株式会社水未来研究所

100億人に届け命の水|小規模水道・実務ノウハウ通信

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<目次>
【1. 今週の実務ノウハウ】
【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】
【3. 災害下の水について】
【4. Q&A 現場の悩み相談】
【5. 編集後記】
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【1. 今週の実務ノウハウ】

上向流粗ろ過装置の設計ノウハウ--サイズの決め方と砂利の選び方

上向流粗ろ過装置は、緩速ろ過の前段に設置することで、濁度を強力に低下させる装置です。容器に砂利を詰めて、下から上向きに水を通すだけで、驚くほど効果的に濁りを取り除くことができます。
除去効率は40~80%程度で、これを複数段、直列に接続することで、設計目標の濁度まで水を浄化してから緩速ろ過装置へ送ることができます。

まずは気軽に試してみてください

原理は非常にシンプルです。バケツに砂利を詰めて、下から上向きに水が流れるようにするだけで、その効果をすぐに確認することができます。試せる環境にある方は、ぜひ一度やってみてください--その手軽さと効果に、きっと驚かれるはずです。

設計のポイントとノウハウ

ただし、実際に装置として運用するには、いくつかのノウハウが必要です。

今回はこのうち、装置サイズの決め方と砂利の選び方をご紹介します。

(1) 装置サイズの決め方--ろ過速度(LV)をベースに設計する

装置のサイズを決めるには、まずろ過速度を設定する必要があります。ろ過速度は、線速度(LV:Linear Velocity)とも呼ばれ、ろ過流量をろ過面積で割ることで求めます。
緩速ろ過のLVは5m/日と非常にゆっくりしていますが、上向流粗ろ過はその2~3倍のスピードで処理します。つまり、LVが10~15m/日となるように装置サイズを設計します。ろ過槽の厚みは最低50cmを確保すれば問題ありません。
次に、装置間を接続する配管の口径については、流速をもとに計算します。配水管では1m/s以下が目安ですが、装置間の配管では圧力をかけられないため、さらにゆっくりとした0.5m/s程度を基準に口径を算出するとよいでしょう。

(2) 砂利の選び方--3種類を組み合わせて層を作る

砂利は水道用のろ過砂利を使用することをおすすめします。使用するのは以下の3種類です。

種類 粒径目安 役割
細粒砂利 4~8mm 上層:仕上げのろ過層
中粒砂利 8~12mm 中層:細粒砂利の支持
粗粒砂利 12~20mm 下層:中粒砂利の支持

まとめ

これらの条件をもとに設計することで、しっかりと効果の出る上向流粗ろ過装置を組み上げることができます。原理はシンプルで、材料も身近なものでそろえられますので、ぜひ一度チャレンジしてみてください。


【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】

水道公論 2022年5月号(第58巻第5号)pp.79-87, 信州大学名誉教授 中本信忠
「生物屋の緩速ろ過池研究 その8 硬度が高い淡水レンズ水の島、宮古島を調べる」

水の未来をデザインする:島国日本が世界に贈る「生物浄化」の知恵

「一粒の雨をオアシスに」--宮古島が教えてくれた水の真実
──殺藻剤を止めたその日から、水道水はおいしくなった
隆起サンゴ礁の島、宮古島。沖縄の離島の中でも特異なこの島には河川がありません。降った雨は地下に浸透し、比重の重い海水とは混じらずに岩石の隙間に溜まります。これが「淡水レンズ水」--海水の上に浮くように存在する、島民の命をつなぐ水源です。しかしこの貴重な地下水は、農業用肥料や生活排水が地表から浸み込むことで汚染が進んでいました。塩素の添加量は年々増え、水道水は「まずい」と言われ続けてきました。
「一粒の雨をオアシスに」--水循環への深い関心を持つ研究者たちがこの言葉を掲げるほど、宮古島の水問題は切実でした。

■ 「生物処理なのに、生物を殺していた」--英断がもたらした驚き
1997年7月、宮古島の袖山浄水場長が信州大学の中本先生の研究室を訪ねてきました。「緩速ろ過について相談したい」--そこで明かされたのは、ろ過池の「前塩素」、つまりろ過する前の原水に殺藻剤として塩素を添加していたという事実でした。
緩速ろ過は生物群集によって水を浄化する「生物浄化法(Ecological Purification System)」です。しかしその入り口で、生物を殺す薬剤を投入していた--これはまさに「生物処理なのに、生物を殺していた」という根本的な矛盾でした。
中本先生の助言を受けた浄水場長は、9つのろ過池のうち1つで試験的に前塩素添加を中止することを決断します。するとすぐに砂面で藻が繁殖し始めました。そして直後から、市民や企業団から「水道水がおいしくなった」という問い合わせが殺到したのです。生物群集が活躍し始めると、水中の臭気物質が分解され、異臭味が消えた--薬品に頼らずとも、生き物の力が水を劇的に改善していたのです。

■ 藻が「硬度」を下げる--Bio-Mineralizationの神秘
宮古島の淡水レンズ水には、もう一つの課題がありました。硬度が高い、つまり水中にカルシウムや炭酸塩が多く溶け込んでいるため、水道管の内壁にスケールが付着し、やかんなどにも白い析出物が生じやすかったのです。
しかし中本先生が調査すると、ろ過池で繁殖した藻類がすでに硬度を下げていた事実が浮かび上がりました。藻類は光合成の過程で水中の二酸化炭素を吸収し、pH(水素イオン濃度)を上昇させます。すると炭酸カルシウムの結晶が析出し、砂面や藻に付着して沈んでいく--まるでサンゴ礁が形成されるときに共生藻類が働くのと同じ仕組みです。これが「Bio-Mineralization(生物学的鉱物化)」と呼ばれる現象で、大規模な硬度低減化施設が稼働する前に、自然の営みがすでに硬度を下げていたのです。生物の力を知っていれば、より効率的な投資ができたかもしれない--そんな教訓がここにあります。

■ 宮古島からJICAへ--日本の貢献技術として世界へ
宮古島での成果は、国内にとどまりませんでした。中本先生は現地での生物活性の日変化測定、浮上藻の収穫・分析、そしてその一部始終を記録したビデオ教材を手作りで制作します。「宮古島の水 安全でおいしい水を求めて」と題されたこの映像は英語字幕版も制作され、YouTubeでも公開されています。
JICA(国際協力機構)はこの取り組みを日本の貢献技術として認め、ネット教材を整備しました。東南アジア・太平洋諸島・沖縄を含む国際研修として展開され、技術解説本『おいしい水のつくり方』は英語版も作られ、途上国の浄水担当者たちへの実践的な指南書となっています。外務省のビデオ「世界の水・ビデオトピックス」でも紹介され、生物浄化法は正式に「日本が世界に贈る技術」として認められました。
薬品も、複雑な機械も、大量のエネルギーも必要としない。雨水と砂と生き物の力で、安全でおいしい水を届けるこの技術は、過疎の島嶼から大陸の農村まで、あらゆる場所に適用できる普遍的な知恵です。

■ 蛇口から「特級水」を飲む喜びを、日本中に
中本先生が著書『おいしい水のつくり方─2』に込めたのは、かつて「鉄管ビール」とまで言われた水道水を、日本中の誰もが蛇口からそのままおいしく飲める水にしたいという願いです。宮古島は、その願いが現実になった場所でした。
みなさんの地元の水道水を、今日もどこかの生き物たちが静かに守っています。その小さな命に、少し思いを向けてみてください。


【3. 災害下の水について】

■ 採水作業の重労働から考える、災害時の「水運び」問題

前回の記事でお伝えしたように、携帯型小型浄水器の開発監修として、評価試験やろ過前後の水質分析に取り組んでいます。その評価に使用する「原水」として、川や雨水などさまざまな水を集める必要があります。
原水と処理水を採取するだけであれば20Lで十分なのですが、耐久試験では100Lを連続通水するような評価も行います。余裕を持って120Lを確保するとなると、20Lの折り畳みタンクが6個必要になります。

■ 採水作業は、想像以上の重労働です
河岸で採水した水を、300~400m先の駐車場まで運ぶだけでも、なかなかの重労働です。片手に1つずつ持って、合計40kgを3往復--これが終わる頃にはヘトヘトです。翌日から数日間は、肩や背中を中心に筋肉痛が続き、だるさもしばらく残ります。
「それくらい余裕」と思われる方もいるかもしれません。でも、これが毎日続くとしたらどうでしょうか?

■ 災害時、水の確保は「毎日の重労働」になる
厚生労働省は、災害時に最低限の健康的な生活を送るために、1人あたり1日20Lの水が必要としています。これは飲料水だけでなく、体や衣類を清潔に保ち、食事にも使う最低限の量です。
4人家族であれば、20L × 4人 = 80Lを毎日確保し続けなければなりません。
近くに水源があればまだよいですが、1kmも歩いて汲みに行くとなれば、毎日続けるのは非常に大変です。小さなお子さんがいるお母さん一人では、まず無限でしょう。お父さんやお母さん、お子さんたちが協力して、ようやく何とかなるかもしれない--そんな状況です。

■ そこで重要になるのが「水容器」の選び方
評価試験で使用している折り畳み式の水タンクは扱いやすくておすすめですが、最近は背負えるタイプの20Lウォータータンクも登場しています。両手が空くぶん、運搬がぐっと楽になります。
また、登山用のソフトタイプの水容器(1L・2L) を普段のカバンに忍ばせておくのも一つの方法です。仕事の帰り道などに水を汲んで持ち帰れると、日々の備蓄に役立ちます。

■ 平時の備えが、災害時の命を守る
災害が起きてから準備しようとしても、間に合わないことがほとんどです。平時にしっかり備えておくことが、いざというときの生存につながります。
水容器をはじめとした災害時の必須アイテムについては、以下の記事に詳しくまとめています。ぜひ一度ご確認ください。


【4. Q&A 現場の悩み相談】

Q. 池の水でも、本当に飲料水レベルまで浄水できますか?

A.
対象の池水を事前に水質分析し、濁度・色度・細菌・栄養塩バランスに応じて処理構成を最適化します。
適切な生物処理・ろ過・消毒を組み合わせれば、災害時の飲料水として使用できるレベルに浄化可能です。

ヤマハ発動機が磐田市で同じ原理(粗ろ過x緩速ろ過)の装置を設置し運用実証を実施しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP703718_S6A300C2000000/


【5. 編集後記】

今年2026年3月に、国交省の取り組みの1つとして「水道事業における分散型システムの導入検討手引き(案)」が公開されました。このメルマガでも第2回でその解説を簡単にさせていただきました。
その手引きの後半には実例紹介がなされていたのですが、各現場で全部急速ろ過(凝集沈殿)で実施した際を想定した記述となっていて、事例はすべて100人以下という小規模な水道なのに急速ろ過などランニングコストや運営管理体制の点で非現実的だし、なぜ緩速ろ過や地下水を事例といして取り上げなかったのだろうと、思っていたのですが、「手引きを作るにあたり手っ取り早く費用算出するために、緩速ろ過はすぐの算出が難しいけど、急速ろ過が費用算出しやすかったんだ」という本当かどうかわからない噂を聞きました。ありえるなぁと思いつつ聞いたのですが、どう思いますか?
言っていただけたら、費用算出協力したのに(笑)。関係者のみなさま、ぜひ次回はご依頼頂けたらと思います。日本の水道をよりよくするために、今後も頑張りたいと思います。