浄水場の遠隔監視化は何から始めるべきか?
--IoTシステム設計で重要な「監視対象」と「優先順位」の考え方--
はじめに
前回までの記事では、Webロガー2 DL30-Gによる現場データの取得方法、4-20mA・無電圧接点・PLC通信を使った情報収集の仕組み、そしてAWSとGrafanaを組み合わせたクラウド監視の全体像について紹介してきました。
しかし実際に「さあIoT化を進めよう」となったとき、多くの担当者が次のような壁にぶつかります。「いったいどの設備から手をつければよいのか」「取得できるデータは全部集めた方がいいのか」「費用をかけるなら、効果の大きいポイントはどこなのか」--こうした疑問に答えを出せないまま、なんとなく着手してしまうと、後から「データはあるが誰も見ていない」という状況になりがちです。
IoT化で本当に重要なのは、センサーを増やすことではありません。設備管理で本当に必要な情報を選び、効果的に取得することです。今回は、浄水場の遠隔監視システムを設計する際の考え方と進め方を整理します。
1. IoT化の目的を明確にする
1-1:「データを取ること」が目的ではない
IoT導入の検討を始めると、「このデータが取れます」「このセンサーが使えます」という技術面の話が先行しがちです。しかし本来の目的は技術の活用にあるのではなく、現場の課題を解決することにあります。
具体的には、巡回の負担を減らすこと、異常の発見を早めること、運転状況をリアルタイムに把握すること、設備の故障を予防すること--こうした実務上の改善が目的であるはずです。データの取得はあくまでもその手段です。この順番を間違えると、膨大なデータを集めながら誰も活用しないシステムが出来上がります。
1-2:管理課題から逆算する
では、何から考え始めればよいでしょうか。答えは「現場の課題から逆算する」ことです。
たとえば「配水池の巡回に時間がかかっている」という課題があれば、そこで本当に必要な情報は水位・流入量・流出量・ポンプの運転状態です。この情報が遠隔で確認できれば、現場への移動が不要になります。「ポンプ故障への対応が遅れる」という課題であれば、運転状態・故障信号・電流値・圧力をリアルタイムに把握し、異常を自動通知する仕組みが有効です。「薬品の補充タイミングが分かりにくい」という課題には、薬品タンクの残量と注入ポンプの稼働状態を監視することで解決できます。
課題を先に明確にすることで、必要なデータと取得方法が自然に絞り込まれていきます。
2. 監視対象を選定する基本的な考え方
2-1:すべての設備を監視する必要はない
浄水場には、取水設備・浄水設備・送水設備・配水設備・薬品設備・電気設備など、多くの設備が存在します。技術的にはこれらすべてをIoT化することは可能ですが、最初からすべてを対象にすることは得策ではありません。
初期費用が膨らむだけでなく、システムが複雑になり、管理画面が情報過多で見づらくなるという問題が生じます。重要な情報が大量のデータに埋もれてしまい、結果的に「あの画面は見ても分からない」と放置されるケースは少なくありません。
2-2:優先順位を決める3つの視点
監視対象を絞り込むためには、3つの視点が役立ちます。
視点(1):重要度--止まったときに影響が大きい設備を優先します。取水ポンプ・送水ポンプ・配水池といった、機能しなくなると給水そのものに支障をきたす設備です。
視点(2):異常時の影響--異常の発見が遅れると深刻な問題になるものを優先します。水位の急低下、水質の異常変化、薬品の枯渇といった、タイムラグが直接リスクにつながるデータです。
視点(3):現在の管理負担--現状で人が足を運んで確認している場所を優先します。遠隔地の施設、夜間巡回が必要な設備、無人施設など、IoT化による省人効果が最も大きく出る場所です。
この3つの視点で整理すると、最初にどこから手をつけるべきかが見えてきます。
3. IoT化の段階的な進め方
浄水場のIoT化は、一度に完成形を目指すのではなく、段階的に積み上げていくアプローチが現実的です。
第1段階:状態監視
最初の段階として最も取り組みやすいのが、設備が「動いているか止まっているか」を見る「状態監視」です。ポンプの運転・停止・故障、警報の発生有無といったON/OFF情報を取得します。
既存設備の補助接点信号をそのまま利用できるため、導入がシンプルで費用も抑えられます。「今まで現場に行かなければ確認できなかったポンプの状態が、画面で一目で分かるようになった」という効果が明確に感じられるため、現場担当者の理解と協力も得やすい段階です。
第2段階:数値監視
状態監視が定着してきたら、次は水位・流量・圧力・水質値などの数値データを取得する段階へ移行します。4-20mAアナログ信号を活用することで、設備の現在の状態を定量的に把握できるようになります。「配水池の水位が何%か」「現在の送水量は何m³/hか」といった情報がリアルタイムで確認できる状態になります。
第3段階:傾向監視
数値データが蓄積されてくると、単に「現在値を見る」だけでなく、時系列での変化を見ることができるようになります。たとえばポンプの電流値が、半年前は20Aだったものが最近25Aになっていれば、何らかの異常が進行している可能性があります。こうした変化の傾向を早期に発見することが、設備管理の質を大きく高めます。
第4段階:予測保全
さらにデータの活用が進むと、「故障してから対応する」という事後対応から、「故障する前に点検・対処する」という予測保全へと発展できます。蓄積されたデータのパターンから異常の予兆を検知し、最適なタイミングで保守作業を行うことで、突発的な設備停止のリスクを大幅に低減できます。
4. 浄水場でおすすめする監視ポイント例
段階的に進めるにしても、「まず何から始めるか」の判断材料として、浄水場での典型的な優先監視ポイントをまとめます。
配水池は優先度の高い監視対象です。水位・流入流量・流出流量を把握することで、貯水量の管理・送水状況の確認・渇水リスクの早期把握が可能になります。人が巡回して水位を確認する作業は、遠隔監視によって日常的な負担の大部分を削減できます。
ポンプ設備も優先度が高く、運転状態・故障信号・電流値・圧力の取得が基本になります。特に故障信号の自動通知は、担当者が気づくまでのタイムラグをなくし、迅速な対応を可能にします。
水質設備では、pH・濁度・残留塩素・水温の継続的な記録が重要です。水質は季節や原水の状態によって変動するため、データが蓄積されることで変化の傾向が見えやすくなります。
薬品設備については、タンクの残量と注入ポンプの運転状態を監視することで、補充のタイミング管理と注入異常の検知が行えます。薬品切れや注入停止は水質事故に直結するため、見落としが許されない監視ポイントです。
5. Webロガー2を活用した監視設計例
これらの監視ポイントを実際にWebロガー2で構成する場合、設備ごとの信号の流れは以下のようになります。
配水池の水位監視であれば、水位計から4-20mA信号がWebロガー2へ入力され、AWSへ送信されたデータをGrafanaで水位トレンドグラフや警報表示として可視化します。
ポンプ監視であれば、制御盤の補助接点から無電圧接点信号をWebロガー2で受け取り、クラウド上に運転状態・異常状態をリアルタイムで表示します。
どちらのケースも、既存設備の信号を取り出すだけで成立するため、現場設備の改造や取り替えは原則として不要です。
6. 最初のIoT導入で失敗しないポイント
データを集めすぎない
IoT化を進める際の代表的な失敗パターンのひとつが、取得できるデータをすべて集めようとすることです。100種類のデータを取得しても、管理画面が複雑すぎて誰も見なくなっては意味がありません。まずは本当に重要な10種類を確実に管理できる仕組みを作ることの方が、はるかに価値があります。
現場運用を考える
見える化した後、誰がどの画面を見るのかを設計の段階から考えておく必要があります。管理者・現場の運転員・保守担当者それぞれが必要とする情報は異なります。全員に同じ画面を使わせるのではなく、役割に応じた表示内容を設計することで、実際に使われるシステムになります。
将来の拡張を考える
最初に構築するシステムは、あくまでも第一段階です。他施設への展開・センサーの追加・AI分析との連携など、将来の拡張を考えた構成にしておくことが、長期的な費用効率を高めます。最初の設計段階でこの視点を持つかどうかが、2施設目・3施設目の導入コストに大きな差を生みます。
まとめ
IoTによる浄水場の遠隔監視化を成功させるための基本は、「何を取得できるか」ではなく「何を監視すれば管理が改善するか」を先に考えることです。
管理課題を明確にする、重要設備を絞り込む、必要なデータだけを取得する、段階的に拡張していく--この流れを守ることで、費用対効果が高く、現場で実際に使われるシステムが実現します。
Webロガー2のようなIoTゲートウェイを活用すれば、既存設備が出している信号をそのまま活かしながら、無理なく遠隔監視化を進めることができます。最初の一歩は大きなシステムでなくてよいのです。現場の一番困っている課題から始めることが、IoT化を現実のものにする確かな道です。
【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】
水道公論 2023年6月号(第59巻第6号)pp.74-81, 信州大学名誉教授 中本信忠
「生物屋の緩速ろ過池研究 その21:『糸状珪藻メロシラの連続培養系の探求』」
水をきれいにする藻が魚の餌にもなる仕組み
(1) 緩速ろ過池で藻が主役になる瞬間
実験室で植物プランクトンを培養してきた研究者が、屋外の緩速ろ過池を訪れた際、糸状珪藻だけが際立って盛んに増殖している光景に出会い、強く心を動かされました。応用生物を学ぶ学生たちを現場に案内し、自然界に育つ藻が水質浄化に大きく貢献している様子を、実際に目で見て確かめてもらう機会にもなりました。教科書の知識としてではなく、目の前の池で起きている現象として理解できることは、専門教育の場でも貴重な体験だといえます。日々変化していく池の様子を継続して観察することで、生物の営みが浄化につながる過程を実感できるようになります。
(2) 糸状珪藻はどこで育つのか
研究チームは、自然界のどこで糸状珪藻が繁殖しているのかを丹念に調べました。その結果、糸状珪藻は魚介類の飼料として非常に優れた性質を持つことが分かり、大量培養に挑戦する動きにつながりました。上から下へ水を流す従来型の緩速ろ過池モデルと、下から上へ水を通す湧水池モデルを比較したところ、湧水池モデルの方が藻の繁殖が良く、越流した藻を茶漉しで自動的に収穫できるという実用上の利点も確認されました。夜間に細胞が一斉に伸びる様子も観察され、藻の生態がより詳しく明らかになっていきました。
(3) 養魚場と組み合わせた培養の工夫
養魚場へ水を送る導水路では、まず網で大きな濁りを取り除き、多段の上向流粗ろ過で徹底的に濁りを除去してから培養槽へ送るという工夫がなされました。藻は日中に光合成をして炭水化物を蓄え、夜間にその炭水化物を使って細胞分裂を行いながら栄養塩を吸収するというリズムで増殖します。ただし捕食動物に食べられやすいという弱点もあり、ろ過を続けるうちに糸状珪藻から糸状緑藻へと種類が移り変わっていくことも分かりました。
(4) 生物群集全体で支える浄化の仕組み
テムズ水道では、ろ過速度を上げた方がかえって生物群集にとって好ましいことが判明し、実際に速度を高める運用に切り替えました。宮古島でも藻の繁殖は顕著で、夜間に魚や周辺の生き物が酸素不足に陥らないよう配慮する必要があったといいます。藻だけでなく、細菌や捕食動物までを含めた生物群集全体の働きこそが浄化の本質であり、この仕組みは「緩速ろ過」ではなく「生物浄化法」と呼ぶのがふさわしいという考え方が示されています。
(5) 水道と食料生産をつなぐ発想
薬品に頼らず自然の生物群集の力を借りて水をきれいにするこの方法は、単なる浄水技術にとどまりません。浄化の過程で育つ藻を魚介類の飼料として活用できれば、水道事業と食料生産が同じ仕組みの中でつながる可能性が開けます。維持管理の負担が少なく、地域にある資源をそのまま有効に使えるこの発想は、水インフラの持続可能性を高めるとともに、地域の産業にも新しい価値をもたらす一つのヒントになりそうです。自然の仕組みに寄り添う姿勢そのものが、これからの水道事業を支える知恵になっていくのではないでしょうか。
【3. Q&A 現場の悩み相談】
昔から沢水を集落で共通の水道として使ってきました。10年ほど前から濁りが強くなってきているのですが、この方法で対応可能ですか?
濁り対策は、この浄水法の得意分野なので、何も気にすることはないです。濁りを取ったうえで、湧き水のようなおいしい水を作ることができます。
【4. 編集後記】
今週は下水道展に行ってまいりました。下水や汚水処理に興味というよりは、水道に使える技術がないかと思いつつ行きましたが今年は私のセンサーに引っかかる技術は特にありませんでした。
内容としてはドローンによる点検が全体の1割くらいはあったような印象です。次に、管路の診断や更生方法も多かったですね。あとは、AIや衛星データ解析をなどのデータ処理系も多かったです。
個人的には紫外線関連や水質の遠隔監視の小型のものがもっとあってもと思いましたが、そういうのはほとんどありませんでした。
さて、先週お伝えした通り、「災害の水」は今週からはありません。
熊本地震思っていたよりも被害は長引いてて、また夏で酷暑の中というのが大変ですね。
本来は粗ろ過+緩速ろ過をさっと、被災地に持参して稼働させることができればよいのですが、資金面的に課題がありなかなか難しいです。
まずは設計からでも初めて日本財団さんなどに提案できるとよいのだと思いますが、なかなか難しく、情報提供ばかりとなっております。
今後も日本の水のために地道に頑張ります。