監視画面は、一目で状態が把握できるシンプルさを持っています。たとえばトップ画面では、総合状態が「正常」か「異常」かを示すインジケーター、配水池水位の現在値、送水ポンプの運転状態、警報の有無--この程度の情報が整理されていれば、担当者は瞬時に「今日の状況」を把握できます。

詳細なデータはその先のページに持たせ、異常があったときや傾向を確認したいときに掘り下げる。この階層構造が、実際に使われる監視システムを作るうえでの基本的な設計思想です。

6. IoTは「無人化」ではなく「効率的な管理」

完全無人化には限界がある

誤解されやすい点として、IoT化=無人化というイメージがあります。しかし現実には、浄水場には設備の定期点検・清掃・保守作業・異常時の現場対応など、人が行わなければならない作業が数多く存在します。IoTだけですべてを代替することはできません。

目指す姿

IoTが目指す理想的な姿は、役割の分担です。IoTシステムが設備の状態を常時監視し、異常の兆候を検知して担当者に知らせる。担当者はその情報をもとに原因を判断し、必要な現場対応を行う。この「IoTが知らせ、人が判断し、現場で解決する」という役割分担が確立されることで、限られた人員でより高い水準の管理が実現できます。

7. 将来的な発展:遠隔監視からスマート管理へ

IoT化によって蓄積されたデータは、遠隔監視という用途を超えた活用が可能です。過去データとの比較による設備劣化の検知、季節変動のパターン分析、電力使用量の最適化--こうしたデータ活用は、設備管理の質をさらに高める可能性を持っています。

これらはいずれも、データが蓄積されているからこそ実現できる取り組みです。遠隔監視の導入は、将来的な予防保全やAI活用への基盤を作るという意味でも、長期的な投資として捉えることができます。次回以降の記事では、こうした発展的な活用についても取り上げていく予定です。

まとめ

IoT化によって変わるのは「人がいなくなること」ではなく、「管理の方法」です。現場へ行って確認するという従来の管理スタイルから、データを確認して必要な対応を判断するという管理スタイルへの転換--これがIoT化の本質的な変化です。

Webロガー2のようなIoTシステムは、設備の情報を遠隔で取得するだけのツールではありません。限られた人員で安全な水供給を維持し続けるための「判断支援ツール」として、現場の管理者を支える存在です。センサーやクラウドの話ではなく、現場の働き方と管理の質を変えるための道具として、IoTを位置づけることが大切です。


【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】

水道公論 2023年7月号(第59巻第7号)pp.78-87, 信州大学名誉教授 中本信忠
「生物屋の緩速ろ過池研究 その22:『アメリカで再評価されだしたが生物群集の視点が不十分』」

クリプト原虫事故が導いた緩速ろ過の再評価

(1) クリプト原虫事故が突きつけた緩速ろ過の見直し
アメリカでクリプトスポリジウムによる集団下痢事故が発生したことをきっかけに、アメリカ水道協会は改めて緩速ろ過に目を向けるようになりました。塩素消毒だけでは対応しきれない病原体の存在が明らかになったことで、生物群集の力で水を浄化する古い技術が、新しい価値を持って見直され始めたのです。協会誌の記事も、当時の白黒写真をカラーへ差し替え、内容を補って再掲載されるほどの関心の高まりでした。

(2) アメリカ緩速ろ過協会との出会い
そんな折、送られてきたアメリカ水道協会の新聞で、オレゴン州で緩速ろ過の研修会が開かれることを知りました。すぐにコロラド州デンバーの本部へ国際電話をかけて参加を申し込み、現地へ向かいました。会場では、ニューヨーク州イリオンのマイク氏が発足させたアメリカ緩速ろ過協会(ASSA)の会員たちの熱気に圧倒されました。ASSAは春と秋の年2回集会を開いており、広大なアメリカ国内を空港からレンタカーで移動しながら参加する必要がありました。

(3) 現地で見た設計思想の違い
研修会では各地の浄水場を見学しましたが、ろ過した水を貯める浄水池が屋根のない開放型だったことに驚かされました。積雪や結氷の懸念がある地域では覆いろ過池が選ばれる一方、覆いをかけると生物群集の発達が妨げられることも分かりました。1月の平均気温が氷点下になる地域では覆いろ過池を勧める、という現地の判断基準は、日本の寒冷地における設計にも参考になる視点です。

(4) 歴史資料が伝える先人の知恵
緩速ろ過は古い技術であるため、当時は資料を求めて図書館を回り、書籍をコピーして集めていました。関東大震災で東京大学の図書館が焼失した際、その事情を知ったアメリカ政府が、緩速ろ過研究の基礎を築いたアレン・ヘイゼン氏の著作を東京大学へ寄贈してくれていたことも、現地調査を通じて知った事実です。今では、こうした歴史的な資料の多くがインターネット上で無償公開され、誰でもダウンロードできるようになっています。

(5) 生物群集を活かすための共通原則
現地の浄水場や、英米で普及する散水ろ床式の下水処理を見比べる中で、共通する原則が見えてきました。水深を浅くして日光を届かせること、薬品に頼らず沈殿池で濁りを先に減らしておくことです。日光が十分に届けば生物群集は活発になり、濁りが少なければろ過池も目詰まりしにくくなります。日本は湧水や名水に恵まれてきたため、古い水道の指針書には緩速ろ過の水量制御の工夫があまり詳しく書かれていませんが、これは裏を返せば、恵まれた水環境を活かせる余地がまだ残っているとも言えます。

(6) 緩速ろ過が生み出す価値
砂の表面に育つ生物群集はフワフワとした層をつくり、水温が高い時期には糸状緑藻が目立つようになります。こうした生物の営みこそが浄化の主役であり、薬品に頼らずスーパークリーンと呼べる水を生み出す仕組みです。クリプト原虫事故という課題をきっかけにアメリカで再評価が進んだ緩速ろ過ですが、その本質を支えているのは、今も昔も変わらない生物群集の力なのです。


【3. Q&A 現場の悩み相談】

集落の水道の水質だとエコキュートが使えないと言われました。あまり費用もないのですが、浄化装置を導入できますか?

エコキュートが設置できない主な原因は、水道水中の濁度によるものです。濁度対策は得意な浄水方法となるので、全く問題ありません。ランニングコストがほとんどかからないので、10年間や20年間というスパンで見ていただけると安価な浄水方法となります。


【4. 編集後記】

本日は終戦記念日です。
戦争で戦った方々はもちろん、焼け野原になった日本を短期間で復活させた先代の方々にも敬意を表したいと常々思っています。
そのような方々は現在も都会にもまた地方にもいらっしゃいます。特に過疎地で今も日本を守ってくださっている方々への水道として、きれいな水を届けたいと思い活動を続けています。

熊本地震に続き、千葉の水害も苦難が続きます。
それでも少しでも良い日本を子供たちに残すよう頑張りたいと思います。