株式会社水未来研究所

100億人に届け命の水|小規模水道・実務ノウハウ通信

---
<目次>
【1. 今週の実務ノウハウ】
【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】
【3. 災害下の水について】
【4. Q&A 現場の悩み相談】
【5. 編集後記】
---
【1. 今週の実務ノウハウ】

全国水道主管課長会議の共有資料解説:本年度の主要施策と上下水道の課題

今週は、国土交通省が4月21日に実施した「全国水道主管課長会議」についてです。
この会議は毎年、新年度早々に開催され、国交省の下、全国の水道主管課長が集まり、国交省の本年度の主要な政策や課題などについて共有する場となっております。
会議資料は以下からご覧いただくことができます。
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/watersupply/content/001998270.pdf

今回はこの資料で共有されている本年度の【主要な実施項目(政策)】と、【上下水道における課題感】についてまとめました。
ーーーー

【主要な実施項目(政策)】

国土交通省の令和8年度の上下水道政策は、道路陥没事故や能登半島地震の教訓、そこで人口減少といった課題を背景に、「強靱で持続可能な上下水道システムの構築」を目標としています。
主要な実施項目(政策)とその内容は以下の通りです。

1. 老朽化対策・強靱化の推進
大規模な道路陥没事故等の教訓を踏まえ、事故時に多数の住民に重大な影響を及ぼす「重要管路」(大口径管や緊急輸送道路下の管路など)の更新を強力に推進します。また、災害や事故の発生後に迅速な機能確保が難しい管路の複線化等に対する補助や交付金事業を創設・拡充します。

2. 事業運営の一体化と広域連携
人口減少下においても必要な上下水道サービスを維持するため、市町村の枠を超えた事業運営の一体化を推進します。具体的には、2つ以上の自治体による給水・汚水処理人口10万人以上の事業統合や経営の一体化を対象に、新たな財政支援を実施します。

3. 官民連携(ウォーターPPP)の導入拡大
民間事業者のノウハウを活用するため、管理・更新一体マネジメント方式やコンセッション(公共施設等運営事業)を含む「水の官民連携」の導入を拡大します。今後10年間で具体化を狙う事業件数目標(水道・下水道で各100件など)を設定し、社会資本整備総合交付金等を通じた支援も行います。

4. 上下水道DXの推進
業務の共通化や現場の生産性向上を目指し、令和9年度までにDX技術を全国で標準実装させることを目標としています。人工衛星画像を用いた漏水リスク評価の手引き作成、自治体が活用できる189の技術をまとめた「上下水道DX技術カタログ」の更新、経営状況を可視化する「ダッシュボード」の公表などを進めます。

5. 新技術の実装と「集約型・分散型のベストミックス」
国が主体となって革具体的技術の実証とガイドライン化を行う「上下水道一体革新的技術実証事業(AB-Cross)」を推進します。これにより、人口減少で既存の集約型(大規模)システムが非効率となる地域において、小規模浄水場や住宅向けシステムなどの分散型システムを組み合わせた「施設の最適配置(ベストミックス)」の実現を目指します。

6. 流域総合水管理の推進
気候変動やカーボンニュートラルの要請を見据え、治水・水利用・流域環境に個別ではなく一体的に取り組む「流域総合水管理」を推進します。既存ダムの高度運用や複数ダムの統合運用、上流からの取水による自然流下(省エネ化)への転換など、流域全体での最適化を図ります。

【課題感】

資料で共有されている主要な課題は、大きく以下の5点にまとめられます。

1. 施設の老朽化と耐震性不足(「モノ」の課題)
高度経済成長期に整備された水道施設や管路の老朽化が進行しており、更新や耐震化の需要が今後一層増大していくとされています。実際に管路の経年化率(法定耐用年数40年を超えた割合)は25.3%まで上昇している一方で、更新率は0.61%まで低下しています。

2. 人材減少・高齢化と技術継承の困難さ(「ヒト」の課題)
人口減少や技術職員の退職・高齢化により、現場の担い手が不足しています。これにより、施設の運転管理や管路の維持管理を行う体制の維持が難しくなり、技術継承や緊急時対応力の低下など、維持管理体制の脆弱化が懸念されています。

3. 経営環境の悪化(「カネ」の課題)
人口減少や節水型機器の普及に伴い、水道料金・下水道使用料の収入が減少しています。一方で、老朽化したストックの増加による維持管理費や更新費用が増大しており、経営を圧迫しています。特に、市街地から離れた小規模集落への送水は、給水量が少ないにもかかわらず施設の更新費用が相当程度かかるため、事業者にとって大きな負担となっています。

4. 激甚化・頻発化する自然災害と気候変動の影響
大雨の増加や渇水、能登半島地震のような大規模な自然災害がインフラに多大な影響を与えています。例えば、大規模出水後にはダムに土砂が異常に堆積し、水の安定供給に支障をきたす恐れがあります。また、水道管は地下にあるため点検調査が難しく、地理的条件の厳しい地域では災害時に漏水箇所の特定に時間がかかるといった課題も指摘されています。

5. 発発展途上国等における国際的な水問題
海外(特に発展途上国)においては、気候変動や自然災害(洪水、干ばつ等)、地盤沈下による塩水化に加え、都市部への人口集中・経済活動の増加に伴う急激な水需要の増加が課題として挙げられています。


【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】

水道公論 2022年6月号(第58巻第6号)pp.63-72, 信州大学名誉教授 中本信忠
「生物屋の緩速ろ過池研究 その9 「生でおいしい水」が身近に豊富にある日本」

水道の新常識:自然が教える「本当においしい水」の作り方

「生でおいしい水」は、すでにそこにある--日本が持つ宝と、それを活かす「生物浄化法」の未来

「どこの河原でも、湧水が湧き出しているところがある。その水は清澄」--中本先生がこう記すように、山国・日本の裾野には、飲んでそのままおいしい水が今も豊富に存在しています。長野県の水道水を例に挙げると、給水人口5,011人以上の上水道のうち実に60.1%が「消毒のみ」で供給されており、無処理や塩素殺菌だけで飲める「特級水(無処理・殺菌のみの良質な水)」の割合は際立って高い水準にあります。日本の水環境の豊かさは、かつて来日したブラジルの研究者が松本市の川を見て「クリスタリン・ウォーター」と感嘆した通りです。この宝を、私たちはきちんと認識できているでしょうか。

■ 「砂」が洗うのではなく「生き物」が洗う--パラダイムシフト
緩速ろ過は長年、単なる物理的なろ過装置として理解されてきました。しかし、その本質は砂層表面で生物群集が活躍する生態系の活用にあります。藻類・細菌・微小動物が形成する食物連鎖が、水中の有機物や濁りを分解し続ける--これこそが中本先生の言う「生物浄化法(Ecological Purification System)」です。
「砂が洗う」から「生き物が洗う」へ--このパラダイムシフトは、技術の名称一つにも現れています。「緩速ろ過」という言葉からは生物の活躍がイメージできない。だからこそ生物浄化法という呼称が必要であり、それは自然への深い理解から生まれた言葉なのです。

■ 塩素の歴史--「鉄管ビール」と呼ばれた水
日本の水道水への塩素添加は、戦後にGHQの指令によって広まり、現在も続いています。塩素消毒は伝染病防止に確かな効果をもたらしましたが、1974年にアメリカのハリス消費者報告が塩素と有機物が反応してトリハロメタン生成リスクがあることを世界に警告してから、その扱いは大きく変わります。
1970年代以降、欧米では「薬品を使わない安全な水」への見直しが進みました。かつて水道水は「鉄管ビール」と揶揄されるほど塩素臭が強かった時代がありましたが、それは生物浄化の力を奪い、化学処理で補おうとしていた矛盾の結果でした。今やロンドンでは「ボトルを忘れ、蛇口からの水道水を」というキャンペーンが展開され、欧州各国では伏流水取水(堤防ろ過・誘導浸透ろ過)という省エネで良質な原水確保の方法が積極的に活用されています。ドイツでは水道原水の6割が伏流水です。

■ 5年間、無人で、削り取りゼロ--須坂市西原浄水場の実証
地方・過疎地においては、大規模な広域施設よりも、谷合の湧水を活かした小規模分散型浄化施設の方が建設・維持コストともに優れている場合があります。
長野県須坂市西原浄水場はその実例です。ろ過池と浄水タンクだけからなるこの施設は約6,000人への給水が可能で、無人で管理されています。そして驚くべきことに、5年間削り取り作業なしで問題がなかった--生物群集が健全に活躍することで、砂層は自浄作用を維持し続けたのです。人口減少と技術者不足が進む日本の地方において、「無人でも機能し、省エネで安全な水を届ける」この技術の価値は計り知れません。SDGs時代のインフラとして、小規模分散型浄化施設が持続可能な地域水道の処方箋になり得ます。

■ 「色眼鏡」を外し、次世代へ繋ぐ指針を
現在の日本の水道施設設計指針・維持管理指針では、緩速ろ過に関する記述はほとんどありません。工学部の教科書でも急速ろ過と膜処理が専門的に教えられる一方、生物浄化法の仕組みは「誤解されたまま」というのが現状です。全国の浄水施設統計を見ると、日本には消毒のみの施設が3,671か所、緩速ろ過が621か所存在します。これらを適切に維持管理するための指針が今こそ必要です。
渋沢栄一財団の月刊誌への寄稿でも、中本先生は「道徳経済合一」という渋沢の精神と生物浄化法の哲学を重ね合わせています。自然の摂理を賢く借り、薬品に頼らず、地域の水を地域の生き物が守る--100年後も日本中の蛇口からおいしい水が飲める社会へ。その願いを実現するために、今こそ「色眼鏡」を外して生物浄化法を正当に評価すべき時が来ています。


【3. 災害下の水について】

日本の清流の「見た目の美しさ」と水質試験公定分析のギャップ

本日は「災害時の水」について、私が以前から関わっているプロジェクトの現場から、少し驚きのデータと共にお話ししたいと思います。
以前から少し触れていますが、最近、私は携帯型小型浄水器の開発監修というお仕事をさせていただいています。その性能を極限まで突き詰めるため、今、日本各地から「川の水」を取り寄せて、ろ過性能の評価試験を行っている真っ最中です。

北は北海道から、南は高知の四万十まで。
届いた水を見ると、どれも本当に美しいんです。

実際に数値を測ってみると、驚くことに「濁度(水の濁り具合)」はどこも2未満。これは日本の水道水としての基準を満たすほどの透明度で、見た目はまさに無色透明のとてもきれいな水です。

「これならそのまま飲めるんじゃない?」
そう思ってしまいそうな水なのですが……やはり現実はそう甘くありませんでした。

公定分析によると、見た目とは裏腹な結果が出てきました。

窒素系の成分や有機物、塩分などは特に問題なかったのですが、この「細菌」こそが厄介です。たとえ四万十川や、北海道の清流のような川であっても、野生動物の活動や周囲の環境によって、目に見えない菌は必ず存在しています。

「きれいに見えるから大丈夫」と災害時にそのまま飲んでしまうと、深刻な腹痛や感染症を招くリスクがあるのです。

もし、災害下で川の水を飲用しなければ状況になったら、どんなにきれいに見えても必ず、以下のように消毒や膜浄水器による浄化を行ってください。

塩素による消毒:「水5Lに対して塩素(家庭用漂白剤など)を2滴」垂らしてください。
煮沸消毒:燃料に余裕があれば、しっかり沸騰させても大丈夫です。
携帯用浄水器によるろ過:中空糸膜を使った災害用浄水器を一つ備えておき、それでろ過してください。細菌類を物理的に除去できます。

「見た目のきれいさ」と「安全」は別物ということを、実感しました。
皆さんもぜひ頭の片隅に置いておいていただければ幸いです。


【4. Q&A 現場の悩み相談】

Q. 平常時だけでなく、災害時も活用できますか?

A.
災害時も想定し、施設設計を行います。
たとえ、一部の設備が破損しても最後の最後まで水を供給する仕組みを考え実装します。


【5. 編集後記】

先日、自宅近くのコーナンに行く機会があったので、資材コーナーをのぞいてみました。やはりというか、塩ビ管、保温材、配管保温材などがガラガラでぽっかりと何もおかれていない空間が所どころ広がっていました。一方、同じ塩ビ製品でも電気工事系の電線管やプルボックスは普通に置いてありったのは少し驚きでした。
最近のニュースだとカルビーのポテトチップスの包装まで白黒パッケージになっているし、塗装業の方のショート動画もバズっていて、相当深刻な状況であることがわかります。
アメリカ・イランの動きも膠着状態で解決方向に動く気配がないし、しばらく続きそうですね。中国との会談がどう影響するのか見守りたいです。

技術試験対策として、まずは解答例を作成してブログで公開している。
以前も受験していましたが、問題が以前から随分と試験問題の傾向が変わった印象えす。 結構勉強になるものが多く、興味深いなと感じています。

さて、今回で10回目のメルマガ発行となりました。次回からも引き続き続けてまいりますので、よろしくお願いいたします。