株式会社水未来研究所

100億人に届け命の水|小規模水道・実務ノウハウ通信 #16

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<目次>
【1. 今週の実務ノウハウ】
【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】
【3. 災害下の水について】
【4. Q&A 現場の悩み相談】
【5. 編集後記】
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【1. 今週の実務ノウハウ】

給水人口算定における公共施設・商業施設の取り扱いについて

前回は、小規模水道の設計・更新時における「消防用水」の算出方法について解説しました。今回は、給水量算定の基礎となる「公共施設」や「商業施設」の給水人口の考え方について説明します。

中山間地域や漁業集落などの小規模水道(計画給水人口 5~100人規模)の対象区域には、主に以下のような施設が存在します。

行政・交流施設: 公民館、集会所、生涯学習センター

教育・インフラ施設: 幼稚園、学校(小学校~高校)、郵便局、交番、消防詰所

原則:地域住民が主利用する施設は「給水人口」に加算しない

これらの施設は、基本的には当該地域の住民が利用するものです。住民個人の給水人口(世帯ベース)としてすでに計上されているため、施設分として一律に人口を加算すると「二重計上」となり、施設規模の過大設計に繋がります。したがって、原則として給水人口に含める必要はありません。

例外:外部からの流入がある施設は加算(補正)が必要

ただし、以下のケースでは外部からの流入人口(管外からの通勤・通学者や宿泊者)を適切にカウントする必要があります。

宿泊・滞在を伴う施設: 全寮制の学校、宿泊を伴う研修施設・福祉施設など

管外からの流入がある施設: 区域外から職員が通勤する学校や行政機関など

これらは、地元の世帯人口には含まれない「純粋な流入人口」となるため、日中滞在時間や利用頻度に応じた補正計上が不可欠です。

商業施設(食堂・理美容店・医院など)の算定

小規模集落に点在する個人商店や食堂、医院等の水需要に関しては、床面積や病床数、予想される客数に基づき個別に算出します。具体的な算定基準や単位給水量については、公益社団法人日本水道協会の『水道施設設計指針』に詳細な規定がありますので、実務においては同指針を正確に参照し、計画一日最大給水量を算出してください。


【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】

水道公論 2022年12月号(第58巻第12号)pp.78-87, 信州大学名誉教授 中本信忠
「生物屋の緩速ろ過池研究 その15:宮古島から南太平洋のサモアへ」

宮古島からサモアへ--生物浄化の知恵が世界の水を守る

(1) 宮古島という特殊な水環境
沖縄の宮古島は、暖かい黒潮の影響を受ける美しい島国です。しかしこの島には山がなく河川もなく、隆起サンゴ礁からなる地形のために、本土とはまったく異なる水環境が広がっています。淡水の確保そのものが課題となるこの地で、中本信忠・信州大学名誉教授は長年にわたって緩速ろ過技術の研究を積み重ねてきました。その成果は宮古島上水道企業団向けの技術解説書として結実し、後に築地書館から一般向けに市販されました。専門知識を地域社会に還元するこの取り組みは、単なる研究の枠を超えた、実践的な意義を持つものです。

(2) 緩速ろ過の本質--「砂」ではなく「生物群集」が主役
「緩速(砂)ろ過」という言葉には、砂が主体となって水をろ過するというイメージが込められています。しかし中本先生は、まさにこの言葉のイメージこそが長年の誤解と設計ミスの根本原因になっていると指摘します。緩速ろ過池の実際の主役は砂ではなく、砂層表面に繁殖する藻と、その藻を餌とする微小動物が形成する「生物群集」です。藻は砂層表面を担い、微小動物は餌があるところにだけ集まります。この生物群集が活躍できる設計かどうかが、浄水の安定性と水質を大きく左右します。本質を正確に理解することが、良い設計と維持管理への第一歩です。

(3) JICA研修から南太平洋サモアへ
2006年から、中本先生は宮古島でのJICA研修指導を開始しました。緩速ろ過の知見を海外に伝えるこの活動は、日本の水道技術が国際協力の場へ本格進出する大きな転機となりました。
2008年にサモアを訪問した先生は、凝集剤を一切使わない最新の濁り対策技術--上向流粗ろ過--に出会います。「本当に、驚いた」と述べるほどその技術水準は高く、河川増水時に落葉・落枝・砂利を自動的に除くバースクリーン、設計の優れた円形沈澱池、そして全ろ過池を一元管理できるろ過流量調節弁の配置は、先生が「日本でも参考にしたい」と高く評価するものでした。

(4) 「理解」なき技術は機能しない
一方でドイツ型・EU型の設計を比較した際には、「生物群集の活躍を理解していない設計」の問題も明らかになりました。砂が細かすぎる、水深が深すぎる、指針のろ過速度が遅すぎる--こうした問題はいずれも、緩速ろ過の本質を理解しないまま建設された施設に共通しています。技術は正しく理解されてはじめて、地域の水を守る力となります。宮古島からサモアへと広がった中本先生の研究と実践は、生物浄化の知恵がいかに世界の水問題に貢献できるかを、静かに、しかし確実に示し続けています。


【3. 災害下の水について】

【中編】巨大災害で大都市のトイレはなぜ「多重破綻」するのか?バキュームカー物流の崩壊と「陸上貯留」のタイムリミット【3部作】

導入:「器」が満杯になった後、何が起きるのか
前編では、大都市圏の圧倒的な排泄量に対し、下水インフラと仮設トイレという「器」が数日で飽和することを解説しました。
中編では、その「器」が満杯になった後の話です。溜まった汚物を回収・輸送・処理するための「バキュームカー物流」が、大都市圏ではなぜ成立しないのか。さらに「陸上に溜める」「地方に送る」という代替案が、どのような理由で通用しないのかを検証します。
結論を先に言えば、「処理」「輸送」「貯留」というすべての陸上ルートが、ほぼ同時に限界を迎えます。

バキュームカー輸送は「絶対量の壁」にぶつかる--「地方に運ぶ」という机上論の崩壊

トイレは便器ではなく「物流システム」である
前編で述べたように、仮設トイレは「汲み取り前提」の設備です。つまり、仮設トイレが機能し続けるためには、バキュームカーによる継続的な汚物の回収と輸送が欠かせません。
ここで最初の壁にぶつかります。大都市圏の被災人口が発生させる汚物量を、継続的に回収・処理するために必要なバキュームカーの台数は、平時の日本に存在しません。
バキュームカー1台の積載量はおおむね3~4キロリットル程度です。仮に首都直下地震で東京都内だけで1,000万人が被災した場合、1日あたりのし尿発生量は数万キロリットル規模に達します。これを処理するために必要な台数と往復回数を計算すると、日本全国のバキュームカーを総動員しても到底追いつかない規模であることが、すぐに明らかになります。
「地方の施設で代替処理する」が成立しない理由
過去の小規模災害では、被災していない近隣自治体のし尿処理施設が余力を使って吸収するという方法が機能しました。しかし大都市圏全域が被災した場合、この前提が根本から崩れます。

周辺施設の同時需要超過: 大都市圏全体が被災した場合、周辺の自治体も程度の差はあれ被災します。余力を持って受け入れられる施設は、被災地から遠く離れた地方にしか存在しなくなります
道路ネットワークの完全飽和: 震災直後の幹線道路は、救急・救援・避難・物資輸送で完全に飽和します。そこに大量のバキュームカーが長距離輸送のために参入することは、現実的ではありません
1台あたりの処理回転数の激減: 遠距離輸送になるほど、1台のバキュームカーが1日に処理できる往復回数は激減します。仮に片道2時間の施設へ輸送する場合、1台が1日に処理できる量は平時の数分の一に落ちます

これらの要因が重なることで、「地方に運ぶ」という発想は机上の論理にとどまり、現実の被災地では機能しません。

陸上処理が詰まった後に訪れる「貯留地獄」の致命的なリスク

輸送が機能しない場合、次に検討されるのが「どこかに溜める」という対応です。しかしこの代替案もまた、大都市圏では深刻な限界を抱えています。

代替案(1):プール・空き地への仮設ピット

使われていないプールや、空き地に穴を掘った仮設ピットに汚水を集める方法は、過去の災害でも試みられた手段です。しかし大都市圏でこれを行った場合、以下の問題が連鎖的に発生します。

悪臭の拡散: 大量の汚水が集積する場所では、強烈な臭気が周辺に広がります。避難所そのものが生活不能な環境になります
害虫の大量発生: ハエ・蚊などの害虫が爆発的に増殖し、腸チフス・赤痢・コレラといった集団感染症のリスクが跳ね上がります。特に夏季においてはこのリスクが極端に加速します
地下水汚染: 仮設ピットから汚水が土壌へ浸透することで、地域の地下水脈が汚染されます。復旧後の長期にわたる水環境への影響は、計り知れません
雨水混入による溢水: 降雨時に雨水が混入することで汚水量が増大し、ピットから溢れ出すリスクがあります

代替案(2):大型コンテナ・貯留タンクの急設

もう一つの代替案として、仮設の大型コンテナや貯留タンクを大量に調達・設置する方法があります。しかしここにも、大都市特有の壁があります。

用地の絶対的不足: 東京などの超高密度都市では、数千万人分のし尿を長期間貯留するために必要な規模のタンクを置く空き地が、そもそも存在しません。福島第一原発の汚染水問題を思い起こしてください。あの規模のタンクを、震災直後の大混乱期に数万個単位で調達・輸送・設置することが可能でしょうか
調達・輸送の非現実性: 大型タンクの製造・流通拠点は全国に分散しています。道路が麻痺した状況で必要数を被災地へ集中輸送することは、物理的にほぼ不可能です

季節性がもたらす最悪のシナリオ
これらの問題は、冬季であれば腐敗速度が遅いため、数日程度の猶予が生まれる可能性があります。しかし春・夏・秋の気温が高い時期に大規模地震が発生した場合、汚水の腐敗と衛生環境の崩壊は極めて速いスピードで進行します。
気温30度を超える夏季の被災地では、適切に処理されない汚水は数日以内に強烈な腐敗臭を発し、害虫の爆発的な増殖を招きます。感染症の集団発生が現実のリスクとなる時間的余裕は、想像以上に短い。

分散型処理や「水なしトイレ」という中長期解の限界

こうした状況への対策として、現在さまざまな「出さない設計」「分散処理」が推奨されています。その有効性と現実的な限界を整理します。
おがくずトイレ・乾燥型・密閉袋式トイレ
排水量そのものをゼロにするという意味で、構造的に最も理にかなった対策です。下水に流さず、汚物をその場で封じ込めるこれらのトイレは、平時からの備蓄・普及が進めば確実に有効です。
しかし現実には、一般家庭や全避難所への普及率はまだ限定的です。そして見落とされがちな問題として、回収したおがくずや密閉袋そのものが膨大な量の「可燃ごみ」になるという点があります。ゴミ収集インフラが停止した大都市では、今度は「汚物袋の山」という別の滞留問題が発生します。入口を閉じたことで、出口が詰まるという構造です。
浄化槽の活用・増設
個別の浄化槽を避難所や被災エリアに急設するという案も、選択肢の一つです。しかし以下の理由から、即応性は低いと言わざるを得ません。

各メーカーの在庫は、大都市圏の被災人口の前では微々たる数量にすぎない
設置後すぐに機能するわけではなく、種汚泥の投入と微生物の馴致(なじませる期間)に一定の時間を要する
電力と定期的な保守が必要であり、停電・人手不足の被災地での稼働維持に課題がある

中編のまとめ:陸上のすべてのルートが同時に詰まる

「処理」「輸送」「貯留」という三つの陸上ルートが、ほぼ同時に限界を迎える??これが大都市規模の災害における、トイレ問題の真の恐ろしさです。
代替手段を最大限に積み上げたとしても、カバーできるのは発生量全体のごく一部にすぎません。大部分のし尿は行き場を失います。
では、すべての陸上インフラが詰まりきったとき、私たちは何を迫られるのか。完結編となる後編では、過去の事例が示す「超法規的措置」と、海洋投棄という直視すべき現実の課題を浮き彫りにします。


【4. Q&A 現場の悩み相談】

2基あるMF膜ろ過システムは、どのように運用を切り替えているのですか?

「逆洗(膜の自動洗浄)」が開始されるたびに、システムAとシステムBが交互に運転を切り替える自動制御(交互運転)を行っています 。


【5. 編集後記】

前回の記事で文字化けが発生していたことに後から気が付きました。申し訳ございませんでした。1,2か月以内に過去記事を読めるような仕組みを整えるよう検討したいと思いますが、その時にはちゃんと文字化けのない文章に修正いたします。なお、今回と次の回まで災害用の記事のボリュームが多いため、水道記事を薄めのものとしております。
さて、来週は毎月第一金曜日開催で恒例の「水飲み会」を実施します。時間は18:30から。今回は「豊島区立池袋西口公園」を集合場所とし、集まった人数でどこに行くか決めたいと思います。来れるかたは、X(https://x.com/watervision_jp)からDMで参加宣言をお願いします。飛び入り参加でもOKですが、18:30~19:00まで公園でお待ちしてこなければ場所を移動します。飛び入り参加の方は到着時にX(https://x.com/watervision_jp)にDMいただけると幸いです。