株式会社水未来研究所

100億人に届け命の水|小規模水道・実務ノウハウ通信

<目次>
【1. 今週の実務ノウハウ】
【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】
【3. 災害下の水について】
【4. Q&A 現場の悩み相談】
【5. 編集後記】
【1. 今週の実務ノウハウ】

水理計算を「現実」に変える配管システム設計の勘所──吸排気弁・減圧槽の配置から埋設深度の基準まで

1. はじめに:水理計算から「配管設計」へのステップアップ

前回の記事では、静水圧・動水圧・水撃圧の考え方と、ヘーゼン・ウィリアムス公式・ウエストン公式を用いた口径選定の流れを解説しました。計算上、各地点の動水圧が0.15MPa以上を確保できる口径の組み合わせが見つかれば、水理計算としては一つの完成を見ます。
しかし、それは設計のスタート地点です。
実際の山間地や丘陵地の配管ルートでは、地形の起伏に沿って管が上下します。上に来れば空気が溜まり、下に来れば土砂が堆積する可能性があります。標高が下がれば水圧が高まり、耐圧の限界に近づく区間が生まれます。さらに、何十年後かにトラブルが発生したとき、修理をしやすい構造になっているかどうかも、設計の段階で決まります。
本稿では、水理計算の後に必要となる配管システム設計の各要素--吸排気弁・泥吐き弁・減圧槽・仕切弁・埋設深度・特殊箇所の対応--について、実務的な視点から解説します。

2. 管内の異物を制御する:吸排気弁と泥吐き弁

吸排気弁:エアだまりと水撃(負圧)の両方に対処する
配管は地形に沿って埋設されるため、稜線や丘の頂部にあたる区間では、配管内の頂部に空気が溜まりやすくなります。この「エア溜まり」は有効な流水断面積を狭め、計画通りの流量が得られない原因になります。また、空気が大きな塊となって流れを阻害した場合、最悪、その区間で通水が止まることもあります。
この問題に対処するのが排気機能を持つ空気弁です。しかし小規模水道においては、排気のみの空気弁ではなく、必要に応じて吸排気弁(空気吸入排気弁)を選定することを推奨します。
理由は水撃対策にあります。前回解説したとおり、水撃には正圧(プラス方向)だけでなく、負圧(マイナス方向)も発生します。管内で急激な負圧が生じると「水柱分離」と呼ばれる現象が起き、水の連続性が失われた空間が形成されます。その空間が急に埋まるときに生じる衝撃(再結合水撃)は、正圧水撃と同程度かそれ以上の破壊力を持つことがあります。
吸排気弁は、負圧発生時に外部から空気を吸い込むことで管の圧壊を防ぎます。この吸気機能が、単純な空気弁との決定的な違いです。設置位置の目安は、配管ルートの凸部(頂部)と、長い下り勾配の上端付近です。

泥吐き弁(排泥弁):底部への堆積物を定期的に除去する
配管ルートの凹部(谷部)には、長年の使用で砂・土砂・錆のスケールが堆積していきます。この堆積物が流量を減らし、水質を悪化させ、腐食を促進します。
凹部に泥吐き弁(排泥弁)を設置することで、定期的に水を流して管内の堆積物を排出できます。また、トラブル発生時の排水拠点としても機能します。排泥弁の口径は、洗浄時に十分な流速が得られる大きさとし、排出先(排水路や浸透桝など)をあらかじめ確保しておくことが必要です。排泥の際、出てきた濁り水の行き先が周辺住民の迷惑にならないよう、設置場所の選定と排水先の確保は設計段階で済ませておきます。

3. 過剰圧力を「逃がす」技術:減圧槽と仕切弁

減圧槽:水頭圧を大気圧にリセットする
配管が長い下り区間を持つ場合、末端に向かうほど水頭圧が蓄積します。配管材の耐圧(通常0.75MPa程度)を超える可能性がある区間では、減圧槽を設置して圧力を一度大気圧にリセットする必要があります。
減圧槽は小型の開放型水槽で、配管から流入した水を一度ため、そこから再び下流へ送り出します。この開放によって、蓄積した水頭圧がゼロに戻ります。

減圧槽の設置位置:高低のジレンマ
減圧槽の設置高さは、設計上のジレンマを生む場合があります。
下流に圧力がかかりすぎる問題を避けようとして減圧槽を高い位置に設けると、その直下の区間で圧力が許容範囲を超えることがあります。逆に低い位置に設けると、その先の配管が登り勾配になっている箇所で、位置エネルギーが不足してそれ以上水が流れない事態が生じます。
この問題への対処として、「伏せ越し配管」と耐圧管の組み合わせが有効な場合があります。特定の区間だけ耐圧ランクを上げた配管(例:VP管からHIVP管、またはSGP-Vへの変更)を使用し、高圧に耐えさせながら通過させる方法です。減圧槽前で分岐を設け、一方を通常管・もう一方を耐圧管の伏せ越しで対応するという設計も選択肢に入ります。

仕切弁:断水エリアを最小限に封じ込める
分岐点の下流側や一定区間ごとに仕切弁を設けることは、維持管理上の必須要件です。
配管や設備にトラブルが発生した際、どこで止水すれば最小の範囲で断水を抑えられるか--この「影響範囲の制御」が、仕切弁の本質的な役割です。仕切弁がなければ、配管網全体を止水しなければ修理できない事態になります。
設置の基本的な考え方は、「支線の分岐点には必ず設ける」「幹線は一定距離ごとに区切る」「施設(減圧槽、泥吐き弁等)の前後には設ける」という三点です。後から「あの場所に仕切弁があれば」と後悔しないよう、修理する人の動線と作業を想像しながら配置を検討してください。

4. 地中の安全を守る:埋設深度と特殊箇所の設計

標準埋設深度と荷重条件
配管の標準埋設深度は、管上端から地表面まで90cm(土被り90cm)を基本とします。これは歩行者や軽量車両が通過する一般的な生活道路における荷重を想定した基準です。
国道や幹線道路など大型車両の交通量が多い路線では、土被りを1.2m以上確保することが必要です。また、寒冷地では凍結深度より深い埋設が求められます。設計地点の気候条件と道路条件を確認し、埋設深度に余裕を持たせることを推奨します。

岩盤・特殊地層への対応
山間部の配管では、掘削途中で岩盤に当たる場合があります。岩盤を規定深度まで掘削することが技術的・コスト的に困難な場合、部分的に露出配管として対応せざるを得ないケースがあります。
露出配管とする場合は、紫外線による劣化防止(被覆・塗装)、凍結防止(断熱材の巻き付け)、外力からの保護(防護管や金属カバーの設置)が必要です。露出区間は後の点検・修理がしやすい一方、外的リスクへの対応コストが増えるため、可能であれば埋設を基本とし、露出は最小範囲にとどめます。

河川横断・水管橋の設計方針
河川を横断する場合、主な方法は川底への埋設(伏せ越し)と橋梁への添架(水管橋)の二つです。
伏せ越しの場合は、洪水時の河床変動に対応できるよう、十分な埋設深度を確保します。管種は外圧に強いものを選定し、河川管理者との協議・許可取得が必要です。
橋梁への添架の場合、橋の「下流側」に設置することが原則です。上流側に設置すると、増水時に流れてきた流木や土砂が配管に直撃するリスクが高まります。下流側であれば橋脚が緩衝材となり、漂流物が配管に達しにくくなります。また、露出配管となるため、温度変化による伸縮を考慮した伸縮継手の設置、凍結対策の検討が必要です。

5. 将来を見据えた「余裕」の設計

水理計算上は現在の需要に対して十分な口径であっても、将来的な需要の変化や副配水池の増設可能性を見越して、幹線となる配水母管を1ランク上の口径で設計しておくことを検討してください。
地中に埋まった配管の口径は、後から変えることが極めて難しいです。浄水能力を将来増強したとき、配水母管が細くて水が流れないという事態を避けるために、今の段階で「余裕のある太さ」を選ぶ判断が、長期的には合理的です。
初期コストはわずかに増えますが、将来の配管工事が不要になるならば、30年・50年のスパンでは圧倒的に有利な投資です。

6. 維持管理が「しやすい」設計こそが真の正解

設計図が完成した瞬間は、設計のゴールではありません。その配管が埋設され、30年後・50年後にトラブルが発生したとき、修理担当者が「助かる」設備配置になっているかどうかが、設計の本当の評価軸です。
仕切弁の位置は適切か。排泥弁は到達しやすい場所にあるか。吸排気弁のメンテナンスができる構造か。--槽への経路は確保されているか--これらを設計図の上で確認するだけでなく、現場に立って想像することが、実務設計者の最後の仕事です。
水理計算で「理論上の正解」を導き出した後、配管システム設計で「現場での正解」を作り上げる。この両輪が揃って、初めて「使い続けられる水道」の設計が完成します。


【2. 専門知の共有:中本名誉教授の視点】
水道公論 2022年4月号(第58巻第4号)pp.66-74, 信州大学名誉教授 中本信忠
「生物屋の緩速ろ過池研究 その7 藻による酸素生産と生物群集による酸素消費」

水道生態学の最前線:酸素が語る「生きた水」の作り方

ろ過池は「生きている」--酸素が教える生物群集の健康状態
--糸状珪藻メロシラが作る連続培養系の驚くべき世界


大学院時代、中本先生は植物プランクトンを単細胞のまま大量培養するために苦労を重ねていました。しかし、上田市の緩速ろ過池を訪れたとき、砂面を覆う糸状珪藻メロシラが4月から11月まで優占し続ける姿に思わず感動を覚えたといいます。「これはまさに自然が作り上げた連続培養系だ」--ろ過池の砂面で藻類が光合成して酸素を産み、それを微小動物が消費しながら有機物を分解する。生態系全体が休まず浄化を続けるこのシステムこそ、生物浄化法(Ecological Purification System)の真髄です。

■ 溶存酸素(DO)の日変化が語る、生物の呼吸
この「生きたろ過池」の状態を可視化する鍵が、ろ過水中の溶存酸素(DO)濃度の測定です。
ろ過池では日中、砂面の藻類が盛んに光合成して水中に酸素を放出します。その濃度は午後2時頃に最大となり、過飽和状態に達します。一方、夜間は藻類も呼吸に転じ、砂層内の微小生物も酸素を消費するため、夜明け時には濃度がボトムに達します。注目すべきは、水が砂層を通過するのに2~3時間かかるため、ろ過水にはこの日変化が時間差をもって現れる点です。この「タイムラグ」を読み解くことで、砂層の中で今どれほどの生物が活躍しているかを推定できます。
さらに驚くべき現象があります。砂面の藻類が光合成で大量の酸素気泡を生産すると、その気泡が浮力で砂面から剥離し、水中に酸素を放出しながら浮上します。その結果、日射が無い夜間でもろ過水中の溶存酸素は過飽和状態を保ち続けていました。気泡によるガス交換という、教科書には載っていない独創的な仕組みが、砂層内の生物を守っていたのです。
純酸素生産量(Pn)と総生産量(Pg)を季節ごとに測定した結果、酸素生産は5月に最大となり、生物群集の活性が春に最も高まることも明らかになりました。

■ 越流管は「余分な藻の出口」--蓋をしてはいけない
日本の多くの浄水場では、浮き上がってきた藻を越流管から流出させないよう蓋をしていることがあります。「水がもったいない」という感覚からくるこの判断が、実は生物群集の健全な活動を妨げていたのです。
浮上してきた藻は積極的に越流管から排出させるべきです。それによって水面に酸素気泡が集まり、夜間の酸素不足を防ぎ、砂層内の微小動物を健全に保つことができます。マンガン溶出や異臭味の発生も、酸素不足が一因となっています。可動式越流管を上下に調整し、浮上藻を効率的に排出させる「攻めの管理」こそが、スーパークリーンな水を安定的につくる鍵なのです。名古屋市鍋屋上野浄水場では実際に可動式越流管へ改修し、この考え方を実装しました。

■ テムズ水道の「逆転の発想」--速いろ過速度が生物群集に優しい
日本では「緩速ろ過はゆっくり通過させるほど良い」という考えが根強くあります。しかしテムズ水道が選んだのは、まったく逆の発想でした。
生物群集に優しい管理を追求した結果、テムズ水道は英国標準の約2倍にあたる1時間に40センチメートル(1日9.6メートル)というろ過速度を採用しています。速くすることで砂層を通過する時間が短くなり、溶存酸素の日変化の幅が小さくなります。酸素濃度が安定すれば微小動物の環境が整い、砂層内の生物が漏れ出すリスクも減る--ろ過速度を上げることが、生物群集にとってむしろ「優しい」管理につながるという論理的な逆転です。

■ 収穫した藻は鶏の餌へ--循環する生物浄化の哲学
中本先生は浮上してくる藻を自作の刺し網で収穫し、その量や成分を地道に測定し続けました。砂面から毎日大量に浮上してくる糸状珪藻は、乾燥させると窒素・リン・有機物を豊富に含む良質な有機物で、鶏の餌に混ぜて与える実験を行ったところ、卵の黄身が鮮やかな黄色になりました。
水の浄化に使われた藻類が、農業の循環資源に変わる--これこそ生物浄化法が示す持続可能な水道の姿です。薬品で細菌を殺し、汚泥として廃棄する急速ろ過とは対照的に、生物が安心して活躍できる環境をつくることで、ろ過池はあらゆる生物が関わり合う小さな生態系になります。緩速ろ過池は「単なる水処理装置」ではなく、自然の営みを賢く借りた「生きた浄化システム」なのです。


【3. 災害下の水について】

携帯型小型浄水器について

携帯型小型浄水器をご存じでしょうか。登山の時の緊急で飲み水を確保するための浄水器、災害時の飲み水確保のための浄水器として、登山用品店やAmazonなどで販売されています。
弊社では半年ほど前から、とある企業からの依頼を受け、開発中の製品の評価や取説の記述内容のチェックなど商品づくりにかかわらせていただいています。

昨年評価試験を実施した商品は構造上に課題が見つかり、最終的に販売を見送ることになりました。そして現在、その部分を改良した製品の評価対応中です。
その製品が前回の製品に比べずいぶんとよくなっていて、使いやすいし、ろ過性能(詰まりにくさ)もかなり向上しているように感じています。

現在、複数の種類の原水をろ過してみた処理水とセットで水質試験にかけはじめたところです。今後もいくつかサンプルを追加しながら評価を進めています。

実際に販売とつながる場合は、こちらでもブログの方でも紹介させていただきます。

おそらく現在、Amazonで販売されている商品群よりは使いやすいと思います。
詳しくは販売が決まった際にブログでも書かせていただきますが、今回の製品は他の製品とも比べて逆洗が圧倒的にやりやすくなっています。

こういう製品は、無茶な使い方(泥水をそのまま濾過とか)をすると、急速に消耗してしまい使えなくなりますが、同じように、定期的な逆洗が重要となります。
その「逆洗」が実用的だなと感じていて、類似品の中で数倍持ちがよくなる製品になりそうです。

今回は、携帯型小型浄水器の紹介でした。今後を楽しみにしてください。


【4. Q&A 現場の悩み相談】

小規模水道用の浄水装置はどのくらいの期間使えますか?

A.
水槽をコンクリート造とした場合、100年間は全面更新不要です。
ろ材(砂・砂利)は入れ替え不要で、定期メンテナンスで長期使用が可能です。
ランニングコストも非常に低く抑えられます。


【5. 編集後記】

編集後記

ブログでも記事を書いたばかりですが、アメリカ・イランの軍事衝突による石油問題で、水道資材(塩ビなど)の品薄が広がっていますね。数週間前に見た時はモノタロウは特に問題なさそうでしたが、今日見たら、欠品が多く、あるものも一人5点までというような数量制限がされていて、状況の厳しさを感じさせます。
年度末の工事時期が終わっているので、まだましですが、民間の工事(工場の設備改修、家の建設等)には大きな影響が出ているのだろうなと思います。
まだまだホルムズ海峡の状況は改善しなさそうなので、水道業界だけに限らず大変な状況は続きそうです。

こんな各種資材が品薄、かつガソリンなどもいつまで持つかわからない状況で、大地震などが起こらなければいいなと思っています。そのテーマでブログ記事を書こうかと思いましたが、話が大きすぎてまとめきれないと思っています。