株式会社水未来研究所

100億人に届け命の水|小規模水道・実務ノウハウ通信

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<目次>
【1. 今週の実務ノウハウ】
【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】
【3. 災害下の水について】
【4. Q&A 現場の悩み相談】
【5. 編集後記】
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【1. 今週の実務ノウハウ】

「給水区域」についての後半部分について掲載いたします。

今週は、先週のご案内の通り、スペースの都合上、掲載が難しかった「給水区域」についての後半部分について掲載いたします。
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第4章:【深掘り協議】パターン(2)における「既存設備流用」の技術・法務論

給水区域を一部廃止し、集落を自立的な代替給水手段(小規模水道等)へ移行させる「パターン(2)」において、実務者が国交省や関係部署と協議する際に最も激しい議論となると思われるのが、「既存インフラの流用」に関する建て付けです。

4-1:小規模水道への移行時における配管網・配水池の物理的流用
長距離の基幹管路は廃止するものの、集落内に張り巡らされている既存の配管網(配水細管)や、配管網の起点となる配水池、管路中にある減圧槽や空気弁などの付帯設備は、そのまま流用した方が経済的合理的であることは言うまでもありません。集落の近くに新たな湧水や地下水源(浄水機能)を新設し、そこから既存の配水池に水を送り、既存の配管網を使って各家庭の蛇口へ届けるという設計です。
この物理的な流用自体は、初期投資を大幅に抑えるために極めて有効なアプローチであり、技術的には十分に可能です。ただし、流用にあたっては、長年の運用のなかで劣化した部分からの漏水リスクの再評価や、水理計算上の再確認といった技術 velvet 検証が必須となります。

4-2:流用後の法的な位置づけ(専用水道・簡易専用水道)
公設の水道事業の給水区域から完全に外れた後、既存の配管網等に自前の水源から給水を開始した場合、その施設は法的にどのような扱いになるのでしょうか。ここの整理を誤ると、無認可の違法インフラになってしまう危険性があります。
施設の規模(給水人口が100人を超えるか、または居住者に供給する水の水槽の総容量が特定の基準を超えるかなど)によっては、その施設は水道法第3条第6項に定める「専用水道」に該当することになります。手引きにおいても、水道事業の一部廃止許可後、当該区域の施設が専用水道に該当する場合は、水道法第32条に基づく都道府県知事(または保健所設置市長)等の「確認」を新たに受けることが義務付けられています。また、規模が小さくとも「簡易専用水道」等の規制対象になる可能性があり、公設水道ではなくなったとしても、水道法に基づく適正な水質管理や施設衛生の維持体制を、誰がどのように構築するのかを明確にしなければなりません。

4-3:既存施設(行政財産)の取り扱いと管理責任の移行
最大の難関は、これまで水道事業者(自治体や企業団)が所有・管理してきた「行政財産」である配管や配水池を、民間の代替給水組織(住民の組合や水利組合など)にどのように引き渡すか、という財産法上の処理です。
パターン(3)(第三者委託)の先行事例を参考にすると、行政財産である送・配水施設等について、自治体が所有権を維持したまま「一部の行政財産使用を許可(または貸付)」し、施設を官民で共同管理するという手法がとられています。
パターン(2)においても、同様のスキームが検討に値します。すなわち、
配管や配水池の所有権は自治体に残したまま、住民組合等に「無償・有償の使用許可」を出し、日々の運用を行わせる。
あるいは、完全に水道事業のアセット(資産)から除却し、時価(または評価額ゼロ)で代替手段の運営組織へ譲渡(売却・寄付)する。
どちらを選択するかによって、将来の漏水修繕義務や、最終的なインフラ解体時の費用負担者がガラリと変わるため、行政の財産管理部局、法務部局、そして国交省との間で、緻密な事前整理が必要となります。

第5章:【実務の最難所】資産価値の清算と「残置インフラ」の将来リスク

給水区域を縮小し、施設の一部を引き継ぐ(あるいは引き継がない)と決めた後の、財務・法務における「清算手続き」は、実務上最も厄介で泥臭い作業となります。

5-1:解体撤去か、現状のまま譲渡・残置か
事業の一部廃止に伴い、不要となった長距離の管路をどうするか。理想を言えば、地中に埋まったすべての配管を掘り起こして撤去し、原状復帰することです。この場合は、財務上「固定資産の除却・処分」として処理され、解体撤去費用をその年度の予算(または引当金)で清算すれば、法的な責任関係は綺麗に消滅します。
しかし、山林や公道の下に何キロも埋まった配管をすべて撤去するには、それこそ数千万円から数億円の費用がかかり、管路を更新しないことで得られるはずの財政的メリットが相殺されてしまいます。そのため、現実には「管の中にモルタル等の充填剤を詰めて閉塞し、地中にそのまま残す(残置)」という選択が取られることが多くなります。
ここで生じるのが「残置インフラの将来リスク」です。
残置された管が数十年後に腐食して陥没を引き起こしたら、誰が道路を直すのか。
他の中期インフラ工事(ガス管や電線共同溝の埋設など)の邪魔になった際、その撤去費用は誰が持つのか。
元事業者が責任を持ってすべて管理し続けるのであれば、財務上の清算(除却処理)をした後も、法的な潜在負債(リスク)として台帳に残り続けます。はなからこれらを「すべて新しい給水設備の管理者(住民組合等)に譲渡する」という方法もありますが、これを受け入れてもらうには、さらなる交渉が必要となります。

5-2:企業間・行政間の移管時における財務調整と費用相殺スキーム
同じ行政内(市役所の水道部から一般会計への移管など)であれば、財産移管の手続きは比較的スムーズです。しかし、「一部事務組合(広域企業団)」から個別の市町村へ施設を移管する場合や、民間・住民組織へ完全にアセットを移す場合は、極めてシビアな財務調整が発生します。
手引きや水道事業の認可に関する規定に照らしても、施設形態や資産価値は事案ごとに全く異なるため、「関係者間で十分調整・協議し、各事案に応じた最適な方策を検討する」という一文の裏で、以下のような強烈な交渉が行われます。
財産上のポジティブ評価: 既存の配水池や配管網が、まだあと20年使える状態であれば、その「残存簿価(資産価値)」はいくらか。
将来のネガティブ評価(負債のポテンシャル): 一方で、今後20年間の間に確実に発生するであろう、古い配管の漏水修繕費や、耐用年数が切れた際の最終的な解体・撤去費用(将来の負債)はいくらになるか。
実務的な落としどころとしては、この「資産価値」と「将来の修繕・撤去リスク(負債)」を天秤にかけ、差し引きで発生するマイナス分(将来の住民側の負担)を、元事業者(企業団や自治体)が「一時金」の支給や「修繕基金」の創設、あるいは初期の浄水場新設費用の全額負担という形で相殺・補填するスキームを提示することです。
住民同意を得るための条件として水道法上求められる「他の手段により水を長期に亘り確保するための設備に関して、負担すべき費用」の提示とは、まさにこの財務調整のプロセスの可視化そのものです。ここをどんぶり勘定で進めると、住民側からの反発を招くか、あるいは将来的に住民組合が破綻して再び行政が莫大な費用で救済せざるを得なくなるという、最悪のシナリオ(リバウンド)を招くことになります。

第6章:結論:技術者と経営者が持つべき「畳むインフラ」への覚悟

6-1:水道原価を圧縮し、真の基幹網を守るための「引き算の設計」
給水区域の縮小(一部廃止)は、一見すると「縮小」や「撤退」というネガティブな行為に見えるかもしれません。しかし、その本質は違います。維持が不可能な枝葉のインフラを、法的な手続き(水道法第11条)に則って適切かつ早期に切り離すことは、街の中心部を支える「真の基幹給水網」と、事業体そのものの財務基盤を100年先まで守り抜くための、最も攻めたインフラ防衛策です。
資産の評価、残置インフラのリスク管理、そして「契約者全員 of 同意」という、目眩がするほどに重い法務・財務のハードルが目の前には立ちはだかります。しかし、これらを避けて通り、現状維持のまま時間切れ(管路の全面崩壊と財政破綻)を迎えることは、次世代に対する最大の背信行為と言えます。今、水道に携わるすべての技術者と経営者に求められているのは、拡張時代のドグマから完全に脱却し、勇気を持って「引き算の設計」のペンを握る覚悟です。

6-2:水未来研究所が提供する「アセットサバイバル」のトータルサポート
給水区域の縮小や、代替手段へのスムーズな移行は、一朝一夕にできるものではありません。専門的な法規の知識、緻密なコスト試算、 cracked そして住民の皆様の不安を解消するための誠実な合意形成のノウハウが必要です。
私たち水未来研究所では、単なる技術的な設計図の作成にとどまらず、今回ご紹介した「アセットサバイバル」の思想に基づき、以下のようなトータルサポートを提供しています。

インフラを適切に畳み、地域に最適な水の未来を再設計したいと考えておられる自治体や企業団の皆様。「何から手をつければいいか分からない」という初期の構想段階から、法務・財務の具体的な課題解決まで、私たちの知見を総動員して伴走いたします。次世代に誇れる、身の丈に合った強い水道システムを、私たちと共に作っていきましょう。お気軽にご相談ください。


【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】

水道公論 2022年8月号(第58巻第8号)pp.74-82, 信州大学名誉教授 中本信忠
「生物屋の緩速ろ過池研究 11 持続性についてインドネシアで考えた」

水道変革論:グローバルに広まる「持続可能な水」の知恵

(1) 「古い技術」が持つ圧倒的な持続性:欧州の豊かさの源泉に学ぶ
産業革命期の英国で生まれた緩速ろ過技術は、200年以上にわたって使い続けられています。欧州を旅すると、数百年前の建造物が今も現役で活躍する光景に出会います。オックスフォードのバリオール・カレッジは1263年の創設。英国の国会議事堂も補修を重ねながら現在も利用されています。オランダの運河と風車もまた、偏西風を動力に変える省エネの知恵として今に息づいています。
「古いものを補修して大切に使い続ける」--この思想こそが、本質的な豊かさと持続可能性の源泉です。目先の最新技術への置き換えに飛びつく前に、壊れにくく、エネルギーを使わず、地域の人々が自分で維持できる「シンプルな仕組み」の価値を、私たちは改めて問い直す必要があります。

(2) インドネシアでの調査:オランダ人が残した「地下水保全」の知恵
1990年、著者はJICA専門家としてインドネシア科学院(LIPI)陸水研究所に赴任しました。拠点となったのは、オランダ東インド会社時代の建物が今も使われるボゴール植物園のゲストハウス。1817年にオランダ王国が設立したこの植物園は、世界の有用植物の栽培試験を担う場として機能してきました。
注目すべきは、ジャカルタ平野に点在する「淡水溜池(地下水の塩水化防止)」の存在です。オランダ統治時代に建設されたこれらの溜池は、海面下の土地に淡水を浸透させ、地下水が塩水化しないよう守るための大いなる知恵でした。しかしその後、都市化の波が押し寄せ、溜池は次々と埋め立てられ、工業地帯へと変貌していきます。結果として地下水は塩水化し、水質は悪化の一途を辿りました。自然の物質循環を無視した開発がいかに脆いものであるか--この教訓は今も色褪せません。

(3) 民間企業の社会貢献:水田の自浄作用を模した「草の根浄水プラント」
インドネシアの農村では、酸素不足で鉄・マンガンを含む赤茶色の地下水が生活を脅かしていました。著者はヤマハ発動機と協力し、薬品を一切使わない革新的な前処理プロセスを共同開発します。
まず、階段状の水路をゆっくり流すことで生物酸化処理を施し、鉄・マンガンを沈殿除去。次に浅い水路でリング状の紐に糸状藻類を繁殖させ、微小動物に濁りを捕食させるという、水田や溜池の自浄作用を応用した仕組みを組み込みました。そして最終段階に緩速砂ろ過を配置する--これが生物浄化法(Ecological Purification System)の全貌です。最先端の工学を押し付けるのではなく、「村人が自分で判断し、維持管理できる単純な仕組み」を構築することこそが、真の社会貢献であると著者は確信します。

(4) 住民が自立運営する「健康村」のマネジメント
2001年、カラワング県にパイロットプラントが稼働します。村人たちが直面した最初の課題は、「水をタダにすれば無駄遣いされ、システムが崩壊する」というリスクでした。
そこで住民は毎晩話し合いを重ね、「共同水栓方式(有償管理)」にたどり着きます。20リットルのポリタンク1本を市販価格の5分の1で販売し、開栓時間を女性管理者が厳格にコントロールする仕組みです。余剰分は隣村へのタンク給水事業へと発展し、装置の維持費として蓄積されていきました。
成果は劇的でした。安全な水の供給は飲料・調理に限定されていたにもかかわらず、下痢・発熱・腹痛・皮膚病が軒並み激減したのです(図19)。きれいな水で手を洗う習慣が根づいたことで、村全体の衛生水準が底上げされた--これはインフラと公衆衛生のソーシャルデザインが見事に結実した事例です。

(5) 「長野モデル」と100年後のインフラを見据えて
JICAの動画教材や国際会議での発表を通じ、生物浄化法(Ecological Purification System)はアジア・アフリカへと広がっています。上向流粗ろ過(URF)との組み合わせにより、途上国の農村から都市近郊まで、多様な現場での実績が積み上がっています。
国内でも再評価の機運が高まっています。大正12年(1923年)の創設以来、今なお現役で16万人への給水能力を持つ上田市染屋浄水場。この驚異的な強靭性を評価した厚生労働省は、長野県企業局・広域化モデル事業として自然流下システムの検討を進めています。
著者の集大成『おいしい水のつくり方─2』が指し示すビジョンは明快です--100年後も世界中から見学者が訪れる、生物の力を賢く活かした持続可能な水道。その未来は、すでに動き始めています。


【3. 災害下の水について】

大都市型災害における水道システム復旧の長期化リスクと人口規模の不条理

先週は、東京都水道局が推進している災害対策について解説いたしました。
東京都の取り組みは、施設や配管の耐震化に留まらず、発災後の応急給水体制など事後対策も含めて非常に高いレベルで計画されており、まさに国内最先端の対策が行われていると評価できます。地方自治体の厳しいインフラ状況と比較すると、その差は歴然としています。

このような手厚い災害対策を展開できるのは、東京をはじめ、横浜市や名古屋市といった財政基盤が強固な大都市圏に限られます。これらは豊富な資金力に加え、日本の経済・社会の基盤を支える先進都市としての強い責任感の現れでもあります。

しかし、どれほど高度な対策を講じていても、巨大地震が発生した際の被害を完全にゼロにすることは不可能です。一定割合の断水被害は避けられず、さらにその復旧には想定以上の時間を要し、長期化する可能性が高いと考えられます。

その理由は、大都市の水道局が「巨大かつ極めて高度にシステム化されている」という点にあります。
仮に震災によって特殊な仕様の部品や設備が破損した場合、それらの多くは受注生産品であるため、1か月やそこらで代替品を調達することは極めて困難です。また、発災直後は道路交通網のマヒにより物流が停滞し、復旧作業を担うべき専門人材や地元の工事業者自身も被災者となるため、労働力の確保に限界が生じます。行政の試算通りに、すべてが計画的かつ円滑に復旧へと進むと楽観視することはできません。

また、被災影響の「人口規模(インパクト)」についても注視する必要があります。
東京都(23区内)には約1,000万人もの人々が暮らしています。仮に全人口のわずか10%が被災したとしても、その対象者は100万人に達します。
先日の能登半島地震では広範囲で長期間の断水が発生しましたが、能登半島全体の人口は約10万人でした。東京都で発生する断水被害は、率としては限定的であっても、絶対的な困窮者の数は能登半島の10倍規模に膨れ上がるという現実があります。

能登半島地震の際は、全国から速やかに支援物資が現地へ集中し、一時的に物資が過剰になる場面もありました。しかし、ひとたび首都圏直下地震が発生すれば、被災者の圧倒的な多さに対して全国からの支援リソースが絶対的に不足し、物資の深刻な奪い合いが発生する事態も否定できません。

この人口規模がもたらす需給の不条理こそが、大都市型災害の最も恐ろしい側面です。当研究所が様々な媒体を通じて情報発信を続けているのは、この危機感を一人でも多くの方と共有したいという思いからです。本メルマガを通じて、一人でも多くの方が最悪のシナリオを想定し、今から具体的な備えを進めていただけるきっかけになれば幸いです。


【4. Q&A 現場の悩み相談】

大雨の後に沢水が激しく濁った場合(高濁度時)、装置が目詰まりしませんか?

粗ろ過装置では高濁度の濁度除去が可能ですが、さらに粗ろ過装置前に普通沈殿池を設ける、または限界以上の高濁度が予想される場合は、一時的に取水を停止するなどの対応を行います。これにより緩速ろ過浄水池には濁度10度以下の水を供給し、目詰まりを防ぐ構造としています。


【5. 編集後記】

今週もお読みいただきありがとうございます。
さて、来週の金曜子は3回目の「水飲み会」です。
今回は場所と時間を変えて開催します。詳しくはこちらをご覧ください
https://water4all.watervision.jp/1401/

先週、とある自治体の水道担当者とお会いしました。素朴な方でしたが、水道の「はやり・すたり」に影響されず、住民のことを第一に考えられているスタンスが良いなぁと思いました。いい仕事ができそうで久しぶりにワクワクしています。