水道の計画・調査段階におけるGPS活用の基礎知識
水道の計画・調査段階において、GPS受信機は欠かせないツールです。
調査では、取水ポイント・浄化施設の設置場所・配水池の位置など、現地で決定した場所を一つひとつ記録していく必要があります。GPS受信機を使えば、こうした情報をデジタルデータとして正確に残すことができます。今回はこのGPSについて基礎的な情報を共有いたします
1.GPS受信機について
かつてはGarminとマゼランの2社が競っていましたが、現在はGarmin一択といえる状況です。機種はe-Trexシリーズ(e-Trex 10?30、e-Trex touchなど)があり、機能に大きな差はないため、使いやすいものを選べば問題ありません。
2.使用用途
用途は大きく2つに分かれます。
- 位置の記録(ウェイポイント記録):施設の設置場所など、点として記録する場合に使用します。
- 軌跡の記録(トラック記録):配管ルートなど、線として記録する場合に使用します。
3.座標系と測地系
座標系
- 緯度経度:一般的に広く使われますが、調査ではあまり使用しません。
- UTM:調査で主に使用します。南北・東西方向の距離をm単位で数値化しており、AutoCADなどのCADソフトで扱いやすく、2点間の距離も容易に算出できます。
測地系
- WGS84:世界で最も広く使われています。
- JGD2011・JGD2024:世界測地系の日本版で、国内業務では使われることがあります。
最初はとっつきにくいのですが、座標系・測地系の変換は後からツールで簡単に行えるため、記録時にGPSの設定を把握しておけば十分です。
4.使用ソフト
GPSデータの管理・変換・表示に使う代表的なソフトを紹介します。
- Garmin Base:Garmin公式ソフト。データの取り込み・送り込み・編集に使用します。
- Garmin Map Source:Garmin Baseの旧バージョンです。
- GPS Track Maker:無料版で十分使えます。座標変換が得意で、データ成型にも活用します。
- Excel・Googleスプレッドシート:取り込んだポイントデータの管理に便利です。
- Google Earth:ポイントやトラックデータを可視化し、設計の一次検討や関係者への説明に活用します。
- GIS(QGISなど):地図としての表示・出力や分析に使用します。以前はArc GISが主流でしたが、現在は無料のQGISが広く使われています。
- AutoCAD:位置図・平面図・配管縦断図など、建設用図面の作成に使用します。
5.基本的な使い方
以下はe-Trex 30Xをベースにした説明ですが、タッチモデルでも基本的な操作は同様です。
(1) 位置の記録
記録したい場所で本体正面の突起を長押しすると確認画面が表示されるので、OKで記録します。ポイント名はデフォルトで数字(例:076、記録をとるごとに1つずつ増える)となります。調査中に名称を入力する余裕はないため、数字のまま記録し、野帳やスマホのメモに番号と内容を対応させてメモしておくのが現実的です。
(2) 軌跡の記録
Trackの設定を記録モードにすれば、あとは自動で記録されます。記録したトラックはGPS画面上に表示されるため、移動ルートの確認にも使えます。
6.表示・確認できる情報
- 位置情報:緯度経度・UTMなど、表示形式を切り替えたり併記したりできます。
- 標高:衛星データと気圧補正を組み合わせて算出しますが、精度は参考程度です。数万円クラスのGPSでは調査には使えません。
- 精度・誤差:起動直後は誤差が大きく、捕捉衛星数が増えるにつれ精度が上がります。誤差が二桁の場合はデータとして使えないため、一桁になるまで待ってから記録することをおすすめします。
- 記録時間
7.おわりに
GPSは座学で覚えるというより、実際に使いながら慣れていくものです。本稿はそのための最低限の知識をまとめたものです。参考になれば幸いです。
【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】
水道公論 2022年10月号(第58巻第10号)pp.93-104, 信州大学名誉教授 中本信忠「生物屋の緩速ろ過池研究 13 テムズ水道のろ過池を調べる」
水道生態学のグローバルスタンダード:ロンドンが選んだ「生物浄化」の未来
(1) 1829年から続く「ろ過の聖地」:テムズ水道の衝撃
近代水道の父、ジェームズ・シンプソンが1829年に完成させたロンドンのテムズ水道--化学薬品を一切使わない安全な浄水法として世界をリードし続けてきたこの施設は、緩速ろ過を研究する者にとって聖地とも呼ぶべき場所です。
驚くべきは、その原水の過酷さです。農耕地や下水の影響を強く受けるテムズ河の栄養塩(窒素・リン)濃度は、上田市の流入河川と比べて実に100倍近くに達します。それほど汚濁した水を、ロンドン市全域への給水を担いながら、今なお「薬を使わないインフラ」だけで処理し続けているという事実--「汚れた水だから高度処理が必要」という都会型水道の常識を、テムズ水道は静かに、しかし圧倒的な実績でもって覆しています。
(2) 「ろ過速度は遅いほうが良い」という日本の盲点
日本の水道界では長年、「ろ過速度が遅いほど病原菌を除ける」という常識が支配してきました。標準ろ過速度は1日4.8m--しかしテムズ水道が2006年に全浄水場で採用した速度は、その倍にあたる1日9.6mです。
ここに、生物浄化法(Ecological Purification System)の本質を解く鍵があります。「Slow Sand Filter」の「Slow(遅い)」とは、流速の遅さを指すのではありません。著者・中本信忠先生が繰り返し説くように、それは「生物群集が流されることなく、安心して活躍できる環境」--つまり生物への優しさを意味するのです。速度を速めることでかえって水質が安定するという逆説は、酸素の動態という科学的ロジックに基づいています。この発見を日本の指針に記載するよう訴え続けてきたのが、先生の長年の使命でした。
標準化損失水頭(Normalized Head Loss:NHL)という世界共通指標もまた、テムズ水道の調査から学んだ重要な成果です。ろ過速度の影響を排除して目詰まりを正しく評価するこの指標は、世界中で活用されているにもかかわらず、日本の設計指針にはほとんど記載がありません。
(3) 酸素不足を排し、微小生物を「逃がさない」技術
ろ過池では、藻類の光合成と砂層の微生物群集の呼吸によって、溶存酸素(DO)が激しく日変化します。ろ過速度が遅すぎると、夜明け時に砂層内が嫌気状態に陥り、浄化の主役である微小動物たちがろ過水側へ漏出してしまいます。逆に速度を速めることで、DO日変化幅が小さく抑えられ、生物たちが24時間安心して働き続けられる最適な環境が生まれます。
テムズ水道の調査で著者が確信したのはまさにこの点でした。藻類の生産量は昼間に急増し、捕食動物がそれをただちに食べ、排出物をさらに細菌が分解していく--砂層表面近くで展開されるこの食物連鎖の連なりが、水を「生物が洗う」という生物浄化法の真髄です。「生き物を機械的に篩い落とす」のではなく、生物群集の健康状態をいかにケアするかという「生き物ファーストの管理」こそが、目詰まりも漏出も防ぐ極意なのです。
(4) SDGs時代に誇る、100年枯れないスマートテクノロジー
テムズ水道では、覆いろ過や活性炭層の挿入といった長期の実証試験も行われました。しかし最終的に導き出された結論はシンプルです--「生き物が洗う」本質、すなわち食物連鎖を阻害しないことこそが最善である、と。
生物学的急速ろ過(一次ろ過)との薬品なしの組み合わせで、高度処理にも化学薬品にも頼らず「生でおいしい特級水」を合理的につくり出せる--この知見は、国内外のあらゆる現場に応用できる普遍的な設計思想です。
複雑な機械と多量の産業廃棄物を生む現代の化学処理に対し、自然の摂理を賢く活かした生物浄化法(Ecological Purification System)は、過疎化や予算制約に悩む日本の地方自治体にとってこそ, 最善の処方箋といえます。著者の集大成『おいしい水のつくり方―2』はその全貌をオールカラーで伝えるバイブルとして世界に届き、外務省のジャパン・ビデオ・トピックスでは「世界の水をきれいに(Clean Water for All)」として7ヵ国語で発信されています。タイムレス・テクノロジー(時代を超越した技術)として、この「知恵のインフラ」は今まさに世界標準へと歩みを進めています。
【3. 災害下の水について】
災害時の隠れた水利用スポット? 銭湯について
東京の銭湯料金は大人550円の統一料金です。土地代の高い東京で、大量の水を使い、加熱・浄化までしてこの価格で提供できているのは、考えてみると驚きです。
以前、よく通う銭湯の方に聞いたところ、その銭湯では地下水をくみ上げ、水処理(おそらく軟水化)を施したうえでボイラーで温めて供給しているとのことでした。「水道水を使っていたら、利益を出すのはかなり難しい」というのが、その方の率直な見解でした。その後、いくつかの銭湯でも確認しましたが、やはり地下水を利用しているところが多いようです。
ここで気づくのが、災害時との関係です。断水していても、以下の条件が揃えば、理論上は銭湯を営業できます。
- ポンプ用の電気が来ている
- 都市ガスが止まっていない
- 設備が破損していない
- 下水が機能している
- 従業員が確保できている
仮にすべてが揃わなくても、電気とポンプさえあれば、入浴は無理でも給水拠点として機能する可能性があります。
また、大浴場を持つホテルでも地下水を利用しているところは多く、東京都心部では「断水していてもお風呂に入れる場所」が意外とあるかもしれません。ただし、上記のいずれかが欠けてもダメであって、営業できる施設は限られるため、相当な混雑が予想されます。
一方、銭湯にはコインランドリーを併設しているところも多く、そちらが使えれば洗濯スポットにもなります。
こうした可能性に気づき、先日、国が実施していた5か年計画へのパブリックコメントに意見を提出しました。国が主導して銭湯協会やホテル協会と災害時の協定を結ぶよう求める内容です。
いざ被災したとき、「近くの銭湯が使えるかもしれない」と頭の片隅に置いておくだけで、助けになる場面があるかもしれません。
【4. Q&A 現場の悩み相談】
オゾン酸化装置はどのような頻度で部品交換やメンテナンスが必要ですか?
オゾン酸化装置、酸素濃縮器は年1回の定期点検・メンテをメーカー側で実施します 。
【5. 編集後記】
上記で少し触れましたが、今週はパブコメで「国土形成計画(広域地方計画)計画原案」「地方ブロックにおける社会資本整備重点計画(原案)」の両方に意見を出しました。書いたのは、銭湯活用や雨水活用、あとは弊社の進めている公園池水の浄化利用などについて意見しました。なかなか皆さんお忙しくてそんな暇は取れないかもしれませんが、私は少し前から「パブコメから日本を変えてみよう」というサイトを毎週頭に覗いて気になるトピックがあれば意見するようにしています。皆さんも興味があれば、上記サイトを定期的に覗いてみると、気になるトピックがあるかもしれません